第4話 ⑪[出戻り勇者と始まりの魔王]
[ステータスが14回更新されました 計16回]
[ステータス種別 生来系夢魔(インキュバス型) 戦略戦術両用タイプ回復法術師]
なんだかよくわからないステータスなんてどうでもいい、そんな事より眼前の綺麗な魔法少女姿に私は見惚れています。
髪の毛がキラキラ光っている。
オヤジの髪の毛は黒だったけどこの姿こそがオヤジの真実だという事を知っている。
「オヤジ、でいいんだよな? 神聖勇者マシュー・ヨン・ダーネストって言ってたけど。要はそいつもオヤジでいいんだよな?」
「あはは、一回でよくフルネーム覚えたね? でもケンちゃんに呼ばれる時は“マシュ”でいいかな? いや普通にオヤジでいいけどさ」
「……他人がいる時はマシュって呼ぶ」
オヤジだ、すごく若くて完全に少女の顔だけど。やさしい笑顔と頼もしい雰囲気は間違いなく俺の好きなオヤジだった。
「どうやってこの世界に来たの?」
「んーこの体の依代はアンネだよ、何だか最終調整とやらに時間がかかってさ。僕ってそんなに才能ないからケンちゃんみたいに一瞬で魔法少女になることなんて出来なかったんだ。本当に遅れて悪い事したよ」
嗚呼なるほど、だから淫棒女が武器じゃないんだ。
「でも代わりに殺してくれた」
「ん? まぁ僕にも経験値が行くからね、ゲームだったら手柄を横取りしたみたいなもんだ、怒ってもいいよ?」
敵対種族を殺した時だけリアルのステータスをとやらを得る、ギリギリ人間で止まっていたイートを殺して、オヤジは経験値を得た、つまりオヤジは…………。
「オヤジも、魔族って奴なのか?」
「いや違うよ、僕は勇者だ」
勇者、その言葉は多分ゲームのものとは意味合いが違う。
「またの名を〈裁定者〉裁きを下す者はどんな種族を殺しても経験値を得られる、仲間の殺した敵の経験値だけでなく自分の仲間を裁いても経験値がもらえる」
裁きに不平がない様に?
そんなの、魔族より化け物じゃないか。
「つまり仲間が多ければ多いほど勝手に強くなるってチートさ、あははは」
「じゃあ何で俺は魔族なんだ? どうして、それに魔王ってまさか」
「落ち着いて、今の今まで話してこなかった僕たちの落ち度で判断ミスだ、僕があちら側の神聖勇者だってことはこの世界の人間には言ってない、普通に精神異常を疑われるからねケンちゃんが魔族なのはたまたまだよ、世界に隠されてるだけで魔族ってのは意外と多くいる。別に魔族の味方をする必要もないしケンちゃんが魔族を統べても世界を征服しても僕はケンちゃんの敵になったりしないよ」
「だったら魔王って何だ?! 勇者って何? 何を隠してるんだ!??」
色々はぐらかされてる。
「……ケンちゃんももう大人だ、世界は複雑で様々な欲望や利害関係で善悪を簡単に判別できるものじゃあないって事はもう分かってるよね?」
俺の就職した会社の業務は金持ちの払う税金をどれだけ少なく出来るかって仕事だ。
仕事の形式上、とんでもない税金を払う土地持ちの上級国民をよく知っている。
…………金を持った心弱い豚共の醜さを私は知っている。
「魔王と勇者は互いに存在しなければならない、勇者だけでは圧政、正義による暴力の横行を是とする歪んだ世界にしてしまう、魔王だけでは世界は魔族によって支配されて弱者がただ淘汰されるだけの自然の理だけの文化なき世界になる」
現実をしてる人間はこの世は金が全てだと言う。
そしてそう豪語する人間の中には金を多く持っている人間が多い。
そうじゃない金持ちもいるが少数派だ、そしてそんな善人も心の弱い者は何かにすがることを知っているしそう言う奴らを食いモノにしていることに変わりはない。
自分の才能、誰かのカリスマ、肉親の情、多分強者という存在は世界のルールに従い変化しなくても生きていける者を指す。
だがそんな人間だけではこの世界はつまらない。
「要はバランスさ、人の殆どはどこかにあるはずの不都合の根源を探す、それは感情であるから制御なんて出来ない、制御できたら人間ではないただの操り人形だ」
…………そこは違うと思う、バランスばかりでもつまらない。
