凪、されど満潮なり
朝、目が覚める。映る視界の端のカーテンが霞んで見える。頭が回らない。時計のほうに目をやる。画面には、「6:45」と表示されている。上体を起こす気にもなれない。布団の上で寝返りを打ち頭が覚醒するのを待つ。
5分かけてようやく覚醒したことを感じる。上体を起こし布団から足をだす。平衡感覚を取り戻しつつクローゼットの前までたどり着き、パジャマを脱ぎ捨てて制服に着替える。髪の毛はどうだろうか。手で触ると思ったより乱れている。脱いだパジャマをもって洗面台に向かい、洗濯籠にパジャマを入れ、鏡の前で髪を解く。朝は何を食べようか。何か作ってあるわけではない。冷蔵庫を開くと鮭フレークと生卵が目に留まった。早速レンジでご飯を温め、鮭と卵を混ぜ合わせる。起きてから約10分、麦茶を注ぎ、斬新な朝食を食べる。味はそこそこ、及第点といったところ。食べ終わった容器や生ごみはごみ袋へ、コップはシンクにおいて洗面台へ向かう。生卵は口の中に異様に残る。いつもより入念に歯を磨いた。昨夜は寝心地の良い気温だったため戸締りは万全。部屋の鍵をもって家を出た。
五月半ばの空気は気持ちがいい。多少冷えることもあるがそれはそれで味というものだと思う。アパートの二階、自宅の前で伸びをする。庭に除草作業をしている管理人がいた。こちらに気づくと微笑みながら軽い会釈をしたのでにこやかに応対し道路に出た。引っ越してきた当時よりも幾分か町の様子がわかるようになってきた。といっても大通りに抜けるまでは住居の陳列であるのだが。似たような家々を目の端に入れながらも最寄り駅に向かう。それにしてもコンビニがないのはさすがに不便だ。食品や生活用品のパイプラインは駅前のスーパーのみ。帰宅時に寄れるから問題はないけれど。大通りに差し掛かるとトラックや乗用車がせわしなく往来している。この騒音には一月たっても慣れない。起きたての頭が割れるような騒々しさ。幸いにも大通りには様々な店が軒を連ねているので住人がこの音を夜中にくらうことはない。ふわふわする頭を覚醒させながら駅へと入った。
入った瞬間突風。よくあることだがどこからくる風なのか。電車が到着する時の影響なのだろうか。階段を下り、改札に着く。「7:38 鷹津」と表示されている。いつもの電車だ。電車を待つ間カバンから本を取り出す。最近はまっているホラー小説。ホラーは得意ではないけれど友達に勧められて買うまでに至った。でも怖いものは怖いから朝のこの時間にしか読めない。読めないのだ。到着した電車は空いている。混んでいる電車はどうやら逆方向らしい。ここから学校まで約15分の間、小説の世界にのめりこめる。そういう意味ではいい時間だ。
15分の恐怖体験を終えて目的の駅に着く。始業ベルまでは時間があるが小説の世界に浸かっていた代償だろうか、全く足が向かなかった。駅から3分のところにある高校。入学式の日は肝を冷やした。入学人数が地元の中学の総人数より多い。そもそも組み分けの少ない学校だったからカルチャーショックに身構えてはいたが一瞬で吹き飛ばされた。一年生の組は6組、各42名ずついるのだから茫然自失、借りてきた猫といった具合である。登校時間に人の波にもまれるのを避けたいだけの理由でホームルーム開始の30分前には駅に着くようにしている。この時間の学校は中々良いもので人はまばら、校門から靴箱まではときどき風紀委員や生徒会の面々が見える程度だ。教室に入っても案の定人気は薄い。一番後ろの自席に着く。この非日常感。ホームルームに合わせて登校してくる人たちはだいたい10分前に来る。つまりこの20分間、人のいない教室を堪能できる時間なのである。
朝のホームルームが終わり授業を受ける。昼食を食べる。午後の授業を受ける。午後のホームルームを終えて帰宅、ないしは部活に行く。部活動が終わる。
コンビニで夕食を買う。
帰宅する。カバンをおいて食器を洗う。夕食を食べる。自由時間を過ごす。シャワーを浴びる、ないしは風呂。宿題を確認する。
就寝する。