第5話 ⑰[ゲス顔の宴]
「どうやらアルバちゃんはその子を守りたい様だな? そして邪魔だと思っている存在は容赦なく情報を提供して排除させたい。奴隷という認識の違う事を計算に入れられなかった、頭が良いのは知ってるぞ? だが君は恋を知ったばかりの初々しい女の子だ。だから君は君の感情のコントロールが上手くいかずとても分かりやすい事になってる♡ふひ」
本性が明らかになる。聖女と呼ばれた女のゲスい笑顔。
そしてその場にいた全員が思っていた。
(((さすが年の功!!)))
AIと言っても感情に目覚めたのは3日前、そして相手は異世界の魔法も何もかも知ってる100歳を超える老獪だ、そう、聖女と呼ばれるシェルフ・ルフ・エインフェルクは見た目こそ10代の乙女の様だがババァである。
因みに本人の前で『ババァ』は禁句である。
本当にひどい目に遭う。
『か、勝手に話を進めないでください! 貴女が何を想像するのも勝手ですが私はただ、ただ神聖勇者の意思を伝えたいだけです』
(うーん、可愛い♡アルバちゃんをどうすれば私のモノに出来るだろうか?先ずは惚れているであろう神聖勇者の娘から手を出すべきか?嫉妬させてその感情を反転させる。何十回とやって来た女の落としかただが…………問題は勇者の娘の方だが)
「勇者の意思とはなんだ?」
『…………我は絶望した、この世界は3000年間何も変わっていない。お前らなんか救うんじゃなかった、お前らの先祖なんか見捨ててりゃ良かった。お前らの前に何故魔王が現れないか? 歪な勇者しか現れないか? そして汚れた聖女王しか産まれないか? それはお前らが何も変わらないからだ、だからこそこのダンジョンを創った。このダンジョンを最初に踏破した者は[ダンジョンマスター]という新しい王位を与える、お前らがすがる聖女王を超える存在だ』
レコードを再生する様に神聖勇者の声色でアルバが再生する。
(明らかに娘の存在を隠している。いやこれは読み手のアルバちゃんが少し内容を変更しているんじゃないか?当たり障りなく重要な事だけを選出してる、不必要な事を削除して、そうまでして守りたいか? 妬けるなぁ)
彼女に煽り耐性はない。
挑発されれば怒りのままに倒す。
欲情すれば欲のまま貪り倒す。男も女も種族も形すら関係ない。
その獣性が聖女王になれなかった要因であり剣聖、刻席の称号を得た強さの根源でもある。
彼女に目をつけられた者は死ぬまで彼女に追われる。
彼女は獣だ。
「なるほどなぁ、こっちの世界をソレで混乱に陥れて国力を削ぐ腹積りか? なんという事だ、悪い子だなアルバちゃんは」
『貴女の言ってる事はまるで意味が分からない、しかし、しかしあの人に似ている。神聖勇者と言われたあのプレイヤーに』
「ほう、それはとてもとても光栄で、とてもとてもとても不愉快だ。この世界に喧嘩を売って来たやつに似ていると言われて、ククク、アルバちゃんは人を煽る才能があるなぁ♡」
全世界放映中だがシェルフが色を好むのは周知の事実なのでなんの痛手でもない。
(((私たちはすっごい恥ずかしいですけどね!)))
跪いたままの12人は曇った表情だ。
『と、取り敢えず! 言いましたからね!! 私の役目はこれで終わりです!! それでは皆様お元気で。シェルフ、てめぇだけは死ね』
ぶつん。
何かが切れた、アルバもキレていた。
祈りの間は12人の女戦士の冷や汗と1人の性女の唾液が蒸発し正常な判断も何もかもを曇らせていた。
◆
数時間後。
城内にあるシェルフの部屋。
少女の部屋の様だ、それも全て彼女の父親が送った品だ。
100年生きた彼女の父親、彼はまだ生きている。
刻席。
この世界の魔法の一つ、ここ刻城と呼ばれる城にいる13人の選ばれし戦士。
0から12の時を刻まれた時計の数字に見立てその戦士を刻席につく、という。
刻席についた者は皆不老となる。不死身ではない。
そしてその親族や妾なども魔法との適合性次第では皆不老になる。
100年分の贈り物、まるで娼婦に対する贈り物の様なとても豪奢で華やかな貴金属類や絹の服。
それらを適当に並べただけの部屋。
最初は父親に愛もあっただろう、だが今の彼女は。
「全ての財を持ってしてもこの宝には変えられない」
小さな小さな小汚い宝箱の中にそれに相応しい黄緑色の花の形をした髪飾りが出てきた。
贅を凝らしたものではなく貧乏人が必死になって好きな女に送った様な。
ああ、だがしかしきっと。
「あのジジィは覚えてもいないだろうな。母様に送った事すらもきっと覚えていない」
眉間に皺を寄せ、憎しみの対象となったジジィと呼ぶ父親を思い出す。
「お母様の遺品、これを取り出す時は決闘の時。相手は出戻った神聖勇者、不足なし! 相手にとって不足なし! 侵略者となった裏切り勇者を打ち倒し奴の財を全て掻っ攫う!」
悪虐に笑い、己に宣言する。
戦とはそういうもの。
攻めの姿勢を忘れれば相手にとって変わられる。
戦は心も食い合う儀式。
「なんだか楽しそうだなぁ? あ・ね・う・え・さ・ま?」
その女、そこにいたのは一体いつからか?
この娘はアイナ・ハイン・ツヴェルス、見た目の年こそ私より年上に見える赤髪の大柄女武闘騎士だ。
姉上と言ったがそれは聖刻騎士に入った者としての礼儀礼節みたいなもので、実際の姉と言うわけではない。
第七刻席の赤髪の魔女、アイテム使いと呼ばれた女。
かつて人形使いと呼ばれた神聖勇者、マシュー・ヨン=ダーネストの再誕と呼ばれた女。
「ああ、楽しい。とても楽しいぞアイナ、さぁさ悪巧みを始めようじゃないか?! お前の望み通りの展開だ!」
「ええ、14年間あちら側の世界を監視していた甲斐がありました。間違いなくあの世界は征服出来る、あんなアホな世界があるとは驚きでしたよ?」
もはや勇者と魔王の様な構図だ、互いに利用し合い敵を打ち倒す。
3000年以上の空席の間、この世界の人間は独自に進歩していったのだ。
人間は思考を停止できない生き物だ。
生き残るためには、なんでもする。
誇りも矜持も立場も捨てられる、生きるとは、安全とは、他国の権利を奪って手に入れるものなのだ。
それが例え異世界であっても同じ事だ。
平和とは奪い合って成立する戯言である。
この世界の女はみんな悪女か?
それとも事実が悪なのか?
そもそも悪とはなんなのか?




