1. 片想いと急な死
「有紗? ねえ聞いてるの? 」
「・・・・何よ? 聞いてるわよ、うるさいわね。今大事なシーンなんだから邪魔しないでよね!」
イヤイヤ渋々と僕を振り返る彼女は、もう15年以上の付き合いになる幼馴染の栗石有紗だ。年は同い年。
僕は彼女にずっと片想いをしている。僕は小さい頃とても背が小さくて、女の子と間違われるなんてことはよくあった。
背の小ささから小学校中学校ではいじめられていたが、そんな僕を毎回庇って助けてくれたのが有紗だった。
言葉は乱暴だけど優しい彼女に僕はだんだんと惹かれていった。最初はお姉さんみたいな存在だった彼女を一人の女性として見るようになったのはいつだったか。片想い歴が長すぎてもう覚えていない。
僕は高校に入ったあたりから背がグングンと伸び始めていじめも無くなった。僕も有紗も中学は地元の公立中学に通っていたのだが、何故か高校も一緒だった。僕は私立の上位高校を目指していたのだが、有紗もそこに行こうかなと言い出して、結局二人とも合格。なんで僕と同じ高校入学したのか聞いてみたら、
「アンタがまたいじめられると嫌だからよ。昔みたいに泣きつかれても同じ学校じゃないと助けられないでしょ」
そんなことを言われた。完全に弟枠で男と見られてないことがわかって、今更だけど悲しくなってしまった。
同い年で今では僕の方が背が高い筈なのに・・・・
そんな彼女はある時から、乙女ゲームというものにどハマりしていった。
今彼女が夢中になってやっているのは、「赤と白のレクイエム」という乙女ゲームだ。なんでこんな怖い名前がついているのだろうか。少なくとも乙女ゲームにつけるような名前ではない。
「前から気になってたんだけどさ。それどんな内容なの? 少しでも教えてくれたっていいじゃないか。なんで教えてくれないのさ」
「・・・・はぁぁ〜。いいわよ。少しだけ教えてあげる。私の機嫌の良さに感謝なさい!」
「あははっ、ありがとう」
「まずね、ヒロイン・子爵令嬢ジェシカが王立高等学院に入学すところから物語が始まるわ。舞台はガレドール王国。ヒロインは4人の攻略対象から一人を選んで絆を深めていくのよ。攻略対象は王子ルシウス、公爵子息エルア、騎士団長の息子の伯爵子息ジョシュア、男爵位をもらっている商家の子息ハリー。私の推しはエルア様よ! 見てよ、この輝く銀髪に宝石の如き紫の瞳!・・・・おほんっ! それから他にも悪役令嬢アリシア。彼女は王子の婚約者の公爵令嬢で悪質なやり方でヒロインをいじめ抜くのよ。そしてもう一人、死の魔女
オフィリア。彼女は千年の封印を破って復活する。死への恐怖を吸収してね。彼女の力の源は恐怖。
復活した彼女は人々に次々と死の宣告をするの。それを受けたものは残酷な方法でじわじわと殺されるのよ。
ああ、確か悪役令嬢アリシアもその中に含まれていたわね。
けど、そんな魔女に立ち向かうのがヒロインと攻略対象4人なのよ。ヒロインは実は魔女の復活に合わせて誕生するという安寧の聖女で、攻略対象たちに安寧の加護を授けて共に戦うが魔女の力は強力だった。
一人、また一人と魔女の手に堕ちていく攻略対象4人。彼らから力をさらに吸収した魔女を前に、怯みながらも頑張って戦うヒロイン。しかし、最終的には最後の砦だったヒロインも敗北し、王国は残った人々を手駒とされ魔女に乗っ取られる・・・・」
「待って待って待って待って!! それってもはや乙女ゲームじゃないよね!? 完全にデスゲームだよ、それは!!」
聞いていたら段々と不穏な話になって最後は全滅だなんて・・・・・!
「ああ、安心して。これはいくつかあるうちの一つのエンドでしかないから。私は今ゲームをきちんとクリアしてヒロインとエルア様が結ばれたところよ。魔女復活の鍵ががあるからそれさえ開かなければ、魔女は復活しないわ。」
魔女復活の鍵?
「魔女復活の鍵って?」
「私もわからないの。あるのは知ってたんだけど、2周目でガムシャラに魔女復活しないようにプレイしていたらクリアできたんだもの。ま、完全な偶然よ」
「そっか・・・・教えてくれてありがとう。ダークすぎてちょっと衝撃受けたよ・・・・」
僕はふらふらと覚束ない足取りで有紗から離れた。
「あっ、ヤバイ! 今日午後出勤なんだった! 私は会社行かなきゃいけないけど、ゆっくりしていっていいから! じゃあねー!!」
バタバタと自分の部屋へ駆けていく有紗。そういえばそんなこと言っていたような。
今日は土曜日だから会社はないはずなのだが、午後用事で早退してしまう子がいるらしく代わりに呼ばれたらしい。
僕たちは大学は別々で会社も別だが、お互い25になってもこの腐れ縁は今でも続いている。有紗はアパレルショップで働いていて、結婚する気配はいまのところない。まあそのほうが嬉しい。
そして僕は昔から本が好きだったので出版社で働いている。結構有名な出版社だ。
しかし、そんな日常がいつまでも続くと信じていたが、有紗が家を出てから1時間後、有紗が車に轢かれそうだった子供を庇って、代わりに死亡。
有紗の家にかかってきた電話をいつものように取ったらそのように告げれられた。会社のすぐ近くでの出来事だったそうだ。ほんとに急なことだった。
それを聞いて最初に僕が思ったことは、有紗らしい死に方だな、だった。
それ以降、僕は壊れたように仕事に没頭した。周りは僕の変わりように驚いていたが、そんなこともどうでもよかった。両親だけはその理由を知っていたから心配してくれた。有紗の両親は前までの明るさがなくなってしまった。
今も僕は会社で仕事をこなしてしる。
けど、なんだか頭がふらふらして視界が歪んで見える。あれ、体から力が抜けていくような・・・・
「おい? おい大丈夫か!?」
大丈夫じゃないです、課長。
そう一言思ったとき、視界が暗転した。
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