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第4話 ⑦[即死地のイート]

 饒舌に話し始めた化け物のあらゆる情報を私は冷静に分析していました。 


 ゲームの中だから? いや、もういい加減理解しているだろう?谷戸賢治。



 お前の目に写るものは全て事実、この光景は異世界に繋がってるだけで実際に起きている事なのだ。



 だからこの化け物は存在する。


 そして多分()の世界にも影響する力を持っている。


 こいつの影を俺は昨日の怪人に感じている。

 だから優奈という可愛い妹を逃したいとも思っていたんだ。


 俺も逃げたかった、アンネもついでに逃がしてやりたかった。


 ()()()()()()()()()()()()()



 足元を見て奴の体全てを魔眼で見ろ。



「ほうほう、お嬢さん一瞬で私の力の一端を感じて目視するのを止めましたか。その反応だけで私が殺してきた海千の雑魚共とは比較にならない魔眼の使い手だ」


「俺は男だ、お嬢さんじゃない」


 感情的になっても絶対目視しない。


「オヤジ、説明はしないけどあいつの目を見ないで!」


「ん、ああ()()()()()()安心して」


「え?」


 ゲーマー特有の勘か? こっちを見てる、俺を見つめてる。

 カッコいい。この綺麗でまっすぐで熱い視線を今私だけが独占してる。

 嗚呼、滾ってしまいます。


「ふむふむ、成る程成る程? おそらくそこのお嬢さんが魔力源として術式を構築、背後の女二人が補助。そして肝心の“固有異世界”の発動はそこにいる情けない男がやったというところでしょうか?」


 声を聞いても意識を向けてはいけない。


 何故かはわからないがこいつに害意を向けてはいけない、そもそも私に目玉おばけをやっつけられる様な力はないから、最初から『逃げる』一択なんだが。


「ふむふむふむ、そういうのをそちらの世界では“チーレム”とかいうのでしょう?知ってますよ? そちらの知識はこちらに入ってきてますからね? ただアレは物語にもならないご都合主義の連続で成り立った駄作。現実では起こり得ない偶然の連続、面白いとは全く思えませんでした! 美学がない!!」


 顔を見ない、体全体の動き手に持ったあの本。


 多分異世界の聖書だろう、キリスト教とか十字教ではないだろうけど宗教関係の、特に狂信者の思考はタガが外れている。


 もしあの思想を魔術とか魔法で現実化していたとしたら。


 異世界というやつはとんでもない世界なんだろうなぁ。


 しかし俺の魔眼が見るにあの本からは何も感じない、多分アレはただの本だ。


 フェイク? 武器でもなさそうなものをなんで持ってきてるんだ?


 いやそんな事よりまぶたお化けの多すぎる目、眼球からの強力なオーラに注目するべきだ。


「何アイツ、魔物? 優奈ちゃん知ってる?」


 パパが優奈達に話しかけています。


「いや、私はよく知らんが多分私の元いた世界(あちらがわ)の能力者じゃないか?」


 緊張感なく話している。

 なんだろうなぁ、警戒してる俺がアホなのかな?


「お姉様の判断は間違ってないですわ、だから警戒心は解かないでくださいねー」


 なんか馬鹿にされてるような気もしてきた。


 いや、それよりも今のこの状況をどうするか考えないと、眼前敵は実力未知数の敵。オヤジをどうやって逃す? 街に人は? いやいや、肉親の命を最優先にすべき。

 でもオヤジの肉体は今や異世界にある、どうやって……。



 グク、



 ん?


 なんか苦しい?


「くぐはぁ!」


 俺の声じゃない。オヤジでもない。アンネじゃない。


「優奈!」


「これは!呪い?」


 帽子の、魔具のアバターの状態で苦しんでいる?


「ふむ、呪い? 惜しいな、近いが違う。アレは攻撃者に呪い返される『呪詛返し』とやらで。私はそんなリスクは払わない」


「ゲームだぞ? これはゲームなんだ! 苦しんでるフリだろ!?」


 違う。分かってるくせに無駄な事を言うな。()



「ふむふむ、お嬢さん貴女のその表情はとても良い。本当は私の力が世界を超えて効いているのを知っていてそんな事を言うなんて、成る程もう私の“固有異世界”の特性を掴みつつある。わざと無能なふりをして攻撃の対象を自分に向けようとしていらっしゃる、くくく、これは良い拾い物だ」



 コイツ、私の心を、騒つかせる。





 コイツは人間か? 違う? そうじゃない道徳心なんて今は関係ない。関係ない。


「ケンちゃん……」


 アンネが私を化け物を見るような目で見ている。


 私はお前の生まれ変わりだ、本当は最初から疑ってない。


 嘘か本当かくらいその目を見ればわかるさ。

 騙されていたふりをしてただけだ。


 固有異世界ってのがなんだかは知らないけど、コイツが人間だってんなら私は。


 私はただ。



 私はただ、殺人鬼になるだけだ。




 世界の全てが見える、この異世界の法則、魔の法則。


 この異世界は私の世界より魔法が正しい方向へと変化していき、私の世界より魔術が人間のために進化している。


 だからきっと私は眼前の敵には敵わない、それでも私は妹を失うわけにはいかない。


 もう、()()()()()()()()()()()()()()()



「ケンちゃん!!」



 叫んだのはオヤジだ。


 オレの前に出て一喝した。

 何をするの?妹が苦しんでるんだ、貴方の子でなくても私は守るまでもらなきゃいけないの!!


