第3話 ③[美少女の本分]♡
「お前……いやあり得んわ」
ドアを吹っ飛ばした事、どうやってこの寝室に来たのか? 普通にあり得ない事ばかりだ。
「あ、あんたこそあり得ないわ! その、不純、女、その女!」
さっきまで前世の女に籠絡されていたとは思えない身の振りだ。
しかしそんなケンちゃんの事などどこ吹く風、全く合わせる気などなく自称聖女の美少女は全く焦る事なく来訪者に向き直りベッドから降りてメンチを切る様に顔を近づける。
目に見えて敵対しているが賢治は気がついて居ない。
そして先に手をうってきたのはアンネだった。
「私、お兄様の遠縁の親戚です。現在は訳あって谷戸姓を名乗っています安音、安心の安に音色の音で安音と申します。どうかお見知り置きを覗き魔さん♡」
「? お茶?」
何の事かさっぱり分からないケンちゃんは首を傾げる、可愛い。
(ば、バレてる!!)
変態同級生の弱み、それはケンちゃんへのストーカー行為だ。
昨晩からではなくこのアパートに引っ越してきてからずっと、ずぅうっと隣で盗聴や服ドロボーをしている、そして当の被害者はそのことに全く気がついていない、今まで通りの何でもない同級生として見ている、それがケンちゃんの今の表情で読み取れてしまう、チョロい。
(バレるのはダメなの! 私自ら最高のタイミングでバラして裏切られた時のこの子の表情を堪能するのが私の長年の夢なの!! それを昨日今日きたばっかのこんな少女にバラされるわけにはいかない!)
最低の同級生である。
そしてアンネは全てを理解している、それは今でなく以前から。
賢治の記憶を見て予測もついたし昨晩から感じる視線、それにより確信したのである。
というか気がつかないケンちゃんはかなり鈍感なのかもしれない。
(くっくっくく、これで聖女の王とまで呼ばれたこの私の言いたい事が伝わったはずよね? 鈍感ケンちゃんに貴女の性癖を今バラされて長年のお楽しみを台無しにされたくなければこっちの話に合わせなさい)
そう最初から誤魔化す気などなくケンちゃんを囲い込む勢力を逆に利用しようという算段だったのだ。
最悪の前世女である。
「そ、そう貴女ケンちゃんの妹なのね? こ、これからもよろしくー(棒)」
「ああああ!! お前何してくれてんの?!!」
いつのまにかベッドから玄関まで移動していた借主がひしゃげたドアを見つけて大声を上げた、声が若干高く姿が見えないとやはり男っぽくない。
見えても男には見えないが。
◆
「いや、なんか変な声がドアから聴こえてきて開けようとしたストンってドアが内側に倒れたのよねー」
大嘘である。
愛しのケンちゃんがレイ❤︎されそうになったと勘違い(?)して思いっきり腕力でドアの接合部ごと筋肉でぶっ壊したのである。
「嘘つけ! なんか悪戯的な事しようとして破壊したんだろっ! お前はいつもそうだ! 体育の授業で水着に着替えてたら更衣室の鍵ぶっ壊して入ってきたり! 修学旅行の時も個室に『パジャマパーティーだ!!』 とか意味のわからないこと言って大勢でドアをぶっ壊したり!! 文化祭でチョコバナナ店の準備をしていたら鍵かけてた教室に窓ガラス割って侵入してきたり!!! くきぃいいいっ!! 今思い出しただけで腹立つ! お前のせいで俺は同性の友達がいないんだ! 挙げ句の果てには男から『女豹』とか訳のわからんあだ名をつけられたり!!」
ヒステリックになった女の相手をする彼氏の様な表情でアンネと七緒はため息を漏らす。
「お兄ちゃん、ドアの一枚や二枚でそんな大騒ぎするなんて男らしくないわよ〜? 女々しい〜」
(女々しいどころかつい先日女体化してしまったけどな! お前のせいで!)
