第5話 ⑩[メイドカフェ]
乱暴におっぱいを掴みたい欲望に支配されたがヘタレな華美はそんなこと出来ない。
(そんな可哀想な事出来るわけないでしょ! 出会って数分で肉体関係ってどんなよ! こういうのは段階があるのよ!)
計画通りに事が進めば揉む気満々らしい。
「じゃあまずお茶しましょうか?」
「ええ?誘拐犯と一緒に?」
「近くにお気に入りのメイドカフェがあるのよ、知り合いが経営してるんだけど、うん、アイスティ奢ってあげる!」
薬液を混入させる気満々である。
そして自分を男だと言い張る賢治はまだ胸を手で隠して守っている。
◆
路地裏を出て誰も追ってきてないのを確認して二人でとあるところまで歩く。
(ブルマー姿恥ずかしい! 道行く人に見られてる! 全然恥ずかしい)
少し頬が赤くなっているのはきっと人の視線が嬉しいからだろう。前世の露出狂が少しうつったか?
歩いて数分、国道沿いの街路樹である桜の前にそのカフェはあった。
少し蔓が張っていているが木造の趣のあるログハウスのような店構えだ。
「Masters……あーオヤジが絶賛してたところだ、来たことないけど」
看板は路地に置くタイプのもので隣に小さな黒板が設置してあり日替わりランチなどのメニューを書く古い手法での客引き方法だ。
普通は路地にARという拡張現実のデータを設置した方が金がかからないし常套手段なのだがここはそういうのを嫌う人達の客層を狙っているのだ。
ただネーミングセンス皆無だが。
むしろダサい方がいい、という人たちが来ている。そして意外と内装は外見と違い年季のある落ち着いたカフェだ。
華美はメイドカフェ、と言っていたがどちらかと言うと飲食がメインの店のようだ。
店内に入ると少し長いテーブル席に案内され華美と対面して座る。
「いらっしゃいませ、こちらがメニューです」
メイドが来た。
華やかさの代わりに実用性を、背筋を伸ばすためのサスペンダーと茶色のコーヒーをイメージしたようなカラーリングの服とふりふりのブラウス、飾り気はあるが大人しめの制服だ。
それを着る彼女も出てるとこ出て引っ込んでるところはキュッとしまり、平均以上の顔の整った二十代前半の女性である。ショートパーマでふんわりと風になびきそうな雰囲気がある。
ゴクリ、
生唾を呑んだ、当然だ。どんな美しい服を着ていたとしても賢治の可愛さには敵わない、女であってもオスの本能がくすぶられ襲うことしか考えられなくなるに決まっている。
そう、生唾を飲んだのはメイド従業員の方だ。
今まではそんな事はなかった。
従業員のこともあるが道ゆく人や知らない人をむやみやたらに誘惑してしまうことなど無かったのだ。
しかし今の賢治は魔族として自覚して魔力暴走を起こしている。
ついでに肉体の回帰も起きて制御が間に合ってない状況だ、元々制御の甘かった魅惑フェロモンがいつもより、今までより、吹き出ていて、身体が少女に戻り、ところ構わず女を誘惑してしまっている。
家出するタイミング的には最悪だったのだ。
(くっ!襲ってお持ち帰りしたいくらい可愛い!! でもダメ! 録画されたらせっかくの就職先が! バイト並みの仕事内容で正社員扱いな良い就職先なのにっ!!)
因みにこの従業員、さっきまではノーマルだったが百合の花が咲いてしまった
「あの、咲原さま。この幼、女の子は一体」
そしてロリコンにまで堕ちてしまった。
「俺は男だっ!!」
急に幼女がキレてメイド従業員は頬を赤らめる。
びっくりしていた、ぶっちゃけ賢治の事を歩くお人形なんじゃないかと思っていたからだ。
店に入ってきたのを見てなければそう思うのも無理はない、魔族という人外なのだから誤認はある意味で人でないと思ってしまった事は誤ってはいなかったのだが。
「す、すみません!男の方で、え?いやいや、え?」
ブルマー体操服で流石に男はない。それは間違ってなどいない。
「賢治ちゃん?流石に今の格好じゃ誰も男の娘だと信じてもらえないわよ?」
「俺は成人男性だ! 男の子じゃねぇ!」
違う、そうじゃない。
(そう、わたしは矛盾を『男の娘』だという事で片付けた! 男の娘とは女の子にち❤︎こが生えた存在! お姉さまの隠していたうっすい本にあった創作の中でしか存在しない生物が今私の前に現れたのよ! 自分を男だと思ってる男の娘! それが私がIQ150の灰色の脳みそから導き出した答え!!)
