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帆奈美とテオドロの場合(前半)

 講堂の講壇で、校長の演説が続いている。 長い夏休みを終えて、今日から二学期だ。 九月だというのに、まだまだ暑い。 ムッとした空気が、講堂内に漂っている。 本日は、始業式の為、恒例の月一回の『ネクタイデー』だ。 生徒たちは皆、窮屈そうにネクタイを緩めたり、無駄にいじったりしている。 

 因みに、女子のスカートはグレーの切り替えスカートで、左右の一部分が赤のチェック柄になっている。 ネクタイの色も赤だ。 男子は、普通にグレーのスラックスだ。 ジャケットは暑いので、皆、半袖のシャツを着ている。 生徒たちは、校長の演説が早く終わらないか気もそぞろになっている。



――HRの予鈴の鐘が校舎に鳴り響く。


 「伊織くん!! おはよう! 今日、帰りデートしようよ」

 

二年生の一般クラスの教室がある二階の廊下で、伊織の姿を見つけた城ケ崎帆奈美は、いつものように伊織に誘いをかける。 駆け寄って伊織に腕を絡ませようとして、軽くかわされて不機嫌な表情で口を尖らせる。 ふわふわのツインテールにたれ目がちな顔立ちに、不貞腐れた表情は似合っている。


 「城ケ崎、相葉先生と呼べ。 生徒とはデートしない」

 「むぅ、相変わらず、つれない」


伊織は、教師の中でも一番、顔が整っている。 眼鏡の奥の涼し気な目元は、冷たそうな印象を受けるが生徒たちの受けは上場だ。

 クスっと頭の上から、面白そうな笑いが聞こえて、初めて伊織の隣に人がいるのに気づいた。 そちらに視線を向けた帆奈美が、音を立てて固まった。 目の前の彼を見て、目を見開いて凝視する。

 褐色の肌にダークブラウンの柔らかそうな巻き髪、髪と同じ色のダークブラウンの瞳が、帆奈美を捉えてキラキラと光っている。 ほりの深い整った顔立ちは、明らかに日本人には見えない。

 制服をスーツの様に着こなしている姿は、同じ年の男子生徒と違い、とても大人の色気を醸し出していた。 帆奈美が通っている私立校は、世界中から生徒を募っているので、外国人が少なくない人数、在籍している。 だから、外国人が珍しくて凝視しているのではない。 帆奈美は彼を知っているからだ。


 「テオ……どしてここに?」

帆奈美は何とか声を絞り出した。

 「それは、もちろん。 帆奈美に会いたくて来たんだよ。 驚いたよ、凄く綺麗になったね」

テオは、帆奈美のふわふわしたツインテールを手に取って、蕩けるような笑顔で宣った。

 「なんだ、城ケ崎の知り合いだったか。 丁度いい、転入するクラスは、城ケ崎と同じクラスだから、案内してやってくれ」

 「嫌です!!」

帆奈美はキッパリスッパリ速攻でお断りした。 テオは捨てられた子犬のようにシュンと肩をおとしている。 上目遣いに顔を覗き込まれて、テオの熱い眼差しに、心臓が痛いくらい飛び跳ねた。

 「じゃ、頼んだぞ。 本鈴なる前にクラスまで連れて行ってくれ」

伊織は珍しく、にこやかな笑顔でさっさと来た道を戻って行ってしまった。


 残された帆奈美は、テオを案内するほかなく、顎でしゃくってついて来るように促す。 廊下を、テオがついて来ているか確かめないで、ずんずん歩いて行く。 帆奈美の態度が悪いのは分かっている。

 でも、これには理由がある。 テオとは二度と会いたくなかったのだ。 大人しく帆奈美の後ろをついて歩くテオの口元が、愉快そうに緩んでいく。



――帆奈美とテオが五歳の時の事

 帆奈美とテオの母親が親友同士で、テオたち家族も小学校上がるまでは、日本に住んでいた。 帆奈美とテオは良く一緒に遊んでいて家族ぐるみの付き合いだった。 幼少期のテオは、王子さまが絵本から飛び出して来たような容姿をしていて。 帆奈美はテオに『王子さまみたい』と一目で恋に落ちた。

 幼稚園のお迎えの時間に、テオから告白された時は天にも昇る心地がした。 直後、告白して来たテオに、地獄に落とされる事になる。


 「ほなみ、だいすきだよ」


告白された後、チュッとテオが唇にキスをして来た。 だが、次の瞬間、別の女の子に同じ事を言い、キスをするのを、目の前で見せつけられた。 固まって動けない帆奈美を他所に、次々と同じように女の子にキスをしていくテオ。 最後の一人の後、帆奈美の所に戻って来たテオは


 「ほなみとのキスがいちばん、よかった。 ぼくとけっこんしよう」

と宣ったのだ。

 (おい!! なにそれ!!)

