第4話 ⑩[蒼の魔法少女]※魔法少女立ち絵あり
私はそのまま肉塊をその場にあった椅子で殴り続けました。
殺すだけでは許しません、死体蹴りくらいしないと溜飲が下がらなかったのです。
嗚呼それにしてもこんな私を見るななちゃんはなんていい顔をしてるのでしょう。
「賢治ちゃん、怖い」
「…………え?」
ベッドは血に染まり肉塊はもう塊ですらなくなってました。
「ごめんねななちゃん、こんな私嫌いだよね? でも嫌われるの嫌だから忘れるね?明日になったら忘れるから、明日から、明日からななちゃん達の好きな私に戻るから」
血塗れのはずの私はそのまま何もかも放っておいて。
「やめて賢治、何をする気なの?貴女は何も悪くない!!」
「そうだよ? 私はなぁ〜んにも悪くない! ななちゃんもなぁ〜んにも悪くないの」
本当に忘れたのです。
[最低のクズを倒した!賢治は経験値を得た!]
[ステータスを2回更新しました]
私自身の声がアナウンスのように鳴り響き私が強くなった事を知れたのです、その力で自分の記憶を消したのです。
◆
『人殺しってそんなに悪い事?』
そんなアンネの声が脳に響く。そうか、あいつ全部分かっててあんなこといってくれてたんだ。
「思い出した。俺はななちゃんのパパを殺した」
「違う!! 賢治! それは私がアンタに植え込んだ記憶! 嘘の記憶! 馬鹿ね、人を信じすぎなのよアンタは! 裏切られてるとも知らずに馬鹿! 馬鹿! 馬鹿ぁあ!!!」
下卑たフリしたななちゃんの笑い、しかし涙が、その純粋な一縷の涙が全てを物語っていた。
「うん、ごめん。裏切らせてごめん。俺、最低だ」
「騙されてんの! 信じちゃダメ! 私を信じないで!」
「信じるもないさ、ななちゃんはいい子だ。俺みたいな殺人鬼が、魔族が信じるまでもない」
もうそれ以上ななちゃんに優しい嘘を吐かせたくなかった。
だから前に進む。
ななちゃんに手を出そうとする者全てを斃す。
いや、殺す。
「ふは! ふむふむふむ! やはり素晴らしいこんなゴミ溜めのような世界でも清らかで! 美しく! 強く! エロくて! 素晴らしい! なんて事だ! あのお方以上の聖女が存在していたなんて! あのお方と同じ純潔魔族で!」
「黙れ、愚魔族」
どこかで聞いたその言葉をイートにぶつけた。
ずんっ!!!!!!!!
魔法アビリティ
〈魔王スキル〉 制圧
• 絶対的な制圧。
• 敵対勢力を跪かせる。
• 侵攻、逃亡を妨害する、戦意を削ぐ。
「ぐぺらっ!!!」
まるで地を這うムカデの様に、そしてそれを無造作に踏んだような。そんな心持ちだ。
あんなにも巨躯に見えた怪物の体は床に這いつくばって四肢を上げられないでいた。
「ふははは、まるでヤスデだな」
自分の声には聞こえなかった。
だがこれは私の心から発した紛れのない私の声だ。
「け、賢治」
ななちゃんの声が震えて顔が曇る、あの時と同じ、嗚呼やっぱり俺って最低だ、今のななちゃんの表情がすごく綺麗に見えてしまう。
「馬鹿なっ! これは! 違う! 馬鹿な馬鹿な! あり得ない! そんなわけがない! 倒し…… 倒された筈だ!! お前はもういない筈だ! 神聖勇者様に封印された筈だ! 何故ここにいる?! 居てはいけないんだ! 聖女どころではない! 神聖勇者様どころではない! お前が私の世界に侵食してきた異常の原因か?!! 魔王! クレイ・アストラン・レイナード!!」
見たくもないヤスデの動き、ウネウネ気持ち悪い。
「何言ってるんだお前? そんな長い名前の奴知らねーよ、もういいや潰れろ」
お前にとってこの世界の死はゲームだろう?本当に死ぬわけねぇじゃん。
「嫌だ! 魔王! お前に踏み潰されるのは! そんなの絵本の村人ではないか! ぐげら! たしゅじぇて! 勇者さま!!」
殺す気でこの力の圧力をあげる、私は感じている。この力の本質を感じている。
ああそれにしても愚魔族とやらはとても面白く潰れていくなぁ?
