第3話 ⑫[服を脱がさないで!!]
しかし瞼の部分がまだ目を開けていない。
「アンネ!!」
くわっ!!
素で可愛い声に反応して起きる。
「ケ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛!!」
ぎょろり!
「ヒェッ!!」
ダミ声の様なかすれ声で聖女をビビらせた。
「……エフン! よかったアンネ! そうか魔法少女になればお前が強制的にこっちに転送されるのか!」
「え? あ、えふん! 何を言ってるの! ケンちゃん! 私はアンネなんていう超絶美聖女じゃあないわ! 早く上の階にいるその子を助けにいかないとエロい事されて陵❤︎されてしまうわ!!」
バッレバレだぞ。
「……さぁ、逃げるぞ優奈。ここに救助対象がいるから下の階に逃げよう」
「イエスシスター」
「ああ! ちょま! そんなんでいいの!?? 愛しのこのわた……アンネちゃんが素っ裸にされてるかもしれないのよ!」
何故か戦わせようとするマジカルステッキ()は愚かすぎて誰もツッコミすら入れようとしない。二人とも真顔で無視である。
「ぐぬぬぬぬ、じゃあ。あれよ七緒ちゃん! 隣にいる七緒ちゃん! あの子に手を出してるかもしれんわよ!?」
「あいつは俺より逃げ足が早いし強いから問題ない。それより弱い俺と大事な妹をそんな所に行かせる訳にはいかない。っていうかなんでそんなに戦わせたいんだよマジカルステッキさん」
「経験値よ! ゲームなのよ!? ゲームのユーザーを倒すと膨大な経験値が手に入るのよ!」
「いらん」
「要らないですね」
誰も味方にならない。
「ん゛ん゛ん゛ん゛っ゛❤︎?!(恍惚) っていうかケンちゃん! なんで貴女魔法少女になってないの?」
「背後見ろ、優奈ちゃんが代わりに魔法少女になってくれてるんだ。どこかの偽物の妹と違ってできた娘だよ」
「!?」
ディスっていくスタイル。
「いやですわお姉様! ちょっと変身しただけで凄い褒めてくださるなんて! 勿体ないですわ❤︎」
さっきまで発情した黒猫にディープキスされそうになっていたのだがどうやらそんな事は二人とも忘れてしまったらしい。
「ぐぬぬぬぬ!! 悔しいけどその黒ホータイの格好! 肌を隠しつつも出ているところは布のラインで表して隠している様で隠していないスタイル!! 素晴らしい! もういいから脱いじまえ!!」
マジカルステッキさんの公然猥褻が始まった。ドMじゃなかったのか。
「お姉様の命令であるのなら脱ぐがお前の命令は聞かん。ひん曲げるぞ?」
「望むところよ!!!!♡」
「!?」
黒猫魔法少女は凄く嫌そうな顔をしていらっしゃる。
「やめとけ優奈ちゃん、そいつ本当に悦ぶから。俺が魔法少女になった時本当に喜んでたから、真性の変態だよ」
「!?」
(お姉様にひねられるなんて羨ましい)と思ったのは内緒だ。
「神聖の変態です!!」
と、淫棒が堂々と言い放つとケンちゃんは凄く冷たい目で見つめ淫棒を興奮させる(意味深)。
「単なる変態だろ」
「くっ! なんて冷たい目! 最高ぢゃない! もっと冷たくして!!」
「…………」
黒猫魔法少女はその漫才を見せられ呆れ顔、ではなく何か凄く興味津々に聞いている、その熱い視線に気が付いた淫棒はニヤリといやらしい目つきで黒猫を見た。
「どうしたの〜? そんなに羨ましそうな顔しちゃって〜? んふふふふ♡」
「おい!優奈ちゃんに変なこと吹き込もうとするな! 心が汚れる! お前は一切妹とは認めんが優奈ちゃんは別だ! 俺の妹に手を出すな!」
「〜〜〜〜!!?」
声にならない声、凄く言い表しようのないナニカが込み上げてくる。
(熱い!お姉様に大切にされるほど、どうしようもない下劣な感情が! 劣情がっ!! ダメ! それ以上私を大切にしないで! もうダメ! 興奮し過ぎて何かをぶっ殺さなくちゃいけなくなるじゃない!!)
病んでる訳ではない、全部ケンちゃんが悪い。
「アンネ! お前は優奈ちゃんみたいに素直なところを少しでも見習え!」
(この高評価をぶち壊しにしたいっ!! でもその反面、本当に嬉しい! 大事にされてりゅっ!)
「いや〜、それって自分が魔法少女になりたくないからお前がなれって言ってる様なもんじゃないっすか〜? どんな羞恥プレイっすか??」
誰に言ってるか、それを理解した時、お姉様に道具扱いされたと自覚したその時。
ピク!
イッタ、イッテしまった、優奈ちゃんの中の決定的な何かがイッテしまった。
(お姉様の、そうこれは羞恥プレイ、恥ずかしい格好を強制されて世界中にその痴態を晒す羞恥プレイ! そういう想定! これはプレイ!!!)
