第4話 ⑭[マイロードを吹っ飛ばす]
ぎゅおん!!
もう幼馴染は豆粒より小さくなった。
もう振り返らない、そんな事より妹をとっ捕まえることに集中!
ビルとビルをジャンプで跳んでいる、魔法少女にならずに凄い身体能力だ。
っていうかアイツの着てる俺の服大丈夫かな?あんな動きしてたら破れねぇか?
「まぁ破けたら破けたでデュフフフ❤︎」
「は! お姉様から邪悪なオーラが! 逃げていたらもっと酷いめにあってしまうのでは? …………ならば逃げる! もっと悪いことしてお姉様の熱い寵愛を受けるのよデュフフフ!! 七緒になぞ負けない!」
「っち!」
ダメだキモ男のオーラに全く屈することもないか!!
一回のジャンプで俺はコツを掴んだ、なるほど魔術ってのはどれだけ常識を無視して感情のままに動く。
これが身体強化か。
魔術アビリティ
身体強化スキル
• 本来のステータス以上の身体能力を発する、魔法で服などは保護される。
• 踏み台、地面なども魔法で強化される。
体を意思で強化するのが魔術。
そしてこんな力に耐えうる足場などない。
今くりならいざ知らず電柱などは傾いてもおかしくはない、しかしそうならない。
俺の魔術に対抗しようとコンクリートや電柱の金具が強固になっている。
しかし俺はそんな魔術は使っていない、俺の意思と関係なく世界が万物を強化する。
おそらくだがコレは魔術ではない、魔術は人間の意思で作られるモノ、しかしモノに意思はないつまりコレは自然現象〈魔法〉
成る程、魔法とは俺の魔術に対抗する力の事なのか。
俺の家が自動で修復されたり記憶や記録が捏造されていたり、世界が常識に都合の良い様に変質していく。
魔術を忘れていた俺には見えていなかった法則だ。
………成る程、分かりやすい。
つまり優奈に何をしても問題ないってことだな!
「ケンちゃんは自然魔術師系だね、奏美と同じだ。すごくバランスがいい」
ゲームの時とは逆の立場だ、おとうs、オヤジとの自然な会話に挟む母さんへの魔術師バレ、母さんを警戒させようとしているのがわかるから。だから俺は疑った。
「オヤジってかなり強いのになんでトラック如きに轢き殺されたんだ?」
当然の疑問だ。
だがまぁ答えは予想はしている。
「僕を殺せるのは僕だけだ、あっちの世界に残してきた僕の分身にやられたんだ。トラックなんてのはただの概念さ」
オヤジを殺したのはトラックじゃ無かった、トラックという概念にすり替わっただけか。
この世で一番強いオヤジを殺せるのは、同一人物だけ。
「俺と母さんの気持ちを考えろよ、そんな安易に殺される古典ラノベの主人公みたいな死に方して笑えると思ってるのかよ?」
「ケンちゃんを泣かせたのは悪いと思ってるよ?」
嗚呼、やっぱりだ。
オヤジは母さんが泣いたなんて一切考えてない、思いつきもしないんだろう、オヤジは母さんを誤解してる。
そこまで冷徹じゃないんだよ母さんは。
毒親だけど。
でも教えない、母さんが泣いてたなんて言っても多分信じないだろうし時間の無駄だ、今は俺のパンツが最優先だ。
「そうかよ、まぁ俺は全然泣いてないけどな」
「強がり言っちゃって」
がっ!
何度もジャンプして行くたびに少しずつ優奈に近づく、というか失速している。
多分わざだ、捕まるために逃亡を演出している。
「優奈、悪い子め」
「すっごい悪い顔してるよ? ケンちゃん」
無視だ無視! あと一歩、あと一飛びで捕まえることが出来る。
「んははははは! 優奈! 覚悟しろ、鉄拳制裁だ!」
「嗚呼❤︎ お姉様に捕まってしまう!」
「嬉しそうな顔をするな!」
背後跳びで抱かれる準備をするな!
くそ、可愛い! 何で俺は今幼女なんだ! 体格差で抱き上げにくいじゃないか!
何も迷うこともなく、俺は優奈を抱き上げる体勢になる。
粛清?パンツ?そんな事より妹だ! 俺はお兄ちゃんだぞ?
「お姉様!」
「俺は男だ!」
がばっ!!
柔らかい、俺の作る飯で少し太ったな、くっくっくっくっ!やっぱり女の子は太っていた方が良い。
骨の構造からして抱き心地が男なんかとは違うのだ。
男の体なんて俺の体とオヤジしか知らないけど。
女の体は知りたくないのに無駄に知ってるけどな!
「嗚呼❤︎ お姉様! もうこんな男装パンツなんて捨ててください! 私が処分しておきます❤︎ ❤︎ あなたは正装するべきです! 私が用意したパンツを履くべきです、今度くまさんパンツを買ってきてあげます!!」
「悪い子だ! お前は悪い子だ! 全部アンネが悪いのはわかってるぞ! もうこんな事はするんじゃあない! お兄ちゃんとの約束だぞ!!」
「はい❤︎ お姉様ぁ❤︎ ❤︎」
コイツ全然反省してないな、未だに俺のパンツを頭に被ってるし。
「パンツ返せっ!!」
シュバっ!!
