第4話 ⑧[女の子のひみつ]
横から掻っ攫おうとしてるのは知ってるんだから、アンネ。
アンタは本当に悪い女。
「あー! もう! マシュ! アンタが娘を魅了するからメス顔になってるじゃない! どうすんのよ、このままあっちに戻ったらとんでもないことになっちゃうわよ?!」
なんだこの女、私のお父様に馴れ馴れしい。
「……ふん、お前のいうことなど聞くか。そういうのは俺よりお前の方が得意じゃないか?なぁ“癒らし術の聖女様”」
やっぱりこの二人、何かある。
「っち、なんでアンタの後片付けを! ……まぁいいわ、ケンちゃん! 私のことを見て! コラ! パパをそんなに誘惑しちゃダメ! 貴女は女の子好きでしょ?」
嫌だよ、お前よりお父様の方が美しい。
「あ! こら! 私を無視するな! でぇええいっ!!」
ボカ!
いきなり叩かれた、ん?
なんだそのオーラ、今まで見せたオーラより、綺麗。
黄緑色のオーラに包まれた白色の光。多分これはオーラというより本当の、聖女の光。
魔術アビリティ
癒らし術 反魅の魔了
• 魅了状態を解除する。
?何、なんか心が、アレ?火照りが消えていく。消え……あが。
「にょわわわわぁあああああ! こ、小っ恥ずかしゃあああああ!!」
口には出してなかったけど!だけど俺はオヤジに対してなんてことを!!何を考えて!変態っ!男のくせにオッサンに恋して変態!!
どくしゃああ!!
何も言えず俺はそのままアスファルトの上に寝転んだ!
熱を吸収してて地味に熱い!!
「俺は男だ!!」
「ケンちゃん!! どうしたの急に!!」
「ああ、お姉様分かりますよ? オッサンに魅了されて目が覚めたときの冷めた後悔! でもそれが私たち女の子同士だとありません! おっさんなど不要です! 否! 私にはお姉様しか! え?」
ふぁさ……
妹のボケに俺は男だ、なんて言わない。
だって妹が無事だったんだから。
姉としても、兄貴としてだって喜んで抱擁すべきだと体が動いていた。
「お、おねぇさま!!」
「良かった! 本当によかった! もうこんなことに巻き込まないからな!」
「お姉様…………お、おっぱいが! お姉様の柔らかい体が! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!!」
「おっぱいなんてない!! あ、今はあったか……」
魔法少女の体はムッチムチだ。何も考えずに帽子の妹をくしゃくしゃに抱いてしまった。
しなしなしな、
「ん? アレ? 優奈? 軽くなった? まさか死んだ!」
イキリたった様に硬く張った帽子がいきなりただの布になった、魂を感じない。
「違うわよケンちゃん、ログアウトしたのよ。貴方今どこにいるか忘れてない? あんな抱擁されたら誰でも本体を襲いたくなるわよ」
体? 本体を? ……は!?
『します!! お姉様の体!! すきほうだい!!』
俺は嫌な予感しかしない優奈の言葉を思い出し、一瞬でログアウトした。
そのあとオヤジとアンネがどんな会話したかなんて知らない。
考えたくない。
◇
目が覚めると妹の顔面が間近に迫っていた!
「むちゅううううう♡」
口をすぼめて俺の唇に吸い付く一瞬前。
「させるかボケェ!!!」
ハッと優奈は正気に戻った目に戻る。
「我慢!! ……我慢? ナンデ? ガマンナンデ?」
そしてすぐに肉食獣の目つきになる。
顔を思い切り両手のひらで押して唇が奪われない様に抵抗してみる、が、俺の何倍もの腕力の優奈に敵うわけがない。
「ぬががが! いい加減にしないと魔術使うぞ!!」
「!!? …………」
つい言葉が、言ってはいけないと思っていた言葉が出てしまった。
「お姉様、いいえ…………賢治、貴女本当は結構前から魔術の心得があったのね?」
真顔、妹の顔をやめて真面目な表情になった。
「……アンネに聞いたんだろ? あいつ俺の記憶全部持ってるからな、とんだ嘘つきだ。記憶のない俺に合わせて今まで演技してたんだ」
正直に言おう、嘘つく必要なんてないんだから。
「記憶がなかった?」
「俺って結構薄情だからな、常識じゃない事とか自分に不利なこととかは簡単に忘れられるんだ」
初キスを奪われない為にシリアスな空気を壊さないように質問に答える、早くログアウトして来いよアンネ! 寝てんじゃねぇ!
「すぴーっ」
可愛いのがムカつく。
「完全に思い出したのはさっきのイートとかいうやつの戦いの時だ、優奈が殺されそうになって、守らなきゃって思ったらなんかよくわかんない魔術や魔法のあれこれを思い出して、戦い方まで考えて逃げることとか色々考えた。まるで自分じゃないみたいに冷徹ってか頭の回転が早くなってさ」
「お姉様は頭いいですよ? 時々誤魔化す様にちゃらんぽらんになりますけど」
「いいや俺は馬鹿だよ、また大事な人を傷つけてしまうところだった」
「……また?」
しまった、これだけは内緒だ。
だってこれは俺だけの事じゃない、ななちゃんの。
七緒のプライベートに関わる。
「色々あったんだよ」
思い出したのは虐待された現場を見た俺とあざだらけの七緒、殴る七緒の父親。
そして俺は多分頭に血が昇って七緒の父親をぶっ飛ばして一緒に逃げたんだ。
その時思ったんだ、俺がもっと強ければ七緒は体にあざを作らなかった、それはつまりは俺のせいでもあるんだ。
こんな大事な事を今まで忘れてた。本当に薄情なやつだよ俺は。振られて当然だ、告白はしてなかったけど。
こんな事いくら可愛い妹にだって言えるわけがない。
だからきっと俺は誰にも言えずにまた忘れるだろう。
ああ、でもまた会ったらきっと俺は謝ると思う。
いや謝ろう。
次顔を突き合わせたら「七緒ちゃん御免なさい」だ。
「お姉様?」
「ああ、ごめんな優奈ちょっと昔のこと思い出してアンニュイな感じになってた」
「デュフフ♡ それはそうと二人き……」
ドコンゴォオオオオオオン!!
