間劇 「魔法幼女についての経過報告」
西暦2500年4月4日
日本国 エリアN0001(旧名横浜市)
浅間荘203号室
大スラム街の周辺地域、土地の税金フリーな分集合団地のアパートはすごくやっすい。そんな貧民街に世界一の大富豪であり超有名人にして史上ない科学者ジョージ•J•ジョンセンが泊まっていた。
真っ青な塗装の色、微妙に目立つぼろい掘建て小屋の様な二階建てのトタンアパートだ。中は和室の八畳一間、台所シンクと水洗トイレ付きで10畳程度だ。(風呂無し)
せめてもの贅沢で虫嫌いなジョージは二階を選択した。
「何故ジョージは金があるのにこの様な所に住まうのですか!! 警護する私の身にもなってください!」
身長195cm越えの筋肉女メイドのキャロルさんが冷徹な目で見下している。
正座で畳の上で座る姿は凛々しく美しい、強大だが。
対面しているだけで筋肉の放つ体熱で汗をかきそうだ。
「金があるから自分の好きなところで住むんだ、それについて来ちゃった女メイドとスウィートルームを取るわけには行かんだろう? パパラッチ気取りのストーカーになにを言われるかわからんしな、っていうか君の分の部屋も用意したんだから自分の部屋に戻りたまえ」
「なにを言ってるんですか! 17歳の乙女であるこの私が一人で!? 鬼畜ですかジョージ! 男なら私を守りなさい!」
「何で自分より強い女を守らなならん? 君は私のメイドじゃなかったのか……数年前も17歳だとか言ってたな君、あと絶対乙女じゃないだろ君は、本当の乙女はヤンキーやギャングにメンチ切ってタコ殴りにしたりしない」
昨日起きた一大事が頭の中でよぎる。
金をせびって来た数人の男を鍛え上げた筋肉でちぎっては投げちぎっては投げて恐怖させたのだ。ご主人であるジョージも恐怖した。
「しかし何だか君この国に来てからすごく上機嫌だよな? 好きだったのかニホン? 確かに食文化は目を見張るものがあるがなぁ」
「ジョージはミニップの鳥ササミの紫蘇揚げが好きでしたね? アレはタンパク質多めで筋肉ができますので良い食べ物です♪」
「メイドが私よりニホンを堪能している!」
いつもはクールな金髪黒カチューシャなのに今のキャロルはウキウキ乙女モードである。正座で。
「私が以前来たときとあまり変わりませんねこの国は、やかましいところもありながら自然に面白い芸が仕込まれているんですよ、同じ言葉で全然違う意味の言葉、四季折々の植物、そこから生み出されるキラキラした文化、アニメや漫画も輸入元より多彩に進化させたり、面白い国なんですよ?」
「うーん、それって400年前の感覚じゃないかね? 今の日本は過去の遺産を保存するだけの軍事国家だよ、前に進むこと諦めた退廃的な国だと思うがね?」
「それでも私はこの国が好きですね」
「その割には君昨日の魔法少女の事件には険しい表情だったな、君ああいうの好きじゃなかったか?」
一変、冷たい表情になるキャロル。
「創作物だから良いんですよ、伝承や二次創作的な文化は平和な世界を元に『こうあったら良いなぁ』と思う願いの形が素敵なのです、あの魔法少女は本物です、贋作でないこの世界の異物なのですよ」
「んーなるほどな、君は良質な贋作が好きなのであって本当のいざこざは好きではない、という事か? 確かに世界中に与えた影響は凄いしな。先ずは天候を変えた」
「ここ数十年変わらなかった天気予報がここの地域だけ外れたんですよね?ジョージの作った物理超演算式と違う天候になってしまって驚いてましたね、あの表情は久しぶりです」
「ん?そんな顔してたか?」
「してましたよ?」
「いや驚いた表情なら君の腕力ごと以外でした事なかったと思うが」
悪いメイドの顔で微笑むキャロルに異質な何かを感じる。
(なんだかこのメイドこの国に来てから自然体なんだよな、知らない姿、知らない表情、私の知らない何かがあるのだろうがはっちゃけすぎだ)
「なんだかなぁ、この国に来てから驚きの連続だよ。来たのは初めてではないがあの時は仕事で寄っただけだからな、アイドルシステムだのなんだの面白い文化はあるが知識的驚きはやはり魔法少女的緑衣の幼女事件だろう」
「ネーミングセンス皆無ですね『魔法幼女事件』でよくないですか?」
「何だか卑猥な感じがして嫌なんだよその呼び方」
魔法幼女事件!
