第1話 ⑤[つよくてにゅーげーむ]
憤慨したが部屋に引きこもる前にやらなければならない事がある、さっき吐き出したと言うより噴いたタバコの吸殻を回収しないと、火事になるといかん。
「ん? アレ? さっき噴き出したタバコが無い」
近くにあるはずだ、火がついてたのは間違いない。
「ど、どうしたのよ?」
「あ、いやさっきの吸殻探してるんだ、火事になると大変だろ?でも勢いよく吹き飛ばしたのかどこにもなくって」
「……大丈夫よ? アレ火ついて無かったわ」
???
「え? いや絶対ついてたよ適当言うな」
少しイライラした、無意味な嘘を言う奴だったかコイツ? ちょっとぶん殴ってわからせてやろうか? 俺は男でお前は女なんて、な、って、え?
「うっさい!! 細かい事気にすんな!! だから私を他の男に取られるのよ!! 女々しい! ぶん殴るわよ!」
握りしめた拳を俺に向けている。わ、割とごつい。
「んな! だから付き合ってないだろ、奪われてないし女々しくも無い! 火事とか危ないから探してるだけで!」
「うっさい! うっさい!! バーカ! あなたは私を奪われたのよ! さっさと部屋に戻るわよバーカ! バーカ!!」
「ンゴ!」
女の子に腕を掴まれてドキッとしてしまった、童貞の弱い所だがそのまま引っ張られ力負けした。女に力負けした。
「引っ張るなよ!」
すごく力強い。
「うっさい馬鹿! アンタのいうことなんて聞かないんだから!!」
なんなんだよ急にキレて、女って意味わかんねぇ。
…………でも可愛いのがムカつく。女ってずりぃ。
◆
少し不安だったがぱっと見て煙は無かったし匂いもなかったしアスファルトだから多分大丈夫だと思う。
それより女に引っ張られてエレベーターまで拉致られた、俺鍛えてるんだけどな?
全然敵わなかった。屈辱だ!
「は、離せよ! 痛い! なんて腕力だこのゴリラ女!」
そういえば昔から七緒は男勝りに強かった気がする。大人になってもそれじゃダメな気がするけど。
「あ、あなたが非力過ぎるのよ! どこが男なのよこの女豹!」
「意味わかんねぇ! 俺は男だ!」
10階についてエレベーターのドアが開く、もうこの女に用はない惜しむこともないのでさっさと外に出る!
「バーカ! アホ! 豚のケツ! 二度と来るなよクソ女!! この◯んこ女!」
感情的になって小学生でも今どき言わなそうな言葉で捲し立て、最後っ屁のつもりでアッカンベーをしてやった!
へっ!! 消えろ! ゴリラおん……な?
「おい、なんでお前もエレベーターを降りるんだよ!」
当然の様に俺の隣に位置取る彼氏持ちの上から目線の女幼馴染み。
「ん? 私も自分の部屋に帰るのよ? お隣さん?」
俺は頬を染めご満悦な表情の幼馴染に見下された。
「…………何を言って、お隣さん? え?」
「1022号室の住人です!! 最近引っ越しました☆」
なんかすっげーゲスい笑顔だった。
幼馴染みにして自称元カノにしてお隣さんであるにっくき七緒和葉はピースサインでぶりっ子ポーズをとってゲスな笑顔を浮かべていた。
「え? えええ! えええええええっ??!!」
「後で彼氏も紹介するわね☆ もう逃げられないわよ!」
ひ、引っ越したい……。
「お前みたいなお隣さん認めるもんか! 俺は自分の部屋に戻らせてもらう!!」
探偵ものの物語ならソッコーで死ぬ被害者の様なセリフでその場を逃げようとする俺。
「待てー♡」
そんな俺を笑顔の幼馴染 (お隣さん)がニヤつきながら追っかけてきた。 帰るな!