「け゛ん゛じ゛!!!!!!」
幼馴染がやってきた。
その字面だけならお淑やかな女の子が玄関から静かに訪問してくる事を想像するだろう……なんと俺の幼馴染みは玄関という概念を吹っ飛ばす。
壁をぶっ壊して直接隣の部屋から現れた。
さらば俺の敷金礼金! こんにちは賠償金!!
「七緒てめぇふざけんな!!」
「可愛い♡ でも今はそれどころじゃない! なんかきてる! 今は私を信用して手を取って!」
なんだそりゃ! 誰が信じるか! いやでもこの必死の顔。
いつも私を騙そうとしてる時の表情じゃない、私を嵌めようとしてる時のイカレタ顔じゃない。
ばちゅ!
俺はその手を掴んだ、すると握り返されて引き込まれて抱きつく形になる。
「おま! 騙され!」
「舌噛むわよ! 我ら移動せよ!」
「何言ってんだお」
お前と言う前に違和感、圧力が変わった。気圧というものだろうか?そして今いる場所が変わったことに気がついた。
屋上。
多分アパートの屋上だ、しゅ、瞬間移動!?
小雨が微妙に感じられる、低気圧酔いしそうだ。
「これ、やっぱりお前魔術師なのか!」
「説明は後、これからアンタを私たちの支部に避難させる、結界内に入るからあいつも来れないはず!」
「避難?」
「こんな時の為の避難経路、アンタが変な奴に狙われたら逃す様に言われてるの」
「誰に?」
「言えない、でも信じて、疑われると移動魔術は失敗する可能性が上がるから」
ビュオオオ、
不自然な圧力異常。
風が私たちを吹き飛ばそうとしている、そう思えるくらい強風だった。
でも七緒の声はよく聞こえる、多分そういう指向性の声を出しているんだろう、でも俺はそんな術は持ってないのでなるべく短い単語で聞きたい事を言った。
この風はなんだ?
明らかに不自然だ。自然でない、つまり魔術の影響か? いやいやいや考えすぎだろ、そもそもそんなに自然とか人工とか判別できるものじゃあ……あれ?
「優奈?!」
置いてった? 妹を置いていった?!
「御免なさい! 貴方ひとりを逃すことに特化した術式なの! 優奈ちゃんなら大丈夫! アンタのフェロモン追って世界中のどこからでも追っかけてくるわ!」
「そんなの出てない!! じゃなくてそう言う問題じゃ無いっ!」
そこは断言する!
ビュオォオオオオッ!!
更に風が強く、渦巻く。
渦巻いてその圧力の原因がわかった。
あのどす黒いオーラが渦巻きの中に現れたのだ。
「馬鹿な……」
「何アレ? 目玉お化け?」
「ふむふむ、本来の力の十分の一と言ったところか?ふむ」
異世界で会ったイートが現れた、体は相変わらず大きいが向こう側よりは小さく2メートルぐらいの体格になっていた、その体格に合わせて服も本もサイズダウンしている。
「七緒! あいつの目を見るな!」
「え?」
しまった!
コイツは俺が『やるな』と言ったら率先してそれをしてしまう。
ギョロ!!
向こう側では開くことのなかった無数の瞼が開かれ七緒はその目を見てしまう。
「あぎゅ!!!」
七緒のその呻きは息ができない事を示していた。
考える時間はない、説明もしない、このあと俺が化け物扱いされてもいい。
俺はもう既に、反射的に、その魔術を七緒に当てていた。
魔術アビリティ
癒らし術 「反死の復帰」
• 無条件系統魔術の反魔術。
• 即死など状態異常系の魔術を妨害する。
アンネの魔術のモノマネだ、あいつみたいに輝きは強くないけど、それでもどうやら死は免れたらしく、さっきよりは楽そうにしている。
「あ、アンタ!ゲホ、それ魔術?」
「説明は後!いいからここから逃してくれ!!さっきの瞬間移動!」
「……ごめん無理、多分コイツ追ってくる、それにこんな奴に狙われてるんじゃ本部には行けなくなったわ」
「な!」
「ふむ、もしかしてここら辺にあったあの弱々しい術式の事かな?テレポートポイントを潰すのは戦さ場の常識、残念だがそこの聖女を洗脳させてもらう。邪魔するなら殺すから見捨てることをお勧めするよ?」
「なんなの、コイツ?賢治に何を……そんな事させるわけにいかないわよ!」
す、
イートから凶悪なオーラが噴き出し渦巻く風が消えた。
「ふむ、抵抗するか?ならば君にも私の固有異世界の力を説明しなければならないなぁ?くくく……」




