第5話 ㉕[素敵な敵対]♡
明言してない、明言してないんだぞ (嘘)
「許さん! 絶対そっちに戻ってお前に誅伐を下す! ケンジちゃんを籠絡し、神聖勇者を脅してあのダンジョンとやらを手に入れる! ふはははは! 私を異世界に追いやっただけで私から逃げられると思うたか! 後悔してももう遅い!! 絶対隷属させてやるからな!!! 魔法少女になどならんぞ! お前の思い通りになってたまるか!」
『ワー、コワーイ』
棒読み手鏡。
「す、凄いわ。本当にアイナさんの思い通りになった…………てか殺すじゃなくて隷属なのね? 裏切りよりどんだけ女の子が好きなのよ貴女、まるでケンちゃんみたい。真性のレズビアンね!」
エルフさんは驚いている。何に? それはやはり自分の敬愛する賢治に似過ぎているからだ。
彼女は元小学校の時の保健医、賢治の体を定期的に診断してきた変態。
職場を変えてまで、高校までストーキングした。そんな彼女は文字通り隅々まで賢治を知っている。
そのチョロさも何もかも。
「レズビアンとは女が女を愛する事だな、そんなの当たり前の事だ。私は強い、だから欲しいものは全て手に入れる。お前らも、賢治という魔王候補も、この世の女という女は全て私のものだ」
これを男が言うと全く意味が違う、事もない。
結局聖女だ何だ言ったところでそれは人間だ、欲しいものを手に入れる為に強者は動く。
かつてこの世界で聖女と呼ばれた女も当時暴発の可能性も大きかった大砲を攻城兵器としてだけでなく人に向け、十字教の大天使の伝説をも利用して敵をぶっ殺しまくった騎士道精神()な異常者だ。
「…………面白いわね、貴女とケンちゃんはまるで鏡合わせ。会わせたい、何が起こるかしら!?」
ウキウキしながら、エルフはその欲望を隠す為におもむろにジャージを履く。
黒ニーソを隠したのではない。
ナニを隠したのだ。
(でも、あの子の処女だけは誰にも渡さない)
「……!! お前!」
「ああ、御免なさい。あの子の事を思い出したらこうなってしまうのよ」
ロケットのようなおっぱいと別にもうひとつ。
もう一つのロケット。
ジャージを突き破らんとするエルフさん自身が❤︎起していた。
ぱつんぱつんである。
(両性具有、エルフは人間の様々な性欲に応える為に男にも女にもなる。それ自体は珍しくない、珍しくはないのだが)
「お前は、女の子を思い出してそうなったのか? エルフが!? お前らは孕む為に人間を受け入れる為の感情しか無いはずだ! 孕ませる為では無いはずだ、逆はない! その肉❤︎をどうするつもりだ!」
治まりつかないそれをどうしようか思っていたエルフさんは、困った顔で自身を見ていたが、興味津々の聖女様の顔を見て賢治のソレを思い出し、更にイキリ❤︎つ。
「安心して、貴女をどうしようとかは思ってないから。私がめちゃくちゃにしたいのはケンちゃんだけ♡ あの子をこれで❤︎ガらせて持ち上げたい♡ あの子の膨らんだ出来たておっぱいに❤︎❤︎んで、ぶっ❤︎けてやけどさせてぇ♡ 咥えさせて♡ 嗚呼♡ 駄目♡ 想像しただけで孕ませたくって仕方ない♡」
(今確実に言った、孕ませると! あり得ない! エルフの生態を無視した欲望だ、エルフは自分の肉体を使って孕むから数を増やせる、孕むからこそ犯して孕ませた一族を魅了して呪う。だからエルフが誰かを孕ませる事など3000年の歴史上無い!! そんな事になればエルフ討伐はもっとやり易かった、過去にいたゴブリンという魔物が狩り尽くされ絶滅したように、エルフも絶滅させられてるはずだ、エルフは犯されるから人間に生かされている。それを無視した性欲…………いや、待てよ?)
