第4話 ⑯[聖女王 アンネ・アイン=クロイツ]
◇
思い出した、私は夢の中でアンネの記憶を見ていたのです。
これは異世界の記憶。
死ぬ前の聖女の記憶。
いいえ、聖女の王の記憶です。
彼女は負けた人々を集め、強者に立ち向かう、殺すためではなく生きる為に。
強者より心の強い弱者、彼らを絶望させないために。
聖女のままアンネは王になったのです。
異世界には世界に選ばれる神聖勇者が1人。
そしてその神聖勇者に選ばれる世界の魔王が1人。
その2人が世界をバランスを作り、地上にて最も知性のある生物、つまり人間を……その数と質を調整させる。
そういう自然現象なのである。
しかしその自然現象に弱者は要らない。
才能なきものは要らない、数を増やして質を下げる余計な者達などはいらない。
それは弱者の味方勇者も一緒だ。
質の低さとは悪も含めた意味合いを持つ。
勇者が味方するのは正義の意思を持つ純朴な人間だけ。
魔王が味方するのは悪であっても強い魔族だけ。
そのどれにも当てはまらない余計な人間は、ただ死ねばいい、それが自然の弱肉強食。
だがそんなこと、そんな決まり事に本能に立ち向かおうとした聖女がいた。
後ろを歩く者たちを何千と引き連れ魔王にも、勇者にも立ち向かった1人の聖女がいたんだ。
本能を律する理性を信じた神話の世界に一石を投じたのだ。
聖女王。
それは願いの力、魔術の本質。
〈聖女王〉
最も白い色の聖女の称号を持つものに与えられる王席。
[聖告]※聖女王限定スキル
聖女王のみが使える、人間を理性有る生き物とする為の王席、ルールを作る王座。
聖告スキル内容
⚫︎告白者が正義だと思うことを現実化する。
(必要魔量なし、既存ルール無視)
聖告アンチスキル内容
○術者に悪意を感じられたら現実化せず、告白者は相応のリスクを負う。(リスクは術者が決める)
※術者と告白者は同じでも別の人間でも良い。
※術者はその時の聖女王に限られる。
※固有異世界は別世界となる為変えられない。
こんな力があれば確かにこっちの世界で肉体を得られる、これはどんな事もできるスキルであるのと同時に、どんな罰をも受けるスキルだ。
じゃあアンネはどんな罰を得るんだ?
こっちの世界に来たアンネはどんな罰を受ける覚悟で?
どんな覚悟で俺の味方をしようとしたんだ?
『それはね、もう貴女が見せてくれたよ?』
アンネ?
『貴女は選んだ、幼馴染のななちゃんを見捨てる魔王の道を捨てて、勇者の正しさも捨てて、間違っても進む聖女の道を選んだのよ。だから私は貴女の味方をする、貴女の知性より魔力より本能よりその理性を信じることができるわ、だからもう魔法少女も卒業よ』
え?
『きっと今の貴女なら少なくとも優しい王様になれる、だから私も……元に戻る』
え??
『だから負けないで、あの子に、元魔王のクレー、じゃなくて貴女のお母さんに。今から貴女が聖女王になる時』
…………断る!!
『ふへ?』
俺は魔王じゃない。勇者はよくわからんけどお父様みたいにはなれる気がしない。
『だったら聖女王しかないじゃない?』
俺は男だ! 女じゃねぇ!!
『そのセリフ起きたら後悔するわよ? はぁ、あの男に似て凄い強情ね、まぁいいわだったら聖女王はまだ渡さない、しばらく魔法少女してなさいな! でも覚悟ができたらすぐに譲る、本当はダメなのよ?私があんまり貴女と仲良くしてたら、多分貴女の母さんは嫉妬で私の心臓を鷲掴みにする。あの子だったら絶対やる、正にハートキャッチよ』
怖いよ! そんなに怖くないよウチの母さんは! 確かに毒親だけどさぁ!
大体なんだよこの夢は! 周りは真っ白だし! 背後には幽霊みたいに人間がたくさんいるし! 怖いよ!
『大丈夫よ、コレただの映像だから。私の敬虔なる信徒はもう3000年以上前に死んでるわ』
3000年?何を言ってるんだ?
『諸行無常、この世界でも私に似た誰かが似た様な事をして似た様な死に方をしてるのよねぇ、私ってそれくらい昔の人なのよ、だから今更この世界に干渉しちゃダメなの。十字教が歴史を歪めてるこの世界も必要だからそうしてるんだしね、いつかは消えるわ』
嫌だ。
そんなの嫌だ。
逃がさないぞ、アンネ、勝手に人を魔法少女にして勝手に消えるつもりか?そんなの許さない。
『ケンちゃん』
絶対に逃さないんだからな!!
