第3話 ⑯[魔法少女☆アイドルデビュー]
「お前は本当にこれで良いのか?! オヤジに倒されてこっちの世界に無理やり転送されて! その息子に奴隷にさせられて!」
奴隷妹はキョトンとしている。
「誰ですかその可哀想な女は? 私は全部私の意思であなたの世界に転送して貴女の仮の妹となりそして私の確固たる意思で奴隷になりました、そもそも魔法と魔術は当人の意思とそれに見合う魔力を元に発現するモノなので意思を無視することはできません」
「俺の意思は?!」
「足にキスを許してくれたじゃないですか? あ! ちなみに魔術的刻印がご主人様の足の骨に刻まれたのでもう貴女の御御足は私のものです! 誰にもやらん!!」
(骨に刻印??タトゥーかな?)
「DQNじゃねぇか!!そんな風になるなんて聞いてないぞ!俺の意思は!!?」
「一生お姉様の奴隷になれる成功確率を減らす様な事言うわけないじゃないですか、ノリで女を魅了するからこう言うことになるんです!あ、ブって良いですよ?わたし奴隷ですから! (超歓喜)」
「し、しないっ!」
その時、淫棒 (マジカルステッキ)の目がギョロっと開く!
「け゛ん゛ち゛ゃ゛ん゛!!」
「うわぁ!! びっくりした!!」
思っていたよりグロい。でかい眼球に睨まれ女の子特有の女の子座りで腰を抜かす。
やっぱり女の子である。
「あ、ビックリさせてごめんなさい。それよりも安心して! 奴隷だ隷属だって言っても上と下の立場を設けてるだけで、この世界での奴隷とは違うのよ」
「奴隷の意味が違う?」
「ケンちゃんの知ってる小説の奴隷やこの世界の奴隷とは根底から意味合いが違うわ。命令が嫌なら奴隷側が断れるし命令するにもその命令を実行できるだけの魔力をご主人様が持ってないとダメなの、つまりは緊急時に使う魔術の効果を強化したり繋がりを太くしたりする契約術式なの!」
少し考えてアンネの微妙な説明を必死に理解しようと考える。
「そうか、つまり雇用契約社員みたいなモノなのか!」
貯金が百万円くらいの雇用主が誕生した。
その時! 妹が淫棒を睨む!!
「おいマジカルステッキ! 余計なことを言うな! これからご主人様に酷い事をされるように誘導して『奴隷を❤︎った』と心に癒えない傷を刻もうとしたのに!!」
「しまった! 御免なさい、嗚呼心の友よ!!」
どうやら妹にアンネ (概念)が感染った様だ。
「そんな事はしない!! そして隷属の契約なんて絶対更新なんてしないぞ! お前は俺の本当の妹で奴隷なんかじゃないんだ! もう決めた! 絶対誰ともキスなんてしない! 一生童貞でいい! こんな契約間違ってしてしまうくらいなら絶対しないっ!」
アンネは口にはしないが驚愕している。
(契約魔術は術式を脳内に刻んでいないと出来ない、優奈ちゃんが進んで奴隷になったとは言え、そんな事を知らないのにノリで出来るものかしら? この子の才能とドSの本性が恐ろしいわ)
アンネの想定はそれだけではない、世界の魔法が賢治を補助しているのだ。
そしてそのことは奴隷になった優奈も分かっている、だからこそご主人様の先の言葉を信じない。
「「童貞?処女の間違いじゃ!!?」」
そうだ、二人とも眼前の魔法少女が男であることなど信じない。
「この変身解除しろ!! もういいだろ!!」
「え?? あ、ハイ」
ブン!
