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第3話 ①[夢]♡




 この物語はフィクションです。

 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません、また特定の宗教や思想、学問を貶める意図はありません。

 深い、とても深い森の中だ。


(私はだれ?)


 そう囁く彼女は聖女、長い髪に光りそうなくらい輝く白銀の髪色をしている。


「アンネねぇさん!」


 聖女はその声を聞いて振り向いた、聖女の後ろには数百人の信者。聖女を世界を救う正義の聖女と信じた者達だ。


 聖女のすぐ後ろは幼い少年達と少し顔が歪んだ女性達。


 彼らはとても弱く、彼女らは()()()()()()()()だ。


 ここは、この世界は強者が君臨する世界。

 息をする為には強くならないといけない、弱く無能な者は淘汰されていく世界だ。


 聖女はそんな彼らを拾った。


 力ある者なら心折れず戦えよう、力があれば知らぬ土地へも進めよう。

 だが私はそんな事も出来ない、ただの弱者を拾った。


 彼らは彼等なりに夢もあり目標もある、彼女らは向上心だってある、それでも才能ある者には敵わない、願いも叶わない、そんな虐げられるべき者を集め聖女は彼等彼女らを心の底から救いたいと思う。


「本当に魔王様は私らを受け入れてくれますか? 特に私たち半魔物は嫌うって聞いたことあります」


「だぁーいじょうぶよっ、私と魔王はただならなぬ仲なんだから口添えして村を作ってもらう許可を貰うわよ! 本当は中立のエルフの村がよかったんだけどね、エルフの村は……まさかあんなのが正体だなんて知らなかったからねぇ、自由意志を奪われるわけにはいかないから魔王しか選択ないのよ」


 今世界は魔族と非魔族、つまり人間との世界戦争の最中だ。

 こんな時に弱者達の生きる術などない。


「どうしてエルフの町に置いていってくれなかったんだ!」


 一人の少年が少女を背に乗せて私を睨んでいる。彼はこの移動に一番食い下がった子だ。


「クルス………」


 戦争で両親が死に妹が病気になり、奴隷になる事も出来ずに兄妹共に死ぬ所を拾った。


「あそこは食べ物も! 土地も! 交易だって何もかもが理想的所だった! アンタが何を気に食わないにはかは知らないけどだったらあそこに置いていって欲しかった!」


「……クルス、理想的な世界なんてないわ、理想は叶えられないから理想なんだから。」


 聖女はなるべく分かる様に伝えたかったが、どうにも彼女はそういう教育だとかが苦手だ。


「そういうトンチは聞きたくないっ!」


 短髪小僧のクルスはわたしの言い分が気に入らないらしい、まぁ当然といえば当然だと思うが、流石にあの村に置いてけぼりは拾った責任者として看過できなかった。


「おいクルス! いい加減にしろっ! お前の妹が生きながらえているのは間違いなくアンネ様の創られる聖アイテムのおかげなのだぞ!」


「煩い!! 魔物のくせに人間に意見するんじゃない!」


 クルスは十代前半の様相で幼い、だがそれでも既に人外に対する差別意識は強い。


「私を悪く言うのは構わんがな、もう終わった事をグダグダ言うのは時間の無駄だぞ。前に進め」


「な」


 魔物の女性はガキの言った事もなど意にも介さない、口論など無駄だと察している、誰もが自分の立場に答えを持っている。ソレを立場の違うものが何と言おうと答えは変わらない、変えようとするだけ無意味だ。


 ただ一人、絶世の美聖女を除いては。


「大丈夫よクルス、貴方の立場は理解したわ。次は貴方の自由意志を尊重するわ」


 何か言っていた気がするけど彼女が何か言う前にクルスは列の後ろに逃げてしまった。



 暫く森の中を歩き彼女の昔の記憶にある魔王城へと着いた。


 魔王城と言ってもただの魔王の実家、禍々しい作りでも何でもない単なる城だ。


 そうは言ってもかなり広く、最新の建築技術で作られたものだから築年数は十年もない、はっきり言って人間側の作ったお城の方が禍々しくてボロい。


 顔見知りの聖女は顔パスで中に入れた。


 同行した人達は流石に入れなかったので魔王城の門の中の居住区で待ってもらうことにした、やっぱでかいなぁここは。


 聖女は我が家に帰ってきた気分で足取り軽く、()()()()()()魔王の間に進んでいく。


 ハッキリ言おう、彼女がここにきた9割の理由は魔王に会いたいからだ。


 (私はあの子だけの変質者)


 しかし聖女はもう少しへりくだらなければならない。


 (じゃあなくって私はあの子だけの人質)


