第3話 ⑧[奴隷と書いて妹と呼ぶ]♡
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『こ、これは! もう都市じゃないか!』
石畳の地面はアスファルトに変えられ、下々の街人は4世紀前のウィルスなどに苦しめられていなかった黄金時代の先進国の出立ちだった。合成樹脂繊維の服を着ている。
家はそれらの技術を見ると時代錯誤感はあるものの前日の煉瓦詰みの家ではなく石膏の様な建材で作られた丈夫なものになっていた。
「アレ? っていうか魔剣の姿でいいの? 昨日みたいに魔法少女の姿になりなよ、可愛いじゃん」
『俺は男だ!!』
「ははは、その言葉僕が教えたんだけどもうケンちゃんの言葉になってるなぁ、あの頃はよく女の子に間違えられて誤解を解く為に言ってたけど、なんだか今じゃ男だって嘘ついてるみたいに聞こえちゃうなぁ! あはははは」
『俺は男だ!! ふざけんな! 確かに異世界じゃ俺は女にしかなれないけど俺が男なのはアンタがよく知ってるじゃないか!」
「…………ああ、……うん、そうだね君は間違いなく男の子だよ。それだけは絶対だ嘘もない」
可愛い我が子をあやす様にまた魔剣を撫で始めるとまたまた声にならない声で唸る。相当に嬉しい様だ、きっと今魔法少女になったらメス顔になっている事間違いなしだ。
(子ってなんだよ! 成人男性だっての!)
その成人男性の姿が既に男っぽくない事に気がついていない、フリをしている。
というか先日女の子を手籠にしてゆりゆり空間にノリノリで調子に乗っていた悪い女と同一人物なのか疑わしい子供っぽさだ。
『そういえばあの黒いエルフの女の子、今頃どうしてるかなぁ?』
「え?」
『ん? 何?』
思ったことと違うことを言い始めた息子の言葉に不安を感じるパパ。
「何って、あの子君の所に転送されたんじゃないの?』
当然そういう展開のはず、だがそんな事は賢治は知らない。
『は? いやそんなわけねーじゃん古典少年漫画の読みすぎだよ、黄金世代が好きだったんだっけ?』
会話を広げようとする口下手な女の子の様に可愛いケンちゃんの自然な様子に、想定した別の出来事があったとパパを不安にさせる。
「あれ~? あの黒ギャルっ子絶対ケンちゃんのエロオーラに魅了されてたから、絶対そっちに転送された筈なんだけどな~?? 絶対あの子メス堕ちしてたよケンちゃんに、絶対エッチなことになってると思ったんだけどな〜?」
『エロ漫画のみすぎっ! っていうかあんなかわいい子を黒ギャルとか言うな! あれって綺麗な肌を電子光線で焼いてたんだろ? 四世紀前のおぞましい風習じゃないか! あんな蛮族じゃないよあの子は!』
「ば、蛮族って……まぁケンちゃんはああいうの好きじゃないと思うけど言い方酷くない?」
(この様子だと僕に嘘ついてるってわけじゃなくて本当に来てないんだなぁ)
『それより聞いてくれるか!? やっぱりあの女アンネのアホは油断ならない!』
「!? 何かあったの? ……あのバカ女何をした!」
(うーんやっぱりオヤジの奴アンネの事何か知ってるんじゃないか?言い方が優しい、なんかムカつく)
女の勘の様に鋭いケンちゃんのパパセンサーが働いている。
『あいつ絶対七緒と共謀してこのゲームの何かしらの接点を持とうとしてると思うんだよね!』
「なんでそう思ったんだい?」
『いや、聞いてくれよ今日起きたらさ……』
そして無駄話が始まり1時間以上自分中心にモノを言って肯定しか許されないトークでパパをうんざりさせるのであった。
◆
『ちょっと聞いてるの!? さっきからうんうんしか言ってないじゃないか!』
「う……うんでもさ何か言うと怒るじゃん?」
(こういうのは奏美に似なかったんだなぁ……)
『今母さんの事考えてただろ! また俺と比較した! 俺は男だ』
(勘がいいのは似てるよなぁ……)
もうそれしか楽しむ要素がない、冷静に場の空気を読むのなら10年ぶりの親娘、ではなく親子の再会なのだから積もる話もあったのだろうが流石に積もりすぎだ。
「えーと話をまとめるとアンネ、ちゃんにいつも通りセクハラされて、いつも通り七緒? ちゃんにいつも通りストーカーされてて、いつも通りにいじけて僕に泣きついてきたのかい?」
『いつも通りってなんだよ! 七緒に関しては単に俺の予想でストーカーじゃないかってちょっと考えただけだ! でもアイツは心の芯はいい奴なんだ! 多分俺の思い過ごしだと思う』
(嗚呼、思い出したぞ七緒ちゃんってあのヤンデレストーカーっ子じゃないか、ケンちゃんがチョロいのを良いことに何度も騙して愉しんでる一際ヤバイ子だ、うん完全に騙されてるね!このチョロインは)
「あーうん、ケンちゃんはもっと人を疑う事を覚えた方が良いかな?奏美の教育が足りないのかな?もうちょっと自分が女の子に狙われてる自覚を持って……」
『もういい!! オヤジまでアンネと似たような事言いやがってもう知らん!! 二度とこんなゲームしてたまるか! あほバカ!』
「えええ……ケンちゃん!幼児退行して……」
ぶつんっ!!