一瞬でその姿形が元に戻った。
魔法少女の二人は女の子に。
淫棒は白き聖女(自称)にそれぞれ戻ったのである。
「俺は男だ!!」
あ、ハイ。
「ねぇ、ケンちゃん。本当に今元に戻ってよかったの?」
「なんだよ、女装なんかしてても俺は楽しくないから良いんだよ!」
「あー、んーと、さっきも言ったけど魔法少女の礼装は性別を変えるものじゃなくて、いやそうじゃなくてね? なんていうのかな、拘束具って言ったじゃない? 魔法少女は貴女自身の魅力を抑えるための拘束具って。だからその、元に戻ると……」
「?」
キョトンと首を傾げる、そのあざとく見えて自然に誘惑する仕草は猫の様で妹(奴隷)の我慢の鎖をぶち切った。
「お゛ね゛ぇ゛さ゛ま゛!!!」
「んぎゃあああああっっ」
一匹の黒い肉食獣がその部屋で一番メスくさい獲物を狩る。
襲いかかりその血を貪るため魔術で犬歯を長く伸ばす。
魔術アビリティ
肉体変質 「吸血モード」
「お姉様がいけないんです! 私はこんなに我慢してたのに!! 変身といてさらに可愛くなるなんて! この魅惑のチートフルコース!!!」
意味のわかりたくない事を口走り、口内から唾液をこぼす、いやもう漏らすと言ってもいい量だろう。
魔眼が魔力を放ち獣の瞳のように光り輝く、口を大きく開きご主人様の首筋に…………。
ドン!!
「当身!!」
アンネの流れるような動きで首筋にチョップ、威力は大したこともないが聖女を自称するだけあり癒しの力を使う。
手から黄緑色のオーラを放ちそれが作用して奴隷 (妹)を正気に戻したのだった。
魔術アビリティ
回帰魔術 「白き聖女の当身」
「は!! 私はなんて事! ご主人様の許可なく襲おうとするなんて!!」
優奈はしょうきにもどった!!
「未来永劫そんな命令はしない!」
「す、すみません」(血じゃなくて涙が良いなぁ)
ショボンと気落ちした奴隷を見て一旦は怒りゲンコツくらいはしようとしたが、チョロインなので直ぐにそんな気はなくなり許してしまう。
……さっきまで自分を吸血しようとした相手にである。
「グヌ、ま、まぁ魔法少女の力のせいで襲いかかったんだろ? じゃあ俺は悪くはないけどお前のせいでもない。全部あのよくわからんAIとアンネのアホのせいだ」
アンネのマトモな説明をガン無視で勝手にAIとアンネのせいにする。
「酷い! 私はむしろケンちゃんの暴走を抑えてるのに! だが構わん! もっとなじって♡」
日本語とは思えない言葉だが意味はなぜか伝わるアンネの妄言を二人とも聞き流す。しかしソレすらも放置プレイとして愉しまれるから真性のドMは厄介である。
「まぁ、でもなんだかよくわからない敵が現れたけど倒せてよかったよ」
敵、倒す、何の説明もなく相手の正体と黒猫のしたことが殺人ではないと理解している。
これは普通のことではない、才覚の違いと言うべきだろうが本能的に賢治は事象を正しく認識している。
自分を男と自称すること以外は正しい。
ピピピ、
「ん?ああ、七緒のアホから通話着信が来てる」
ナノマシン経由での通話はリアルタイムでもできるのだ。
まぁコードを教えないと着信もつかないが、このチョロインはクラスの女子全員に個人データを教えている。
アッパーダイブでの通話のコンソールをオンにする。
『け゛ん゛し゛!!!』
「うぎゃあ!!」
間髪入れず七緒からの大声、びっくりして慌てふためく。
着信拒否をしないのは嫌い切れていないからだろう。チョロい。
「な、なんだよ七緒、忘れ物か? 隣なんだから直接取りにこいよ!」
まるで彼氏に応対する女の子のように部屋に入れることに全くの無警戒である。
変態の裏切り者である事など全く想定していない。
「違うわよ!アンタ本当に魔法少女だったのね!! ニュース見なさい!」
「え? あ、嫌だ! 現実見たくない! じゃなくてそんなニュースはない! 知らない!! 聞こえないっ!」
一瞬で何かを察して直ぐに耳を塞いで現実逃避する。しかしナノマシン越しの通信なので耳を塞いでも聞こえる。
「アンタのそう言うところダメよ悪いことも見なきゃいけないことがあるのよ! 今アンタが女の子を籠絡して誘拐したのを世界中の人間が見て騒いでるわ!! ここの近くでやらかしてるから私の彼氏 (嘘)から連絡がバンバン来てるのよ! アンタのことみんなすっげぇ探してるわよ? どうすんの? 正体アンタだってバラして情報売っていい?」
「ダメ!! っていうか俺は魔法少女じゃありません! 知りません! だから俺の名前を出さないでお願いします!」
もちろんだが落ちてくる女の子を更なる美少女が受け止めるという非現実的な映像を投稿したのは七緒本人である。
罪悪感なしに幼馴染みをイジメる、もう完全に変態犯罪者である。だが全部可愛い賢治が悪いのだ。
(んふふふ、なんて可愛いく鳴くの! だからこの子をイジメるのは止められない!この子可愛いのが悪い! 可愛すぎるのが悪い! 私は悪くない!)