「あははは」
こんな歪んだ存在はこの世界にも異世界にも必要ない、世界には人間と魔族とやらだけでいい、あと半魔族とか言う半端な弱者も要らない。
私の前から消えてなくなれ。
「二度と私のななちゃんの前に現れるな」
「やめて賢治!! それ以上踏み込んじゃダメ!」
嗚呼やっぱり可愛いなぁななちゃんは、聖女みたいだ。
怖くて俺に近づけないのに勇気を振り絞って声だけ上げてくれてる、恐怖の対象である私に対して。
「やめない、だって私は魔王だから」
ぐじゅ、
「ぴげら!!」
イートが肉塊になる、その前に。
直前、命のこと切れる前。
私はその魔法少女に魅入られてしまいました。
「青い、魔法少女?」
イートの作り出した暗雲の結界が晴れ、雲ひとつない青空になっていた。
まるでお父様と一緒にいたあの世界の様な、いいえ、お父様の心の様な空。
パンツ丸出しでその女の子は真っ直ぐ落ちてきた。
ストレートの少し長めのセミロング、肩に微妙にかかるくらいの長さ。
そして白いセーラー服、スカートの丈は短く生地の色は青、全体的に白と青の組み合わせの衣装。
へそだし、腕出し半袖、大きい胸。
すごく私好みの少女です。
しかしもっと好きなのはその少年の様なボーイッシュな顔です。
強く優しく挫けない、嗚呼まるでお父様の様な魔法少女です。
「ケンちゃん、遅くなってごめん」
知らない綺麗な少女の声、しかしその優しさに溢れた言い方は間違いなく。
「お父さま!?」
「ん? なんだいその呼び方? オヤジでいいよ? そうあるべきだ、君は僕の大切なむすm、息子なんだから」
娘と言われそうになって今の女装を思い出し俺は急に恥ずかしくなった。
「クソオヤジ」
「にゅご!! それは流石に傷つくなぁ」
微笑んで俺の前に出る、肉塊寸前のソレなどもうどうでもいい。
「いいかいケンちゃん、ゲームと魔術は違う。そこの愚魔族はたしかに本体じゃない、だが本体じゃないというだけで命がないわけじゃない。殺せば死ぬし魂もなくなる殺人と変わらない、一応そいつもまだ人間の側で踏みとどまってる様だしな、だから聖書が手放せないんだ」
「ああ、だから何の力もないゴミみたいな本をずっと手放さなかったのか」
俺は相手が動けないのをいいことにイキッた、別に何も思うこともない、全然気持ちよくないし本人はそのゴミ未満だしな。
「遅れてごめん、もっと早く来れば君は魔王に目覚めることもなかった。正確に言えばまだ候補生だけど最も相応しい最有力候補だ」
「別にいいよ、むしろ目が覚めた感じなんだ。自分がどれだけ和葉に守られていたか、どれだけ最低な魔族か思い出すことができた」
「そうだね、僕に君を止める義務も権利もない。君はもう選んだんだ、だったら俺も選ぶだけだよね? だから偽らない。神聖勇者としてそいつを殺す」
「え?」
神聖勇者?
「ケンちゃんと同じで僕もずっと隠していた、君が生まれた二十三年間騙し続けた、僕は、俺は、我は神聖勇者。異世界でそう言われた存在だった、いわゆる出戻り転生って奴だ」
「出戻り? え? 情報が多すぎだよ」
「馬鹿な話さ、あっちで世界を救ってこっちで自分の子供一人救えなかった、そんな愚か者の勇者、最低な裁定者が僕の正体なのさ」
四十後半のアラフィフ (古典死語)のバツイチ魔法少女 (おっさん)は自分の事を落とす。
「こいつは僕が殺す、なぁにもう既に何億も殺してきた手慣れたものさ、君が殺す価値はコイツにはない、何も知らない子供をも殺してきた僕みたいな殺人鬼に任せなよ、経験値は君にも行くしね」
[神聖勇者 マシュー • ヨン • ダーネストが仲間になった]
「マシュ? ってかこの表記なんなんだ? ゲームじゃない、声も聞こえてくるし」
「その声は君が脳内での詠唱さ、この世界の人間が知らないだけで敵対種族を殺したらアナウンスやら何やらが出てくるんだ、ナノマシンとかが見せるウィンドウがその補助の結果なんだろうね、多分魔術や魔法を知ってる人間がナノマシンを作ってるよ。多分錬金術師とかそういう奴らだな」
た、た、た、
もはや死ぬ寸前のソレの元にオヤジが、いや魔法少女がゆっくり歩み寄る。
その手にはマジカルステッキ、ではなく魔剣を、向こうの世界での俺の体を、つまりアバターを持っていた。
殺意が見える、俺やイートの様な黒い殺意ではなく、青白い閃光の様なオーラを纏う殺意の塊。
無駄な脅しなど一切ない殺すためだけの最速最強の殺意。しかし慈悲がある。
「生まれたばかりで異世界の愚魔族に利用された魂、私はお前を許すことはない、だから安心して死ね。お前の仇は必ず討つ」
「嗚呼、貴方が、私を殺してくださる。のか? 本当の神聖勇者様」
ふぉん、ずしゅ。
一刀、両断はせずその一振りで絶命したのが分かった。
肉を傷つけることなく内部の命と肉の繋がりを絶ったのだ。
光が、光の粒子がイートの心臓の場所から煙の様に立ち上り、穴が空き消えていく。
何一つ無駄のない斬撃魔術だ。
何一つ無駄のない人殺しだった。
「次は何者にも縛られない命に帰れ」
ただただ、美しい。




