第4話 ②[ツッコミ不在の恐怖]
「ジョージを知らない奴はこの世界の人間じゃない、史上初の発明家、悲劇の発明家、色々言われてるけど一番しっくりくるのはヒーロージョージ」
「知らないわけじゃないのよ? 貴女と記憶を共有してるんだから! 今思い出すわ! えーとなんだかよく人をぶん殴ってるおじいさんよね!? 老害かしら?」
半端な思い出し方だなぁ、多分米国大統領をぶん殴ったエピソードの話だな。あれはあれで殴る正当な理由があるんだけどな。
まぁ知ってなくても別にいいや。
「世界の科学を何世紀も進めたと言われたり、自分の知識欲の邪魔になる奴らは全員ぶん殴ったり、まぁでもぶっ倒すやつは大体悪い奴らなんだよな、国民栄誉賞、科学と数学のノーベル賞を個人でいくつも取得、平和賞、各国の王族王様、皇族と面識があってそれらと同じ扱いをされる人だけどそれを老害とかいい度胸だなお前」
「私も元・お姫様よ!!」
「はいはい」
まぁ多分嘘じゃない、脱いだり虚言を吐いたりやかましい女だけど意外と所作は綺麗だ。
そういうのを悟られないためにわざと男っぽい動きをしてるのがわかる、粗暴なふりをした少女ってところだろうか?
((美聖女よ!!))
うぎゃ!脳内に直接!!
「お願いだから心読んだり直接脳内に叫び散らかすのはやめてくれ!直接ゆっくり静かに話してくれ!魔力使うから嫌なんじゃなかったのか?」
「私と貴女は同魂異体!心の中で私を考えていた時!私はそれを知り読むことができる!カウンターは魔力を必要としないのよ!覚えておきなさい!」
「チート!ずるだ!」
「ステータス差という奴ねふはははは」
「……心を読んだんなら、隠さないよ?少し聞きたいこともある、まずは魔王とかいう奴のことだ」
いい加減そこら辺の話をするべきだ。
その瞬間目を逸らし俺に背中を見せる。
「大体貴女が感じてる事そのままよ、魔王は読んで字の如く“魔法の王”の事よ。世界に一人しか許されない、実力のある者。ではなく最も魔王に相応しい才能を持っている者が選ばれる存在」
「なんだそれ才能があるって事はつまり実力があるって事なんじゃないか?」
「ふふふ、それじゃあ先に産まれた者が有利じゃない? 私の知ってる魔王は完璧な不老不死身。魔法を治める存在。生きとし生ける者を殺す存在。才能が無ければ永遠の時間は長すぎるのよ」
「ああ、なるほど今現在の実力より才能という将来性のある実力が欲しいって訳か。即戦力じゃなくてポテンシャル重視みたいな?」
「相変わらずの超速理解ね」
結構わかりやすいと思うけどなぁ。
「何でいきなり魔王の話なんか聞いたの? もっと聞きたいことがあるはずよね? 例えば私とパパの関係とか?」
ぐぬぬ、意外と鋭いなこの女。
「そういうのは聞く事が失礼に値するだろ? 大体お前は俺の前世だとか自称するんだから、四十年位前にこの世界に産まれた俺の親父と会える訳ないだろ? あーもうそれでおしまい、でいいだろう?」
「ええ、当たってるわよ貴女の勘。私と貴女のパパは会った事があるわ」
「え!?」
俺の前言を無視した俺の本心に対する返答。
笑う。微笑う。悪女と呼ばれそうな笑顔だった。
「会っただけじゃないわよ? 結構深い仲よ男女の仲、なんて軽いモノじゃあないわ。そうね? 今の私と同じ“共犯者”って所かしら? それとも貴女七緒ちゃんみたいなライバル? 互いに裏切りあって協力して嘘をつきあう仲よ?」
大人の女の顔、含み笑いでもなくただ悪意を伝える様な、悪魔と対話している様な気さえする。
いや、そんな事より!
