第3話 ⑪[死亡フラグ]
そして無論だが二人ともそんなケンちゃんの大嘘など見破っている。
二人とも“魔王”と言う存在がどのようなものか互いの認識に齟齬はあるもの恐ろしく世界を揺るがす大事であると言う一点において同じ認識である。
しかし。
(このまま騙されたふりをした方がこの子を馬鹿にできるわね、そして幼馴染としての好印象を保ったままXデーに裏切って盛大にシ❤︎る!!)
これでも女の子である。
「なぁ〜んだ賢治ったらやっぱアホねぇ? (テカリ顔)」
(なんて健気に嘘を吐くの!! そんな可憐な姿を見てしまったら騙されたふりをしてあげなきゃいけないじゃない!! もう! 自分が可愛いってわかっててやってるわねこの魔性!!)
「お姉様の言うことに間違いはありませんわ(鼻血)」
二人とも世界の危機よりケンちゃんをこねくり回したいロクでもねぇ女だった為この窮地を誤魔化せた。
いや無かったことにできた。
(アレこの二人なんか似てる?)
((似てるんじゃなくて貴女みたいな女の子を前にした女はみんなあんな風になるのよ!))
(ぬわ! こっちの声聞こえてんのかよ! そして俺は男だ!)
((正確に言うと読んでるのよ、本当は魔力使うからあんまり使いたくないんだけどさっきのは仕方がないわ、最初に会った時と違って魔法的な貴女とのコネクトが途切れてるからこの状態を維持するの結構疲れるのよ))
「ねぇ賢治」
「のぐわ!!」
テレパシーの会話に集中していた脇から幼馴染みが急に話しかけてきた。
いつものセクハラをされると反射でびびって動き転けてしまうとドスんと尻もちをつく。
「あ、御免なさい。大丈夫?」
「うっさい! 自分で立てるわ!」
一切タイムラグなしで手を差し伸べる幼馴染みの手を取ろうとした自分を恥じた、何故か分からないが自分が七緒に依存してるような気がしたからだ。
「……帰るわ、私がいたら貴女たちまともに話ができないみたいだし? それにお姫様の機嫌も悪いみたいだし?」
賢治姫もノータイムで“お姫様”が自分のことだと認識する、まぁその通りなのだが。
「手を取って賢治、今日はこれで最後だから」
その仕草はまるでおてんば姫様に手を貸す白馬の王子様である。
「ななな! 何が最後だ馬鹿!!」
べちん!!
差し伸べた手を叩いて拒否する。
「手厳しいわね私のお姫様は。ぐひひひ」
「馬鹿にすんな! ばーか!」
表情は完全に優しくされて恋しそうになっている乙女である。
……何だかどっちが男女だか分からなく構図である。
「さぁ! 帰れ痴女! 貴様がお姉様をすっぽんぽんにしようとしたことは忘れてないぞこの変態め!!」
………………。
「はっ!! そうだったまた騙されるところだった!!」
((チョロ!!))
「チョロいですわお姉様」
この23歳チョロすぎる。
「じゃあね、また明日ねぇ」
ぎぃいバキン!
そそくさとその場から名残惜しむこともなく自分でぶっ壊したドアから出て行った。
「あ! お前! ドア弁償しろ!」
バタン、ガタ!
