第3話 ⑥[黒猫少女現る]
◆
2人のトークタイムは1時間を超えた。
『取り敢えず俺は全部オヤジが魔法少女をやればいいと思うんだよ!』
「おおう……何回目かな? その話」
まるで問題の解決は二の次で彼氏に了承してもらいたい面倒な彼女の様に何度も何度も同じ話をする。
『何度でもするよ、俺は納得してないんだから』
「だからさ、何度も言うけど僕は転生先のゲームが優先だからさ。それにトラック転生した僕にとってそっちの世界なんてどうでもいい事なんだよね、全部ケンちゃんの物語なんだよ」
『だからさそう言う変に冷たいのがオヤジのダメなところな訳よ! せっかく10年ぶりに会った息子の為に一肌ぬごうとか思わないわけ?』
「いやいや、ケンちゃんの言い振りだと僕何回も魔法少女にならなきゃいけないじゃないか?確かにちょっと楽しかったのは認めるけど何度も何度も魔法少女になるなんて僕は嫌だよそんなの』
『かぁーっ! そういう事じゃないのっ! そういう言葉の揚げ足取りしないで!』
なんだか本当に面倒な女みたいな感じになっている。
(本当母親にそっくりだなぁ、子供の頃こんな感じだったよ)
そういうと確実に怒るのでパパは言わないのであった。
『大体ゲームが優先って言うけど何が大変なんだよ! まったり街が栄えるのを観察するだけのヌルゲー、いやスローライフじゃん! 何も大変じゃないじゃん!』
(めんどくせぇー)
顔に出てしまう。
「えーと、そうだね。例えばあそこに武器屋っぽい建物があるじゃないか?あそこに行っても『強化する武器はあるか?』 ってNPCの親父に言われるだけでイミフな施設だったんだけどさ、実は……」
『そんな事より魔法少女の件! はぐらかそうったって騙されないぞ!』
(もっと建設的な話をしたいんだけど……)
こんな感じで話が堂々巡りである、単純にパパとお話がしたいだけのようにも見える。というか絶対そうだ。
「あの時は本当に緊急事態でさ、万が一にもケンちゃんの命がかかってるんじゃあさ僕だって父親として戦わないといけない訳だったのさ、でもさコレからあの変な怪人みたいなのが現れても僕はいちいち対応は出来ないよ? 来るとは限らないし来ないとも限らない。ただそれだけの話だろ?」
折れない、ここで折れたらダメだと知っている45歳バツイチ。
『あ、あんな恥ずかしい事をもう一回もしてたまるか! でもオヤジの話じゃアンネは信用出来ない女なんだろう? だったらせめてまたあんなことになってもオヤジが戦ってくれよ! なんかすっげー強かったじゃん! あんなに強いなんて知らなかったぞ!?』
「僕にとってはそっちの世界はもうゲームみたいなもんだしね、それにああいう戦いはフルダイブゲームでやりまくったからなんとなくだよ、っていうかケンちゃん僕がそんなに強くないの知ってるじゃん」
『ん? 何言ってんだよオヤジはリアルでもめちゃくちゃ強かったじゃん? 普段から隠してるだけでさ? あんな巨大ロボを倒せるとまでは思ってなかったけど』
「ええ……意外な高評価ですごいプレッシャーだよぉ」
多少困ったような表情で少し笑う。
そんな親子の会話のほんわかした時間、完全に油断したその時だった。
ドッゴォオオオ!!
唐突な轟音、何かが爆発する様な音がした。
[侵入者が現れました]
突然正志の前に現れるゲームの様なウィンドウ画面、賢治にも見えている。
街人達は状況がわからずゲームキャラの様に棒立ちしている、彼らは意思のない人形の様なものなのだろう。
[第0壁を物理的干渉とカウンター魔術で突破しています、確実に高レベルの戦士です、気をつけてください]
「へぇ、カウンター使いか。賢者タイプだな」
そっと呟き邪悪な表情を浮かべる、そんなパパを見た事のない彼は少し不安を覚えた。
本当にこの男は自分の父親なのか? と。
「ククク、僕の身体はきっとチートで出来ている! こういう時はそういうのがお決まりだろう?! ケンちゃん! 僕の力を見てて!!」
(嗚呼こういうのは変わらないなぁ、やっぱ親父だわ)
『ってかさ、侵入者って何? このゲームって拠点制圧的なゲームなの?』
「ゲームじゃなくって異世界さ! そして僕だけ入れる街でガンガンレベル上げて外に侵略するとかそういう奴だよきっと!! ラノベで見たから知ってるんだ!」
『うわぁ、そういう発言をリアルで聞くと引くわ、ゲームとリアルを混同するなよ』
いろんな方面の方々に喧嘩を売っていくスタイル。
取り敢えず自分の父親は煽っている。
「冷めること言うなぁケンちゃんは、こう言うのはノリだよ? 深い事は考えない、リアルは二の次、脳みそ溶かしてバカになって勇者になったつもりでゲームを楽しまないと! お酒とかタバコと一緒だよ」
『どっちもヤラねぇよ』
タバコは吸おうとしていた事は内緒である。
「ああ、奏美そういうの禁止させてたっけ? うーん今でも発揮される毒親っぷり、さすが奏美、僕の愛する女だ」
(やっぱり未練たらたらじゃねぇか)
この間も普通に何かを破壊する音がしているが二人とも余裕である、息子はゲーム感覚、転生したオヤジはチート前提の楽観思考、もしこれがリアルだったら二人ともでかいフラグを抱えていることになる。
まぁリアルなのだが。
「どこだぁあああっ!! 神聖勇者!!!」
ばきごぉおん!!