犯罪者特有の責任転嫁である、だが間違ってはいない。
賢治が可愛すぎるのは間違っていないのだ。
(いや、可愛いに『過ぎる』などという事はない! しかし可愛過ぎるっ!!)
七緒はかなりグロい顔で笑う、素敵なイキ顔である。
「お姉様! 多分今あの裏切り者とお話ししてるんですよね?」
「優奈! お前人の幼馴染みに散々な言い方だな! 裏切り者ってなんだ?」
「多分ですけどあいつ私たちを監視してましたよ! 何処からか分からず姿形も見えませんでしたけど戦闘中ずっと視線を感じてました、タイミング的にあいつじゃないですか? 魔眼も持ってましたし」
「おいおい、いくらなんでもそれは疑いすぎだ。大体そんな事してあいつに何の徳があるんだよ」
『嫉妬してるのね優奈ちゃんは。可愛い♡』
優奈には聞こえていないが嫌味を込めて褒める。
「お姉様、本気で言ってます?」
「うん、あいつは友達だしな」
何にも考えずノータイムで一番怪しい容疑者を信じると言い切る、だが実際は裏切られている。
(友達、か。それが一番私に残酷な現実よね、絶望ってやつかしら)
七緒は少し感傷に浸る。
『分かってるじゃない、そう私はアンタの唯一にして無二の親友よ!!』
本心を隠しつつ、明るく裏切る。
盛大にシ❤︎るとキメたエックスデーのその日のために!!
「いや無二じゃない、唯一ってなんだ俺を勝手にボッチにするな」
「ボッチ、ケンちゃんはボッチ」
「ボッチお姉様!」
「あ! お前のせいで二人にボッチ認定されたぞ! ふざけんな!」
『本当のことじゃない? アンタが男作ったなんて聞いたことないし? 私以外の女子は友達以上の関係を望んでたし? ほらやっぱりボッチじゃない』
「お前のせいだぁ!! お前のせいで俺人生めちゃくちゃだ! ななちゃんなんて嫌い!! 絶交じゃ、あほ!!!」
ぶち!
幼い頃の記憶がフラッシュバックし言葉使いが幼児化した。
そして絶交とか言いつつボッチのためやはり着信拒否はできない。
「あ!! あのお姉様!!」
「俺は男だ!!」
「あ! ハイ!! お姉様は男です! 私だけはお姉様を信じてますよ! お姉様は男です、大好きですお姉様❤︎ ソレであの、その」
一体何回お姉様と言ったか数えてみよう。
ゴクリッ
なぜか喉を鳴らし、目が見開いている。
緊張している、地上100メートルで一撃を喰らわせ二撃目で怪人を討伐しても緊張など一切していなかった優奈が人生において一番緊張している。
その理由を白き聖女のアンネはわかっている。だがあえて口を出さない、なぜなら彼女を応援しているからだ。
変質者であるアンネは優奈の内なる変態性を応援している。
「お姉様っ! お姉様に頂いたハンカチですがコレ! お使いください!!」
「え? あ、そうか俺感情的になってガキみたいに半べそかいてたのか。あははこりゃ情けないところ見られたなぁ、ごめんありがとう」
シュバ!
服の袖で拭おうとしたその時、ベストのタイミングで妹はお姉様の懐に入り持っていたパクったハンカチで涙を拭った。
「うお?! な、びっくりした」
「ダメですよお姉様、袖に何かしらのバイ菌がついてるかもしれません。外気に晒してないハンカチの内側で拭わないと!!」
「あ、え? う、うん」
ス、
妹はハンカチを元の形に折りたたみ万引きする様に尻のポケットにしまい込んだ。
そう、聖女の涙を万引きしたのだ。
[優奈は聖女の涙を手に入れた]
アンネはそのハンカチをポケットの中の料理用のジッパーに入れていたのを見逃さなかった。
(くっくっくっ、なんて恐ろしく早い手際、私じゃなきゃ見落としてるわね)
変態先輩であるアンネはほくそ笑むのであった。




