第4話 ③[動画鑑賞]
十数分後、美味しそうに俺の作った料理を喰らい尽くした妹は幸せそうに椅子によたれかかっている。
「ごち、ご馳走様でした!」
「おいおい遠慮するなよ? 本当はもっと食いたいんだろ? そんなに欲しそうな顔をしてぇ? まだまだステーキも野菜炒めも作れるぞ? 昨日のうちに食材は頼んであるから幾ら食べても大丈夫、注文分だけで一週間分はあるからなぁ、まぁ育ち盛りの妹には3日分程度にしかならんだろうがな、ふくくく」
みんな幸せそうな顔をしている、ああやっぱり俺は女の子達の幸福を願う純粋な性格なんだ!
うん! なんかアンネにマウント取られてムカついたけどそのアンネも今やあのザマだ! すごく幸せそうだ!
「大丈夫です! もう無理っす! っていうかお姉様が食べてくださいよ!」
「あーうん俺はもう食べたんだよね、久しぶりに茶碗一杯も食べたよ」
「少食! 人にあんだけ食わせといて自分は少食!」
「沢庵一切れとお味噌汁だけ飲んでケンちゃんの食事は終わりよ!修行僧かしら?」
なんかハイテンションだなぁ二人とも。
「怖い! お姉様の屈託のない笑顔が怖いっ!」
「ははは! じゃあ一緒に運動するか! 散歩しよう」
「ケ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛!!」
「な、何?」
いきなり死に体だったアンネが蘇り呻く。
「大事なこと忘れてない? ゲーム! パパ! 魔法少女!」
「えー?げーむ? そんな不健康そうなの知らなーい」
「お姉様、もうそろそろ貴女はご自分の魅力が世界にどんな影響をもたらしたか知るべきです、私もこの蟲どもの扱い方がわかってきました、さぁさ! 見なさい! よくも私を転がして遊んでくれましたわね! これが私の復讐です!!」
「え?」
[「魔法少女ダイジェスト」を再生しますか?Y/Y]
見たことのないウィンドウが突然現れて俺に強制的に映像が再生された。
そういえば都市伝説でナノマシンの暴走! っていうの見たことあるなー、実際はそんな影響力ないはずなのに。
そして、暗転した。
◆
あ、アレ? 夢の続き? 真っ暗で何も見えない!
「嗚呼、魔法少女よ!」
なんだ? なんだかよくわからん声が聞こえる! 優奈の声を野太くした編集音声か?
「フォースウェーブという人間畜生が恐れる予言的大災害! 世紀末に来ると思われたソレは一年遅れて西暦2500年の4月1日、エイプリルフールに起きたのだっ!」
やめて! 思い出したくない!!
そう思い耳を塞ごうにも塞ぐ耳がない。
暗闇世界は一気に白い光に包まれ、あの日が再生される。
「超絶美少女! 絶対処女の魔法少女カナミンが現れたのだ!」
巨大映像で俺の魔法少女姿が青空の上にドヤ顔で立っていた、ってかこの時お前いなかった筈だよな!!? 共犯がいるな!? どうせアンネかバカ七緒だろ! 死ね! どっちも死ね!
無駄に細部にこだわった映像だった、いや多分これ実際の映像じゃないか? このドヤ顔は多分親父のだ!
「そして世界に現れた怪人をぶっ殺すために魔法少女は斬り殺すのです! その時!」
その時?何にも苦も無く倒さなかったっけ?ん?
「パ゛ン゛ツ゛丸見せ!!」
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼っっ!!! オヤジの斬り込んだ姿に見惚れてて気がつかなかった! スカートから完全にパンツが!! まんまる尻! ふざけんな! 止めるな! 丸出しシーンで映像を止めるなぁああああ!!
「そしてこのパンツで世界中の人気はウナギ登り! いいえ! 恋のぼり!!」
何言ってんだ!? てかパンツなんて男しか釣れないだろ! 女には不評だ!
「特に女性人気が上り詰めて行くというデータが!」
は?
『ハレンチ!きっと世間知らずなのね! クールビューティー!』
『素直になれずに前に突き進んでる感がある、あとパンツがエロいクールビューティー!』
『はぁはぁ! 女の子! 私ノーマルだったのに! エロス! クールビューティー♡』
『養いたい! 以上! クールビューティー!!』
目まぐるしい自称女のコメントが流れて行く。い、いや絶対これ中身男だろ!