「ケンジちゃんが異常なのか? 写真だけでは伝わらんフェロモンが生態を凌駕しぶっ壊した。まるで、そんなのまるで魔王じゃあないか!!?」
恐れる、ただの聖女だという評価を変えるほどの恐れ。
(だとしたら目の前のエルフは全く安全じゃない、下手をすれば今までにない魔物となる、ゴブリンの性質を持ったエルフなど悪質極まりない。もし、私の予想通りなら…………)
「いや、まるでではない。まさしく魔王の魅惑、魅力、弱者である筈のエルフを凶悪魔物に変貌させた!? まさしく最近聖堂教会に流行ってる『悪魔』ではないか??! なんて悪い子なんだ! 間違いがないうちに私がメスの喜びを味わわせねば!!」
「ケンカ売ってんの? 貴女!私が黒ニーソ隊の隊長だということを忘れてないかしら! イエスケンちゃん! ノータッチ!」
「いや、お前さっき処女を戴くとか言ってたじゃないか? 何がノータッチだ!! いい加減その巨砲をしまえよ! 一体何人そいつで泣かせてきたんだこの変態!」
聖女様は興味津々のようだ。
「わ、私は童貞だ!! 誤射するわよ!!」
顔真っ赤で顔を隠しているが自身は隠しきれていない。
「それはやめてくれ、誤射はやめろ、これでも私は聖女だぞ? そしてさっさとこの呪いを解け」
おっぱい緊縛はまだ解かれておらず童貞を殺す感じなザマを晒している。
「そ、その前に今触っていい? どんな反応するか楽しみ♡」
「却下だ。童貞エルフ女」
「っち!!」
悪態を吐きながらも約束通りに縄の呪いを解く。
聖女様は開放感からかため息を漏らし机の上に置かれたさや付きの剣を指差す。
「それを返せ、剣聖以外がそれを持つ事は我等[剣聖派]の習いに背く。まさかと思うが解析なんてしてないだろうな!」
勃❤︎の抑えられぬまま首を横に振った、どうやらそれどころではないらしい。
「そうか。ならば良い、まぁコレはレプリカだがな」
『姉上、そのエルフの魔術はあの聖女殺しで有名な[心傷魔術]です。強力な効果を得る代わりに生命維持以外の魔術が使えなくなるというデメリットがあるので解析とかは特殊な魔眼がないと不可能です』
「嗚呼、アレか。確かに私の睡眠耐性を完全に無視した睡眠魔術は脅威だな、もしあれが戦場だったらステータス関係なしに眠らされて殺されていた、いや童貞に何かされたかも知れん、童貞が感染る!!」
「感染るか!そんなもん!!」
ようやく半❤︎ちまで治まりしゃべる余裕が出てきたようだ。
「童貞エルフ! 私は疲れた! 異世界疲れだ! お前はアイナの知り合いなのだろう?! だったらベッドを用意しろ! お前は床で寝ろ! その凶悪な肉❤︎を近づけるなよ!! 取り敢えず当面の目的はケンちゃんを性的にやっつける事だな! そしてケンちゃんの母親を討伐する! 伝説の魔王を討てる時が来るとはな! がっはっはっはっは!!」
「フフ、貴女すごくバカで滑稽だわ、てか伝説の魔王ってなんの話よ、あの人は魔女だけど魔王なんかじゃないわ、あんまりふざけたこと言ってると奏美さんにスケベされるわよ」
「なんだと? 私は剣聖で聖女だぞ? 何がスケベだ、童貞の分際で!!」
反論するたびにいちいち『童貞』という単語を口にするがもちろんそんな事にイラついているわけではない。
『あー、姉上。非常に言いにくいのですがそこは魔王の領地なのですよ、つまりですね〜?』
ぶんぶん振り回された手鏡から衝撃の事実が明かされる、そうつまり。
「あー、なるほどアイナ。お前また裏切ったのか?今度は私だけでなく世界すらも」
『そうなるのですかね? 私的にはコレしかないと思っていたのですが?』
エルフは首を傾げている。
彼女は奏美が魔王に相応しい事は知っているがまさか異世界側の生まれ変わりだとは信じていない。
何故ならほとんどの人間が科学を信仰しているこの世界では本当に生まれ変わりを信じている人間は居ない、常識という殻が思考を停止させてしまう。
だが2人は転生が現実にあることを知っていて運命がある事も知っている、そんな2人にとって元魔王である奏美の領地に転移させるということは明確な意思を持って聖女を魔王に売ったという事になるのだ。
ゲームで言うなら銅の剣を買う前の段階でいきなり魔王の城に制作陣がプレイヤーを配置したかのような理不尽さだ。
「何がコレしかないだ、そうまでして私を怒らせたいのだな? 良いだろうアイナ、お前がどれだけ私を貶めようとも裏切ろうとも私は絶対嘆かない! 怒らない! 挫けない! 見事この世界を牛耳ってお前と対峙してやる!」
『楽しみです❤︎』
ぶつんっ!
