第4話 ⑥[わるいこ]
目の前にいた女は間違いなくアンネだ。
纏うオーラの質が間違いなく本人しか出せない色だ。
なんとなく俺はオーラを幼少の頃から見ていたのかもしれない、それを気のせいだと思い込んで魔法なんてないって常識に自分をはめ込んでいた。
だからオーラを見るのは実は昨日今日の話じゃない、だから個人が何かをする時の輝きを俺は見分けることができる。
だからどんなにアンネの姿形が変わってもそれがアンネ自身だってことがわかる。
「いきなり攻撃か、何やってんだアンネ!」
「へぇ?この金髪ムチムチバインバイン女神の姿を私だと分かっちゃうのね?やっぱりその眼、色々厄介ね」
「お前の場合隠す気がないってくらいに輝いてるからな」
「魂の共振?かしら?ここまで隠せないとなるとそう言う現象があるってことかしら?うーん前世で私自身の前世との会話とかしたことないからわかんないわねー」
何やらぶつくさ独り言を言っている。
ロングのパーマ、白い厚手の布をそのままきたかのような女神のコスチュームに何故か似合わない魔女っ子がしてそうな三角帽子を被っている。
そして無駄に大きく実った胸太もも、なんか古典の転生系小説に出てきそうな女神みたいだ
「なんだか20世紀末の古典パソコンエロゲームに出てきそうな女神だなぁ、その姿自分で作ったのならさ君結構趣味悪くない?」
カッコいいパ、じゃなくてくそオヤジと考えてること同じだった!俺は男だ!俺は男だ!!
「ふふふ、娘の好みみたいなものよ〜そんなこと言ってたら嫌われちゃうわよ?」
睨み合う、自称聖女とオヤジが睨み合う。
俺は無理だ、あんな怖い顔になった親父の顔は見れない、お姫様抱っこですぐ近くなのに見れない。
多分、すっごいイケメンなんだろうなぁ。
「娘?何を言っている俺の魔法少女は男だ、息子は男だ、お前のような飽きっぽい女ではない」
俺の!?いやいやにゃにを!
ドクドク!落ち着け!俺は男だ!俺は男だ!!
オヤジは怒りが込み上げてくると一人称が「僕」から「俺」になる俺はこれを俺様モードと呼んでいる。カッコいい。
「あらら、相手を不快にさせてもとか言ってませんでしたぁ?息子だなんて思ってもないことを、早速嘘ですか?嘘つきですか?どうやら世界を滅ぼしかけた神聖勇者様も娘には嫌われたくないと見えるわね?」
世界を滅ぼしかけた?
「神聖勇者?なにそれダッサ、今時流行らんでしょそんなの?」
「……本当に娘には甘いのね、そんなんだからケンちゃんがチョロい子になっちゃうのよ」
「知らない白髪女に人の教育方針をとやかく言われたくないね」
ん?オヤジも見えてるのか?あのオーラが。
考える間も無く一瞬で、腰を低くしたと思ったらすごい速さで俺ごと後方に移動していた。
「ち!!」
優奈の声、だがあの可愛い妹の姿はなく、そこには女神がしていた似合わない黒い三角帽子が居た。
あったのではない、そこに優奈と同じオーラが存在していた。
そう俺が魔剣になったように優奈も帽子になっていたと言うことだ。
しかし、実力差というやつか身動きできなかった魔剣状態の俺と違って帽子の状態でくねくね動いている。キモい。
「お゛ね゛ぇ゛さ゛ま゛!!」
声も出せるのかよ!これも魔術か?
魔術アビリティ
事象魔術 風圧の壁
見える。
自然現象である風の発生は空間の圧力の違いで起こる。
だから魔術でそれを行う際は空間に何かしらの圧力異常が起こる。
そんな理屈は優奈は知らないだろう、なぜなら魔術は本人の願いで起こす変質。
なんで俺がそんな事を知ってるのだろうか?いや今はそんなことはどうでもいい俺には傷をつけず抱いて守ろうとするオヤジに対するこのエゲツない攻撃を、俺のパパにするのは許せない。
魔術アビリティ
反魔術 対象・風圧の壁
「え?」
素っ頓狂な声、それは親父のものだった。
「人の父親になんて攻撃をするんだ優奈、お前を妹だと思ってたのは俺だけか?」
単純な魔術、俺が幼少の頃からできていた事を思い出して今やってみただけだ。
魔術を打ち消す魔術、何も矛盾はない、ただ相手の魔術の種類を知ってそれ以上の魔力を必要とするからこの一撃だけしか返せないが。
ああ、そうだ俺は元から魔術が使えたんだ。
「お姉様? そんな」
何をキッカケにとかは忘れたけど、まぁそんなもの思い出す必要などないだろう。
ゴミを殺して手に入れただけの力だ。
「ケンちゃん! やっぱり君は」
「どうしたのパパ?」
「違う!そうじゃないだろう?僕はオヤジって言ってたじゃないか!?」
あ!! 小っ恥ずかしい!
