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胡桃と拓哉の場合(中編②)

 胡桃はことある毎にメモを取り出して眺めいた。 メモを見つめる胡桃の瞳は潤んでいるように見える。 頬も熱を持っていて、少し赤い。 ファミレスで打ち付けた頭頂部がズキズキと痛む。 和真に盗み聞きしていたのがバレて、慌ててテーブルの下に隠れた時に思いっきり打ったのだ。 胡桃は大きな溜め息を吐いて、仰向けにベッドに倒れ込んだ。 

 (今思えば、隠れる必要なかったかな? でも、私の所為であらぬ悪行が広まって、女子生徒から叩かれたんだし……流石にちょっと顔を合わせずらい。 珠子が嘘つくとは思わなかったし、能上くんに突撃しに行った時も否定しなかったし……ん? 否定……)

胡桃は拓哉に突撃しに行った時の事を記憶の中から引っ張り出す。 胡桃の勢いにのまれて呆然とした拓哉の顔が思い出された。

 (そうだ、文句だけ言って逃げ出したんだった。 そりゃ、否定もできないよね。 しかも、その事忘れてたし、うわっ、私、最低だ。 でも、能上くんも変わってるよね。 そんな奴、好きになるって……)

 胡桃は枕を抱きしめて寝返りをうった。 拓哉は皆に噂を否定しなかったし、嘘を言った珠子の事も責めなかった事に思い至る。 拓哉が思ったよりも良い人なのだと思ったら、少し胸がキュンとしたのを感じた。

 階下からカレーのいい匂いが漂ってきて、胡桃のお腹の虫が部屋に鳴り響く。 胡桃は今日は何カレーかなと考えて、ファミレスで拓哉がハンバーグを食べていたのを思い出した。 頭の中と口の中が、一瞬でハンバーグカレーでいっぱいになる。 胡桃は枕に顔を突っ込んで、足をばたつかせた。

 「やばい、同じ物が食べたいとか思ってるじゃない」

暫く、ベッドの上で見悶えていた胡桃は、今更だけど、拓哉に謝る事を決心した。 

 結果は、惨敗である。 胡桃は廊下でキラキラした集団の中に拓哉の姿を見つけて駆け寄ろうとしたが

 (駄目だ!! 謝るって決めたけど、私にはあの集団は眩しすぎる!! キラキラ集団の中から能上くんを連れだして謝れない!!) 

拓哉も胡桃の様子がおかしいのに気づいて見つめている。 胡桃は拓哉を正視できず、謝罪の言葉を叫びながら逃げ出したのだ。 後には、呆然とするキラキラ集団が残された。 ただ一人、和真だけが腹を抱えて笑っていた。

 


――お昼の鐘が鳴り響く。

 生徒たちと購買部のおばちゃんの怒号が飛び交っている集団を前に、胡桃は青ざめて固まっていた。

 (こわっ、聞いてはいたけど凄まじい。 今日のお昼パンなのに、あの中に入って行く勇気がない)

戦場とかしている購買部には、地元のパン屋が出店していて、いつも焼きたてのパンが並んでいる。

 焼きたてのパンが食べれるという事で、生徒、教師からも人気だ。 もたもたしていたら、胡桃の好きなコロッケパンが次々と生徒たちの手に消えていった。 一番人気の特製コロッケパンの籠に、売り切れの札が掛かった。

 「ああ、コロッケパンが~! なくなった」

 胡桃はパンを求める生徒の中に、キラキラした一角を見つけた。 拓哉の周りだけ誰も居ない。 キラキラしてるだけでなく、拓哉からは黒いオーラが放たれてるのを感じて、周りの生徒たちが後ずさりしている。

 拓哉が目線だけでこちらを見て視線が合った。 胡桃は視線が合った途端、回れ右して駆け出した。

駆け出したのに、前に進まない。 右腕に違和感を感じて、腕を見ると手首を掴む手が見えた。 掴んでいる手を上に辿っていくと、キラキラした美男子が目に入った。 拓哉だ。 光の速さで移動した拓哉が胡桃の右腕を掴んで、瞳には熱が帯びている。 拓哉は胡桃に見つめ返されて頬を赤らめている。 右腕は拓哉に掴まれたままだ。 最初に口を開いたのは拓哉だった、紙袋を掲げている。

