間劇 「ププッピドゥ」❤︎
ジャアアア、
アンネは限界を超えた量の食べ物をお腹に入れた。と言ってもかなり残してしまった、そして料理人はその後片付けをウキウキに、自分以外の洗い物をしている。
「あははは、やっぱご飯は誰かと食べないとなぁ。美味かったか?」
「美味いですけど量が、ぐぷゅ」
美少女がしていいゲップではない。
「……先にお風呂入ってこいよ、俺後片付けしてるから」
「否! 断じて否!! 誤魔化そうとしてもダメッ! 一緒に入るっ! ケンちゃんの体を洗うっ! 貴女がお皿を洗うように私もケンちゃんを洗うわ! 優しく! エロく! そして殴られたいっ!」
「殴らない! い、一緒にお風呂なんて入れるわけないだろ! 恥ずかしくないのかよ! 俺は男でお前は女の子だぞ!」
「私たちは同一人物よ? 間違いがあってもひとりオ❤︎ニーみたいなものよ!」
賢治の顔が引き攣る、当然だ。
「女の子がそういうこと言うな!! さっさと風呂入ってこい!」
「ちぇ、は〜い」
◆
(シャワーの音が聞こえる、童貞の俺にはこのシチュエーションはキツすぎる)
着替えを用意している、ボーイッシュコーデの服だが。
(念のため洗濯機に入れるものは分けておこう、年頃の女の子なのだおっさんの俺と一緒に洗濯されたら嫌だろうし)
その自称おっさんの着た服を一切迷うことなく着ている変質者の心根など純粋な賢治に分かるわけはない。
新しい服を畳んで置いておく、完全にお母さんである。きっと将来は良いお嫁さんになるだろう。
「将来良いお嫁さんになるわ!」
「ひゃひん!!」
急に背後から声が! 当然だが風呂場に背を向けていたので忍者のように忍び寄る妹に気がつかなかったのだ。
「良い声で泣くわね!」
「アンネさん!?」
心の中の声がそのまま出てしまう。
「んふふふ、私は貴女の変質者、神出鬼没、予測不能、こうやってすぐに裏切っちゃう♡」
賢治側からは見えないが酷く歪みきった笑みを浮かべている、自称聖女のして良い顔ではない。
ギュッと背後から濡れた体で抱きついて身動きを取れなくしてやった、これでもう逃げられない。脚を兄と呼ぶ相手の股下から出す。
「お姉ちゃん♡ どうしたのかしら? さっきの食器みたいに私を洗ってよ」
失礼、兄ではなくお姉ちゃんだった。
「ば、ば、バカ! 冗談はよせ!」
背中から感じる女性特有の肉体の柔らかさ、カタチ、その全てがデータなどではなく実際の肉体であることを無駄に証明している。
「冗談? 私は変質者、どんな犯罪行為だって本気中の本気よ? 良い加減自分が女の子に狙われる女の子だって自覚をしていた方がいいわ? 貴女気がつかないにもほどがあるわよ?」
「何の話だ?!」
ぎゅうう、
筋力は少女のものではない、そして賢治は非力である。つまり今その気になればお姉ちゃんは妹に❤︎されてしまう、詰みである。
「隣に偶然貴女の幼馴染みで同級生の女の子が引っ越してくる? 偶然隣の部屋に? 偶然に貴女のパパの遺品を届けに来る? ねぇそれってどんな確率なの?」
「何を……」
表情が陰る、どうやらちょっと思い当たる節があったようだ。
「へぇ、ちゃんと勘づいてはいたのね? でも貴女は勘がいいのに直ぐに人の善意を信じ過ぎてしまうのよね? そういう所嫌いよ、もっと疑りなさいよ、寝込みをおそわれててもおかしくなかった時が何度あったと思ってんの? 本当はさっきの寝室のドアだってぶっ壊せたし、悪意ある人間は貴女の信心を平気で裏切るわ」
賢治の側からでは見えないがすごく冷たい表情をしている、だから足で体勢を崩してお姉ちゃんを押し倒した。
ドサ、
「何を、するんだ?」
その表情を目の当たりにした、美少女の肢体など目に入らなかった。
その自分以外の誰にも見せたことのない冷たい表情に夢中になってしまった。
「ねぇケンちゃん、そんなことじゃ私みたいに死んじゃうわよ?」
見惚れてしまった、その死を超えて自分に訴えかける自分の前世の綺麗な顔と冷たい表情。賢治はそういう人の本質が顕になった芸術品を好きなのだ。
そう、今美少女は芸術品となっていた。
「賢治、今の貴女凄く綺麗」
そう、鏡のように今どっちも美少女になっていた、何故ならば彼女達は魔法少女なのだから。
「私は貴女、私は美少女にて聖女、私は私が好き、それは元の世界でも一緒、私は私に愛されたいの、他でもない貴女に。そして私だけを愛して欲しい、キスがしたい、私に他でない私である貴女に、私は私にキスして魅たかった、キスされて魅たかった」
歌のように告白する。
言い慣れた様に、誰にでもいう様に聖女の声で言った。
「やめろ」
「舌出して、めちゃくちゃにしてあげる」
「ふざけんな!!」
どしゅ、
両手で思い切り押し飛ばす、非力ではあるが聖女は華奢で軽い直ぐそばに押すことくらいはできる。
ドサ、
尻餅をついて柔肌がぷるんと震える。
「酷いじゃないお兄ちゃん妹に暴力振るうなんて」
言いながらもドMの妹は嬉しそうに紅潮している、変態で変質者だ。
「ごめ、いや! お前が悪い! 俺はキスは愛した人とだけって決めてるんだ! だからファーストキスはお前にやらん、俺は自分が嫌いだからな! お前も嫌いだっ!」
「え?」
「あ……」
前世云々の話を完全に信じていないと出ない言葉、そして『自分が嫌い』という言葉にアンネは疑問まみれといった表情だ。
(可愛い、でも今日はダメみたいね。ああ〜処女って面倒くさいわ)
「……ファーストキスを大事にしてるの? 貴女何歳よ、きっと周りの人に大事にされてきたのね、でももうその考え方は通用しなくなるわ、貴女はもう」
「煩いっ!」
ピシャリ、と風呂場のドアを閉められた。
「貴女と私はもう魔法少女なのだから」
不屈の精神で悪魔のように聖女は笑う。




