第一〇〇〇話、遊撃部隊の夜戦
目標、敵空母。
それを意図していたのは、連合艦隊も同じだった。
「偵察機の報告では、敵空母の数は約420隻」
草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は言った。
「対する連合艦隊の空母は60隻。無人艦隊で80隻。合わせて140隻となります」
「ちょうど三倍の戦力差か」
連合艦隊司令長官、古賀 峯一大将は苦虫を噛み潰したような顔になった。さらに――草鹿は続ける。
「艦載機搭載数で大差をつけられております。敵は大型空母111隻。それの二倍近い艦載機を搭載可能な双胴空母がこれもまた111隻。双胴空母だけで、我が方の空母航空隊の倍はあると推定されます」
「つまり、航空戦力だけで、すでにこちらは大差をつけられている……」
「さらに敵には航空戦艦が111隻ありまして、それが艦隊防空用の戦闘機だったとしても2、3000はあることになります」
「桁が違うな」
古賀でなくても表情が渋くなる。
「正面からの殴り合いでは、どうにもならないか」
円盤兵器群を叩くだけでも一苦労というのに、それを乗り越えても正攻法での戦いで押し潰される。数の暴力というにはあまりに理不尽であった。
「故に、艦隊決戦に先立ち敵空母群を漸減し、戦力差を縮めねばなりません」
草鹿は告げた。
「我が海軍伝統の、対米戦略である漸減攻撃を仕掛けて、数的不利を覆す。それしか活路はありません」
・ ・ ・
軍令部直轄部隊である第一遊撃部隊が、アステール円盤群と海氷空母を叩き、そのまま異世界帝国艦隊から空母殲滅戦に移行する。
その作戦に、連合艦隊もまた乗っかった。第二遊撃部隊、第三遊撃部隊を編成し、さらに星辰戦隊を送り込んだのだ。
●第二遊撃部隊
航空戦艦:「浅間」「八雲」
重巡洋艦:「愛鷹」「大笠」「紫尾」
軽巡洋艦:「九頭竜」「鹿島」「北上」「大井」「木曽」
駆逐艦 :「朝露」「夜露」「雨露」「露霜」「風霜」「水霜」
:「大霜」「深霜」「強霜」「夜霜」
●第三遊撃部隊
戦艦:「山城」「扶桑」
大型巡洋艦:「初瀬」「八島」
特殊巡洋艦:「足尾」「八溝」「静浦」「春日」
軽巡洋艦:「静流」
駆逐艦:「初桜」「椎」「榎」「雄竹」「初梅」「八重桜」「篠竹」
:「茜」「栃」「菊」「矢竹」
●星辰戦隊
空中砲艦:「北辰」「妙見」「心星」「月宿」
円盤兵器:「天狼」「明星」「歳星」「鎮星」
第二遊撃部隊は、二千艦隊左翼より突撃。
航空戦艦『浅間』『八雲』の40.6センチ三連装三連光弾砲で、敵大型艦の防御シールドを貫通。
『愛鷹』以下重巡洋艦は、戦艦二隻が任務に集中しやすいよう巡洋艦を相手どり、こちらも三連光弾砲によって先制打撃を与える。
軽巡洋艦『九頭竜』は、重雷装艦として敵の鹵獲貫通魚雷をばらまき、敵艦隊内を大きく掻き乱せば、重雷装艦から誘導弾キャリアーに改装された『北上』『大井』、そして『木曽』が新式誘導装置を活用した対艦誘導弾を連続発射し、異世界帝国駆逐艦を立て続けに撃破または撃沈した。
朝露型駆逐艦は艦首の15センチ光弾砲で、これら突撃艦隊を援護しつつ、隙あらば魚雷で被弾炎上している艦にトドメを刺していった。
・ ・ ・
「突撃せよ!」
異世界帝国艦隊右翼から突入したのは、第三遊撃部隊である。
西村 祥治中将は、戦艦『山城』にいて、艦隊の突入を見守る。
戦艦『山城』『扶桑』の前には、特殊巡洋艦の四隻がいて、敵双胴空母に対して、主砲である光線砲を発砲した。
当たれば艦艇一隻を大破ないし撃沈に追いやられる高火力武器。しかしその一撃は防御シールドによって阻まれる。
が、その障壁を一撃でほぼ消滅させたことにより、守りの切り札を失うパゴヴノン級空母。そこへ『山城』の35.6センチ連装砲五基十門が吼える。
今でこそ格下の戦艦砲である14インチ砲だが、夜間、近接砲撃戦ともなれば、空母の装甲でその打撃に耐えるのは不可能であった。
「命中! 敵空母、爆発!」
見目も鮮やかな紅蓮の火球が広がる。格納庫内には航空機、艦内には燃料タンクや爆弾など危険物が満載の空母である。全長300メートルの双胴空母とて、その片割れが爆沈し、もう片方も爆発の煽りをくらって転覆しかける大惨事となる。
「土佐や天城より火力は落ちるが――」
昨年は第三戦隊を指揮していた西村である。今年に入って第七艦隊の司令長官となったが、今回の作戦のためにセイロン島から呼び出されて、遊撃部隊を率いる。
「この距離ならば、扶桑型でもいける」
特にこの『扶桑』『山城』は、主砲を一基撤去し、マ式機関に換装したことで28ノット前後の速力を発揮する。低速戦艦ではもはやない。
大型巡洋艦の『初瀬』『八島』は30.5センチ砲を撃ちながら、扶桑の後ろについている。対艦誘導弾を駆逐艦などに当てながら、敵を痛打している。
「こちらは貫通兵器がないが、やりようはある」
特巡が、敵艦の障壁を破壊し、そこに『山城』『扶桑』が主砲を叩き込むという連携。特殊巡洋艦の光線砲は数に限りがあるため、このコンピネーションが使えなくなった時が潮時ではあるが。
「せめて空母を20隻沈めるまでは……!」
第三遊撃部隊は突き進む。初桜型潜水型駆逐艦はすでに潜航し、雷撃や急浮上からの奇襲で敵艦隊をかく乱している。
しかし異世界帝国側も黙ってやられていない。艦隊内に入り込んだ日本艦を排除すべく砲門を開いた。