鼻息荒く、顔面真っ赤でいやらしく笑う。壊れた。
「気が変わりました! お姉様はここで私の痴態を、じゃなくて醜態、でもなく勇姿を見てください! 上の階の骸骨どもをぶっ潰します!」
「え? 何優奈ちゃん? え? あぶないからやめなよ」
「きっと優奈ちゃんはケンちゃんにもっと褒められたいんですよ! (なぁんてねグヘヘへ)」
「ぐっ! そうです! 見ていてください! そして貶し、じゃなくて褒めてください!」
何やら苦しそうな表情の黒猫の様子を本気で心配し始めた。
「良いから逃げよう! これはお兄ちゃんの命令!」
「!! はい♡ (これはこれで……)」
モタモタ3人で漫才をしていた間…………地上は凄いことになっていた。
その原因を作ったのはもちろん。
◆
数分前。
骸骨どもが上の階に現れた瞬間優奈がお姫様を掻っ攫った後の話。
「へぇ、あんた怖がらないんだ」
骸骨ではない、骸骨の馬車。宙に浮く魔女の馬車の様な骨だらけの乗り物の中からそいつが顔を覗かせた。
「あら、三流役者が何か言ってるわねぇ」
煽るのはアンネ、早速人型の骸骨どもに四肢を掴んで拘束されている、だがいつものように喜んだりはしない、ただ術者を睨んでいた。
「生意気な女なんて嫌いだ! お前みたいな奴は服を破れば泣き叫ぶかなぁ?」
ロングに眼下にクマがうっすら浮かぶ痩せてはいるが不健康そうな男だ、多分臓器のいくつか悪くしているのだろう、完全に会話が出来ない目つき、人でなし。
「俺の会社の上司に似てる気がする、お前みたいな奴が僕みたいな善人を……いや?わかってるぞ! 僕がブラックな会社に入ったのが悪いって言いたいんだろ! 母さんも! 弟も! オヤジもそう言った! だから殺したんだ! 家族も! 俺をいじめた会社連中もこの力で!」
聞いてもいない悪行をペラペラと自分勝手に話す、きっとブラック企業に利用されて精神を病んでしまったのだろう。
(なんて、自己紹介する悪人なんていないでしょう。まるで自分を悪人だと思わせたいかの様な発言、何故そんな事を? 多分裏方がいる、異世界の刺客かしらね? コイツ自身は多分そんなに悪い奴じゃない目を見ればわかる。さっきの自己紹介もある程度嘘、だったら会話でその嘘を暴いてやろう)
嘘と事実を織り交ぜるとばれにくい嘘になる。自分の情報をなるべく与えない。
悪人に徹した嘘つき怪人に対してどの様な説得を?自称聖女のアンネ、どうする?
「そう……それは大変だったわね」
「!!?」
なんと労う、サイコパスと思われる様な発言、自分の命を守るためにだろうか?それとも本当にイカれていたのか?
「何が……」
「どうしたの? 大変だったんでしょう? 誰も貴方の気持ちを聞いてくれなくて、そんな時にチカラを得て近親者と諸悪の根源を殺した。よかったじゃない?貴方はやり遂げたのよ? 殺したい奴らを殺せたの」
交渉ごと、説得に否定は己を不利にする。
「違う! 殺したくなんか、なかった?」
サイコな発言、しかしアンネは知っている。こういう手合いに一番効くのは己の嘘と本当をどっちも肯定してやる事。
認識している嘘も本当も自分自身の発した言葉で混乱させることだ。
嘘に対する拒否と覚悟の差、常識の違い、非常識の非会話。つまりはドッチボール。
アンネはそういう精神の戦いを幾度も繰り返してきた前世がある、言葉の通じない相手には自らの心と変態性で説得させる。
「な、なんなんだよお前! 悪女、いや魔女? 悪魔みたいな女だな」
「ああごめんなさいね? 私、十字教は全く信じてないから悪魔だなんて言われても全然傷つかないわ」
戦荒らし、戦果荒らし、様々な悪名を当時魔族に口伝され恐れられてきた聖女の姿がそこにあった。
誰も知らない、知られざる彼女の本当の姿。
「服を切り裂け! 骸骨ども! その女にそれ以上喋らせるな!!」
そうそれは、清廉で儚い聖女、白き……
「ならばすっぽんぽんにしなさい!!!!」
前言撤回、ただの変態痴女だった。
「なん……だと?」
「服を切り裂け? 喋らせるな? 何を甘いことを! お前はもう人殺しなのでしょう? だったらもう終わりじゃない? もう何をしてもしなくてもおしまいよ!だったら最後にデカイ花火を打ち上げなさい! そして私は変質者なの!! だから脱ぐのに心の抵抗などない!!! むしろ脱がせろ!」
嗤う、不敵に嗤う。
超理論である。
弩級の理解不能理論、もうそれは台詞でも言葉でもないただの暴言だ。
言葉で一方的に殴る闘い。
(理解不能! 狂言! 痴女! しかし! 何故、俺は!)
今会ったばかりの彼は何かがその時弾け飛んだ。
「私を泣かせたいのなら魔王を連れてこい! 今更生まれたままの姿になることになんの抵抗もない!」
ただの脅しだったのだが何故かアンネは腕力全開で自ら脱ぐ気満々だ。
下半身のスカート風ズボンに手をかけている、しかしそれをさせまいと骸骨さんたちが抑えている! がんばれ骸骨さん!! その痴女を脱がせるな!
カタカタカタカタ!
「何をするガイコツ共! 花も恥じらう乙女のヌーディストを邪魔するんじゃあないっっ!!!」
脱がせてはいけないと警戒心がはたらき骸骨が脱がせまいと自然に動く。多分魅了させられる。そしてもしすっぽんぽんになったら……作者は垢BANだろう。
「骸骨ども! 絶対に脱がせるな! 嫌な予感がする! 多分それはそいつの切り札だ! そしてお前の様な女狐に恥じらう花などあるか!! 花が枯れるわ!」
それを聞いた瞬間、アンネはまた笑い例の絶妙なポーズをとって言ってやった。
「花をも枯らす乙女って事? 良いこと言うわね花が私の美しさに絶望して存在意義を失うってことね?」
この女、危険につき会話不能。