「因みに各国の有名人がコメントを顔出しでしています! 全員女性です!」
ふざけんなぁああ!! いや男でも嫌だけど!
「こうしてまんまと世界の半数 (全員女性)を魅了したお姉様は更なる世界征服をおっぱじめたのです!」
ん? 世界征服? なんの話だ? というか“更なる”ってまるで本当に世界の半分を征服したみたいじゃないか、世界の半分ってなーんかRPGゲームの魔王の問いかけみたいだなー『世界の半分をくれてやるから我の仲間になれー』みたいな?
まぁなかなかに素敵なセリフだよな? 愛の告白みたいだ。
「後日! 怪人どもは性懲りも無くやってきた!」
ども? 嗚呼そうか優奈は一昨日の夜に怪人と戦ったんだっけ? そういえばそいつは何の為に夜なんかにやってきたんだ? そこら辺の話はしないのか?
「怪人ホネホネ!!」
あ、省略して昨日の怪人の話をするんだ。
「撮影機材なかったけど何者かがその様子を撮影! きっとずる賢い裏切り者だろう!!」
うん完全に俺に聞かせる用の脚本だな! っていうかコレ今俺はどうなってんだ? 寝てんのか? 眠らされてんのか? 古典のラノベじゃあるまいしフルダイブで時間が加速するなんて事ないし。
「それはそうとまた世界の敵に颯爽と現れた新たなる魔法少女! 私ですよ! お姉様!!」
言うまでもないがあの時も骨の怪人をあっという間に倒している、だから今俺が目にしている様な古典な魔法少女アニメの変身シーンみたいに可愛いポーズなどとってはいない。
いやでもまぁこんなに可愛いなら次怪人が来た時にやらせてみるのもいいかもしれない、俺は男だからな。女の子の可愛い動作は大好きだ。うん。俺は男だ。
さてさて何やら色々と火の玉や風や水を出しているが俺は知っている。
あの時優奈は雷撃一発で相手を黒焦げにしていた。ぐろかったなぁ。
あれ?
そういえば何で見えたんだ? 結構な高さだったのにすぐ側に見えていた様な? そんなチカラ……まぁ魔法少女になってたからだな! フルダイブゲームだとあるあるの視点切り替えみたいなもんだろ!
「こうして私は辛くもホネホネ怪人を倒しましたっ! 嗚呼しかしっ! 心身ともにボロ雑巾の様になった私はその天高くから落ちる運命! お姉様のために散るのならばそれも羨ましい事実!」
事実じゃねぇし自分のことに羨ましいってなんだよ!本音が漏れてんぞ!もう絶対魔法少女になんかなるもんか!
「しかしお姉様はそんなボロ雑巾たる私を見捨てませんでした! 落下する私を受け止めてくださったのです!」
すごい白い花びらのエフェクトであの時の黒猫キャッチを演出している、え? もしコレが世界中に発信されたら?
「当然この百合キャッチは何者かが世界中に発信! ただ怪人の襲来! ただの世紀末予言の実現! 単なる世界壊滅の危機だと思っていた人間は知ることになる!! この一連の出来事はお姉様のアイドルデビューの序章です! さぁ、世界を征服しましょう! お姉様! 私がプロデュースしてあげます!」
何が当然なの?
は?世界征服?
は?アイドルデビュー?
は?プロ、デュース?
◆
世界に戻る。夢が覚める。
「にゅふふふふ♡」
ん? なんだその服?
女性服?
「は!!」
二人は俺を脱がそうとしていた! もう既にエプロンを脱がせシャツのボタンを外してデニムのズボンのベルトは捨てられていた。
「デュフフフやっぱりケンちゃん男装服は似合わなーい♡」
「デュフフフまさかこんな手でお前と意気投合するとはなぁ? お人形さんみたいなお姉様を見てたら明らかにこの服はおかしい! コレは私達の共通意識! いいえ! 世界中の人間の共通意識ぃい!!」
「二人とも死ね!!」
俺は怒り足で二人を蹴って必死に抵抗した。
だが力で劣る俺に抵抗は無駄だったのだ。
「「ぐひぇひぇひぇ♡」」
「いぎゃあああああああ!!」
その日、俺は生まれて初めて女装した。




