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胡桃と拓哉の場合(中編)

 ここに一枚のメモがある。 メモには、[手紙をくれた方]と書かれていて、メモを開くと[返事をしたいので名前を教えてください]と女の子らしい字で書かれていた。 拓哉の返事の文字をじぃと見つめる瞳は、熱を帯びている様に見える。 返事というのは、この間、教科書に挿んだメモの返事の事だろうと推察した。


 拓哉はお昼休みの鐘が鳴ると、購買部でパンを買ってクラスの友人、伊藤和真と屋上に来ていた。 屋上は極一部の人間には、人気の穴場スポットだ。 極たまに人とかち合うが、ほぼ誰もいない。 屋上に来た理由は、内緒話する為だ。 拓哉の周りには、いつも人が集まって来てプライベートな話が出来ない。 ベンチに座ると和真が早速、訊いてきた。

 「んで? 葉月から返事は来たのか?」

 「……」

拓哉の様子に全てを察しのか、和真は納得して紙袋からカレーパンを出して頬張る。

 「まぁ、お前の去年の悪行が、俺らの学年には広まってるからな。 揶揄われてると思ってるんじゃないの?」

 「そうだろうな。 この間、廊下で葉月とすれ違った時にあらかさまに避けられた」

拓哉はその時の事を思い出すと自然と笑みが零れた。 胡桃はまるで忍者になったつもりなのか、怪しい動きで柱とか友達の後ろに隠れながら、拓哉の横を通り過ぎていったのだ。

 「お前なんであんなメモ挿んだの?」

和真の問いに拓哉は、胡桃の教科書を思い出して少し顔を赤らめてボソッと答えた。

 「……葉月の教科書かって思ったら、つい衝動的に……」

和真はぶはっと噴き出して、拓哉の背中を何度も叩く。 拓哉は面白がる和真を恨めし気に睨んだ。

 「衝動的って……お前、そんな好きなのか? じゃ、早いとこ誤解、解いといた方がいいんじゃないの?」

 「話すチャンスがない」

和真は今度は玉子サンドを口に運ぶ。 拓哉も明太子おにぎりにかぶりついた。 暫く無言で食事を続けた後、和真が徐に建設的な意見を言った。

 「お昼一緒にどう?って誘えば」

 「近づく事も出来ないのにどうやって誘うんだよ」

 (まさか、このままずっと無視されるのか? あれ? もしかして、これって……)

 「このままだと告白も何も無かった事にされる?」

 「いや、もう既に無かったことになってんじゃないか」

お昼の終了のベルが学園全体に鳴り響く。 和真の容赦ない言葉に嫌な予感がしてならない。 早急に誤解を解かないと確実に振られる。 拓哉の背中を冷や汗がたらりと流れていった。



――授業の開始の鐘が校内に鳴り響く。

 拓哉の席からは隣のクラスの生徒たちが、校庭で体育の授業を受けている様子が見える。 その中に胡桃の姿も見えた。 拓哉の耳には授業をする教師の声は届かない。 じぃと胡桃の様子を眺めている。

 隣のクラスは、男子はハンドボール、女子は高跳びの授業を始めた。 何人かの女子が飛んで、胡桃の順番が回って来た。 意外にも綺麗なフォームで飛ぶ胡桃は、右の踵がバーに当たってクリア―出来なかった。 悔しそうだったけど、笑顔が眩しい。 胡桃を眺めながら、どうすれば自分のものになるのか考えていた。

 「お前、授業中ずっと隣のクラスの体育見てたな。 伊織くんめっちゃ睨んでたぞ」

和真が言う伊織くんとは現代文の担当で、今年からの新任の教師だ。 イケメンで若い、女子生徒に人気の教師だ。 近づきにくい雰囲気を醸し出しているのに、生徒たちからは名前呼びされている。 

 「隣のクラスって、もしかしてあの子の事?」

 「ああ、去年めっちゃ怒って拓哉に迫って来た子?」

いつも拓哉の周りを取り巻いている女子たちが訳知り顔で騒ぎ出す。 拓哉はわざとらしく溜息を吐いて、近寄るなオーラを出すと。 女子たちは拓哉の微妙な雰囲気を感じ取って、和真と他愛ない話をしてから離れていった。



――ファミレスの店員が注文された皿をテーブルに並べていく。

 「以上でご注文の品はお間違いないでしょうか?」

店員に頷きだけで返すとごゆっくりどうぞとお辞儀して離れていく。 午後三時のファミレスはママ友グループや学生グループで直ぐに席は埋まって満席になった。 拓哉たちのテーブルには、ハンバーグセットが二人分並んでいる。 和真がハンバーグにナイフをいれると徐に訊いてきた。

 「まだ、誤解といてないのか? しかし、笑えるよな。 あの状況で何であんな事になるのか」

和真はおかしそうに肩を震わせて笑う。 拓哉は溜め息を吐いてハンバーグを口に運んだ。

 「お前の目の前で、チョコが原付に引かれてバキバキに割れたのは唖然としたよなぁ。 次の日、学校に行ったら、お前が雑巾しぼりしてゴミ箱に捨てた事になってたし。 拓哉が怒った葉月に詰め寄られて、そんな葉月に惚れるって! こんな漫画みたいな事あんのかってめちゃ笑ったわ」

 「俺は笑いごとじゃない……」

 「あの子もあそこで転ばなかったらなぁ。 一応、チョコくらいは受け取っただろ?」

 「さぁ、どうかな……あの時は、恋愛って面倒って思ってたし」

 (まぁ、ある意味あれが無かったら葉月の事知らないままだったしな。 良かったのか悪かったのか)

和真が突然ウィンクした。 後ろの席から物が打ち付けるでかい音が鳴る。 

 拓哉は打ち付けるでかい音で振り返った。 後ろの席のテーブルには、新作の旬の果物のパフェが二つ置いてあった。 パフェはまだ、少ししか口を付けてない様子だったが、誰も座っていなかった。

 椅子には鞄が置いてあったので、お手洗いかどっかに行ったのか思って、拓哉は何とも思わなかった。

拓哉が和真の方を見ると、にやにやした顔で拓哉を見ていた。

 (なんだ? きもいな……こいつ)


次の日、更に胡桃の様子はおかしくなっていた。 胡桃は、拓哉と廊下でかち合うと泣き出しそうな顔で

 「ごめんなさ~い!!」

叫びながら離れていった。 廊下には唖然とした顔の拓哉と、腹を抱えて笑う和真が残された。

 (葉月、それは何のごめんなさいなんだ)

和真の様子を見て問い詰める。

 「お前、葉月に何か言ったのか?」

 「いや、何も言ってない。 しいて言うなら、昨日のファミレスで、俺たちの後ろの席に葉月たちがいたってことくらい。 良かったじゃん。 誤解がとけて」

胡桃の様子に和真のように楽観的には思えない拓哉だった。

『I've always liked you ~ずっと君が好きだった~』を読んで頂き誠にありがとうございます。

気に入っていただければ幸いです。

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