第一〇一〇話、大航空戦
連合艦隊から出撃し、転移中継ブイを活用した奇襲を行った第二次攻撃隊は母艦に帰投しなかった。
何故ならば、艦隊は二千艦隊航空隊の波状攻撃を受けており、空母への着艦作業の合間を攻撃されれば、ひとたまりもなかったからである。
連合艦隊は、攻撃隊が母艦に帰還せずとも反復攻撃が可能な基地を用意した。
それが、体当たりが無効化され、役目が大きく減じた海氷島である。
もともと全長十数キロという巨体を、ただ体当たり戦法のためだけに使うのはもったいないと、最低限の飛行場能力、航空機運用能力を与えられていたのを利用したのである。
基地航空隊である航空艦隊が、日高見のような海氷飛行場や海氷空母を拠点として使っていたから、海氷島の航空基地化は何もおかしくない。
むしろ、航空艦隊の任務を邪魔せず同時運用できる点で、海氷島は数千の航空機を運用するにうってうけの存在だった。
第二次攻撃隊は、第三次攻撃隊として燃料の補給、弾薬の補充が進められた。烈風、紫電改二戦闘機、流星改、流星改二艦上攻撃機、彩雲改二艦上偵察機が、海氷島に複数作られた飛行場から順次発進する。
再出撃した第二次攻撃隊参加機は2796機。先の攻撃時より数が減っているのは被弾や撃墜によって再出撃できない分である。
一方、本隊である連合艦隊からも、無人艦隊を除く空母に残っている残存機で第三次攻撃隊を編成。これを差し向ける。
大半の機を投入した結果、集まった機体数は2523機。第二次攻撃隊参加機も含めて5000機を超える。
さらに第一から第十一までの四個航空艦隊も第二次攻撃隊を出す。これらは845機。二千艦隊の中型空母駆逐の際の反撃で、被弾、撃墜機も少なくなかったのだ。
だが総勢6164機。無人艦隊に残る機を除いた全力攻撃が、二千艦隊になされようとしていた。
・ ・ ・
対するムンドゥス帝国二千艦隊。損傷した艦艇を切り離し、日本艦隊に向けて進撃を開始した。
「我らが皇帝陛下はそれを望んでおられる」
ソフィーア・イリクリニス二千艦隊司令長官は断言する。
「ここまで手傷を負わせてきた相手だ。最後まで戦わねば面白くない」
事前に敵襲を受けて潰された第四次攻撃隊を新たに編成し直して、日本艦隊へと送りつける。
その数3200機。
これに対して、二千艦隊司令部でも疑問の声が上がる。
「戦闘機はともかく、攻撃機をほぼ全て投入しては、当面は航空攻撃が行えなくなりますが――」
「構わない。これ以上、小出しにしたところで各個撃破されるだけだ」
イリクリニスは微塵も揺るがない。
「どれくらい帰ってくるかわからないが、それによってはまだ攻撃隊も編成できよう。が、しばらくは航空攻撃は期待しない」
艦隊を前進させ、日本軍との艦隊決戦に持ち込む。敵航空攻撃に対しては戦闘機による防空で凌ぐ。
「堂々と正面から打ち破ってやらねば皇帝陛下の二千艦隊の名が泣くというものだ」
たとえそれでイリクリニス元帥以下、二千艦隊のおもな戦力が相打ちで果てることになろうとも、皇帝陛下は喜び、その名誉を後世に残すであろう。ムンドゥス軍人としての誉れ、ここにあり。
日本艦隊に貼りつけているシュピーラト偵察戦闘機から報告が入る。
『敵空母群より、攻撃隊が発艦』
その規模は、たちまち帝国の第四次攻撃隊に匹敵する規模に膨れ上がる。
「こちらの攻撃隊を迎え撃つ戦闘機を展開しつつ、それとは別に攻撃隊を送り出してくる、か……」
イリクリニスは微笑した。
「どうやら、航空機の戦力比はほぼ互角になってしまったようだ」
数万を数えた自軍の減り具合には苦笑するしかない。
偵察機の続報によれば、第一波600機の戦闘機が先行。続いて約2500機の戦爆連合が移動しているという。
「先行する戦闘機はこちらの攻撃隊の迎撃。後続する戦爆連合が我が艦隊への攻撃隊だな。こちらも戦闘機で迎撃の用意を」
互いに同じ行動を取る。そこでの勝敗は性能や技量、そして物量が物をいう。イリクリニスがその後の展開を予想していると、緊急の報告が入る。
『後方警戒艦より、敵大編隊の接近を捕捉! その数千機以上! なお増大中!』
「後ろだと……!」
司令部参謀らがどよめく。オルドー参謀長は眉を吊り上げた。
「挟み撃ちのつもりか……!」
「皇帝陛下はご無事か!?」
イリクリニスが問い合わせれば、すぐに応答がある。
『親衛軍艦隊は健在。敵に発見されていない模様』
「そうか」
まったく、肝を冷やされる――イリクリニスは司令官席に脱力したようにもたれる。日本軍に対遮蔽装備があったなら、皇帝の御座す艦隊が発見され襲撃されていたかもしれない。
・ ・ ・
二千艦隊後方にあった警戒艦隊は、第二次攻撃隊に襲撃を受けて、戦艦1、重巡洋艦6、駆逐艦8が撃沈された。
約2600機の日本軍機は、前回の空襲で活用した転移中継ブイを利用したために、二千艦隊が通過した後ろからの転移出現となった。
その近くには損傷艦艇が集まり、後退しようとしているところでもあった。これに300機ほどが攻撃を加えてトドメを刺す。
後方から出現した日本軍攻撃隊に、二千艦隊の直掩機がただちに反転、迎え撃つ。エントマⅢ、ヴォンヴィクス戦闘機の先行隊は、烈風、紫電改二の制空隊と激突。しかし戦闘機の数で圧倒する日本側は、流星攻撃隊を二千艦隊へ差し向ける。
残存する空母から追加の戦闘機を発艦させ、中隊ごとに向かわせる異世界帝国軍。日本軍攻撃隊の直掩につく戦闘機がこれを阻む。
「瀧田、蜂須賀! 敵機を攻撃隊に近づけさせるな!」
烈風艦上戦闘機を操縦する鳥井 武志大尉は、部下たちに呼びかけた。
自動コア操縦の僚機を従えた烈風は、艦攻に突っかかろうとする敵戦闘機に横槍を入れる。20ミリ光弾機銃の弾道の安定性は抜群であり、弾速も相まって瞬く間に敵機がバラバラになる。
開戦時はまだ飛んでいなかった鳥井も、海軍では大ベテランの枠である。その戦闘センスは時間と共に磨かれ、早くも敵機を葬っている。
「さすがに九州沖の時の連中に比べれば腕が立つか」
異世界帝国軍戦闘機の練度もかなりものに見えた。迎え撃った烈風や紫電改二が火を噴いて墜落していく姿をぼちぼち見かける。やられたのは無人機か、それとも……。
周りは航空機だらけだ。
千を超える攻撃隊と数百の敵機が乱舞する空。
「空が狭い」
すり抜ける曳光弾。光弾機銃の瞬き。故意か事故か、衝突する敵味方機があった。
『攻撃隊、突撃隊形を維持せよ』
流星改、流星改二が中隊ごとに飛行し、異世界帝国艦隊に向かう。果たして彼らの成果は――