第5話 ㉒[エルフはむし]
夢を見ていた。
異世界に転移したシェルフが好き勝手に暴力を振るい全てを奪い、全ての女も少年も侍らせてハーレムを築いて世界征服をした。
妄想の様な夢だ。
「ふははは! 安心しろ! お前らは私が愛してやろう、何せ私にはズルの様なステータス!スキル!称号!加護を持っている! この世界は私の鳥籠だぁ!!ぐひゃはははは」
異世界聖女は『チート』と言う言葉を常用しない。
そして悪夢の様な夢が覚める。
暗闇は晴れて目を覚ます。
荒縄で口を塞がれ喋れない。
「んが?あが、ふご!!ふんむ!!!」
ぶち!
しかし簡単に荒縄を噛み切った、ゴリラ聖女様の口を塞ぐことなど不可能らしい。
「なんだここは?」
ログハウスの様な倉庫に閉じ込められた様だ、電気はない様だが魔術的な照明が部屋を明るく照らしている。
シェルフは木の床に無造作に置かれて荒縄で亀甲縛りで拘束されている。
鎧を剥がされ絹の布の服だけで乳房を縄で縛りたぷんたぷんとエロく揺らしている。
「なんだこのエロい縄の縛り方は!! これが異世界の文化か! クッ! 絶対この縛り方をマスターしてやる! 素晴らしきかな異世界文化!」
性女の顔が現れる。
「もう起きたの?まだ30分も経ってないわよ?」
部屋の中心に置かれたテーブルと椅子にさっきのエルフが座っていた。
(30プン?多分時間の事だがそれは何刻分だ?くそこんな事なら予習をしておくべきだった)
両手を後ろに縛られて足から繋ぎ完全に自由を奪われている。
黙っていればうら若き乙女。
黙っていれば悪漢に食べられる前の姫騎士。
くっ殺せ! とでも言いそうな感じのシュチュエーションだ。
「御免なさいね? 聞いていた話より血気盛んなお嬢さんだった様だから拘束させていただいたわ。まずは自己紹介するわね? 私の名前は弓月櫻、元人間で、世界に愛する人を殺されて復讐心を燃やす現エルフよ」
「この世界の人間だと? いやそれよりエルフは根元が人間と違うからエルフになる事もエルフから人間になる事も出来ないはずだ、人が虫にはなれない様に、どういう事だ?」
「例外はあるでしょ、私は前世がエルフだったってだけよ。前世と近しい姿に肉体を変える魔術があるでしょ?」
「…………いやそれでもお前の様に完璧にエルフになるなどありえん、大体エルフは個性が乏しい生き物だ! 戦ってた時は深く考えてなかったがお前からはお前以外の何もない様に感じる、ダークエルフでもない限りエルフに個人主義はない筈だ! そうだ本来ならアリの様に女王エルフが子エルフを操る、だからこそお前らは種族全体で一つの生き物なのだろう?」
もちろん奉納されたエルフ少年も個性などなかった、なかったがやることはやった、個性を芽生えさせ種の洗脳を解こうとしたのだ。
失敗したが。
「だから私がその女王エルフなのでしょう?この世に私しかエルフがいないんだから」
なんの感情もなく言い切った。
それがどんな意味を持つのか知らないシェルフではない。
「馬鹿な、種の存続本能に逆らうセリフだぞ??! お前1人が死ねば人間種に寄生して自分を生み出すことも出来なくなるんだぞ??!」
「ああ、確か添桔さんが言ってたわね……『優勢遺伝支配』だっけ?体売って子を孕むと男女関係なく全部エルフになるんだっけ? そうやって最終的に種を支配してきたのが私と同じ種族ってことなのよね? しかも女王エルフは子エルフのどれにも魂ごと転生出来るって聞いたわ、それってある意味不老不死よね? でも私にはどうでもいいことよ、愛してない男と子を作って永遠に転生し続けるよりも、愛する人の死を受け入れてこの生を全うする方が私には有意義なのよ」
若干悲しそうな表情を浮かべるエルフを見て聖女様は、そんな言葉を信じない。
彼女は異世界で散々エルフと殺し合いをしてきた。
だから信じられない。
(違う、エルフとは魂レベルでの獣なんだ。魂は誰の自由に出来ない、だから本来なら転生だってそう易々とは出来ない、それが出来るのがエルフになる魂なんだ、だからこそ人はエルフにならないしその逆もない、そんな奴が今の様な銀貨13枚程度で売れそうな安い恋愛感情を持つわけがない!)