この世に生まれたんだから不条理も楽しむべきだ。
それにもしかしたら不条理や不都合の根源があるのかも知れない、操り人形だと納得したふりして諦めたくない。
『誰かのせいにするな』なんてのは誰かに不義を押し付ける時の常套句だ。
まぁオヤジと喧嘩なんてしたくないからそんな事は言わないけど。
「じゃあ俺は魔王でもオヤジに嫌われるって事は無いんだな?」
「ないよ、それに僕が神聖勇者だったのは前世、じゃなくて正確には前々世か。そんな遠い昔々の話だ、きっとこの世界にも神聖勇者が生まれてるさ。僕はただそんな君たちを見守る役目、だから我は魔法少女になったんだ。もう勇者じゃあない」
ん? 我? 何その一人称、もしかしてちょっと恥ずかしかったりすると変な言葉使いになるのかな? なんだかその姿だと………可愛いな。
「お姉様!」
「ん! 優奈?」
いつの間にやら優奈がやって来た、もう全て終わってしまっている。
俺は気がついている。
優奈の速さならもっと早く来れた、つまり。
「すみません、わざと放置しました、実はずっと見ていました」
そういう事になる。
いや、あんな化け物みたいな奴だったんだ、それに優奈でも殺されてた可能性だってある。
「自分のために身を隠すのは全然悪い事じゃない、むしろそうしてくれて俺は嬉しいよ」
「違うんです! そうじゃありません、私は追い詰められてむしろ輝くお姉様を見て! 魅了されてしまいました。もっと追い詰められたらどうなるんだろうと、そして貴女は私の想像を超えていた」
目を煌かせて俺に裏切りを語る。
「ええええ…………」
その告白はいらないよぉ。
「ぶっちゃけそこで身悶えしてる変態女が死のうがどうでも良くって、お姉様の力の礎になるのならむしろ良い生贄かなと……」
怒るべきかな? でも生き死にの場面で助けろとかいうのは筋違いだ、母さん風にいうなら『弱い俺が悪い』だ。
母さん、か…………まさか、いや流石に考えすぎか?
「ん? 身悶え?」
そう思いななちゃんを探すが、なぜか見当たらない。
「うひゅう、うひゅう♡」
床で寝そべって猫の様に体をまるませている幼馴染がそこに居た。
っていうか七緒のアホだった。
うーん可愛い。
「え? 七緒さん? 何してるの?」
「パンツ! アンタの色気のないパンツをガン見してるのよ!!」
この上なく遠慮なしに大声で『パンツパンツ』と連呼する変態幼馴染がそこに居た。可愛い♡
「は!!」
お、俺のパンツのことか!そういえばスカートだった!!
「隠しても無駄よ! もうアンタに何も隠す事のなくなった私は公然とセクハラする権利を得たのよ!! もう我慢しない! 可愛いアンタを可愛がりまくってやるから覚悟しなさい!!」
顔が真っ赤だ。どうやらこれでも照れ隠しのつもりらしい。可愛い!
「べ、別にいいさ、ななちゃんのためならお人形にもなってやるよ」
「な! また性懲りも無く昔の呼び方!! 無理しなくていいのよ賢治ちゃん? いつもみたいに七緒とかアホとか『死ね』でもいいの❤︎ ね? そうしましょ?」
「嫌♡ ななちゃんはいい子だからな〜、褒めちぎる!」
「ふぐぅうっふぅっ!!」
なるほどこれがななちゃんのツボか。やっぱり可愛いじゃないか。
「やっぱり奏美の血が濃いやケンちゃんは、自然体で女の子を落とすからなぁ」
母さんは女だぞ? ん?
女の子同士で?
いや深く考えるのはもう良そう、肉親の性癖なんて知りたくない。
「俺にそんなモテモテ魔術はない」
「お姉様っ!!」
「うわ! な、なんで急に大声をあげたんだ!?」
片膝をつきまた頭を下げる。
「またあの様な事があった時私をお使いになりたくありませんか?」
ん? また隷属がどうとかいう話か?
「お前のことは本当の妹だと思ってる、だから出来ればこういう時は逃げてほしい。守るとかそういうのは考えないで」
「お姉様が死ねば私は自害します」
は?
「隷属深度が底の底まで落ちました♡ もう異世界側になんか戻りたくありません、お姉様の居るところが私の居場所です♡」
な、なんだ!? なんでそんな顔で、頬を赤らめて笑うんだ?!
