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第一〇〇六話、届く穂先


 敵機、大編隊接近!


 連合艦隊から本命の攻撃隊が発艦を始めた頃、敵二千艦隊から放たれた第二次攻撃隊2000機が迫っていた。

 その数の多さは雲霞の如く。ハチのようなエントマⅢが猛スピードで向かってくる中、業風戦闘機、暴風戦闘機が敵第二次攻撃隊に立ち向かう。


 たちまち業風、暴風とエントマⅢというすでにぶつかっている両軍の戦闘機同士がここでも火花を散らし、空というキャンバスを黒煙と炎に染めていく。

 敵第一波を撃退し、引き続いて第二波を迎撃する日本軍戦闘機だが、第一波と同数の敵を今度は防ぎ切れない。


 理由は簡単だ。第一波との戦闘で弾を使い切った機や損傷した機が母艦に帰投したからだ。つまり、先に比べて防空力が低下している。連戦ともなれば、はじめの頃と同じとはいかない。


 もちろん、日本側のそれは認識している。前衛空母機動部隊は、追加の業風戦闘機を出して直掩機の数を増やして対応する。翼を折りたたむことでスペースを小さくするF6F――業風が搭載数の嵩増しに貢献した。

 だが――


「敵攻撃機群、無人第一艦隊ならびに第三艦隊に接近しつつあり!」


 それでも敵第二波を押し留めることはできない。


「該当艦隊に対空戦闘発令。最終直掩機を射出展開!」


 第三艦隊旗艦、『八咫鏡』から指令が飛ぶ。

 キーリア級旗艦級戦艦を改装して無人艦制御旗艦となっている『八咫鏡』は、各無人艦制御艦を中継して無人艦隊を動かす。


 無人第一、無人第三艦隊の無人戦艦、ル型巡洋艦の後部艦載機甲板から、ス号無人戦闘機――異世界帝国のスクリキ小型無人戦闘機改が打ち出された。

 ス号戦闘機は、武装をブローニング12.7ミリ機関銃二丁と20ミリ光弾砲一門を装備。これらは最高時速350キロ程度の低速戦闘機だが、小回りが利き、向かってくる敵艦上攻撃機を迎え撃つ最終直掩として使われる。


 味方戦闘機の防空網を突破した異世界帝国軍のミガ艦上攻撃機群が、前衛艦隊に迫る。

 だがそうはさせじと、無人戦闘機群が正面から突っ込む。


 低出力とはいえ光弾砲。その一撃はミガ艦攻を貫通、爆散させるほどの威力はある。補給面を共有して換装されたM2ブローニング12.7ミリ機関銃も、必殺の魚雷を抱えた敵機を許さない。


 敵貫通魚雷の威力は、一発でも大型艦を大破、撃沈に追いやるだけの攻撃力を持つ。低空を飛行するこれら雷撃仕様機を艦隊に近づけないことが継戦をふまえて重要であった。


「敵攻撃機! 艦隊防空圏に侵入!」

「対応防空艦、各個に撃ち方はじめ。防空戦闘――」


 無人戦艦の主砲が旋回。艦隊へ向かってくる敵編隊に一式障壁弾を発砲。その針路上に光の壁を形成して衝突を誘う。

 日本軍の障壁防空について、一定の情報を得ている異世界帝国軍だが、二千艦隊のパイロットたちにとっては初見である。


 実際にどんな風に障壁が開くのか、想像の中でしかわからなかったそれを目の当たりにして、それが最期の光景になった者は少なくなかった。思ったより範囲が広く、回避しきれなかったミガ攻撃機が衝突し、バラバラになった機が海へと落下する。