そう、見られていたのだ。
突如晴天に見舞われた土地に後光と共に現れた妖精。
蝶々の様な麗しき姿、例えるなら妖精でしかないだろう。
そしてそれを撮影してたのはもちのロンでハイヒールに踏まれて興奮した幼馴染でその快楽を世界中の人が当事者目線で体験したのだ。
「それにアルバがやらかした事だしな、あんまり知らない奴らが使ってる卑猥な呼び方など使いたくない」
「まぁ素敵な事だとは思いますよ?今まで貴方の命令通りにしか動かなかったアルバちゃんがパパである貴方の意思にそぐわない事をして反抗してるのでしょう?女の子らしくてとても良い事です」
正座のままで腰に手を当てえっへんと何故かドヤ顔だ。
(何だかメイドの豹変具合に慣れつつある自分に驚いてるよ私は…………いや、既視感? 前にもこんな事があった様な気がする、おかしな話だ、私とキャロルはそんなに長い付き合いではない筈、アレ? そういえばいつからこのメイド雇ってたんだっけ? アレ?)
矛盾する。
知性的な彼の思考が目の前のメイドが何十年も前に側にいた事を思い出す。
ずっと変わらない姿、老いないキャロル、不老のメイド。
「どうしました? ジョージ?」
「き、君は何者だ? 何故、何のために私の、前に?」
その言葉を聞くと一瞬で変わる。
メイドの仮面も脱ぎ捨て、一瞬で元の暗殺者の顔に。
紅の錬金術師の顔になった。
「また、思い出しましたか?今日で二度目ですよ?」
「へ!?」
グラ、
魔眼を解放して青色の瞳が一瞬で紅の色に変わる。
魔法アビリティ
魔眼スキル 『昏睡の魅惑』
どすん、
老体のジョージはその場で倒れる。
そして忘れていく、洗脳し、魔法の可能性を除去していく。
そうだ、彼女は何十年もジョージのそばでジョージを監視して来た魔術を使える錬金術師だ。
「忘れていなさい、貴方は魔法など忘れるのです。ずっと科学を信じて魔術など知らない少年のままの心で最後まで生きるのです。貴方は…………汚れてはいけない」
聖母の様に倒れたジョージを労る、手慣れた素振りで頭を撫でる。
そしてその場のいなかったはずの男がキャロルの背後に現れた。
まるで最初からその場にいた様に、太った男が、白い厚手のローブに身を包みただ静かにそこにいた。
そして口を開く。
「少し油断しすぎじゃあないか?いくら大好きなジョージと二人きりだからってさぁ?」
「口を閉じろ悪魔が」
聖母の様な表情から一転、狂犬の様な鋭い目つきでローブの男を睨む。
「僕が悪魔?むしろ天使さ、悪魔というならあの魔法幼女の事を言うのだよ…………経過報告に来た」
「だったらさっさと済ませて出て行け」
メイドは声を低く冷たく言い放つ。
「アレは間違いなく魔王の種だ、魔に導く神聖も居た。記録にある300年前の悪魔だなファーストウェーブの根源、もう監視対象を超えた存在」
「じゃあ殺しましょう。話は終わりですね出ていけ」
全く悪びれることもなく、殺すと口にする。
「君ってさ? 本当にショタ好きだよね?」
「ジョージは67歳のシルバーですよ?」
「いやいや、だって君400歳越えのクソババァじゃん、!……あが」
一瞬で胸ぐらを掴む、その動きは見えないくらいに早かった。
身長差で10cm以上浮いてしまう。
ギチギチと首を絞めて息苦しそうにもだえている。
「がぐ」
「お前らはただただ何人もいるだけの数の不老不死身だ、だが別にお前は世界に三億人いるだけ…………全て殺してしまえばもう二度と証明などできない。私でも別に殺しきれないって訳じゃあ無いんだぞ?」
ぶん、どきゃん!
乱暴に片腕で壁にぶん投げ当然のようにへこむ。
「ばけ……モノが」
「さっさと消えろ、切り刻まれたいなら別だがな」
台所の包丁に目を配り脅しをかけた。
「わかった、出ていくよ」
ぐちゃ、
肉の爆ぜる音と共に一瞬で存在が消える。
そして当然のように破壊された壁も消えていく。
何もなかったかのように修復する。
「人の年齢を詮索するなどクソ下衆が」
手をパンパンと叩き穢れを祓うような素振りをして寝ているジョージを確認する。
「くぅ〜〜〜」
呑気に寝ている。
「全く、貴方は小さい頃から面倒をかける、だがあと三年、三年間だけ何も知らずに生きるのよ」
慈愛に満ちた顔でキャロルは笑っていた。
「もう貴方を泣かせはしない」
ショタ (67歳身長178cm) メイド(自称17歳乙女195cm以上)