瞬間、ログアウトしたわけでもなく強制的に現実に賢治は返された。これからも大好きなパパと何度も一生ゲームをしたいケンちゃんが1時間くらいでゲームを終わらせるわけがない。
(ンゴ?! これは向こうで俺の体に何かあった時の反応だ!!)
フルダイブは一種の夢の中の様なものだ、現実世界で何かされれば起きてしまい強制的にログアウトされてしまう。
例えばお腹の上に黒猫少女が急に乗っかったりしたら起きてしまうだろう。
◆
ゴム、
お腹に重みを感じる。
「微妙に重い!」
「おはようございますお姉様!」
聞いたことのある現実には初めて聞く声。
幼さが少し残りつつも意思の強さを感じる少女の声、アンネとは違う純粋さ、七緒とは似つかない従順な声色。
「ん? 君は黒猫?黒エルフ、じゃない?」
「はい!」
黒猫少女は賢治の持っていたボーイッシュコーデの服に着替えていた。
秋用の服で少し布地が多くてブカブカだ、しかしそれがある種のかわいさを出し賢治を魅惑する。
「え?ええ?あの子、ゲームの、アレぇまだ寝てるの??!」
辺りを見回すと七緒とアンネが床に倒れているを確認した。
「七緒! アンネ!!?」
「あの曲者どもですか? お姉様が寝ているのを良いことに結託してエロい事をしようとしていたのでぶちのめしました! あ! 私あの後割と早いうちにこの世界に転送されたんですけど着るものがなくて何着か服を借りました♡ 寝ていたので起こすのが忍びなく無断着用になってしまった事をお詫びします♡ すっごく良い匂いがしまふ❤︎ ぐへへへ❤︎」
そう言われて自分の体を見たら上半身がひん剥かれて半裸であると把握して顔が青くなる、そしてズボンのベルトが緩くチャックが半分開けられていた。多分黒猫ではなく信用ならない白銀美少女と変態幼馴染の仕業だ。
黒猫少女が助けてくれなかったら?と、さらに顔が青くなる。
「助けてくれてありがとうございますっ!」
先ずは二人のバカ女の凶行から助けられたことを感謝する。
「いいえ♡ こんなの当然の事です♡ 私はあなたの奴隷妹です! 奴隷妹がお姉様の処女ぐひ❤︎ 守るのは義務です! な〜んかアイツらお姉様の性別を確認するとか大嘘ついて完全にやっちまおうって雰囲気でした!」
「うん! 俺は男だけどありがとう!」
彼はこんな酷い目にあった数分後にはこの恐怖を直ぐに忘れて人を信じてしまう、チョロインと呼ばれる所以だ。
どうせ直ぐに騙されるんだからと知ってる女子は嫌われるのを覚悟して襲いにかかる、そのループを全く理解していない。アホの子である。
「んん? お姉様ぁ♡? またご自分の性別を偽るのですかぁ! いけません! そんなのいけません!! こんなにメスの匂いを撒き散らしておいて小汚いオスを騙るなど! ダメです、ダメです♡ ダ メです❤︎」
大股で跨られ乗っかっているお腹から熱を感じる。黒猫妹の体温が一箇所だけ急に熱くなってる様だ。
この状態の女子を賢治は何百回も見ている、いつもは同級生の女子にされてきたから「いつものイジメ」と言い訳できるがこの子はそうではない。顔を合わせたのはまだ2回である。
(そういえば名前もまだ知らない)
「あー! そうだ! そんな事よりなんで君がこの世界に来たか考え……」
「私が貴女のそばを私の居場所と定義したからデスゥ!! そして私の名前は優奈!! こっちの世界に来てから戸籍も得ました! 貴女の妹!!! として異世界転送してきました!!!!! どうぞお見知り置きを!!」
顔が一気に近くに、笑いながら近づく。
「え? ええええええええええ??!」
この日から賢治は優奈と名乗る色黒肌の美少女と二人の姉妹となってしまう。
(俺は男だ!)
「その可憐な声♡ どう聞いても女の子じゃないですか? やっぱりお姉様は大嘘吐きです❤︎」
魔法少女の魅力にメス堕ちした黒猫がご馳走を狙う目で見つめている。
金色の瞳の穴を開閉させながら、まるで獲物を狩り取る前の肉食獣の目つきでお姉様を魅つめている。
じゅるるり、
黒猫の口端から下品な唾液が溢れ、七緒より長い舌でベロリと自分で舐めとった。
「お姉様♡ ベロちゅうしていいですか?」
「な!」
了承を得る間も無く、その熱気の籠った唇とながい舌が近づいて来た。