無理やり壊れたドアを閉めてにげた、そしてドアが傾いて外側に倒れた。
「くきぃいい!! おのれ七緒め!!」
その場で地団駄を踏んでヒステリックに可愛い様をアンネと黒猫少女に見せる。
「お姉様、そう言う所がつけいられる隙かと思います。なんというかこの数分でお姉様の半生が想像できました」
「そうよねぇ、わかりやすいわよねぇこの子」
「「はぁ」」
共にため息を吐き、お転婆少女のようなチョロインの将来を案じた。
「さて邪魔者がいなくなりましたね」
「そうね、これで貴女に心置きなく貴女に色々聞けるわね」
「お前には言ってない! 私はお姉様に言っているのだ! 今日から私はお姉様の妹! 谷戸! 優奈!!」
「そうよ、それ! 貴女の立場よ下手すると何かの齟齬が起きそうよね? ねぇ?」
バツの悪そうな顔でアンネを見る、しばらくして頭をクシャクシャして再び睨む。
「貴女本っ当に性格悪いわ、伝承の白き聖女とは全然違う!」
どうやら何か都合の悪い事を言われたらしくすごくすごく嫌な顔をしている。
しかし、眼前の聖女はそっぽを向き。
しかしすぐに黒猫少女に振り返り独特のポーズをとって歌舞伎のように舞った。
「伝承?」
それは何か神聖な雰囲気を放つ。
「伝承なんて人の嘘にまみれた口伝え、物語なんて大嘘のホラ吹き話、私は誰の物語にもならないわ」
「っ……、言ってることが無茶苦茶だ! 答えになってない! まるでお前の言ってる事は!」
「裏切りの勇者みたい?」
悪女の様な歪んだ笑い方ではなく、こちらの全てを知っているような不思議な表情。
黒猫を誘惑する、白き聖女が誘惑する。
しかしここには、可愛いお姉様がいた。
「何言ってんだお前ら、意味わからん」
聖女に聖女が微笑む。
「分からなくていいわ賢治、貴女はそれでいい。貴女は何も知らない方が強い、例え心を読む敵が現れても貴女が素直なら意味はない、今の私にはもうない力。だから貴女のことは私が守るわ。無償の愛じゃないわ、いえ無償の愛なんて存在しないの相手を求めてる時点で無償じゃないんだから」
「何かの人生論か? 無償の愛の云々は俺もそれには同感かな」
「同じ魂だからね、まぁ私が言いたい事は優奈ちゃんと仲良くして欲しいって事なのよ。これから貴女の前には色んな障壁が立ちはだかる、いつでも私が守ってあげられるとは限らない。だから私以外の仲間がいた方がいいのよ、それが七緒ちゃんでも良いわ、これから会う顔も知らない誰でもいい」
「なんかお前死亡フラグを立てまくるキャラみたいだぞ」
「ふ……それなら安心して! 私はもう死んでるからこれ以上は死なないわ!!」
(死にそう!)
「ん?」
パキン、
異音、それにいち早く気がついたのは優奈だった。
「!! お姉様! ごめん!」
「え?」
バキン! 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
それは一瞬の出来事、では無かった。
異物、骸骨の大群、一瞬で判別できる怪物と言われる様なバケモノ達が地上10階のベランダに這い上がってきていた。
正に死の大群。
「アンデッド?!」
ついゲーム上の敵の名を口にする。
「死霊系魔術? 昨日のクソガキと違う!」
黒猫少女がようやく敵の判別を始める、彼女の異世界の知識、魔術的知識その全てをフルに思い返すが適合しない。
(なんだ? この骸骨の大群は? こんなのなんの意味がある? 無機物を操るなら剣を無数にぶん投げればいいだろう。なぜわざわざこんな異様な傀儡の様な魔術を使う? 無駄だらけだ、それともこの世界特有の伝承系魔法か? いやこの世界に魔法はないことにされているそれは確認した! ならばこれは)
「未熟な魔術か! お姉様! 失礼します!」
「うえ?! ちょ、え?」
そう判断した瞬間、お姉様を、賢治をお姫様抱っこして壊れた玄関の方に急ぐ。
だっだっだ!!
拒否権なし、とんでもない速度で廊下に出て下に駆け降りる。
「ちょ、アンネを置いてってりゅりゅ!」
「舌噛みますよ!」
「そんな事よりアンネを! がぶっ! んぎょおおお!!」
舌噛んだ。
思いっきり噛んだ。
(嗚呼、だから言ったのに……ん?)
その瞬間、黒猫は理解した。
最優先すべきは自分の命、その次にお姉様の命。アンネのことなど知ったことではない。
そして敵はさほど強くない、ならばお姉様を助ける余裕くらいはあるはず。
そう考えて現在廊下を出て外部の階段を前段飛ばしで五階まで降りたのだ。
その道中にお姉様が舌を噛んだ、その事実が計算を狂わせたのだ。
目から涙を潤ませ頬を赤らめる聖女、そんなモノを抱いて女である彼女に何も起きないはずなどなかった。
「ぐへ、うへへ、舌噛んだ! でもそれよりアンネを助けてくれ! アンタ強いんだろ?男を抱えたままあんな動きができるんだ! だから頼むからアンネも助けてくれ! あいつなんか変だった! なんていうか」
「男などどこにいるのです?」
我慢の限界だった、しかしそれでも宝物の様なお姉様をその場に置いていくのはもったいない。その程度の認識だった。
さっきまでは。
「ゆ、優奈さん?」
お姫様抱っこされながらその表情を前にしてしまった。
それは獲物を前にした肉食獣の姿、送り狼、それが目の前にいた。
「いただきます❤︎」
骸骨の事など忘れてもっと最悪な化け物である御姉様に魅了された哀れな黒猫がねっちょりした長い舌を近づけてくる、犯る気満々である。
「ちょ?! お前!」
ご、ドサ!
