間劇 「魔法少女についての経過報告」
魔法少女 (パンツ)事件
通称カナミン、突如として現れた巨大な人型ロボットと思わしき災害物に対し颯爽と現れ、いわゆる魔法少女の持つマジカルステッキ (と思われる棒状の凶器)にて遠距離の物理的攻撃を実施。 (別称パンツ丸出し事案)
人形ロボットの撃滅に成功、ロボット(仮)の肩に乗っていた操縦者と思わしきゲームアバターを斬首する。
魔法少女(以下カナミン)観測後該当患者に精神的、肉体的変化あり。
骨折、外傷、臓器不全などの良化が担当医の観測から認められる。
また精神疾患においても躁鬱状態の良化が問診にて患者の自己主張あり、こちらの方は長期的に観測し正しい治療経過を見て判断すべき。
以上は診察という観察状態にある人間による報告。
以下は健常者による行動観察、ログに残った犯罪などでカナミンの悪影響を客観的に指摘するものである。
政府はこの事態を重く受け止めている。
日本帝国で起きたサードウェーブから100年経ち、世紀末の大不幸を回避したと安堵した矢先の出来事である、ロボットの報告を受け自衛軍の出動。
しかし戦闘機に整備不良が発生、前日の点検では何も異常がなかったにもかかわらず原因不明のエンジントラブル。
サードウェーブの時にも発生したとされる逸話が真実であったと各員の認識を改めて再発防止の対策とする。
怪奇現象と位置づけられ、終末信仰の過激派連中の暴徒化も懸念されエリアの周辺の店舗型商業施設に警備隊、消防団などの協力で見回りを強化する。
ハッキング事件。
死語の為ハッキングの定義を先述する。
古来の呼称hackが語源で、耕すという意味合いから正確には悪意のあるクラッキングという意味ではないのだが古典や歴史を確認するにまちがって伝来したことにより「悪意あるデータ支配」と誤解された言葉である。
何故間違った言葉を使うのか?何故ならばこの事件の悪質さを伝えるためには古典などに見られる呪文に似た言葉の方が効率的だからである。
4月2日 9時半ごろエリアJ上空に骨の怪物(俗称ホネホネ)が目撃される。
当初はアッパーダイブの宣伝映像と思われたが前日の事もあり目視にて確認、現実に存在する飛行物体として確認される。
特に損害報告はなし、しかし国民の感情を逆撫でする可能性があったためダイブしている人間限定で視覚的ジャミングをかけるのだが10時頃何者かのハッキングによりジャミングが解除されてしまう。
事件後に履歴を確認するが犯人特定には至らずバグの様な文字列が残るのみだった。
魔法少女ユウナン (通称=白と黒の百合事件)
前述したホネホネを突如現れた黒衣の魔法少女 (自称ユウナン)が抹殺。
添付した資料の様に現在確認されているどの様な人種と異なっている、耳が以上に長く黒い肌に金色の瞳。該当するのは指輪物語などを元に考案された架空の種族であるダークエルフであると思われる。
現実に存在したかどうかの確認は取れていない。
何故ならこの報告は全てハッキングによる映像のみのものだからである。
各国の主要の報道テレビ局が占領され世界人口の半分がこの事件とその後を見たと推測される。
そもそもがこの映像の撮影媒体が不明、データ解析すると肉眼であると記録にあるが望遠機能や集音能力から考えて人間であるはずがなく、まるで肉眼である様に機敏なピント合わせのできる機材となると相当のマニアか巨大資本団体の影が見えて来る。
以上が現在のところ判明している4thウェーブに対する裏取りの情報である。
尚、ユウナンの通称の発端となった百合映像全世界流出の事は報告の本分から外れるため記載していない。
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4月3日 日本帝国上空
「何だこの報告書はふざけてんのか?」
日本行きの飛行機内でジョージはファーストクラスの席でゆったりしていた。
死ぬまでに自己資産を使いきれない彼にとっては“無駄な出費”というものがない、死ぬことが最も損なのだから死亡リスクの高い自家用ジェット機など維持費も契約も面倒なものは使わないし買わない、一般の航路で十分だ。