声がする、女の声だ。
高く幼い声だが、よく通る大声である。
「おお! 女の子の声だ! きっと僕のチート能力が発動して倒される女戦士だよ!なろう系ってやつで死ぬほど見た! これからきっといっぱい女の子を隷属させてハーレム物語が始まるんだ!!」
『マジムリ! 勘弁してよ! そんな父親の姿見たくない! グロい! 昔の人はどんなどんな顔してそんなもの楽しんで見てたの?」
「だからさ、深く考えちゃダメなの。自分の欲求に正直に、ただその場のノリでなんとなく、だよ」
話しながら走る、抜き身の魔剣を腰に抱えていつでも使える体勢でいる。
フルダイブゲームで慣れているのだろうか?まるで歴戦の勇者の動きだ。
『ってか神聖勇者ってなんだよ、古代ローマでしか聞かないな「神聖」なんて言葉』
「紀元前ではよく使われた言葉だよねぇ? なんかオラわくわくしてきたぞ!」
『訴えられろ! 少しは緊張感ある事言ってくれよ! 俺にはそっちは異世界だけとそっちはリアルだろ?』
「ははは、こういうのは慣れだよ。僕はゲーム慣れしてるから戦いが始まっても緊張感なんかないね、変にそんなもの持っても体が硬直して邪魔さ。決まった動きしかしないスポーツなら緊張してもいいけどこれからするのはただの殺し合いじゃないか?」
『…………!?』
違和感の正体。
それはやはり世界感の違いだ。ゲーム世界にいるオヤジ殿と現実世界にいる賢治の命の価値観、まるでリセット前提の様なオヤジのセリフに違和感以上に嫌な予感がした。
「そうだな神聖勇者、お前に取って人殺しなど慣れた事だろうさ。何せ何千万の命をその手で直接殺した化け物なのだからな」
[女戦士が現れた]
ケンちゃんが一目見た女戦士の印象は『黒猫』だ。
創作物でとかで出てくるダークエルフ。
耳が長く肌が黒く腰の先のお尻にまで届くストレートロングの髪の毛も黒い。しかし顔の造形はアフリカ系の黒人のものではない。
まさに創作上の生物、エルフの顔の形、シャープにキレのある顔で金色の瞳がとても綺麗だ、唇の皮が薄くピンク色に染まっている
かなりの美少女である。
「しんせーゆーしゃ? なんの事? 誰の話をしてるの? いきなり意味不明なんだけど?」
間髪入れずツッコミを入れる、この男一切緊張していない。
『なんかこの子……、いやなんでもない』
戦士と言っても鎧で固めたガチガチの格好でない。
黒い肌に密着した赤のラインと黒地のレオタードの様な鎧をしている、下半身に軽いスカートの様な形をした鋼の鎧を、スレンダーながらも健康的な肉体、そして育ち盛りの割とふくよかな胸に鉄の様な薄い軽い当て物をして最小限度急所を守る装備をしている。
武器らしきものは持っていない。
ケンちゃんは『エロい』とか思ったがそれは内緒だ。
「もしかして女の子に欲情しちゃった? ケンちゃん」
『!?』
内緒だったがスケベな目で見ていたのはバレバレだ、流石に緊張感を欠く発言だし自分も悪いと思っている。
「何度でも言うよ、ハーレムに情緒も倫理感も要らない、ただ自分の価値が他人の何倍もあったってだけの話なんだ、だから僕はこの世界の誰より何億倍も可愛い息子の為に女子を生捕りにしてあげるよ」
最低の理屈である。
『そんな、事はするな!俺はオヤジに、異世界で死んでほしく無い!』
父親に死んでほしくないケンちゃんにとって、欲情してしまった事はバレたくなかったことだ、きっとふざけて戦場に足を踏み入れる、そういう予感があった。
つまり米田正志は戦う理由を欲しがる戦闘狂なのだ。
だから魔法少女というオヤジも誰も死なない戦場で戦って欲しかった、父親思いのいい娘なのだ。
「そんな事言わないで、ケンちゃんは昔から女の子にモテるし女の子が大好きだからね、我慢しなくていいんだ。うん、やっぱりこの子はケンちゃんにプレゼントしないと。この子を倒してこの子を奴隷にしよう、ちょっと遅めの就職祝いさ❤︎」
(やっぱり!!馬鹿野郎!)
死に直面する当事者であるはずのオヤジ殿は全然緊張感などなくふざける余裕すらあった。
だがその笑顔はケンちゃんの望む父親の本来の姿だった。
黒髪ロング黒い肌…………コラボ先で迷惑をかける子とは無関係です。




