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第一〇〇三話、決戦前夜の結果


 異世界帝国二千艦隊への夜襲は、水上艦艇のみで終わらなかった。

 第一遊撃部隊に所属する潜水艦、『伊400』『伊401』『呂401』『呂402』『呂403』の潜水空母群は、敵艦隊側面に展開すると第一、第二、第五、第十一航空艦隊の夜戦航空隊を転移中継装置で呼び寄せた。


 戦闘で混沌と化している場に、突如飛来する流星改、海山ら艦上攻撃機、業風戦闘機、月光双発戦闘爆撃機、銀河双発爆撃機、一式陸上攻撃機、火山重爆撃機などなど。


 連合艦隊司令部航空参謀、源田 実発案のN攻撃部隊である。

 これらは夜間の敵航空戦力が手薄なうちに、その迎撃が上がる前に迫り、四式対艦転移誘導弾二型を空母に叩き込んだ。


 艦隊外周に近い位置から殺到した基地航空隊は、主にアルクトス級中型空母がその餌食となった。

 防御シールドを抜ける転移誘導弾が、空母の艦体に着弾。水上戦闘ではほぼ蚊帳の外だった外周部隊も蜂の巣をつついたような騒ぎとなる。


 もちろん、二千艦隊もまったく無防備だったわけではない。少数ながら夜間対応のエントマⅢ戦闘機が上空直掩につけていた。

 本来は遠方よりレーダーなどで艦隊に接近する敵編隊を発見、迎撃ポジションにつく余裕があるはずが、転移中継を利用して懐に飛び込まれてしまっていた。


 こうなると、日本機からの誘導弾発射のほうが早く、夜間戦闘機隊は後手に回ってしまう。

 投弾後、退避機動に移る日本機に最高時速700キロオーバーで突っ込むエントマⅢ。だが日本機はさっさと転移で離脱する。誘導弾を切り離したら、即離脱では迎撃機の付け入る隙がない。


 何故、それが可能か。それは今回用いられた四式対艦誘導弾が、自動誘導装置付きの新型である二型だったことに起因する。

 自動誘導装置といえばさも高度な代物に聞こえるが、実際のところは誘導弾に無人コアを積んで、これに誘導させているだけである。


 最初に母機が標的を設定したら、無人コアがその目標を捕捉し続け、誘導弾の針路を微調整する。

 無人コアによる航空機操縦。それを誘導弾に置き換えただけのシンプルなものである。コア搭載の結果、搭載炸薬の量は減った。


 だがそれまで命中まで母機が誘導し続けなければならなかったのを勝手にやってくれることになり、母機の安全性、生存性の向上に繋がると考えられた。誘導のために敵の対空砲圏内に突っ込んでしまう可能性が減少したからである。


 しかし、基地航空隊の中には外周だけでなく深いところにいる双胴空母や大型空母を狙う部隊もあった。これらは護衛艦艇の防空圏内に踏み込んだことで、少なからぬ機体が撃墜された。

 夜間の低空接近。マ式暗視ゴーグルなどで日本の搭乗員たちは夜間での視界を確保していた。


 しかし異世界帝国側もレーダー誘導の対空砲や味方への巻き添えも構わず発砲した艦艇もいて、日本機の安易な空母への接近を許さなかった。

 より中央のパゴヴノン級双胴空母、リトス級大型空母への攻撃を成功させた機は多くなかった。


 そして激闘の夜は終わった。



  ・  ・  ・



 連合艦隊旗艦『敷島』。連合艦隊司令部では、夜戦での戦果報告とその集計が行われていた。


「――これは、そのままと受け取ってよいのでしょうか?」


 首席参謀の高田 利種少将が言えば、連合艦隊参謀長の草鹿 龍之介中将は淡々と返した。


「夜戦での報告だ。いかに夜間視界の確保された装備があるとはいえ、鵜呑みにするのはよろしくない」


 第一、第二、第三遊撃部隊、そして基地航空隊であるN攻撃部隊の報告を、そのままと受け取れば――


 ・双胴空母35隻撃沈、30隻大破

 ・大型空母45隻撃沈、29隻大破

 ・中型空母60隻撃沈、75隻大破

 その他、戦艦25撃沈破、巡洋艦40隻撃沈破、駆逐艦90隻撃沈。


「これが事実であれば、敵空母は残り三割から四割を削れたことになります」


 源田 実連合艦隊航空参謀は言った。


「数の上で、我が主力の空母と互角の戦力となった。そう思いたいところですが……」

「そのままの数字を真に受けるのは危険だ」


 草鹿は重ねて言った。


「甘く見積もって半分。客観的にみて、まだ六割、最悪七割が残っていると計算したほうがよいかもしれない」

「七割は甘く見過ぎでは?」


 源田が抗議した。しかし草鹿は引かない。


「戦果があやふやなものも含まれている。特に被害が大きかった第三遊撃部隊や、基地航空隊の未帰還部隊の戦果は、少ないかもしれないし逆に過剰かもしれない」


 基地航空隊である航空艦隊は、決戦にも参加できる戦力を有している。

 一方、参戦した三つの遊撃部隊は、第一遊撃部隊以外、戦果を引き換えに大きなダメージを受けた。


 第一遊撃部隊は、軽巡洋艦『矢矧』『奥入瀬』、駆逐艦『早雨』『白雨』の損傷で済んだが、第二遊撃部隊は航空戦艦『浅間』『八雲』が中破、重巡洋艦『愛鷹』大破、『紫尾』、駆逐艦3隻が沈没した。


 一番被害が大きかったのは第三遊撃部隊で、旗艦『山城』が沈没。西村中将以下、第三遊撃部隊司令部は壊滅。戦艦『扶桑』大破、大型巡洋艦『初瀬』大破、『八島』沈没。特殊巡洋艦四隻のうち、『足尾』『静浦』が損傷しつつも帰還。『八溝』『春日』、駆逐艦6隻が失われた。

 これまで黙していた古賀 峯一連合艦隊司令長官が口を開いた。


「遊撃部隊を再編し、こちらの正面決戦の間にも敵空母攻撃に使えないものか」


 特に第一遊撃部隊はほぼ健在であり、中心戦力の戦艦『蝦夷』『大和』も残っている。草鹿は答えた。


「軍令部としても、第一遊撃部隊の神明少将にそのように指示を出したとのことですが、まずは補給しないことにはどうにもなりません。第一遊撃部隊は砲弾が枯渇するまで作戦を継続したとのことで……」


 フネはあれど弾がない。そこまで奮戦したのなら、第一遊撃部隊だけが損害少なく帰ったことで批判的な声は上がらないだろう。


 第二遊撃部隊が被害を出し、第三遊撃部隊が司令官戦死するほど奮戦したのに、戦力がありながら戻ってきたのは敢闘精神に欠ける云々といった的外れな批判は起こらない。弾があればなお戦っていたわけだから。


「ともあれ、ここに至っては、艦隊決戦で雌雄を決するのみ」


 古賀の言葉に、参謀たちは頷いた。

 連合艦隊と異世界帝国二千艦隊。正面からの決戦は、間もなく開かれる。

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