お兄ちゃんと呼ばれ少し満更でもない表情である、やはり可愛い。
「ひょほほ、懐かしいわね。今だから言うんだけどね〜アンタって結構モテてたのよ? 気がついてなかった様だけどね」
「は?」
からかわれている、そう思った。
だからいつものように反応した。
だがアンネも七緒も真面目顔である。
って言うか今ニ対一である。
「お兄ちゃん、正直に言っちゃうけどね、うん、多分そう言う自分の事をわかってない所が他人を傷つけてる所あるわ」
「何言ってんだよ?」
「賢治は私の言ってる『可愛い』がからかいとか暗喩だとか思ってるのよね、そのままの意味なのに、っていうか自分がどれだけ男子にとって敵を作る存在か理解出来て無いのよ、本当に罪作りな子」
「何言ってんだよ!」
男と思われていない、その自覚はある。だがそれは性の対象として興味がないと言う意味だと誤解している。
「お兄ちゃんっていつも鏡見て自分の事可愛いって思わない? 私は思うわ、だって私美少女だもの。私もお兄ちゃんも」
「そんな事思った事ない」
嘘である。
スキンケア商品、顔剃り、眉を整える化粧品等今でも買っていて未だに美顔を維持する努力を惜しまない。『男もそう言うことするし』と心の中で言い訳をして。
迫ってくる、一歩一歩2人の女が美少女みたいな男を自演する魔法少女に詰め寄ってくる。
「「嘘つき」」
「嘘じゃねぇよ! なんなんだよ」
ドアを壊されて憤慨していたが2人の女は一切怯まない、だってただ可愛いだけだから怖さなどないからだ。
むしろ今恐怖を感じているのは男のはずの賢治である
「ねぇ? 今日の賢治昨日より可愛くない?」
「うん、お兄ちゃん可愛い♡」
2人が賢治を見る目が異常、そう感じた。
しかしこの状況、賢治には既視感がある、いつの事かは思い出せないがたまにあったような、そんな事を考えながら一歩下がる、だが2人とも二歩進んで近づいてくる。
「やめろよ、な? もうエイプリルフールは終わったんだぜ? そんな、な?」
猛獣、二匹の猛獣と兎の状態だと理解した。
「もういいや」
そう言った同級生の行動は凄く早かった。
ダッ、
一歩、下半身はその動きだけだがそれだけで眼前の美少女を抱くのに充分だ。
「ぐへぇ!」
「もう嫌われてもいい♡」
美少女とはもちろん賢治の事である、体勢を低くしてチーターの様に獲物を刈り取った。
ずぎごご!
床を滑る様に居間に持っていく、激しいお持ち帰りだ。勿論美少女を傷つけない為に腰を抱いて少しだけ浮かせている。
バキン!
しかし獲物を食べる為に一気に床に押し付けて体の自由を奪う。
「うぎゃあ!」
「いい声で泣くのね、賢治ちゃん」
微笑みぺろりと唇を潤してこれからする事の準備を開始した。
「いただきます❤︎」
見たことのない同級生の表情、女の顔、だがそれは自分に向けるべき顔ではない筈だ。
そう思い込んで逃げていた。
しかし逃げる事は女の本分ではない。
女の本分は受け入れる事である。
起きる全ての理不尽と自分に対する欲望を受け入れよ。
「ざけんな!!」
お腹に殴りかかる、自称男が女の子にしてはいけない攻撃だ。
だが。
ボム、
まるで岩に殴り込んだ様な腹筋の感触、一切ビクともしない、七緒は絶望した美少女の顔に……満面の笑みを浮かべ堪能していた。
「抵抗されると興奮しちゃうぢゃない❤︎ 分かっててやってるでしょ?」
もう我慢できない、極上の獲物を前に猛獣はその柔らかそうな唇へと下卑た血の滾る長い舌と唾液で濡らしまくったグロい唇を近づけた。
「ただの幼馴染じゃいられない!」