 後続の編隊は、前の隊が障壁弾の餌食になるのを目撃した。だから戦艦の放つ障壁弾も何とか躱して前進を続けたが、そうこうしている間にス号戦闘機が追いついてきた。


 戦闘機としては低速でも、障壁で大きく回避機動を取らされた攻撃機に追いすがると、光弾砲またはブローニングを容赦なく浴びせた。無人機に慈悲はない。

 それでも、ミガ攻撃機は懸命に日本艦隊との距離を詰める。


 戦艦砲をかいくぐった先で、今度は無人巡洋艦、駆逐艦の高角両用砲の歓迎を受ける。戦艦砲に比べれば範囲は小さいが、12.7センチ一式障壁弾は手数で、ミガ攻撃機の接近を阻む。


 複数の障壁が矢継ぎ早に開くことで光のカーテンを形成し、攻撃機の針路を妨害する。切れ目を抜けて飛び込んだ機は、ようやくにして攻撃位置についたが、最終防空手段である対空機銃が雨あられとお出迎えし、その僅かな生き残りたちを地獄へと突き落とした。


 幾層の防空網と対空射撃の前に、二千艦隊第二波攻撃隊は、日本艦隊に打撃を与えることはできなかった。

 が……、彼らの放った第三波――第三次攻撃隊、その数3000機が押し寄せた。


 戦いは数であった。

 第一波、第二波との戦闘で、業風戦闘機、暴風戦闘機は弾薬を消耗し尽くした機が大半で、敵機との空中戦を挑める機体は百機も残っていなかった。


 敵第一波と戦い、第二波との戦闘前に空母に戻ってきた戦闘機が、弾薬と燃料をたっぷり積んで再出撃する。

 だが焼け石に水であった。第三次攻撃隊の500機のエントマⅢ、1000機のヴォンヴィクスの戦闘機を前にしては、戦闘可能な機の数が圧倒的に足りなかった。


 戦闘機による防空が突破され、1500機から数ほぼ減らしていないミガ攻撃機の大群が前衛に襲いかかる。

 障壁弾による弾幕もまた、多くの攻撃機を撃墜したが、全てを阻止することは不可能であった。


 第三艦隊の正面にある三つの無人戦艦艦隊、左右の空母機動部隊が二つ。これらに殺到したミガ攻撃機は、対空砲火をくぐり抜け、ロケット弾や貫通魚雷を叩きつけた。

 死闘である。対空機銃に撃ち落とされるミガ。その屍を踏み越えるように迫る後続機。直撃を受けた異世界帝国駆逐艦改装の無人駆逐艦が、船体を真っ二つに裂かれて爆沈すれば、防空網の隙間をぬって、否、こじ開けて中央の巡洋艦、戦艦へとアタックする。


 シールドを抜けてきた貫通魚雷にごっそりと大穴を開けられて転覆する無人戦艦。対空弾幕を形成するル型巡洋艦に、ロケット弾を叩き込んで高角砲と機銃群を破壊したのもつかの間、被弾したミガがロールするように回転しながら海面で四散、水柱と化す。


 被害は戦艦群のみならず、空母機動部隊にも及ぶ。護衛につくはメテオーラ級軽巡洋艦改装の防空巡洋艦やル型巡洋艦の防空仕様。

 その圧倒的な高角両用砲と機銃群による攻撃は、多数のミガ攻撃機を破壊した。しかし9機を落としても、1発の貫通魚雷が当たれば、それで一隻の艦が大破してしまう。


 リトス級改装の無人大型空母、アルクトス級改装の中型高速空母も、貫通魚雷一発で艦体に大穴を開けられ、大量の浸水と航行不能にも等しい大損害を受けた。

 異世界帝国の第三次攻撃隊は、日本海軍の前衛艦隊を痛打した。無人戦艦9隻、空母10隻、巡洋艦22、駆逐艦37隻を撃沈破した。


 しかし、後方の連合艦隊の主要艦艇には被害はなかった。

 次に叩きつけられる第四波――第四次攻撃隊が殺到すれば、さらに被害は拡大する。二千艦隊の空母航空隊の波状攻撃が、やがては前衛艦隊を全滅させるかもしれない。


 だが、そうはならない。

 何故ならば、連合艦隊の主力空母群から放った本命、第二次攻撃隊が、二千艦隊を襲撃したからである。

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