蕩けた表情で油断していた優奈の頭からパンツを取り返してやった!!
「……ふぇ!? 私のパンツ! お姉様の男装パンツ! 私の生き甲斐! あとでジッパーしたろうと思ってたのに!」
「するんじゃない! 男のパンツなんか汚いだけだぞ!」
「男のパンツ?! ちょっと今関係ない話しないでください! お姉様のパンツの話をしてるんです、返してくださいパンツパンツ!」
さっきからパンツって言い過ぎだ、俺もだけど。
「あれ? お姉様小さい! でも素敵!」
「俺だって本当は嫌なんだぞ、何だかこの服リボンの食い込みがキツいし、何だか身体も衣装も小さくなって男の俺にこんなの変だろう?」
「ええ、何で元の身体でこのムチムチ衣装を着ないんだって怒りが湧いてきます!!」
「男の体でやったらそれこそ変態だろうが!」
「はい❤︎ 一緒に変態になりましょうお姉様❤︎」
くっ! 可愛い!! 何でこんなに可愛いのに男のパンツを盗もうとなんてするんだ。
「何でお姉様はあんなに可愛いのに魔法少女になんてなるんですか? 可愛くなった今より可愛いのに! なんで男装までしてその美しさを隠すのですか? それはもう罪です! 世界に対する叛逆です! そしてなんで気がついてないふりをし続けてるんですか!? 自分が可愛いことに気づいてるんでしょ! 猫みたいにあざとい!」
「何言ってるんだ! ふざけんな!」
「あんなに可愛いのに無自覚なんて有り得ないのよ! ふざけないで!!」
ぬぐぐ、なんて確信の篭った勢いのある叱咤、同級生女子も同じこと言ってた、俺は騙されないからな! そうやって俺を虐める気だろ!?
「俺は男だ! これだけは絶対だ、誰が何と言おうと男だ!」
「……ぐ、そんな瞳で言うなんてお姉様は狡いです。気がついてますか?その左眼」
「左眼?」
「瞳の色が回帰してます、その真なる紫色の魔眼、私があちら側で見た“邪眼”と同等、いえあの時純潔魔族が持っていたソレより深い色、始まりの魔王が持っていたとされる認識阻害と制圧の力を宿す伝説の魔眼です」
邪眼? 紫色の左眼? 俺の事か? 確かにさっきから左の視界が綺麗な気がする。
空飛んだ時も右の地上より左の空の方が綺麗に見えた。
アレはこの眼が見た景色なのか。
魔眼 『邪眼』
瞳の色 紫色
・認識阻害の最高峰、かつて異世界を恐怖と絶望に追い込んだ始まりの魔王が持っていた魔眼、対魔物、対魔族に優れた魔眼。
・制圧の力も持ち認識阻害と合わせると大勢の人間に幻覚を見せることが出来る魔力を発瞳出来る。ただし賢治は片目のみの覚醒のため対象は1人に限定される。
なん、だコレ?いや俺は知っている。
この眼は母さんも持っていた、母さんは俺と違って両眼ともこの眼だった。
そうだ、俺は見ないふりをしていたんだ。
母さんは間違いなく優奈の世界の魔王だった、あの夢の魔王と似ている。
だってあの夢に出てきたアンネが頼った可愛い魔王は間違いなく母さんの仕草だった。
嗚呼そうか、俺は本当に魔王の候補とやらなんだ。
「お姉様、泣いていませんか?」
「泣いてないよ、ただアンネの記憶が俺を悲しませただけだ。嗚呼そうだ全部知ってたんだあいつ…………何があったかは知らんけど母さんと死に別れてこっちの世界に生まれ変わって、俺に生まれ変わった。自分の好きな人の息子に生まれ変わったんだ、なんて運命的なんだ」
夢の映像が鮮明に、アレが事実であると認識されて行く。
そうかコレが魔眼の覚醒、母さんにかけられた邪眼の〈認識阻害〉を跳ね除けた。
「じゃあアンネとはあのアンネで“聖女王”!?? いやそんな、だってお姉様は魔王なのに」
「聖女王?何だか色々と隠してるみたいだな優奈」
「あ……いえ、今のは忘れてください、ありえない事なので」
「あり得ないって事はあり得ないって何かの漫画で見たな、まぁ良いや。なぁ優奈、お姉ちゃんの頼みを聞いてくれないか?」
ここでわざとお姉ちゃんと間違える、コレでコイツはもう断れないわ。
魅惑する、断る雰囲気も場の空気も作らない。
コレで優奈は私の虜、私の魔の手に落ちた。
「お、お姉様?」
駄目押しにもう一発。
「優奈、私のいうこと聞いてくれないかしら?」
人差し指を唇につけて魅了を確認、優奈に隷属抵抗力を発動させない。
嗚呼、分かるよ優奈。今お前は私に屈服した。
「イエス、ユア、ハイネス」
また片膝をついて深々と頭を下げた。
誰も彼女に逆らえない、逆らいたくない、支配されたい。
優奈は賢治の中の魔王に愛され、幼馴染は魔王に支配された。
しかし二人とも聖女が好きだった。