シェルフはエルフとの戦いを思い出していた。
彼らは体を遠慮なく自爆させとある女王エルフのためにその命を投げ出した、その行為はシェルフの中でエルフというものを虫と同列の存在だと認識せざる得ないトラウマになった。
エルフはその全てが耳が長く、容姿がよく、綺麗で美しい。
同じ顔ではないが印象と表情は作られたものであり、いざ戦闘となると女王のために何でもする蟻や蜜蜂の様な生き物なのだ。
だからシェルフはエルフを部下にしない。
黒猫と呼んでいるダークエルフはエルフと真逆で極度の個人主義の種族で優勢遺伝支配も行わない。ただ魔族になる可能性が高いだけでそれを言い出せばシェルフは純潔魔族だ。
今時魔族だからと言って差別する人間は少数派だがエルフに限っては区別する。
異世界の格言に『エルフを買う者は地方の成り上がりだけ』というほどエルフは知性的生物としての扱いを受けていない。
異世界の人間にとってエルフは魔族より悪質な種族なのだ。
害虫という扱いに等しい。
「本能を上回る理性を得たというのか? お前らエルフが? 私を寝かせておいて何もしなかった事は賞賛に値するが、だがお前は私の秘密を知った。だから生かしてはおけん」
ぶち、ぶちちち、
四肢を拘束する縄を腕力と脚力で無理やり引きちぎった。
そうゴリラ聖女様は拘束などされていなかった。
荒縄も紙紐も同じ。
「剣は隠しておいたけど意味なかったわね、そのステータスだけで私を殺せそう」
「当たり前だ、私は聖女だぞ何度も拘束されて全て自分で脱出してきた。それくらいできないと、と、ん?なんだこの縄、何故胸の縄だけ千切れない?」
「そこに私の全オーラを注ぎ込んだからよ!! 貴女ガキ臭くて手を出したいとも思わなかったけどおっぱいだけは良い感触と大きさだったわ!!だから私が死んだらさらに強固な拘束力をかける呪術をかけておいた!! つまり私を殺せばおっぱいがさらに引き絞られるわよ!!?」
沈黙、時間にて3秒。
戦闘中脳みそを空っぽにするタイプのゴリラ聖女様もアクションを起こしたら相手を殺すまで止まらない、だが止まって沈黙してしまった。
愚かな女王エルフのドヤ顔と悪虐ぶった笑顔に理解が及ばず考えるのを3秒も放棄してしまった。
「え? お前その呪術で手足を拘束しておけばよかったんじゃないか?」
「いやよ。私これでも元教員よ? 私は貴女と取引をしたいんじゃないの。お話をしたいだけなのよ、アイナに聞いた話じゃ貴女縄くらいじゃ束縛できないみたいだったし」
「教員というのは私の胸部に呪術をかけるを良しとするのか? 意味がわからん」
おっぱいの大きさで言うなら女王エルフの方が大きい、ジャージが胸部だけキツキツで腹の部分の布を持っていきそうだ。
それに比べてゴリラ聖女様は小さい、薄い、だがこの世界の女性基準ならむしろ平均的な大きさではあるのだが。
「貴女のおっぱいはね、あの子のおっぱいと形が似てたから悪いの! 貴女のおっぱいは犯罪的、だから何をしても良いの。全部貴女のエッチなおっぱいが悪いのよ」
(あの子? いやいや今はこいつの身の上話などどうでもいい)
「話を聞いてやる、そしたら私の胸部の呪いを解け、呪いの宣言を受けた以上私はお前の話を聞かなければならん。呪いと認識した以上無下に殺したら解呪は面倒だからな、こんな破廉恥な格好で往来を練り歩くなど恥でしかない」
縄の縛りが強くなっているのを感じる。
「話が早くて助かるわ。んー、じゃあねまず私の言葉よりもアイナと通信した方が良いわよね? はいこれ受け取って」
「ん?なんだこの手鏡は?」
縦に長い楕円形の鏡面を持つ手鏡、持ち手はプラスチックではなく異世界の扉と同じ黒曜石で出来ている様で黒く輝いている。
ぶん!
シェルフの顔を写した鏡は電波を受け取ったブラウン管テレビの砂嵐映像を映す。
『あー、あー、テステス、こちらアンナ、アホのシェルフを騙くらかしたアイナ・ハイン・ツヴェルスです❤︎」
繋がった。
凄く悪女の顔をしたアイナがその手鏡に映り、声を発していた。
先程までのしんみりした態度のものではなく、女の顔をした本音をぶち撒ける前の笑いだ。
黒ジャージ先生。
しかしその中には…………




