第4話 ④[素敵少女]♡
無駄でも抵抗はしたんだ。辛うじて、下着だけは死守した。
「お嬢さん、お寒いでしょう?このお服を御どうぞ」
アンネの無茶苦茶で多重な丁寧語にムカつく。
「脱がせたのはお前らだ!!」
「それで?どうするのですか?このままだと風邪をひいてしまいますよ?服はコレしかありません」
「いや!別に良いし!クローゼット行けば服あるし!」
「ありません!!昨日のうちに処分しました!」
「は?」
だ!!
「あ!待て」
即行した。予感とかそういうのはどうでもいい。
俺の思い出の服、少しでも大人っぽくなる為に選んだ男性服達、俺にお似合いのイケメン変身道具! なけなしの金で買った俺の、俺の!
「ない! ない!! 昨日まではあったのに!」
「うふふ♡ 昨日こうなると思って二人が寝てる間に捨てといたわ♡」
「や! 止めて」
「「止めません」」
「せ、せめて自分で履かせて! 女の子に着せ替え人形にされたとか! 嫌だ、屈辱だ」
「ダメですお姉様♡ コレから貴女は私達にお人形プレ……」
妹の暴走を寸前で止めたのはアンネだ。
微笑んで妹を嗜める。
「魅力的なケンちゃんをボロボロにしたいのは分かるけどダメ♡ 私が許可するのは正装までよ?❤︎イプ行為までは許さない」
「……ち、分かったわよ。熱くなりすぎてたわ」
ゆ、許された?
アンネ本当はいい子?
「じゃあケンちゃん♡ 女の子の服を着ましょうねぇ❤︎ 下の履き方も上の着方も教えてあげますからねぇ?」
いや悪い子だ!
「じ、自分でできら!」
俺はアンネに対しては素直になれない。
いい子じゃないしな、絶対この女装して遊ぼうとか言い出したのもこいつだ!
((女装じゃなくて正装よん?))
また脳内に語りかけてきた。
だが無視だ! さっさと着替えて服を返してもらわなきゃ。女装のままじゃ外に出られん!
渡された服は黄緑色、黄色、白を基調に整えられたひらひらの正にお人形さん用の服だ。よくフランス人形とかである奴、ご丁寧にひらひらのカチューシャまである。
((それも被るのよ? じゃないとあの変態的な男装服、本当に破るからね?))
くっ!
服を人質ならぬ質にかけられ、どうしようもなく女の子二人の前で女装しなければならない俺は屈辱で下唇を噛んだ。
「嗚呼❤︎ やっぱりお姉様は魔法少女に変身なんてしない方が可愛いでしゅ❤︎」
難なく俺はその知らない服を装着できた、まるでいつも着ているように、すごく着心地が良く違和感がない。いや!ある!違和感しかない!!
「この服、なんで俺の体にピッタリなんだ? いつ採寸した?」
「ケンちゃん♡ 淫棒ちゃんが貴女の魔法少女服をどうやって生成してるかわかる? 貴女の詳しい身体データはきっちり把握してるわん❤︎ もち正装用の服はまだまだ作れるから癖になっちゃったら何着でも作ってあげる❤︎」
「その力で隠した服を複製してくれない?」
「い❤︎ や❤︎ だってケンちゃんの歪んだ性癖を矯正する為にしてることなのよ? 男装癖はちゃぁあんと治さなくっちゃねぇ♡」
「俺は男だ!!」
「「うふふふ、嘘つき」」
アンネの狂言に惑わされた妹も悪い顔をして笑っている。
くそ! お人形さんみたいにされるのは嫌だけど女装をこうしてまじまじと見られるのは嫌だ! でも下着姿のまま女二人の前でいるのは変態だ! 布が! 最低でも肌を隠す布が欲しい!
((はいはい、自分に言い訳しないでその服着る快感を誤魔化さなくていいんでちゅよ〜?))
ふざけんな! さっきからこの“女装”を“正装”とか言いなおしやがって!! 洗脳されるかバカが!