「おい! アンネ! お前よくも巻き込んでくれたな!!」


 巨大な扉の前で開けようとウキウキしていたら突然背後から魔王の澄んだ声が聞こえる、どうやら背後に回り込まれた様だ。


(想定内♡)


「御免なさい、クレイ」


「魔王様と呼べ!」


 血の様に紅い艶のある細い髪、長いソレはまるで流血の様でもあり炎の様でもある。


(白く美しい肌と豊満なおっぱい、張りもあって()()揉み応えがありそうだ。グヘヘへ。)


 そして何と言っても一番特徴的なのはその邪眼と呼ばれる紫色の瞳だ、すごく吸い込まれそうに闇が深い。


(眼球を舐めてしまいたい。グヘヘへ)


「ぐぬぬぬぬ、アンネお前またエロい事を考えているだろう?」


「いえいえ、ただ私は変質者ゆえ、常人からすると挨拶ではすまない事を考えてはいるかもしれません」


(なんかこの人見たことあるな)


 混濁する。


(アレ? 私はアンネ? いや違う、()()………)


 意識が混濁し夢オチが終わりを告げようとしている。


「どうしたアンネ?」


「いいえ何でもないわ、久しぶりすぎて感極まっちゃって、またエロく、じゃなくって美しくなったわね」


「やっぱり変なこと考えておったな!!」


「グヘヘへ」


 アンネが微笑むとその子も微笑んだ。


(俺はこの赤い髪の子を知っている)


 一瞬で理解できた、この子が魔王だと言うのなら…………。


(アンネの言っていた魔王ってのはまさか………)


 そこまで考えると俺の意識が夢のアンネから離れる、闇が背後から襲ってきた、捕まり一歩も前に進めないのに二人の後ろ姿だけが前へ前へと逃げていく。


(待ってくれ、ソレは()記憶(もの)よ。)

 (逃げないで、もう私から何も奪わないで!私は私よ!)

  (俺から逃げられると思わないでっ…………)


 流れていく記憶の繋がりが起床しようとする身体の流れに逆らえず元のカタチに帰っていく。


(………奪うな、逃げるなっ! 俺はなにも逃さないっ!)



 ◇




 西暦2500年4月2日 07:00


 日本 賢治のアパート


「さないっ!」


 賢治は起きるなり大声を上げて左手を天井に突き出していた。


「知ってる天井だ」


(元ネタは知らないがオヤジが言ってた決め台詞みたいな奴だ、結局あの後親父の転生先で何時間か遊んでたんだっけ、頭いてぇ)


 意識と肉体の齟齬により起きる頭痛、フルダイバーはみんなこの頭痛に悩まされる、何度もやっていくうちに体も意識も馴染んでいくが、一般人はそこまでフルダイブをしない。

 心身共にダメージの少ないアッパーダイブが主流だ。


 はむはむ、


(なんだかさっきから右手が重い、なんか、? 動かない)


 ずちゅうううう、


 妙な水音が聞こえる側を反射的に見るとそこには信じられない光景が。否、信じたくない光景が広がっていた。


 白銀の美少女が赤ちゃんの様に自分の指の全てを咥えて離さないのだ。


 ありえない吸引力でバキュームし「こりこり」と指の骨を歯で撫で恍惚の表情、と言うには上品な表現と言って差し支えのないだらしない顔だ。


 蕩け切ってやがる!!!!


「ぎゃああああ! タコ女ぁああっ! 死ぬうう!」


 遠い日の思い出…………。


 賢治は沖縄の修学旅行の時海で女子に (七緒に)タコを投げつけられた時のことを思い出していた。吸盤がひっつきヌメヌメが取れないトラウマを植え付けられたのだが、未だにその事を女子の悪ふざけだと勘違いしている。


 その時のタコの変化しない目と顔が今のアンネと重なった、力の限り引っ張るが賢治の非力さではアンネのバキュームに敵わない。


「な、な、なんの冗談ニャンだ! ふざけんにゃ! 今離せば許す! 殴ったりしないから! ……は!」


 それは悪手だ。


 かぶ!


 二人とも噛んだ、そして賢治は悟る。眼前のタコ女もとい変質者は打たれたり傷つけられるのが大好きな変態でもあったと言う事を!!


(ならばこの指絶対に渡さない! 一生しゃぶり尽くしてやろうそして殴って♡ 永遠に)


 偉く男前な表情で、ケンちゃんの腕を吸い込もうとしているタコ女の意思が喋れなくても心で伝わった。


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ざまぁ転生 〜ざまぁサレ役のイケメンに転生した作者の俺、追放されず復讐も諦めたのでヒロイン達のゆりゆり展開を物言わぬ壁になったつもりで見守りたい、のに最強ヒロイン達の勘違いが止まりません!〜

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