捨て台詞を吐き手鏡から映し出すものが消えただの鏡面に戻り、凶悪に歪んだ笑顔のシェルフが映る。
「あ、貴女なんでそんなに嬉しそうなの? 異世界から騙されてこっちに来たのに、むしろ人の悪意をそんなに嬉しそうに!」
「…………待っていたからさ、40年もこの時を! 一体いつ裏切ってくれるか、ずっとずぅっと期待していた。人は油断した時、見下した時、裏切った時に本音が顔に出る、私はソレが大好きだ。人は束縛されるべきではない、人は人に嘘を吐くべきでもないし、仮面を被って取り繕うべきでもないのだ。だから私は人を縛る法律が嫌いだ、魔法が大嫌いなのだ」
「だから魔王も嫌い?」
聖女はエルフに問われ仮面を外して応える。
「ああ、私は魔王を許せない」
聖女らしくない暴論で聖女は魔王に正しい感情を抱く。
◇
異世界のアイナの研究所。
アイナ以外誰も居ないその空間でアイナはまだ仮面を外せずにいる。
仮面、ソレは聖女を騙すために40年被ってきた心の仮面。
聖女を裏切る腹づもりの仮面。
それをとった彼女の、否、少女の顔は。
誰にも見せるべきでない少女の顔は。
誰よりも純粋で凶悪な本当の顔だ。
(危なかった、また仮面を外される所だった。最後の最後で、全くあのお方はなんて純粋で清廉で、優しすぎる)
彼女はまだ聖女に本当の顔を見せていない。
聖女が人の本来の顔を好むことを知っている、ストレスを嫌い、他人の不幸を本気で悲しむことも知っている。
(だから、私は決めた。歪んだこの世界はあのお方を。シェルフ様を傷つける、あのお方はなんであっても許す。裏切りも、汚泥の様な心も、赦されてはならぬ罪すらも、何百年生きてもきっとそれは変わらない)
アイナの顔から表情が消えていく。
冷徹な目になり唯一好きだった聖女が抜け落ちた価値のない世界を睨む様に天井を見る。
「シェルフ様、私の聖女様。40年、結局私はちっともこの世界が好きになれませんでした。やはり貴女の様に私はなれません、だから私は貴女に討たれる魔王にも、貴女が慕う[刻王]にもなれなかったのです。貴女に対する愛しか知らない私はこの世界を憎むことしかできないのです」
誰もいない部屋での懺悔。
聖女もいない、言えない懺悔を口にする。
シェルフが居なければ世界を滅亡させていたであろう少女は、生まれて初めて心から嗤う。
「だから私は神聖勇者のダンジョンを攻略し、新たなるこの世界の王になり残虐に残酷に戻り、全てを壊して。貴女に討たれるべき存在となります。早く、私を殺しに来てください…………シェリー」
聖女以外愛せなかった少女は、自身すら愛せない。
そんな彼女に聖女は愛を教え、憎しみを与えてしまった。
聖女を歪ませる世界を少女は憎む。
歪んだ、
歪んで美しいものしか見ない人間を、
少女は許さない。