『だったら捕まえて御覧なさい、私を追って、私を捕まえて、私を離さないでね? じゃないと私消えちゃうから…………さぁさ理不尽鬼ごっこの始まりよ」
◇
思い出した、そうだ俺はアンネと夢の中で話していたんだ、全部はわからなかった、ただ確信して言えるのは目の前の青の魔法少女の中のオヤジはアンネと、何かしらの繋がりがある。
「ケンちゃん?泣いてる」
「私、を捕まえて御覧なさい」
あれ?何を言ってるんだ俺は、何を口走った?
「ごめんオヤジ、俺変な事を口走ってたアンネが俺の中に、なぁアンネがさっきから出てこないのはもしかして……」
その時、青の魔法少女は。
見せたことのない表情になった、それはまるで女を口説く時の男の顔。
「そうかい、僕が君を封印しても僕のむすm、息子を人質にするって事かい?卑怯だね、君は相変わらず卑怯な女だ」
(言ってやりなさいケンちゃん!)
言うわけねぇだろ! …………え?今の声ってアンネの声?
「そうよ?知らなかったの?私って凄く卑怯な女なのよ、んぎご!」
あれ、あれれ?何を口走ってるんですか私は!!
「ちが、これはアンネが言ってるんだ! 俺じゃない!」
「分かってるよケンちゃん、全部アンネが悪い。だからこそ僕の目的の為には君を攻略しないといけないみたいだね?」
「そうだ! 俺はアンネに操られて!……今なんて言った?」
くいっとまた顎を指で傾けられ目線を合わせられる。
「お、お父様」
頬が熱い。
「うん僕好みの容姿だね、もしかして分かってて少女に戻ったんじゃないか?」
なな、な、なななな!!
「ぷふ。良かった、そんな風に顔を赤くしちゃうのはケンちゃんだね?安心したよ」
「あの、誤解が解けたらその、離してくれませんかね?」
振り解くこともできるだろうけどさりげに俺の腰に手を回している。
少女の体になったことで体格差がエゲツないことになっている。
「どうして?本当は最後までして欲しいんじゃないか?」
「そんなわけないし! ぜんっぜんちげーし!! か、か、かか、勘違いだし!」
「そう? でも僕には関係ないな」
「あ」
ダメだ、そんな綺麗な顔で言われたらドキドキしてしまうじゃないか!
そうだ顔が魔法少女だから興奮してるんだ!中身がオヤジだからじゃない!
「ケンちゃん、あの女に何を言われても絶対に体の所有権を渡しちゃダメだよ?きっと奏美が悲しむ」
「うん」
あれ? お母さんのことをまだ思ってる様な言い振りなのに何で?何で嫌な気分になってしまうのだろう。
このモヤモヤはなんでしょう? 父様が母様を思うのは私の願いの筈なのに。
「させるかぁあああっ!!」
「ななちゃん!!?」
俺が無抵抗で口を許しそうになった瞬間、高速で枕が青の魔法少女に吹っ飛んできたのだ、しかし魔法少女はそれを簡単に腰に回していた左手で受け止めて地面に叩きつけた。
逃げられるけど、どうしよう……アンネのせいで逃げたい気持ちが湧いてこない、そう女のアンネに操られてるんだそうに違いない。
「チョロい賢治のファーストキッスは私のものなのよ! ぽっと出の魔法少女になんかあげるもんですか!」
嗚呼そうか七緒はこの子がオヤジだってこと知らないんだ……知られたらドン引きされるよね。
「正志さんだと騙してそんなイケメンオーラで落とそうとするなんて!! 賢治はイケメンに免疫ないんだからやめなさいよ! 卑怯よ羨ましい! イケメンに生まれたかった!」
「おい、なんか色々拗れた方に誤解してるぞ。俺は男だからな!」
「賢治…………ふふ、可愛い」
う! ななちゃんのこの雰囲気は! あの顔は! 小中高の時のななちゃんの顔だ!
「ぎ、ぎゃあああん」
「待って賢治! 何で逃げ出すの? 私まだ何もしてないじゃない?! ええい待てぇえいこのお色気小学生!!」
一目散に逃げ出した俺だったが少女にされた体で陸上選手だった七緒に敵うはずが無かった、すぐに猫を捕まえる要領で横腹を手で持ち上げられ……高い高いされた。
「軽いっ! 軽いわ! 帰ってきた❤︎ 私のケンちゃんが帰ってきたぁあ!!」
「離せ! また俺をいじめる気か! また悪いななちゃんに戻るのか!!」
「いじめてやるぅううう❤︎ 可愛い! 大好き! もう我慢しない! ちゅーしましょう! ちゅううう❤︎」
口を窄めて俺の口にダイレクトアタックをかまそうとしてくる!そうはさせない!!