「もう、二度と悲しませない」


「え?」


「ケンちゃんの決心は受け取った、だからもうそれ以上前に進まないで。もう正体を隠すのは止めだ」



 え?パパ?何そのオーラ?

 青くて閃光のように輝いて、煌めいて美しい。


「綺麗…………♡」


「ふむふむ、どうやら多少は魔術を嗜むようだがそのような脆弱なオーラでは私の即死地の固有異世界には敵わない」


 即死地?


「私の固有異世界は敵対象に死を与える! 条件はない! 私に殺意を向けたら私はそれをカウンターで死を与える! 弱点はない! 無敵にて最強にして無敗にて最悪!! 即死地イート!!! それがこの私の固有異世界ぃいいい!!!!」


 固有異世界? 即死?


 なんか聞いたことあるなその能力。安っぽい。



 そう私如きが言わずとも、パパは全く化け物の言葉に動揺する事なく言い放ちます。


「何を勘違いしているんだ?全身(まぶた)男、このオーラはお前に対する攻撃じゃない。お前が与えた異世界を絶対切断で斬るオーラだ」


 言いながらパパは三角帽子の優奈を掴んで青いオーラを当て、優奈を支配していた澱んだオーラを祓ったのです。それは本当に一瞬の出来事でした。



「絶対切断??それはお前のようなあちら側の人間に使える代物ではない。それは()()()()()()()()()()()()()()()()、何も知らぬお前如きが口にしていいものでは……」


 ぶつくさ何やら笑いながら言っていますが優奈はもう先ほどまでの息の詰まりもないような楽な表情に戻っています。


「あれ?もう苦しくないです」


「優奈!!」


 どす黒いオーラが一瞬で消えたのを、イートは今やっと確認したのです。多分そう言う魔眼での戦況確認は私よりも経験が上のはず。

 しかし結果的にこの場の誰よりその確認が遅かったのはさっき言ってた『固有異世界』と言う力を過信していたからでしょう。

 普通の魔術と何が違うのでしょうか? 気にはなります。


「ば、馬鹿な!?この イート・イーター・インコルールーの固有異世界が消された?馬鹿な!あり得ない!」


 馬鹿みたいに狼狽えてやがります、その胴のの長い体でうねるとムカデのようで笑いそうになります。流石に戦闘中の今は笑えませんが。


「バカはお前だ、お前は固有異世界の使い方を間違えている。その力は本来世界の間違いや神どもの間違いを正す為に人間が獲得してきた力だ。くだらない戦争の道具にしていい力ではない。だからこんな簡単に斬り崩される、それともこの世界の人間はそんなことまで忘れてしまったのか?」


 私からはパパの表情は見えません、ですけどすごくすごく怒っているのがわかります。


 これが怒気というものなのでしょう。嗚呼やはり(⚫︎)(⚫︎)(⚫︎)()()()()()()



「撤退しろイート・イーター・インコルールー、貴様が、否、()()子に向けた劣情は万死に値するがもうこれ以上その子に残虐を、心に負荷をかけるわけにはいかない、もう二度と私たちの前に現れるな、もう二度と関わるな、もう二度とこちらの世界に何も送るな、さもなければお前の命はない」



 簡潔に殺意を向けた言葉、殺意しかない。


 なのにお父様は凄く綺麗で、瞬きも勿体無いくらいそのオーラが美しい。


 最初から知っていた、お父様は強い。お父様は誰にでも正しい。誰にだって負けない。


 まるでではなく本当の勇者様だということだって。



「ふむぅううっ!!馬鹿な!あり得ない!()()()()()()()()()()()()()()()!お前が!いや!貴方が帰ってきた!?マシュ……」


「黙れ、愚魔族。その口を聞けなくするぞ?気の変わらんうちに消えろ」


 殺意が斬撃を作り出す。


 ブシュ!!ズシャズシャ!ザン!!


 物理的にイートの表皮と目玉をいくつか潰す。直接お父様が動いたわけでもありません、殺意を向けてはいけない相手に一切遠慮せずに凶刃とも言える殺意を向けてカウンター出来ないレベルの殺意でもって攻撃したのです。


 普通の考え方ではありません、先ほどまで自分からベラベラとチート自慢していたのが滑稽に思えてきます。



「ひぃいいいいい!! やめて!」




 ザリザリ、ずももももももも!


 愚魔族と呼ばれたイートはお父様に気圧され、現れた時とは逆再生のように地面に消えていきました。まさに蟲、雑魚と呼ぶにも値しない単なる害虫のようです。


 ああ、今私はお父様しか見えません。


 考えられない♡


 もうお父様しか見たくありません。


 その瞳を見せてください♡


 綺麗で金色の魔眼、優奈のより鋭くキラキラしたその舐めてしまいたくなるようなどんな宝石よりも綺麗な瞳を。


 知っています貴方の目、瞳はこの世界のどんな魔眼より輝いている事。


 私は何もかも知っていて、知らないふりをしていました。


 だってこれはお父様に抱いてはいけない劣情、母さんに対する裏切り。


 でも大好き❤︎


「ケンちゃん!!」


 その声はあの女の声でした。やかましいなぁ。


思い出していく。


自分の本質を思い出す。


元の自分へと……回帰していく。

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ざまぁ転生 〜ざまぁサレ役のイケメンに転生した作者の俺、追放されず復讐も諦めたのでヒロイン達のゆりゆり展開を物言わぬ壁になったつもりで見守りたい、のに最強ヒロイン達の勘違いが止まりません!〜

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