第1話 ④[タバコは二十歳から]
「読み込んだ、今相続したぞ」
ガイダンスの機械音声に従って相続を終えると幼馴染みが手を差し伸べてきた。
何故か頬を赤くしている、赤くなりながら睨んでいる。
「ん? えーと握手?」
ペチン!
手を合わせようとしたら打ち払われた、なんなんだよコイツ!
「勘違いしないで! ハンカチ返しなさい! もう涙止まってるでしょ!」
そういうと『クレクレ』と言わんばかりに手招きの所作でハンカチを返す様に促す。
「あ、嗚呼すまない、でもこのままじゃ汚いな、ちょっと時間をくれれば今から中性洗剤で洗って来r……」
言いながら涙まみれでくしゃくしゃのハンカチを広げ折り畳もうとしたその時。
「私の住んでる所知らないでしょ! 教えないから! だから返しなさいっ!!」
ば!!
と、素早い手捌きで無理やりに奪い取られた、いや元々七緒のものだけどさ。
別にそんな怒んなくてもいいのに。
パカ、
「え?」
俺は目を疑った、幼馴染みはハンカチをそのままポッケにしまうんじゃなくって汚いものを触るように指先でつまみながら完全密封出来る食品用の袋……ジッパーにしまった、しかも丁寧に完全密封している。
徹底しすぎて傷つく、俺は病原菌か?? バリアでも貼るか?小学生みたいに。
「そ、そんなに嫌悪しなくても……」
「煩いわね! コレは私のものよ! 私がどうしようと私の勝手でしょ!?」
ん? 『私のもの』? 捨てるんじゃないの?
なんか会話が合わない様な、まぁいいや。
これ以上怒らせるわけにはいかん、女って奴は面倒臭い。
「あ、はい」
顔真っ赤のすごい形相で睨まれた俺は意気消沈して何も言えなくなった、多分こう言うところが男らしくないんだろうな。
俺はその時に自分でポケットにしまったタバコの事を思い出した。
お、男らしさの第一歩としてこう言うのを吸えるようにならないと! いやまぁ女でも吸ってる人はいるけど。
「か、和葉ちゃん、もう用事は終わりか?」
「な、なにゅ…………何よ急に下の名前で呼んで!! 昔みたいに上の苗字でいいわよ」
懐かしいなソレ。
「あ、ごめん幼稚園の時みたいに呼んじまった、えーと七緒もうコレで用事はないよな?俺ちょっと用事を思い出したから出ないといけないんだ」
ジト、と俺を睨む。
なんだよもういいだろ!
「悪いことしようとしてる目だわ、あなたそういう時私から目を逸らす癖があるのよ」
「何だよ、別にいいだろ! タ、タバコ吸いに行くだけだよ。ヤニが欲しくなったんだ」
嘘だ、まともに吸ったことなくて中毒症状なんてなった事がない。
「嘘ね。あなたタバコの匂いなんてしないから今から初めてまともに吸うんでしょ? ダメよ体に悪いじゃ無い賢治ちゃん?」
またコイツは俺を煽りやがる!!
「ちょっとまだ話があったんだけど、まぁ良いわ、階下に行ってその道すがら話すわ、あなたが選択した道の怖さを教えてあげる」
「怖さ?」
◆
「つよくてにゅーげーむ?」
「あくまで噂なんだけどね?」
聞いた話を要約するとこうだ。
このゲーム“魔剣聖誕”をプレイしている人間でトラックに轢かれたりする人間が多かったらしい、去年のクリスマス、つまりオヤジの命日からは居なくなったらしい、全てを知っているマニアからはオヤジのアカウントは“ラストナンバー”と言われて1000万円の値がついている。
「まさか500万を蹴るとは思わなかったわ」
「あからさまに値段が高かったからな、逆に80万円位だったら疑わずに売ってたかもな」
つよくてにゅーげーむとはアカウントを相続した人間にだけできるゲーム、そして噂によると故人と同じ思考形態、記憶と感情を持ったAIに出会うらしい。
「んー? やっぱり嘘だろう? 記憶や見た目だったらAIにも可能だけど“感情”だけは絶対無理だ、それが可能なAIが出来たなら人間は要らなくなるし明らかにオーバーテクノロジーだ」
「人間が要らなくなるってそう言う感じでスッと言えるの怖い。あなた意外とっていうか本当に考え方が物騒よねぇ? そういう残虐なところ変わってないのね」
残虐? そこまで言われる様なことか?