「死ねえええええ!!」
ずんっ!!
魔法アビリティ
魔王スキル 制圧(小)
「んぎゅううう♡」
ななちゃんに攻撃した! 俺を持ち上げられなくなり地べたに這いつくばった、可愛い。
「ふははは!今の俺は最強だ! 昔みたいに虐められると思ったら大間違いだ! いやむしろ今から俺がななちゃんをイジメる!! 可愛がってやるから覚悟しろ!」
子供の頃にされていたいじめの時の気持ち悪い笑顔を真似してやった!! ざまぁ!!
「か! 可愛い! 何その顔! 無理してる感が最高にいいわ、勃 ❤︎する! もっとやって!」
❤︎ 起? どこが? い、いや聞くのはやめよう、嫌な予感しかしない。
「やっぱりやめた!! 悦んでるのがムカつく!」
「ふふふ、私は貴女の最初の奴隷よ? 貴女が幼稚園の時にくれたお花の粘土細工まだ持ってるんだか、ら!!」
動こうとしてるが動けない。イートの時の様に殺意などないから行動制御のみの攻撃力を下げた。
魔法アビリティ
魔王スキル 制圧(小→微小)
っていうかあの粘土のお花まだ持ってたのか。
「捨てろそんなもの」
あれオヤジにあげる前の試作品だからな。そんなに大事にされてると心が痛い。
「あれはもう私の宝物よ! 貴女の指紋もちゃんと型を取ってるんだから!!」
「捨ててくださいお願いします」
「い! や!」
「ケンちゃん流石にそれは可哀想だよ、昔から七緒くんの曇った顔が好きだよね? でも全部ケンちゃんが可愛すぎるのが悪いんだし、それにケンちゃんは奏美と似ててレズなんだからななちゃんと初キッスを済ませちゃっていいんじゃない?」
聞き捨てならない。
「嗚呼! やっぱり貴方はケンちゃんのお父様でいいのね! そんなの物分かりのいい事を言えるなんて間違いないです! だからちゅーしましょう! ケンちゃ……え? 何その怖い顔」
「ケンちゃん?」
「聞き捨てならないです、お父様。私のななちゃんに『ななちゃん』って呼んでいいのは私だけです。貴方であっても許さない、ヒトの所有物に色目を使わないでくださいませんか?」
それとコレは別、ななちゃんは誰にも渡さない。
たとえそれがお父様であっても。
「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃ無かったんだ!」
魔法アビリティ
魔王スキル 「威圧」
• 対象の恐怖を煽る。
• 立ち向かう気力を削ぐ。
• 逃がさない。
「ぬがぁあ! やめるんだケンちゃん! 僕は勇者だから効かないけど、七緒くんが大変なことになるぞ!? え?」
確かに大変な事になっていた。
目が輝き紅潮して、笑い、唾液が口端から溢れて蕩けきっている。
「最高♡ こんなに貴女の寵愛を受けられるにゃんて♡ 今日はなんて素敵な日なの? ケンちゃんに押し付けられて、モノ扱いされて ❤︎ あまつさえこんな♡ アハァ♡ 怖い怖い綺麗な貴女の顔を拝めるにゃんてぇ♡」
制圧されているのに少しずつ這いながらこっちに近づいてくる、キモい!
こんなのななちゃんじゃない! 誰だこんな悪い子にしたのは!
「それは貴女が悪いのよ? ケンちゃん」
ん?
オヤジが、魔法少女が女言葉を使っている。
いや違うコレは、目が、魔眼の色が黄金から薄紫色になっている。
「アンネ?」
「よく分かったわね? アイツの封印を今解いてやったわ! 男のくせにこの百合の園にズカズカ入り込みやがりやがって、邪魔くさい、空気読めってのよ」
なんだろう? オヤジの時の方が女の子っぽい、アンネが男っぽいだけか? 意味がわからん。
「取り敢えずその格好やめて元の姿に戻れよ」
「いいえ! 私に最も相応しいと思わない?! 青い髪の毛! 真っ白な肌! 金色の瞳!! コレで私は世界をとったるわ!! そしてケンちゃんとゆりゆりデビューよ!!」
「ん?いや瞳の色薄紫色になってるぞ?」
「なぬ! く! 流石に魔眼までは奪えなかったか!」
「奪うって、アンタどこまで図々しいんだよ」
「あら? 知らなかったの? 私、凄く図々しい女なの」
かつて聖女王とよばれたはずのその女はいつもの決めセリフを言った。
性女、じゃなくて聖女王復活っ!!
まだまだケンちゃんの恥晒しは終わらないっっ!!!