帆奈美の王子様のイメージが、音を立てて崩れ去り、初恋は泡と消えてしまった。

 「テオなんか、だいっきらい!! もう、あそばない!! けっこんもしない!!」


帆奈美は母親に抱き着いて、大泣きしてしまった。 テオのプロポーズを、目の前で見せつけられ、テオにキスされた女の子たちも、ショックで泣き出し、青ざめて慌てて宥める大人たち、平謝りするテオの母親。 テオも振られたショックで大泣きし、その光景は中々なカオスだった。 その後、テオの父親の仕事の都合でスペインに帰る事になったテオ家族。 文通と婚約するまで帰らないと、駄々を捏ねたテオに根負けして、人生で初めての文通友達と婚約者が出来た。



――何て事もあったなと、遠い目になる帆奈美

 イケメン転入生の登場にクラスメイトたちが騒めく。 色めき立つ女子を気にする事なく、テオは自己紹介を始めた。 女子の目がキラキラしている。


 「スペインから来ました。 テオドロ・ガルシア・長谷川です。 父がスペイン人、母が日本人です。五歳まで日本で暮らしてたので、日本語は話せます。 仲良くしてください。 因みにガルシア・長谷川が苗字です」


帆奈美の後ろの席の高瀬真紀が、帆奈美の肩に手を置いて一言


 「私たちのファーストキスの相手じゃん」


乾いた笑いを漏らす帆奈美の顔は、引き攣っている。 幼馴染の真紀は、幼稚園の時のキス事件の被害者の一人だ。 あの時泣いた女の子は、ストレートな物言いが玉に瑕な、長くて綺麗な黒髪の美人さんに育った。

 「……」

 「帰って来たんだ。 相変わらず、王子さまみたい」

 (ノーコメントを貫きたい……最近まで文通してたなんて言えない……)

 「後、五歳から帆奈美とは、文通をしていて婚約をしている仲なので売約済みです。 悪しからず」

テオは、牽制のつもりなのか、にっこり微笑んでいる。 クラスの皆は、テオが流暢に日本語を話すので唖然としている。

 (おい!!)

 「ほぅ」

後ろから確実に真紀が面白がっている様子が分かる。 帆奈美は頭を抱えて項垂れた。


 テオと目が合うと蕩けるような笑顔が返って来た。 テオの笑顔に心臓が大きく跳ねる。 再会した幼馴染は、物凄く帆奈美好みに成長していた。 テオの笑顔に嫌な予感がしてならない。


――HR終了後

 クラスメイトが遠巻きにそわそわしてるのが見える。 今日はもう、伊織に猛アタックするのは諦めるほかない。 質問攻めになる前に、テオに捕まる前にダッシュで帆奈美は逃げた。 教室を飛び出し、廊下をダッシュして、転げるように昇降口まで走る。 学校前にあるバス停に、タイミング良く駅に行くバスが来た。 バスに飛び乗った時、正門前にテオの姿を見た気がした。 少しの罪悪感を覚えて、胸が締め付けられて痛い。 

 重い足取りで家路に着くと、何やらリビングが騒がしい。 兄の友達でも来てるのかと思って覗いてみて、目が点になった。 手の力が抜けて、持っていた鞄が床に落ちる。


 (何故に、うちのリビングで寛いでんのよ……テオ)


リビングで帆奈美の家族と寛いでいるテオがいた。 長い足を組んで、優雅にコーヒーを愉しんでいる。

 テオが物音で帆奈美に気づいて駆け寄って来た。 徐に、思いっきり帆奈美に抱きつく。 


 「おかえり~♪ 帆奈美 酷いよ。 僕を置いて帰るなんて」

 「な……な……んで。 うちに……」

 「隆兄さんに迎えに来てもらったんだ。 今日は、仕事、お休みって聞いてたし。 帆奈美の家、覚えてるか不安だったし」

テオは、にっこり微笑んだ。 ソファーで寛いでいた兄が、溜め息を吐いて帆奈美を諫める。

 「お前、テオ置いて帰るなよな。 迷子の子犬みたいに落ち込んでたぞ」

テオを見ると意地悪そうな笑みを向けてくる。 帆奈美を離すつもりがないようで、更にきつく抱きしめてきた。

 「なんで、私が一緒に帰らなきゃいけないのよ。 テオ、離して」

 「なんでって、テオも今日から一緒にこの家で暮らすからだよ」

兄が行き成り、爆弾を投げてきた。 帆奈美は目を見開いて、テオを見る。

 「私、聞いてない。 手紙にも書いてなかったじゃない。 留学の事も書いてなかったし」

 「うん、サプライズで驚かせようと思って、今日からよろしくね。 帆奈美」

テオは、帆奈美に蕩けるよな笑顔を向ける。 また、帆奈美の心臓が大きく跳ねた。


 (私、伊織くんが好きなんだよね? そうだよね~~!! 何で、テオにこんなにドキドキするのよ!!)

テオは、挙動不審になった帆奈美のおでこに口づけを落として、抱きしめる腕に更に力を込めた。

『I've always liked you ~ずっと君が好きだった~』を読んで頂き誠にありがとうございます。

気に入って頂ければ幸いです。

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