第5話 ⑱[思考と文明価値の差異]
「科学文明という紛い物の魔法、やはりあれは本能的に人間が望む形なのでしょうね? どんなにあの世界の支配者が歪んだ宗教、ええとキリスト教だったっけ?アレを伝播させても自然の構造の穴をついて魔術と同等の現象を魔力なしで行う。まぁ、リスク高すぎて普通に魔力使った方が安全なんですけどね、特に核融合とか高速増殖炉とか頭がおかしいとしか言えません」
数ある名工が作ったお手製の木工椅子にシェルフとアイナが対面して座っている。
広いシェルフの部屋、寝室だと言うのに天井も高くベッドも手洗い場も何もかもが大きく豪華である。
「奴らは魔力やオーラの事をエネルギーと言うらしいな、それを世界の資源から捻出しようとなったら、まぁ頭がおかしくなるくらいじゃないと文明を発達出来んだろう。そしてその残酷な事実を覆い隠すには無駄に綺麗な建築物を建て衣食住を無駄に楽にして娯楽を充実させなければ罪悪感で死んでしまうのだろう、事実自殺者まみれだしな」
彼女らは相手の世界の、私たちの世界の事を私たち以上に理解している。
私たちの世界はどれだけ近代化し文明的であるかが国としての力としているが、実際の戦争はどんな蛮族であろうと力の強い者が支配してしまう。
蹂躙し、隷属させ利益を得る。
彼女らはそういう戦争をしてきた。
3000年常に殺し合い地形を変える様な戦いを繰り返して来た。
相手の居住区を殲滅する等日常的である。
だからこちらの世界の様にアスファルトの様な整備、工事の必要な道路など流行らない。
未だに馬車が走る。
移動手段とは軍事力の物差しと言ってもいい。
「私も最初あの自動車というものを見た時笑いが込み上げましたよ、あんな柔らかい車輪で走行するなんて警戒心なさすぎて」
「やはり遅れてるよな、今時車に車輪をつけるなんてなぁ?」
タイヤという物は乗り心地と走行の為の踏ん張り、急停止のために存在するがそれは悪路ではなく区画整備された地区の道路を想定して作られている。
だが整備された道路など魔族1人によって一瞬で壊される可能性があるため誰も作ろうとしない。つまり詰みだ。
故にこの世界の移動手段は馬車、船、飛行船、テレポートなどが主流である。
私たちの世界と違いその全ては外敵から攻撃される事が定番だ。
魔物も魔族もいる世界なのだから当然だ。
ちなみにテレポート系魔術は魔術の進んだこの世界では魔術を妨害する魔術もあり無断でテレポートして来た相手を殺す魔術もあるので慎重に使用しなければならず安全に使うために国で取り決めとテレーポート省なるものも出来ている。
移動手段一つ取っても見た目に反して異世界の方が時間経過もなく道路整備が必要ない分何歩も先んじている。
科学が見せて来た進歩など魔法の前では無意味に等しい。
動力源を乗っている人間から供給できるというだけでない魔法が動くというだけで最初から勝ち目などない。
そう、この世界観の戦争とはどれだけ魔法を味方につけるという戦争でもあるのだ。
「召喚獣で馬車を引く事も出来ないのですから、それだけでも3000年以上遅れてるんですよねぇ」
馬鹿のする様な表情で笑う。
召喚獣といってもメカニックな見た目で馬車も名前に馬とついてるだけで鋼鉄や私たちの世界にはない金属などで出来ていてかなり先鋭的なデザインの代物だ、車内の揺れもなく、乗り心地も良い。
創作物で出てくる木でできたボロい馬車とは全く違う代物だ。
「あとは火薬か?爆弾、大砲、まさかあんな魔の構築をしない紛い物を作ったのもお笑いだ、まぁ、奴ら侵略者の中にもこちら側で作ろうとしていた奴がいたけどな? あんなつぶてで魔術戦に長けた私たちと争おうとは笑止。黒猫と共にあの馬鹿者どもを殲滅したのは面白かった、良い思い出だ」
「その黒猫が裏切った…………姉上様の明らかな誘惑にも屈しなかったあの傑物とも言っていい黒猫が戦わず籠絡された、かの聖女王と同じ魂魄性質が全て聖女で構成された姉上様以上の誘惑、想像がつきません」
「想像がついたらその時はお前が裏切ってしまうだろうな? まぁ安心しろ、100年前ならいざ知らず、今の私は魅惑よりも剣の方が本業だ。生まれたての聖女など相手にもならんよ」
「ん?」
アイナが表情を濁らせる、それはシェルフの言葉による物ではない。
突然来た通信による物だ。
「どうかしたかアイナ、ああもしかしてアイテム化した人達から何か連絡があったか?」
「はい、この間の戦争で死んだ奴から連絡がありました。少しこの場を離れます」
「いいぞ、彼らの管理こそが本当のお前の仕事でもあるからな」
[アイテム使い]
物質をアイテム化する使い手の事。
ここで言う“物質”と言うのは無機物という意味ではない。
動物でない物、意思のないものをアイテムという所有物権利を自分のものにする力だ。
つまりそれは死体も含まれる。
戦争で死んだ人間をアイテム化し記憶や能力を引き継いだまま所有物化する。
ただしアイテム化された死体の場合、生き返ってしまうため自由意志は奪えない。
まんま生き返るのと同じ事だが、それは死者の復活を意味しない。
何故なら生前と魂が違うからだ。
記憶も技もロードできるが初めて使うその身体をうまく使えるとは限らず、術式を施して約10年動けばいい方なのだ。
人間の上位種魔族はさらに体の構造が複雑で下手をすると魔人化したり人型の意思を持った爆弾となってしまうためアイナは使用を禁じている。
そもそもアイナもシェルフもまともな死生観を持っているので戦時でなければこの力は使わないし使わせない。
アイナが部屋を去り数分後、思っていたよりも早く戻ってきた。
あの男を連れてきた。
3メートルの体長、体中に眼球の入った瞼を持つ化け物の様な人間、即死地のイートを連れてやって来た。
彼は死んでいない。
私たちの世界で死んだイートはアイテム化された別の人間の肉体を使った偽物だったのだ。
依代となったその哀れな死体は言うまでもなくデスマーチをかましたあの男の死体だが、今はそんな些細なことはどうでもいい。
彼は、イートは報告に来たのではない。
危機を伝えに、警告しにやってきたのだ
「シェ…………シェルフ様、相も変わらず見目麗しゅう存じます。祈りのまでの事を拝見させていただきこのまま、ではいけないと思い、馳せ参じました!! あの女に、谷戸賢治という聖女に手を出しては、なりません!!!」
彼は己の感じた恐怖を語った。
偽の身体でも、異世界で起きた事であっても感じることのできた恐怖、混沌。
賢治という聖女王にも魔王にもなり得る誰も体験したことのない恐怖の根源。
『未知』を語る。
科学は万能であっても全能ではない。
魔術は全能に至れる道であり。
魔王は未知の恐怖を与える存在だ。