AIは高速で思考できるのだから効率的に過去に流行った要素を注ぎ足して創作物を作って人の注目を集めることができる、だが怒ったり泣いたり笑ったりを本心のまま感情を生み出すことは出来ないのだ、だからゲームのキャラクターに感情を求めようとするとサイコパスな発言を連呼してしまう。
ちょっと昔にとある超有名で世界一の天才科学者が感情のあるAIを作ろうとしたけど失敗している、それ以降は誰も挑戦していない。つまり無理なのだ。
「んー? でも賢治? そうなるとつまりもっとあり得ないことになら無い? AIじゃなかったらその遺族は本物ってことになるわよ? 死んだ人間が生き返るって事になるわ」
「だから噂だろ? 人は死んだら生き返らない、こんなのは小学生でも知ってる事だ、それに噂通りのことがあったならなんでそれを世間にバラさないんだよ? 人の口に戸は立てられないっていうだろう? ホラ全部矛盾してる、やっぱり嘘だ」
あれ? 七緒がドン引きした顔をしている。
なんだ? 何がこうさせてしまった?
「……あなた本当に夢がないわね? 普段はちょろいくせにそういう所は本当に怖いわ」
「ちょ、チョロっておまえ」
思い出した、女子たちから『チョロイン』とか言われて馬鹿にされてたんだ、いやでも俺は漢のステータスタバコを吸いに行く!
コレでもう俺のことはチョロインとか女豹だなんて言わせないっ!
そんなこんなでアパートのすぐそばの開けた駐車場についた。ここなら火災報知器はないのでゆっくり吸えるだろう。
えーと……コレどうやって開けるんだっけ? 確か銀紙を外すんだっけ?
「ん〜?どうしたのよ早く開けなさいよ」
「ぐぬぬ!」
しまったタバコの開け方がわからない! 銀紙をこうして、ああ破けた!
「へたっぴ過ぎる! くふふふ背伸びしちゃってかーわいい♡」
「うっせぇ! ちょっとミスっただけだよ! 普段はこんなんじゃないんだ、えーと、あ」
あ、しまった! 最大のミス! タバコに火をつける為のライターを買ってなかった! おれのあほーーー!!
「顔青くしてる! くふふ! やっとライター無いのに気がついてる! はい♡ 私のライター」
そう言うと幼馴染みはポッケから細長いオシャレなライターを取り出した。
「私は吸わないんだけどね? 取引先のオッサンとかに使うのよ、アンタも営業したりしないの?」
「そ、そういうのは苦手なんだ、っていうかたまたま持ってき忘れただけだし!」
しゅぼ、
ライターに火をつけた、なんか笑顔のまま固まってるけど俺を試してるのか? 知ってるぞ口に咥えたまま火をつけるんだろ? 残念だな映画で何度も見たことあるわ、ばーか!
アレ?
つかない? なんで? 映画だと簡単に火がついて、アレ?
「ぷくくく、口で吸って空気の流れを作らないと簡単につかないのよ? ぷくくくく」
知ってたし!
「……すぅう」
もうバレバレだ、でもいいや今日はもう何も考えたく無い。タバコに火がついた、気流と共にオヤジの吸ったヤニの苦味、そして煙が肺に吸い込まれていく。
だが。
ドン!!
背中に強い衝撃が!! 俺は堪らず咥えてたタバコを吐き出した!
「ぐぇええ、かっ和葉ぁあ! お前! 何をする!!?」
「あ、御免なさーい、でも賢治ちゃんタバコはハタチになってからでちゅよ?」
「同い年だろうが! 幼馴染み! もういいもうお前とは一緒に居られん!俺は自分の部屋に帰らせてもらう!」
俺はめっちゃムカついた。
2021/12/18
誤字報告、訂正ありがとうございます。