第一〇一一話、航空攻撃の結末
日本軍第二次攻撃隊は、二千艦隊に攻撃を仕掛けた。
流星艦攻に与えられた任務は対艦攻撃。しかし、前回が奇襲同然で空母を狙ったが、今回の役割は異なる。
それは露払いともいうべきもので、とにかく敵旗艦や空母ら重要目標に辿り着く前に配置されている護衛艦艇を順番に叩け、というものだった。
一方向から攻撃を集中し、敵陣形内へ穴を開けていく樋端ドリル戦法の変形。とにかく針路上にいる敵は、駆逐艦だろうが戦艦だろうが構わず攻撃して沈め、後続機のための道を作っていく。後ろの部隊ほど、中央の重要目標を攻撃できる機会が与えられる寸法だ。
何故、この戦法が取られたのか?
理由は、敵艦隊の規模があまりに大きすぎるからだ。
つまり重要目標を射程に捉える前に、駆逐艦や巡洋艦、戦艦などの上を何度も通過することになる。その間に対空砲火を浴びて、撃墜される機が続出することが予想されたのだ。
せっかくの誘導弾を使わずに撃墜されるのは勿体ない。であるなら、前の機から護衛艦艇に誘導弾を撃ち込んで沈めていけば、対空砲火にさらされる時間も減り、犠牲を減らつつ多くの敵艦を攻撃できる。
空母ばかりが重要視されるが、戦艦含む他の補助艦艇の数も凄まじく多い。この後に起こるだろう艦隊決戦前に、少しでもこれらを沈めておくことで戦況を有利に運べるかもしれなかった。
これまでの日本海軍のおける弾不足は、搭乗員たちに『獲物の遺憾に問わず、使わずに失われるのは最悪である』という風潮を生んだ。
撃たずに死ぬな。雑魚相手でも撃った奴の勝ち。
結果、本当は空母など大物を沈めたいが、それで道中やられるわけにはいかないと、護衛艦艇への積極的な攻撃を行わせた。
この攻撃に対して、二千艦隊は――
「攻撃を受けている東南方向の艦艇の間隔を狭めよ」
イリクリニス元帥は指示を出す。
「戦艦はシールドにて防御を優先せよ」
高耐久の艦を盾に少しでも敵弾を吸収して、ハードターゲットを守る。そのつもりで出した指示だったが、日本軍艦攻の四式誘導弾は転移でシールドを避けるため意味はあまりなかった。
だが攻撃を受けている方向以外の艦艇が詰めてきたことで、対空砲火の密度が上昇し、撃墜される流星の数も増えてきた。
『北西方向より接近中の敵大編隊、消失!』
新たな報告が司令部に届く。日本艦隊から飛んできた第三次攻撃隊が、迎撃戦闘機隊との接触を前に、レーダーから消えたのだ。
「どこへ消えた?」
攻撃に向かっている途中で消えるとはどういうことか? 遮蔽装置を使ったというのか?
味方の前衛警戒艦が、対遮蔽装置でそれらを引きずり出せばわかるだろうか。イリクリニス以下、司令部が騒然とする中、その答えは出た。
『皇帝親衛軍より入電。貴艦隊に約2500機の敵大編隊が向かう。転移で移動してきた模様』
「また後ろ――!」
前から迫っていた敵は正面を避けて、後方に回り込んだ。作戦参謀が声を上ずらせる。
「どういうことだ? 何故後ろに?」
「こちらの迎撃隊を躱すためだろう」
航空参謀が口を開いた。
「その上、今艦隊を攻撃している連中がこじ開けた陣形の穴を突いてくるつもりだ。……これは中央まで抜かれるぞ」
急所を作り、そこにひたすら攻撃を仕掛ける。日本軍攻撃隊の意図はそれだった。重要防御対象となった空母群ならびに、旗艦『キーリア・ノウェム』付近にも敵がやってくる。
「航空参謀」
「はっ!」
「戦闘機で防げると思うか?」
イリクリニスは軍帽のひさしから鋭い視線を部下の投げかける。航空参謀は直立不動で答えた。
「いえ、前方に送った戦闘機を引き返させても間に合わないでしょう。敵航空攻撃は避けられません」
すでに2500から3000機――空母艦載機と陸上攻撃機などの基地航空隊の連合――に加え、追加に2500機を送り込まれては撃墜しきれない。
「正直な感想をありがとう。参謀長――」
「はい」
「全艦に魔防シールドの解除を指示。――敵の十八番戦術を真似させてもらおう」
イリクリニスは立ち上がると壮絶な笑みを浮かべた。
・ ・ ・
その頃、二千艦隊から飛び立った第四次攻撃隊3200機が、日本艦隊前衛である無人艦隊へと進撃を続けていた。
第一波である600機の業風戦闘機の迎撃を、同数の戦闘機で応戦。迎撃を避けた攻撃機隊は、戦闘機の護衛を受けて先を急ぐ。
連合艦隊主力に随伴する無人艦隊の空母から、追加の戦闘機が発艦。その数1000機。
直掩での燃料、弾薬補給が済めば、さらに500から600の戦闘機を出せる。
レンドリース戦闘機による迎撃は、幾十もの編隊攻撃を繰り出し、異世界帝国攻撃隊の戦力を削っていく。
しかし護衛するエントマⅢ、ヴォンヴィクス戦闘機もまた業風戦闘機をミガ、ランビリス攻撃機に近づけまいと奮戦する。
着実に、連合艦隊ならびに無人艦隊へ近づく敵第四次攻撃隊。そして艦砲の射程に侵入する。
無人戦艦の40.6センチ砲、もしくは41センチ砲が火を噴く。一式障壁弾の光の膜が異世界帝国攻撃機の針路を妨害。衝突する機をよそに、障壁の隙間を抜けてフルスロットルで飛び込む攻撃機。
だが近づくほど20.3センチ砲、15.5センチ砲の障壁弾も加わり、さらに数をすり減らしていく。
いよいよ12.7センチ高角砲の防空範囲に入り、障壁弾の間を抜けてきたミガやランビリスをを蝿たたきの要領で潰していく。
艦隊外周を守る無人駆逐艦は、異世界帝国の主力駆逐艦に日本海軍駆逐艦の艦橋やマストと載せたような外観をしているが、三門の12.7センチ高角砲は両用砲かつその旋回速度と装填速度は、一線級のそれに劣るところはない。
奮戦する前衛無人艦隊。後衛として控える連合艦隊主力。旗艦である『敷島』では、古賀峯一連合艦隊司令長官らが戦況を見守っている。
「今回の空襲も、前衛で止まるな」
「我が航空隊が敵空母群にトドメを刺しているでしょうから――」
源田 実航空参謀は確固たる口調で言った。
「敵の航空攻撃もこれが最後です」
うむ、と古賀が頷いた時、情況が一変する。
「前衛艦隊前方に転移魔法陣出現! 敵艦隊が転移してきました!」
「なんだと!?」
連合艦隊司令部が愕然となった。