「そ、そんなこと言うな、笑えないぞ!」
「ええ、ですから私を最初の貴女の配下にしていただけませんか? 貴女が魔王候補だということが確定したので認めてくださると私も貴女を守れて自害しなくてすみます。ただ一言『許す』と言ってください、言葉だけの簡単なものなので深く考えないでください、ちょっとだけだからお願い!ね?」
嫌な予感しかない。あとちょっとだけってなんだ?
「良いんじゃない? ただ単に魔術的繋がりを深めるだけだし、ケンちゃんが時々黒猫ちゃんに襲われるのを制御することもできるよ」
「本当? まぁオヤジが言うなら、ゆ……」
「ダメ!!!!!!!!!!」
何も考えずにその言葉を口にしそうになった瞬間、うずくまっていたななちゃんが四つん這いで苦しそうに立ち上がろうとしていた。
その瞬間、俺の体が動きそばに立ち寄って支える。
だって幼馴染が苦しそうにしてたんだから、それが罠であっても助ける。
「動くな、あんな恐怖体験をしたんだ!無理をしすぎなんだよ!」
「そんなのどうでも良い! アンタ今〈魔王の儀式〉を成立させるところだったのよ!!?」
「え?」
魔王の儀式?どう言うこと?そんなのいつ?
「絶対『許す』って言っちゃダメ! 魔王と言う存在に固定されてしまう!! この世界の魔王になっちゃうのよ!! 貴女様、じゃなくってアンタだったら高確率でこの世界の魔王になる!」
「え? なんだよそれ?」
「ふん、そうか知っていたのか和葉くんは、いったい誰から聞いたんだい? 魔王の儀式はこの世界で知ってるやつは居ないと思ったんだけどなぁ」
綺麗な顔で語気を強めて青の魔法少女が言う。
なぜ?
オヤジ?
「教えるわけないでしょ? そんな事よりアンタ自分の娘を魔王にするつもりだったわよね? どう言う神経してたらそんな事! 貴方に父親としての愛はないの?」
俺は男だ!
いやそうじゃなくて、え?どう言う事?
「勇者が魔王を選ぶのは当然じゃあないか? それが我がむすm、息子で、これほど魔王の才気に溢れているのなら喜んで父としても、勇者としても、この子を魔王にする」
「魔王を選ぶ?」
「そうよ賢治! 神聖勇者は普通の勇者と違う! 世界に1人の神聖勇者、世界に1人の魔王、魔王は世界に混沌と絶望を与える存在、魔王がいなければ勇者は勇者ではない、だから魔王は神聖勇者が選ぶの。そしてさっき『許す』と言ってたら本当に魔王になってたのよ! アンタは今世界中の人間を敵に回す争いに巻き込まれそうになったの!!」
ちょっと待って、え? 急にそんなこと言われてもなんで?
なんでななちゃんはそんな事知ってるの?
「その男を! 米田正志を信じちゃダメ! そいつは何かを裏切る事に何の躊躇いもない!!」
米田というのはオヤジの旧姓だ、それを知っている七緒の知り合いは1人しか思いつかない。
俺と同じ事を思ったのか青い魔法少女は笑う。
「ああ、なるほどね大体誰の差し金かわかって来たぞ? まぁ犯人はかなり限られてるからわかりやすいけど」
俺は青い魔法少女の裏切りより、優奈の沈黙より、何よりななちゃんが気になった。
「ななちゃん、もしかして君は」
「違う!」
それはもう答えの様なモノだ、俺の事を思って言ってくれてるんだろうけど。
「和葉くん、それはもう答えてるようなモノだよ? ケンちゃんは意外と勘が鋭い、それはケンちゃんの中の魔王性が怖くてもずっとストーキングしていた君なら僕より理解してるはずだ」
心配で面倒見てくれた事をストーキングだなんて思わない、それより俺は。
「七緒、隠してることがあるなら、無理に言わなくても良い。でもその事実が君を苦しめてるのなら言ってくれ…………俺の家族が迷惑をかけてるなら尚更だ」
もう、なんとなく気がついてはいた。
オヤジがかっこいいならそれに釣り合う女性がいる。
男女関係はそう言う駆け引きもある、そしてオヤジは神聖勇者、異世界の勇者らしい。
だったらそれに釣り合う女って誰だ?
自ずと答えは出て来てしまう。
クレイ・アストラン・レイナード、その名前に覚えはないけれど母さんの名前だと言うならすごく綺麗な名前だとその響きで感じていた。
「奏美め、まだ魔王の座を狙っていたのか。あの業突く張りめが」
オヤジの表情とは思えないほどその顔面は不快の色に染まっていた。
毒親。そう言ってきた母の正体。
ソレを知った聖女の覚悟とは?