一瞬でファーストキスを奪われると判断した賢治は身をくねらせ猫の様に黒猫少女から離れた。
しかし数歩分の一定の距離は保ちその場から、黒猫少女から賢治は逃げなかった。何故ならば。
「ガ、我慢できません❤︎ こんなのずるい、でも貴女の唾液が!」
「……アンネを助けてくれ。そしたらお前の願いを叶える」
この瞬間、賢治は己のプライドを捨てた。
その姿はまるで聖女の様だ。己の体を犠牲にして誰かを守ろうとする健気で侵し難い尊い姿。
もうなんか黒猫少女の目には後光すら見えてしまっていた。
その瞬間、理解した。
(やっぱり聖女じゃねぇか!! 何が俺は男だ、だ! この大嘘吐きめ!)
そうだこの嘘吐き聖女こそが新たな白き聖女だという事を知った。
「お姉様!!」
「何やってんだ?」
片膝をつき服従のポーズを取る。
それは異世界で誰にもした事なかった。
体が自然に動き、そうするべきと理解してその形になったのだ。
「お、俺はおと……」
「お姉様! 時間がありません、お戯れは後ほど! 私を今から簡易的に隷属してください! 術式は私が作ります、陣は貴女の血と唾液が代価となります。ですからその私にいうこと聞かせたかったら貴女の唾液と血を私にください! どんな手でも構いません! 地面に吐いた唾でも構いません! お願いします!」
ドン引きである。
「ええ……いやそれどころじゃないな、わかった手の甲に」
ドン引きしたが一瞬でそんな暇はないと理解して、噛んだ舌から滲む血とまとわりつく唾液を手の甲につけて黒猫少女に差し向けた。
「こ、ここにキス、をば!」
言い切る前に何も言わずに聖女の手を掴み本能のまま手の甲についたそのご馳走を舐め尽くす。
じゅぷちゅ、ちゅちゅ、ぶちゅううう、
わざと大きく音をたてる。
一瞬で全て呑み込み、恍惚の表情を浮かべ聖女の手を舐める。
その肉の柔らかさ、フェロモン、そして聖女のオーラ、その全てを下品に舐めて舐めて、味わった。
時間にして1秒。
その瞬間本来は1時間はかかる簡易的な魔術が一瞬で構築された。
(ああああ❤︎ すっごい! こんなのはぢめて!!)
そして直感した。
自分の優先順位が変わる。生きるために死ぬという選択肢、矛盾、その全てが『お姉様の為』となり、新たなる力を目覚めさせると。
[魔法少女システム起動]
[対象・異世界の名無しの少女、偽名谷戸優奈]
ウィンドウが出現し賢治に了承を得ようとする、それは。
[アルバシステムを谷戸優奈に適応しますか?]
「はい」
選択に時間はかけない。
ゲームとは違うエフェクトではない光りが優奈を包み、黒衣の魔法少女を顕現させる。
元のブカブカの服が消え、体のラインを見せる上質な絹の様な布が幾重にも折り重なるスレンダーなドレス、肌の露出は抑え目に、長スカート長袖の魔法少女の服は賢治の好みを反映している。
肌の色や顔が変わったりはしないが特徴的だった黒いエルフに種族が戻ってる、耳も長い。これも多分お姉様の好みを反映した結果であろう。
(すごい、肉体の減衰化が解除されて元のステータスに回帰している!これが、これがお姉様の聖女の力!)
ヴィイイイン、
そして、黒猫の眼前に魔法少女に必要なステッキが現れた。
そう、救助対象のアンネが出現するのであった。
目的の完遂である。