迷走しているが大体合っている。
因みに他にもお客がいる。
全員男性だ、女の子を愛でる為のカフェでもあるから当然だが。
しかし彼らは賢治にはあまり興味をしめさない。
何故なら賢治には男には魅惑が反転するバッドステータスあるからだ。
夢魔族のインキュバス型、女を誘い男を遠ざけてしまう。
だから賢治は今まで男に襲われたことがないのだ。
「ここってメイドカフェってやつか?ご主人様〜とかそういうサービスしたりするの?オヤジがそういうの好きだったな、一緒にそういう古典アニメ見たことある」
メイドカフェ、できた当時はエロ方面の如何わしいものだったが400年以上経った今ではむしろ歴史的な遺産といっても良い。
「ケンちゃん、ここはそういうサービスはしてないわ。むしろお客様が愛でるのよ、まぁ配給する女の子はウィンドウで選べるけど指名料かかるしできてもオムライスに落書きを書かせるだけよ? ああ、でも勤続年数の長い子だったらカフェラテアート位はしてくれるわ、ここはお客様の質でメイドを育てる店なのよ」
言った下品な雰囲気など全くない。
「まぁたしかに日曜の真っ昼間からやってるからいかがわしいところじゃないんだろうけど」
華美はこういうところが好きだ、ぶっちゃけ渋い趣味ばかり。
歌舞伎などの重要文化財などが好きなわけでなく自分たちで経営したりしてる生きている芸が好きなのだ。
だから落語などの様に噺芸で笑わせるものは好きだ。
「今マスターいます?」
華美がメイドに聞くが首を横に振り休んでいる事を伝える。
「あの人ものぐさだからなぁ、いてもそんなにいう事はないかぁ〜まぁ良いや、アイスティー二つください。賢治何か食べたいものある?サンドイッチ系が一番美味しいわよここは」
「いや、いいよ要らない、そんな腹減ってないし」
幼女は少食である。
(なんかオヤジの好きな古典ラノベの世界の冒険者ギルドみたいだなココ、酒は無いみたいだけど。この世界がラノベだったら俺の知られざる力が明らかに! みたいな展開になるんだけど)
などと思いつつ大好きなパパと一緒に古典を楽しんでいたことを思い出しながら幼女はニンマリしていた。
「そう?それじゃあメイドさん、店長には後で言っておくのでここの制服貸してください。少し大きいので良いので」
「はい、かしこま、え?」
「何を言ってるんですか! 華美ちゃん!!!?」
「いや、流石にその体操服で練り歩くわけにいかないじゃ無い?アパートに戻るにしてもあのイカレタ女達がいる訳だし? 服を買いに行く服がない状態よ?貴女」
((たしかに!!))
メイド従業員も賢治も納得した。
「あー、まぁ華美さんでしたら店長と仲良いから大丈夫でしょうから持ってきますね、ふふふ」
(今笑った?)
「お願いね? 貸与品でしょうからもし制服に傷をつけたら私が弁償するから」
華美が言うと不気味に笑いながらメイド従業員は控室に戻っていった。
そして華美ちゃんの企みが成功した事を確信した瞬間だ。
対面の幼女に向き直り、じっと可愛い顔同士で見つめ合う。
「貴女、今私の事ちゃん付けしたでしょ? 私もそうするわよ、賢治ちゃん」
「んが! 俺は男で年上だぞ! しかも8歳も! 年上を敬え、俺は成人男性だぞ!!」
「嫌よ。私たち友達じゃ無い? 背伸びしたいのは分かるけど成人って貴女、それは無いわよ」
「くきいいいいいぃい!! 友達は良いけど年下如きに馬鹿にされるのはムカつく!」
(友達は良いんだ。怒ってる姿も可愛い♡ 体操服! ブルマー!)