「ん〜? やっぱりこっちの方が似合ってるわよ? ケンちゃん、貴女は女の子、コレは嘘偽りない真実。貴女は魔法少女になる前から女の子なのよ? だって男が魔法少女になれるわけないじゃない? もうそろそろ認めたらぁ?」
「認めるか! ふん!」
俺は下のスカートをホックを閉めてから回して正しい位置に止めてこの特殊プレイをさっさと終わらせた。
「ちくしょう! ぜってぇこの事は忘れねぇかんな! 絶対復讐してやる!」
「ええ、私も絶対忘れないわ❤︎ あなたの復讐プレイを脳内復習するわん、って言うかその顔凄くイイ! 絶対わかっててやってるでしょ?! この誘い上手!!」
犬の様な表情でこっちを見る、みられている。
「ふしゅ〜! ふしゅ〜!」
妹の目がやばい、またご飯にありつけなかった野良黒猫の表情である。
「さ、じゃあ散歩にいきましょうか? ケンちゃん?」
「…………行かない」
「あらなんで? さっきまで行く気満々だったじゃあない?」
「こんな格好で行くわけないだろ!」
ニンマリしながら笑う、こんな奴を少しでもオヤジと似てると思った俺が馬鹿だった。
ああ、またあそこに行きたいなぁ。
「じゃあパパの所に行きましょうか? 私達と一緒に」
ナチュラルに俺の心を読むな。
「え? いや無理無理、だってお前らアカウント無いじゃん」
っていうかあの「つよくてにゅーげーむ」の中に他のやつが入れるとは思えないんだが。
「私はアカウントなしでアルバちゃん経由で侵入可能よ?」
俺はお前のいうアルバちゃんとやらに面識が一切ないんだが?その子は信用できるのか?
「そして優奈ちゃんは魔法で事実改変されて貴女の妹になってるから遺産であるアカウントの相続権があるから可能よ、もう確認済みだし」
まほうのちからってすげー!
もうなんでもアリなんじゃね?
((アルバちゃんもいい子よ! ログインしたら紹介してあげるんだから!))
いや、待てよ?
「本当にお前らフルダイブするんだろうな? 俺が寝てる間に変なことしたりしないよな!」
「します!! お姉様の体!! すきほうだい!!」
「落ち着いて! えい!」
また緑オーラで黙らせる。
もう手慣れたもので、殴らず撫でるだけで妹を鎮静化させる。
「あふん❤︎!」
「なぁそのオーラの攻撃優奈の脳に影響とかないのか? 兄として心配になってきた」
「え?! さっきのも見えたの?! 怖っ! 感情が昂ると魔眼の性能が上がるんだけど、ケンちゃんもしかして正装して魔眼の性能上がった? やっぱりなんだかんだ言って着心地がいいんでしょ! この天の邪鬼!」
「全然よくない! 直ぐに元の服を着直したい」
俺はひらひらと服を揺らしながら怒る、だがアンネのニンマリ顔は止まらない。
「まぁさっきの質問だけど大丈夫よ、別に脳震盪を起こしてるわけじゃなくて癒して眠気を癒しのオーラで強化しただけだから」
「オーラって便利だなぁ、俺にも使えるかな?」
「私的には無色化した筈のオーラを普通に目視したのが信じられないわ。貴女意外と実戦系の才能があるのかしら?」
「ははは勇者の息子だしなぁ! 知ってるか俺のオヤジってゲームで『裏切りの勇者』って言われてるらしいぜ!」
「え!?」
アンネは驚愕する、信じられないことを聞いてしまった顔だ。
まさかオヤジの事か? 勇者とか言うゲームのジョブが何か大事なキーワードだったとか?
「何言ってるのよ!! 勇者の息子じゃなくて勇者の娘でしょ!そんな美少女にしか許されない格好しておいてまだ自分を男だとか騙る気なの!? なんかムカついてきたわ!!」
「今の格好のことは言うな! 目を輝かせるな! お前なんて嫌いだ!!」
「!!? 何故ここで……ご褒美を??!」
「うるせぇ!! もうログインするぞ! お、俺の体に何もするなよ! 服を着せ替えるのもダメだからな!!」
「ふふふ、やっと一人前の女の子らしく警戒心が出てきたじゃない。前世としてケンちゃんの成長が嬉しいわ」
「俺は男だ! 死ね!!」
文句だけ大声でぶつけて特に意味のないゲームログインをした。
世界が闇に包まれ、ナノマシンが俺のことを眠らせているのがわかる。
鈍痛がして脳がフルダイブの準備を始めたのがわかる。
そんなことを考えながら俺は思った。
アイツ、オヤジが勇者だってことには一切言及しなかったな、と。
◇
ケンちゃんは女の子なので女装ではなく正装です!!




