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第一〇〇四話、それぞれの国のために


 1945年1月29日、マーシャル諸島とトラック諸島の中間海域にて、日本海軍とムンドゥス帝国軍は衝突した。

 連合艦隊旗艦『敷島』にZ旗が上がる。皇国ノ興廃コノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ。


 対するムンドゥス帝国二千艦隊旗艦『キーリア・ノウェム』では、司令長官ソフィーア・イリクリニス元帥は号令を発した。


『帝国に勝利を! 皇帝陛下、万歳!』


 海中では双方の潜水艦隊がお互いの艦隊に近づく敵をブロックしている一方、まず口火を切ったのは、双方の航空隊であった。


 ムンドゥス帝国二千艦隊は、第一次攻撃隊2000機を放つ。対する日本、連合艦隊は前衛を務める無人艦隊より航空隊約3800機を第一次攻撃隊として送り出した。

 二千艦隊旗艦『キーリア・ノウェム』。イリクリニス元帥は、状況を見つめる。


「攻撃隊を送り出してきた」

「珍しいパターンです」


 オルドー参謀長は無表情ながら同意した。


「これまでの戦闘パターンからすると、日本軍はこちらの航空攻撃の先制を誘い、転移で回避した後、仕掛けてくるのを定石としておりましたが……」

「さすがにこれだけの艦隊をまとめて転移させるスペースの確保が困難だった、と見るべきか」


 イリクリニスは、かすかに唇の端を吊り上げた。敵が攻撃隊の空振り戦法を使ってくると想定し、第一次攻撃隊を2000機に留めたが、引かないのであればもっと攻撃隊を送り込んでよかったかもしれない。


「いや、この数だから敢えてそのままか」

「如何いたしますか、閣下?」

「迎撃戦闘機を出して敵攻撃隊に備えろ。その後、第二次攻撃隊を発進。数は予定どおり2000」

「攻撃隊は2000でよろしいのですか?」

「あまり送って転移退避されても面白くない」


 どこか突き放すようにイリクリニスは言う。


「戦力の小出しは愚策というがな、こちらには圧倒的な物量がある。これは小出しではない。波状攻撃なのだ」

「はっ!」


 旗艦からの命令を受けて、ディアドコス級航空戦艦から迎撃のエントマⅢ戦闘機が発艦する。

 さらに双胴空母、再編第二群から、第二次攻撃隊のヴォンヴィクス戦闘機、ミガ攻撃機が飛び立つ。


 イリクリニスは、再び大モニターに目を向ける。

 先行するシュピーラト偵察戦闘機からもたらされた日本海軍の陣形は、敵総旗艦と思われる戦艦艦隊を中央に、その前衛に戦艦36隻を中心とする水上打撃部隊が三つ。


 総旗艦の左右に空母16隻の機動部隊が六つ。

旗艦後方に51センチ砲を搭載する大型戦艦を含む艦隊がいて、その左右に戦艦艦隊三つ。その後ろに機動部隊が四つという配置だ。


 ――この配置から察するに、序盤は前衛の艦隊に戦わせる魂胆か。


 イリクリニスは思案する。


 ――ほどよく消耗させたところで、より強力な後衛を前進させて一挙に畳みにかかる。……まあ、そんなところだろう。


 問題は――銀髪の司令長官は目を細める。


 ――後衛の前進がそのまま抜けてくるのか。得意の転移戦術で肉迫してくるか、だな……。


 こちらの艦隊後方には、皇帝陛下が坐乗する艦隊がある。親衛軍が守っているから本陣ががら空きということはないが、油断は禁物である。


 ――日本人が、総旗艦がこちらであると見てくれればいいのだけれど。


 現状のイリクリニスの不安は、その一点のみだった。



  ・  ・  ・



 双方の攻撃隊は、お互いに視認した結果、戦闘機が離れ交戦した。

 数千を超える大群同士である。どうしても正面からぶつかる部隊も出てくるのだ。エントマⅢ戦闘機が高速を利して突っ込むのを迎え撃つはF6F(業風)戦闘機とF4U(暴風)戦闘機。


 空中を12.7ミリと光弾の嵐が吹き荒れ、被弾した機体が破片を撒き散らす。石つぶてのように落ちていくもの。キラキラと銀片を太陽光に反射させながら散るもの。

 編隊から離れて向かっていった戦闘機は全体から見れば少なくとも、百機以上がぶつかる戦闘となる。


 高速を活かした一撃離脱はたちまち乱戦となり、不運な機体が衝突するようなカオスがそこにあった。

 激闘の航空戦を抜けて、異世界帝国側1500機、日本海軍側3200機が互いに敵艦隊へと向かう。


 二千艦隊と連合艦隊の間に多数展開している彩雲偵察機は、これら敵の動きを艦隊に通報する。


 連合艦隊旗艦『敷島』。連合艦隊司令長官、古賀 峯一大将は刻々と変わるプロッドボードを見つめる。


「来たな。前衛がどこまで敵の攻撃を吸引できるか……」

「前衛は、防御重視の無人艦隊です」


 草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は言った。


「敵の航空攻撃で壊滅しようとも、こちらの本命の攻撃を通すことができれば、勝機は――」

「ある、そう信じたい。そのためにも、第一次攻撃隊が敵にどこまで肉迫できるか、だな」


 第一次攻撃隊――無人艦隊航空隊およそ3200機が二千艦隊へ向かっている。だが敵空母の数からして、敵の機体数は圧倒的。その気になれば第一次攻撃隊は敵艦隊に迫る前に壊滅する可能性が高かった。


「戦術偵察隊より報告です! 敵航空戦艦より戦闘機発進。さらに空母群から新たな攻撃隊が発艦しつつありとのことです」


 GF司令部専属通信班からの報告である。戦術偵察隊とは、遮蔽偵察機が使えなくなった現状、戦闘における敵との確実な触接を保つために編成された部隊だった。


「航空戦艦の艦載機は、およそ30機程度か」


 古賀が呟けば、源田 実航空参謀は言った。


「それが100隻もいれば3000機。戦闘機キャリアーだったとすれば、これだけで第一次攻撃隊を迎え撃てますね」


 実にありがたくないことに。

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