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第一〇〇九話、善戦するも、優勢ならず


「――第二艦隊、離脱しました。無人艦隊第四艦隊、第五艦隊も敵艦隊より離脱」


 戦術偵察隊からの報告が、連合艦隊旗艦『敷島』に入った。

 古賀 峯一連合艦隊司令長官は、草鹿 龍之介連合艦隊参謀長に顔を向けた。


「ここまでは順調、というところか?」

「はい。想定しうる限りで、最善ではないものの、良好な結果であると言えます」

「良好な結果、か」


 古賀は皮肉げな顔になった。

 ここでいう最善とは、敵がどうしようもないボンクラで、こちらの奇襲で崩壊してしまうような弱兵かつ、とんでもなく運に見放された連中であった場合を指す。


 だが敵は数だけの烏合の衆ではなく、前衛艦隊に打撃を与え、突撃した艦隊にも相応の被害を与えた。

 戦場を観測している戦術偵察隊によれば、突入した第二艦隊は、戦力半減のダメージを受け、龍王型2隻、天城型5隻、大型巡洋艦7隻などを撃沈された。


 無人艦隊第四艦隊、第五艦隊は、敵にぶつけるほどの肉迫攻撃を覚悟し、正直使い潰す勢いで戦った結果、生還したのは戦艦3隻、重巡洋艦4、ル型巡洋艦7、駆逐艦3のみ。

 両無人艦隊は戦艦69、重巡洋艦28、ル型巡洋艦73、駆逐艦61が海の藻屑となったのだった。


「最新の報告によれば、改メギストス級大型戦艦90隻、オリクト級戦艦150隻、ディアドコス級航空戦艦90隻が健在。双胴空母11隻、リトス級大型空母25隻が、アルクトス級中型空母40ほか、巡洋艦、駆逐艦多数……」

「……突入させた分は損害を与えられた、と見るべきか」


 古賀は自身の頤に手を当て考える。

 標準型であるオリクト級戦艦が70隻近く減っていて、この数だけであれば、突入した二個無人戦艦の被害と同等。


 数的不利があるから同等の被害ではこちらの負けであるが、改メギストス級やディアドコス級がそれぞれ20隻ずつ沈んでいることを見れば、よくやったと言ってよかった。


 ――しかし、46センチ砲級戦艦がまだ90隻近くもいるのか……。


 こちらは51センチ砲戦艦が12隻、46センチ砲艦も合わせて20隻もない。まだ正面からぶつかるのは不利は否めない。


「この敵情は、正確でよいのだな?」


 古賀は確認した。遮蔽偵察がほぼ難しくなり、敵の情報について前より信用度が落ちている。

 本当はもっと沢山沈めていて……という状況なら歓迎だが、むしろ戦果の報告が過大で実情はもっと厳しいのではないかと不安にもなるのだ。


「沈めた数はともかく、現状の報告についてはほぼ間違いないかと」


 草鹿はきっぱりと答えた。

 遮蔽彩雲が使えなくなり、それに代わる偵察案として出されたのが戦術偵察隊。それはまだ完全な形ではないものの、有効に働いている。

 何故ならば、敵はその姿を確認しているが、撃墜できないからである。


 戦術偵察隊として使われたのが、星辰戦隊の空飛ぶ円盤アステールだったのである。

 長時間の飛行が可能で、強固な防御性能。現状、異世界帝国側でさえ迎撃機を出して撃墜できない代物が、敵艦隊上空を偵察しているのである。

 敵にも見えているが、墜とせないのでは仕方ない。

 結果、アステールは二千艦隊の情報や動きを正確に報告し続けていた。


「……やはり、まだ削らねば」


 古賀は苦渋の表情を浮かべる。

 戦艦戦力で、まだ敵はこちらの倍は存在している。先の改メギストス級の火力を鑑みれば、その差は数字以上に開いている。


「理想をいえば、敵空母を完全に叩きのめして、水上航空、さらに潜水艦とあらゆるものを総動員して敵主力艦隊を攻撃する」

「では、航空艦隊に反復攻撃を命じますか?」


 草鹿は言った。


「空母から換算する敵艦載機の残りはおよそ1万機。損傷し戦闘に耐えられない艦も含まれていますから、実際は7、8000くらいと推定されますが――」


 視線を源田 実航空参謀に向ければ、彼は頷いた。


「正確な数は前後すると思いますが、こちらの航空機はおよそ6000機、無人艦隊機も含めれば3000機前後。初期の想定からすればよくぞ善戦し、敵を削ったと褒めるべきでしょうが……」


 その初期の敵艦載機の想定は5万4千機から6万4千機だったことを思えば、まさによくここまで減らしたと言える。


「全てを合わせて互角か、もしかしたら有利にまで持ち込んだか――」


 古賀が言いかけた時、GF司令部専属通信班の通信長がやってきた。


「失礼します、戦術偵察隊より入電。敵艦隊、損傷艦を切り離して前進を開始しました。さらに第四次攻撃隊の発艦を始めたとのことです!」


 敵が動いた。連合艦隊司令部参謀たちは息を呑む。

 高田 利種首席参謀は口を開いた。


「まるで彼らには後退の文字がないようですな」


 連合艦隊より優勢とはいえ、その空母戦力は大打撃を受けている。これだけの被害を受ければ、一度作戦を中止するなり再編のために後退してもおかしくない。

 だが二千艦隊は引かない。むしろ前に出た。


「敵もこちらの戦力を見て、まだ勝てるとふんでいるのでしょう」


 源田が言えば、草鹿も頷いた。


「元々彼らのメンタリティーは非常に好戦的だ。戦艦や水上戦力でこちらの倍以上あると見れば、そのまま力で潰そうと考えるのだろう」

「何にせよ、敵は向かってきているのだ」


 古賀は表情を引き締めた。


「航空攻撃。第三波、いけるかね?」

「源田航空参謀」


 草鹿が指名し、源田は背筋を伸ばした。


「第二次攻撃隊は、海氷島飛行場にて補給、修理を受けています。航空艦隊と共同し、稼働機による第三次攻撃は可能です」

「幸い、敵は第四次攻撃隊をこちらに差し向けてきた」


 古賀は言う。


「敵航空戦力の一角はこちらに割かれた。そうだな?」

「はい。正面からぶつかるより敵戦闘機の数が減りますから、攻撃しやすいかと」

「こちらからも――」


 高田は発言した。


「空母に残っている攻撃隊を出しましょう。転移で海氷飛行場の攻撃隊と合流し、一挙に敵空母戦力ならびに戦艦を叩く!」


 次の攻撃隊で二千艦隊に敵空母を全滅させる。参謀たちの出す空気に、古賀は首肯した。


「よろしい。無人艦隊ならびに連合艦隊に残存する艦載機による攻撃隊を発艦! 再出撃する第二次攻撃隊、基地航空艦隊と呼応し、敵航空戦力を撃滅する!」

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