何気に友達認定は許す。可愛い女の子との繋がりは否定しない真正のレズビアンである。
「お客様! 準備ができました!!」
「「はや!!」」
「丁度良さそうなサイズがありました。ささ、ケンジ様。こちらへ、ふへへへ」
どうやら名前を覚えられた様だ。
「あ、はい」
「ちょっと待って賢治ちゃん。ねぇ坂上さん」
「げ、はい」
坂上というのはメイド従業員の本名だ、AR画像のネームプレートには源氏名で「ゆんゆん」と書いてある。古典アニメの萌えキャラの名前らしい。
だがここで華美がわざわざ本名を使う理由、それは脅しだ。
「まぁ、この道200年の老舗メイド喫茶のMastersのメイド様が幼女に何かするとは思いませんけど、念のために私も一緒に来て良いかしら?」
「え?あ、あの良いですよ? ええはい」
(チクショー!! 抱っこしたり色々手取り足取りしてやろうと思ったのに!)
そしてスタッフルームまで足を運ぶとそこには…………。
「坂上さん? この四角い箱はなんですかねぇ?」
「それは、その、えーとぉ」
それは今や報道関係者や測量系の仕事をしている特殊な人しか使っていない物だ。
全体が黒くグリップがあり円筒状のズーム出来る先にレンズのついた。そう、一眼レフカメラである。
今の時代端末機がなくとも自分の目で見たものをそのまま画像や動画にできる時代、生産量が激減するものの需要自体はなくならない。
何故なら肉眼を超える性能を持っているからである。
手軽さで勝てないのなら解像度、ズーム機能、一眼でしか撮れない写真を撮りたい層に売り込むしか無い。
そして生産量が少ないのなら一個の値段も相当なものだ。
(私の追っかけアイドル (男)の生写真用一眼レフカメ〜ラが! 生写真売買でもう中古元値は取り戻したけど、まだ私はこの子を失うわけにはいかない!)
この時代の紙も割と高い、生写真事業の儲けはかつての日では無い。
「私こういうのよくわからないんですよね〜、この黒い箱は何に使う気だったんですかねぇ?」
「い、いや〜よくわからないなぁ〜、他の子の落とし物かなぁ? あははは、店長に預けとかないと〜」
「いえいえ、私がお届けしておきますよ? 年長者の坂上さんにそんな雑用させられませんよ? それとも店長に渡されたら何か問題があるんですかねぇ?」
(くっ! 推しのアイドルが来るからカメラを持ち込んでいたのに! このままだとこの幼女の裸をシャッターに収められない!)
私物の持ち込み、ロッカーに置いていた事がバレるのもやばいが犯罪事を犯罪だと認識していないのがやばい。
人の理性を一瞬で吹っ飛ばす可愛さ、表情の美しさ、所作のエロさが彼女を暴走させている。
それは華美も一緒でしかし理性を吹っ飛ばされながらもこの場を制圧するために灰色の脳みそとやらをフル回転させる。
「ああ、そうだこれから私と賢治ちゃんは事務所に行ってこのカメラで写真を撮ってしまいましょうか?現像して中身のデータは消すけど、後で欲しければ持ち主にコピーを現像してあげましょう。多分坂上さんは関係ないとは思いますけどね〜」
眼前の女性を性犯罪者にしない様にする為のギリギリの妥協点だ。
カメラなどの備品は一応華美も個人的に持ってはいるが目の前にもっと性能の良い足のつかない端末機があるのならそれを使うに越したことはない。
因みにこの一眼レフカメラ、中古だがもう生産されていない型番のための元値より高い。車が買える。
普通なら他人に預けたりはしない。
「全っ然! 良いですよ♪ あ、それと突然なんですけど私華美さんのファンなんです〜連絡先教えろ、下さい ♪ 」
この上ない引き攣った笑顔だった。
「あら、女の人のファンなんて珍しいですね、良いですよサブコード送っときますね?」
優しく15歳は嫌味なく嫌味な事を言った。
「あ、あの服着て良いですか?」
男が好きなノーマル女子を一瞬でレズにした賢治は可愛く首を傾げていた。
己の可愛さとそれを狙う人間の気持ちをまだ賢治は正しく理解できていない。
誤字報告ありがとうございます、助かります。
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※メイドカフェの名前変えました
『冥土ランド』→『Masters』