 「あの、お昼一緒にどう? 葉月が好きなコロッケパン買ったから」

拓哉が掲げた紙袋から、焼きたてのパンの匂いが胡桃の鼻腔を擽る。 ついでに、胡桃のお腹の虫が大音響で鳴った。 胡桃は恥ずかしさで真っ赤になって俯くしかなかった。


――穴場スポットの屋上は今日も誰も居ない。

 屋上に行くまでに自動販売機で飲み物を買う。 奢る奢らないのやり取りの後、互いの飲み物を奢る事で話がついた。 屋上のベンチに二人で端と端に座った。 二人の間には、購買部で買ったお昼のパンの紙袋が置かれた。

 胡桃は拓哉にコロッケパンを差し出されて、諦めていたコロッケパンを見るとぱぁと笑顔になった。 ちょっと躊躇したが、コロッケパンを受け取った胡桃は、コロッケパンにかぶりつく。

美味しそうにコロッケパンを頬張る胡桃の姿を、嬉しそうに見ている拓哉の視線には気づかなかった。

 (あ、コロッケパンのお礼を言うのを忘れてる。 その前にあの事、謝らなきゃ)

胡桃は咳払いをして、深呼吸して覚悟を決めた。

 「あの……ごめんなさい!! 何て言ったらいいか、私の所為であらぬ疑いが広まってしまって……女子から叩かれた事も知らなくて……しかも、一連のこと事体、すっかり脳みそから記憶がなくなってました!!」

 胡桃は座りながら頭を深く下げた。 拓哉の手が、そっと胡桃の手に触れられているのを感じて固まる。

 「葉月、コロッケパン潰れる」

目をつぶっていたので気づかなかった。 目を開けると半分潰れたコロッケパンが目に入った。

胡桃の口から情けない音が出る。 無意識に力が入り握り潰したらしい。 

 「その事は気にしなくていいから、全然気にしてないし。 まぁ、衝撃的ではあったけど」

拓哉もコロッケパンを無言で食べ始める。 

 (今、能上くんと同じ物食べてる)

胡桃は、何故か凄くドキドキした。 昨日のカレーは、チキンカレーだった。 ハンバーグカレーの口になっていた胡桃は、お腹は満たされたが口は満たされなかった。 胡桃の視線に耐えかねた拓哉は、頬を赤らめて横を向いたまま告げる。 手を口に当ててるから聞き取りにくいけど、何とか聞こえた。

 「ごめん。 あんま、じっと見ないで、照れるから」

 「ごめん!!」

胡桃は慌てて視線を前に戻した。 照れた拓哉の様子に、心臓は爆発寸前だ。 

 (うわっ、めっちゃ見てたの気づかれた。 いや、隣で見つめられたら流石に気づくよね)

胡桃は手元を見て、やっと気づいた。 まだ、コロッケパンのお礼を言ってない事に。

 「あの、コロッケパンありがとう。 あの購買部の戦場には入って行けなくて、助かりました」

頭を下げた後、胡桃は戦場とかした購買部を思い出して遠い目をした。 胡桃の言葉に拓哉は嬉しそうな笑みを作る。

 「うん。 葉月が呆然として購買部を見てるのに気づいたから、入って来れないんだろうなって思って。 お昼の購買部は、慣れてない奴には過酷だから。 たまに、放課後にコロッケパン買ってるの見てたから、好きなのかなって思って、喜んでもらえて良かったよ」

拓哉はキラキラした満面の笑みを胡桃に向ける。 胡桃は、一瞬で心臓を鷲掴みにされた。 コロッケパンがまた潰される。 潰れてぐちゃぐちゃになる前に、一機にコロッケパンを口いっぱいに頬張る。 黙々とコロッケパンを咀嚼する胡桃の顔は真っ赤に染まっていた。

 (そんなにフェロモンふりまかないで~!! 能上くんの笑顔がキラキラで眩しすぎる!! 直視できない!! 何て破壊力!! もはや凶器じゃん!!)

隣から緊張した拓哉の声が、胡桃の耳に届いた。

 「あのさ、あんまり俺の事、知らないと思うし……だから、葉月に知ってもらいたいと思ってる。 お試しでいい、一か月だけでもいいから、俺と付き合ってくれない? 一か月経って駄目だったら振ってくれて構わないから」

拓哉の胡桃を真剣に見つめる瞳に、胡桃は今までよりも熱を感じて、拓哉の瞳から目が離せなかった。

 屋上に風が吹いて、二人の髪を揺らす。 綺麗な瞳だなって見惚れた胡桃は、何も考えずに返事をしていた。 胡桃が「はい」と頷いた後、拓哉の嬉しそうな顔に、また心臓が大きく跳ねた。 

――お昼の終了の鐘が鳴って、二人の耳にも届いた。

『I've always liked you ~ずっと君が好きだった~』読んで頂き誠にありがとうございます。

気に入って頂ければ幸いです。

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