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第一〇一二話、転移からの決戦


 連合艦隊と前衛無人艦隊の視認できる範囲に、ムンドゥス帝国二千艦隊は魔法陣型転移で出現した。

 二千艦隊旗艦『キーリア・ノウェム』の司令塔で、ソフィーア・イリクリニス元帥は歯を剥き出し、獰猛な笑みを貼りつける。


「航空攻撃を一点収集で送り込んできた戦いぶり、見事! でもね、私たちも学習している。あなたたちが艦隊を転移で送り込んできたり、航空攻撃を転移して躱したり――そのどちらもやれば、この場合、一石二鳥よね!」


 二千艦隊中枢に迫る日本軍の攻撃隊6000機。それの空振りを誘う転移離脱。だがただ逃げるに非ず。敵艦隊の至近に転移し殴り込みをかける近接砲撃戦術――どうせ艦隊決戦を企図していたのだがから一緒にやればよい。

 イリクリニス元帥の判断はそれだった。


「転移魔法陣飛ばしを警戒して魔防シールドを張っているからといって、こちらも転移をしないとは限らない」


 キュクロス級ゲート艦が非常時や逆襲に備えて展開している。日本軍が対遮蔽装置を持っていたら、それに気づけたかもしれない。

 二千艦隊司令長官は、バッと右手を突き出した。


「全艦隊、前進! 日本艦隊に対し、攻撃開始!」


 プロートン級戦艦、オリクトⅢ級戦艦が横列を組んで速度23ノットで進撃を開始する。護衛の重巡洋艦列もその前につき、露払いを行う。

 放たれた45.7センチ砲弾や40.6センチ砲弾が、日本艦隊前衛の艦艇の周りに着弾し無数の水柱を上げる。


 砲撃を受けた無人艦隊第一、第二、第三艦隊はただちに反撃。超砲身16インチ砲などを動員して、異世界帝国戦艦に負けじと撃ちまくる。

 無人戦艦90隻の咆哮。敵戦艦の周りにも無数の水柱が乱立した。1トンを超える重量物が数万メートルの距離を置いて飛び交う。


 海をひっくりかえさんばかりに荒らし、人工の波を起こそうとしているように激しく湧きだつ。すさまじいまでの鉄量の応酬が展開される。

 飛び散る水しぶきに混じり、直撃の火花が咲く。無人戦艦の1隻が45.7センチ砲弾の直撃を受けて、主砲が貫通される。そして次の瞬間、内部から巨大な力で広げられ爆発した。


「ム戦57、弾薬庫誘爆! 轟沈!」

「ム戦31、機関損傷、戦隊より落伍しつつあり!」


 無人艦隊を制御している第三艦隊旗艦『八咫鏡』の制御室は、急に始まった砲撃戦により大忙しだった。それでも目の前の敵に対して反撃を行っている。

 一方、連合艦隊司令部では、まだ衝撃が抜けきらない。


「第三次攻撃隊より報告。敵は転移離脱、目標を攻撃できず――」


 通信長の報告に、源田 実航空参謀や高田 利種首席参謀は愕然としていた。

 乾坤一擲の攻撃が空振ったのだ。なまじ勝利を確信していただけに衝撃もまた大きい。

 そして二千艦隊が連合艦隊の眼前に現れてしまった以上、艦隊決戦は避けようがない。もう、始まってしまったのだ。


 古賀 峯一連合艦隊司令長官は軍帽の位置を調整しつつ、正面を見据えた。


「第一艦隊も前進する! 敵艦隊を迎え撃て!」


 戦艦戦力で敵の半分? もはやそれをどうこう言っている暇はない。


「通信参謀、攻撃隊は海氷島に帰還し、補給が済み次第、敵艦隊へ向けて出撃! 反復攻撃をもって敵艦隊を漸減せよ!」


 攻撃が空振ったから何だというのだ? まだ数千もの航空機は残っている。互いに千を超える艦艇があってひしめいているのだ。

 砲撃戦はそう短時間には終わらない。



  ・  ・  ・



 内地、軍令部次長の小沢 治三郎中将は、受話器を手に声を張り上げていた。


「――そうだ。集まったものから順次送り出せ。数が足らんのだ、数が」


 いま小沢が指示したのは、鹵獲して運用している潜水艦隊に対してものだった。

 潜水艦隊の第六艦隊は、現在戦場で交戦しているが、敵もまた大潜水艦隊を投じていた。おかげで敵艦艇に対する攻撃がほぼ行えていないという。


 艦艇数で劣る連合艦隊と無人艦隊である。足りないからと手をこまねいているわけにもいかない。

 そこで小沢は、通商破壊で活動する潜水艦に招集をかけ、さらに沿岸防衛用の呂号型の予備潜水艦も戦線に投入することを決めた。海軍大臣兼軍令部総長の嶋田 繁太郎大将の許可をとると、ただちに該当部隊を集め、出撃を命じた。


 伊1000番台、呂700以降の大小潜水艦をかき集め、特設水上機母艦群と共に前線に派遣する。

 第六艦隊は単純に魚雷切れで戦線を後退しつつあり、その隙を利用して異世界帝国の潜水艦隊が、連合艦隊の側面を攻撃してくるようなことがあってはならない。


 ――状況を逆にせねばならない。


 小沢は一度通話を切る。

 こちらが敵の潜水艦隊を撃滅し、残存する潜水艦で敵二千艦隊を雷撃。連合艦隊を側面援護しなければ……。


 そこで小沢は再度受話器を取り、交換手に連絡先を告げる。数分待たされた後、相手が出た。


『お待たせしました、軍令部次長』

「おう、神明か」


 小沢が呼び出したのは、九頭島で補給中の第一遊撃部隊、その司令官である神明 龍造少将だった。


「補給の状況はどうなっている? 出撃にどれくらいかかりそうだ?」

『不足なく暴れまわるのであれば、夜までは動けません。ほどほどでよいというのであれば、使える艦だけ引き連れて数時間後に出撃しますが』


 電話の向こうの神明はそう答えた。

 現在、昨晩の奇襲で海氷飛行場を溶かし、敵空母の漸減を図った第一遊撃部隊は、武器弾薬、燃料の補給作業の真っ只中にあった。


 目一杯暴れ回った結果、主要な砲弾、魚雷を全て使い切っているため補充作業に時間がかかっている。


「夜まで前線が保てばいいがな」


 小沢は口元を皮肉げに吊り上げた。


「最新の報告では、連合艦隊主力が敵艦隊と砲撃戦に突入したらしい」

『予定より早いですね。転移ですか?』


 今日の昼間は航空戦。艦隊がぶつかるのは夕方から夜間、もしくは翌日明け方になるだろうと予想されていた。


「敵は航空戦の不利を悟り、艦隊で突撃を仕掛けてきた」

『転移ですか……』

「どうした?」

『いえ』


 神明は何かを考えているようだった。あるいは何か気づいたか、閃いたのかもしれない。小沢は軍令部が把握している戦況について神明に説明した。

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