「オヤジがアンタと? 悪いがオヤジはロリコンじゃない、俺より年下な子に手を出す訳ないだろ!」
「ソレって何を基準にして言ってるのかしら? まさかあの男が貴女に本性も全て曝け出してるとか思ってる? 思ってないわよね? 本当は貴女なんとなく気がついてるんじゃない?」
「何にだよ?」
聞いてしまった、誘われて、つい口が滑ってしまった。
「あの男の残酷な性格、貴女の事も人形の様に見てるって事」
「は?」
誰にでも優しい、平等に。誰にでも怒る、平等に。誰にでも。
感情のある人間には偏りがある、誰かを思うから偏る。
だけどオヤジは何というか間違えない。
正しい事に従順というか、弱者の味方というか。
平均を保とうとしている。
まるで目の前の人間が機械である様に扱う。
どんな暴言を言われても心が全く動かない。
ゲームをしてる子供の様な顔をして他人を見ている。
悪く言えば他人がゲームキャラにしか見えてないんじゃないか?って思う時がある。
「まぁそこら辺はいま認めなくていいわよ、きっとこれから色々知る事になるでしょうから」
「これから?」
「そりゃ怪人ですよ? 一昨日の怪人はヤラセだったけど昨日のは違うわ。ゲームという術式を利用した明らかな外敵の攻撃ね、こっちの世界でいう異世界からの攻撃かしら?」
すっとぼけた様な顔だ。
この女は多分俺の知りたい事を何もかも知っている。
知ってて話さない、でも多分だけど悪意はない。
「待てよ、じゃあ昨日の奴は本当に死んだのか?」
「ゲームのアバターは黒焦げになったわね、でも現実の人間には影響ないはずよ、ゲームはゲーム、遊びでしかないんだから」
「そうか」
よかった、優奈が人殺しをしちゃったのかと思った。
「ねぇ賢治、人殺しって悪い事なのかしら?」
「は?」
「だって戦争で人を殺すじゃない?それはいい事で街中で人を殺すのが何で悪い事なの?」
「他人に迷惑をかけるからだ!」
俺は即答した。
「確かに人殺しは本来悪じゃない、魔法じゃなくて実際の法律は人を縛るためのものだ」
人間は動物で本来は何をしてもいい存在だという事は知ってる。
法律に縛られることで人殺しは悪とされる。それくらいのことは知っている。
だが。
「ねぇ賢治、嘘をつかないで言って欲しいんだけど。かつてこの世界には1,000億以上の人口があって今は30億にまでその数が減ったのよね?でもその30億って数も多過ぎると思わない?」
数が多過ぎる、悪を成してでも減らした方がいいだなんて口が裂けても言えない。
「全然思わねぇよ」
「うふふふ、そういう所はあの男にそっくりね?」
俺は聖女に嘘をついた。
◆
10時、不思議オーラで気絶させられた優奈が目を覚ました。
「は!私は誰?ここは天国!貴女はお姉様!」
「お前は俺の妹!ここは安アパート!俺は男だ!」
三つのボケには三つのツッコミで返す、オカンに習った仕返し論だ。
会話術といってもいい。
パジャマ姿のままの妹に朝ごはんを提供するため俺はもう既に準備をし終えていた。
「ふふふ! お米の貯蔵は万端だ! お前の好みは昨日のうちに把握した!」
「んー、お腹あんまり空いてないです。それよりお姉様の!お姉様が欲しい!!」
「うーんそういう冗談は女の子が言ったらダメだぞ☆」
俺がとびきりの笑顔を見せたら少し後退りして首を縦に振った、どうやら俺の善意が伝わった様だ。
「さぁさ、一緒にご飯だご飯! 先に食べてるアンネはあんなに幸せそうな顔をしているぞ♡」
「逃げ、て優奈ちゃん! 今日のご飯は昨日より美味しいわ、一口でも食べたら確実に太らされる!!」
うーん、やっぱりお腹いっぱいになった女の子はいい表情だ、あっはっはっはっ!
「ひぃいいっっ!! 魔王!!」
「ん? マオー? 何だそれ、異世界のお菓子か? 興味がある! 妹の好みを把握して太らせる! それが姉、ゴフォン! それが兄貴の役目だ!!」
素敵な表情を見せながら妹は俺の作った馳走を美味しそうに食べるのであった。