(本当はアメリカに引きこもりたかったんだが、アルバを暴走させたままにしておくわけにもいかん、原因を追求しないと)
ジョージは日本国の警察探偵課からの報告書をアッパーダイブで見ている。
最も個人回線でAR化したデータを見ているから他人からしたら手遊びしている様にしか見えないだろう。
「何を手遊びしているんですか?みっともない」
「キャロルさん……、アンタ何年私のメイドをしてるんですか?いい加減資料を見ているとわかってくださいな」
ガタイの大きい女性メイドが同じファーストクラスの後部の席に居た。
座らず直立しているのだが体の芯が全く揺れない。恐ろしく鍛えているのがわかる。
「私にはそのナノマシン?というものが体内にありません、私には貴方がボケてしまった様にしか見えないのですよ」
「失礼すぎるだろ君、しかし改めて思うが本当にナノマシンが体内に存在しないのか?そんな人間なんてもう居ないというのが常識なんだがねぇ?」
「私に適合しなかった蟲の話などどうでもいいです、理解する気にもなれません」
「うーん、蟲、ねぇ。過去にもナノマシンの事を蟲と揶揄していた人間がいたな、アレは確か」
『間もなく、日本軍需帝国に到着いたします。シートベルトをしめ出歩かない様お願いいたします』
何かを思い出そうとしたがそのタイミングでアナウンスがなり忘れてしまう。
(まぁ誰でもいいか)
「キャロルさん、立ってないで座ってベルトをしめて」
「了解です」
身長も高くかなりの体躯だが腰は細いのでベルト自体は普通につけられた。
「貧弱なベルトですね、千切れますよ?私のか弱い腕でも」
「君は全然か弱くないな、水の上を走れるしな」
「鍛錬は怠りません!」
「鍛えるのは別にいいが一回あれやる度にプールの水の量が激減するんだよ、おかげで市営プールは出禁だよ」
少しジョージは悪態をつく意地悪な少年の時の様な表情を浮かべる。
「いいですかジョージ、水上走行はまず足先を上に向けかかとを先につけて水中に大きな泡を作りその浮力が消えないうちに足を上げるのです、それを交互の足で連続させてまるで水上を浮いてる様に見せかけるのです!」
「やめて! 君の筋肉言語は理解不能だ! その一撃で熊をも屠る威力の蹴りを最速で何千回行うんだ?!」
「貴方は今まで歩いた歩数を覚えているのですか? 数えてませんよ?そんなの」
無駄話が終わり、少し静かになる。
「日本、ですか。久しぶりですね」
「ん? 君は来たことがあるのかな? 銃の所持が一般人でも許可されてる結構危険な国だから観光ではないと思うが」
「そうなんですか?私は世界一安全な国と覚えてましたけど」
「? 何百年前の話だそれは、たしかに第二次世界大戦後の日本は奇跡的な復興を遂げて詳しくは知らんが『安全神話』みたいなものがあったらしいが、今となってはそんなもの、ファーストウェーブでモラル崩壊して多国籍の人間が住まうカオスの様な国になってしまった……まぁ大スラムを外れて都内に行けばそんな事はないはずだがまぁ元々自衛軍を自衛隊だとか言って言い逃れをする様な国だからなここは、君もあまりハメを外さないほうがいい」
「アメリカの大スラムにもカウボーイみたいなのがいるじゃあないですか?そんなに変わらないと思いますが?」
思い出深い国なのか少し反論する。
「あーうんそれを言われるとたしかにそうかもな、そういえば茨城とかいう所にはカウボーイみたいなヤンキーとかボーソー族とかいう天然記念物レベルの珍獣がいるらしい、今度リーゼントとかいう伝説の髪型を見てみたいものだ」
「そう、なんですか」
少し悲しそうな顔をしていた。ジョージはその顔を見ていないが声色から何か昔のことを懐かしんでいる様に推測した、のだが。
まさかそれが400年以上前の事だなんて事は想像もつかない。
そんな人間いるはずが無いという常識がジョージの読心能力を阻害していた。
「これも運命ってやつなのですかね」
メイドは笑わずに懐かしの日本の大地を見ていた。
「秋妃お嬢様……」
メイドは笑わずに呟いた。