◆
西暦2500年 同日
アパートの1023号室
逃げるように部屋に入った、畜生! ふざけんな! 彼氏を紹介しますだ? どんな罰ゲームだ! 絶対引っ越して……引越し資金が無い、てかそんな余裕がないくそやっぱり500万にすれば良かった。
「選択肢間違った」
少し後悔し始めたが、だがもう戻れない。
取り敢えず相続したゲームをやってみるか。
『魔剣聖誕を始めますか? Y/N』
イエス。を選択した、起動したソシャゲから自動アナウンスの声は色んなアプリで使われてる電子的な女性の音声だ。
『条件を満たしました、“つよくてにゅーげーむ”を始めます、このゲームモードはフルダイブモードのみでのゲームとなります』
「!? 本当にあったのか? でもまぁ噂みたいなやつじゃなくて運営が作った悪戯みたいなやつだろう」
そう言いながら念のためこのゲームの製作スタッフを確認して驚愕する。
「ジョージ • J • ジョンセン、まじかよ」
さっき言った世界一の科学者の名前があった、システム補佐? 嘘だろう? 補佐じゃなくて全部自分で作ったんじゃ無いか? 曰く未来人、曰く魔術師、世界をいつも驚愕させた科学超天才、発明王、ヒーローと言ってもいい人間だ。
「この人がスタッフにいるのならさっきの与太話を信じてもいいかもしれない、AIの研究の為にこのゲームを実験場にしてるのか? はははまるでファンタジーだ」
『さっさと選んで下さい』
「え?」
今文句言った? っていうか声がなんか幼くなってたような。気のせいかな?
『パパに会いたくて500万の話を蹴ったんでしょ? パパの魂を求めてここまで来たのでしょう? さっさと寝てフルダイブしなさい』
……どうやら俺は疲れているらしい、幻聴が聞こえる。
「もう、寝よう」
何も考えたく無い、ベランダの窓を開けて空調を良くしてからそのまま居間で寝る事にした。フローリングの上で良いや、もう寝よう。
『そんな所で寝たら風邪ひくわよ?』
◇
ーーー落ちる。
意識が一気に落ちる。
深い睡眠、後にこの世界が夢の中と自覚できる。
この脳に直接多情報が流れ込んでくる、なんとなく重い感覚・・・これがフルダイブが始まった時の特有の嫌な感覚だ。アレ? 俺フルダイブしたっけ?
フルダイブと睡眠は違う、睡眠は脳の休養でフルダイブは半睡眠の他人との脳の並列処理だ、だからそれなりに頭痛やら代償がある。
『強制的にフルダイブしました』
「は?」
何コレ夢?
『夢だけど夢じゃ無かった』
古典中の古典の超名作のアニメの超有名セリフじゃねぇか
「ふざけてんのか?」
『全力でふざけますよ! だって私“女神”ですから!!』
「女神? 意味わからん」
真っ暗なままなんの案内もなく澄んだ声だけが聞こえる、でもなんかこの声どこかで聞いたことがある気がする、すごく昔の事だったような、つい最近の事だったような? いつ聞いたんだろこの声。
「ってか女神って確かなろう系小説で主人公が死んだ後で会うものだよな? まさか……」
『パンパカパーン☆ あなたは私のちょっとしたミスで死んでしまいましたー☆ なので転生させてチートスキルあげちゃいます♡』
「え゛っ嘘だろ!!?」
『う • そでぇええす!っていうか間違えて殺したくらいでそんな事してあげませぇ〜んっ! 現実は甘くありまっセーン☆」
なんだコイツ、ノリがよくわからん。
まぁ嘘でよかった。
「そうか、死んで無いならよかった、オカンを残して死ぬなんてあり得ないしな、もし異世界転生するとかいうならお断りだ」
『んー? でもパパは異世界転生してますよ? そっちは強制でっす! そしてあなたも異世界転意しますよ! “い”は移動の移ではなくって意思の意だけどね!!』
すごい喋るなこの女神、もうこの声忘れることなんて出来そうに無い。
『それではマザコンのあなたの為にせっつめいしまーす♡』
「な! ま、ま、マザコンちゃうわ!!」