「ああ、あ! いや違う! 今のはノーカン! 小学生の頃の記憶が蘇ってなんていうかその時の感じになっちゃって!」
必死に弁明するが、なんだかみんな凄く悲しそうな顔をしている。
「どうしたの?」
さっきまでのどんちゃん騒ぎの雰囲気が無くなった。
「……お姉様、試すような真似をしてすみません。でも今ので分かりましたお姉様は才能だけの人じゃないってことが」
なんだよ急に改まって、そんな黒い布じゃあ全然しまらないぞ?
「あー!! もう! 遊びましょ!! 女の子同士でゆりゆりするのよ私達は!!」
ムチムチ女神が大声をあげて場に喝を入れる。
なんだよ、それじゃあまるで俺が何か悪いことしたみたいじゃあないか。
ぶつん、
頭の中に、声がする。
どこかに居た、いつの間にか居なくなった幼女の声だ。
『そうだよ? 私はなぁ〜んにも悪くない! ななちゃんもなぁ〜んにも悪くないの』
これは?俺の幼少の頃の声変わりする前の声か?
自分で言ったことがフラッシュバックする?
なんだ?
[ステータスを再確認しました、貴女はステータスが2回更新されています]
またナノマシンの見せるものと違うウィンドウか?
ステータス?ははは、まるでゲームだな。
優奈の攻撃を防いだから?
だったら本当に転生系小説みたいじゃん……ん?更新されている?過去形?
まぁ別にいいか、どうでもいい。
「そうだね、ケンちゃん!彼女達とゆりゆりするべきだ!!」
「オヤジ?なんだよ」
急によそよそしくなって私をおろす。
もっとお姫様抱っこされていたかったのに。
「お父さん、もう抱っこしてくれないの?」
「ああ、君はもう選んだだろう?だったらもう大人じゃないか」
そんなのやだ、父さんが一緒じゃなきゃ私の隣にはパパが居るべきなの。
「パパ、抱っこして」
私はパパを誘惑する、両の手を差し出して微笑むくらいの柔らかい表情で誘う。
アンネみたいに男を知ってるような風に男を妄想させる。
「すごいね、凄い魅力だよ。もう僕が守るまでもなく君は強い」
「ケンちゃん……」
ビィイイイイ!
[外敵侵入警報!!]
急に警報が鳴り響くと共にゲームのウィンドウが現れる。
外敵?またあの怪人か?
いや、違う。
この気配は今まで感じたことがないくらいに暗くて深くて病んだオーラだ。
俺の世界ではいないタイプ、自分も敵の悪意も何もかもを狂化してそれを殺してきたかのようなオーラ。
今までの怪人は確かに総合的な力は強かった、だが魔力の深さや多寡の目安となるオーラは凡人そのまま、だが今回のやつは違う。
本当の怪人、いや怪物だ。
なんで俺はそんなことがわかるんだ?
それは私達の背後、少し離れた地面から生えてきた。
生えてきた、というのは正しい表現だ。キノコのように生えたのだ、地面のアスファルトの色、艶、体積が変化して溶けて下から押されて盛り上がりそいつが現れた。
一言で言うならその姿は醜悪。
辛うじて人の形をした怪物だ。
服は十字教の牧師とか神父が来てそうな僧衣、黒のジャケットのようにも見えるが男子学生服のような襟、十字架のネックレスとかをしまってそうな少し膨らみのある長袖、その服装は神聖だった。
だがその体の大きさはゆうに3メートルはあり頭頂部に髪の毛がない、だがハゲではない。
ハゲというのは髪の毛が生えるための肌が存在する場合に該当する蔑称だ。
その怪物の頭には頭皮の代わりに無数のまぶたが存在していた。
大小様々なサイズの眼球が存在するであろうまぶたである。
一目で人ではない、人間の形を辛うじて保っている半端な怪物と言っていい。
それが頭皮から顔の右半分まで広がっていて左半分は大人しそうな聖職者、格好からすると牧師の格好をしているからかなり不気味である。
「なんだ?あの気持ち悪いものは」
俺は思った事をそのまま口にする。
かなり失礼だと思う、だがそれは相手が人の場合だけ、目の前のこれは。
「半魔族と呼ばれる者です。ギリギリで魔族にならなかった半端者です、お嬢さん」
人の形をした怪物は急に話し始めた。
その幼女はきっと死を運ぶ悪い子なのだろう。
本当は忘れていて欲しかった。
幼馴染はそう願っていた。




