間劇 「4TH WAVE」
姉妹ごっこに賢治らが勤しんでた頃彼らの行動によって世界中でてんやわんやの大騒ぎになっていた。
西暦2500年4月2日 02:00頃(日本時間1日11:00頃)
アメリカ ジョージ邸
『またニッポンでウェーブが起きたぞ!』
『ハハハ、今度はトーキョーに落ちるんじゃ無いか?』
『笑えねー』
高さ2メートル、広さ4メートルくらいの巨大なブラウン管テレビが壁に埋め込まれている。
世界情勢をコンマ数秒の時間差なく見るために純粋に映像出力のみの変態仕様だ。
これ以上に変態なのは思いついた本人が自作している所だが今は詳しく話す意味はない。
ジョージは項垂れている、お気に入りのソファーに座りながら現場の被害の拡大を確認している。
ジョージはこんな時の為に一応の準備はあった、アルバの心臓ともいうべき人工衛星群全てを爆破するためのスイッチ、しかしそれはある素敵な現象を見た自分が感情的になり撤廃してしまったのだ。
つまりアルバを殺す為には地上から大気圏用ミサイルで撃墜するしか無いが流石のジョージもそんなものを個人では、持っている、持っているがその場から車で走らせて約2時間後の場所にある。どっちにしろこの事態は避けられなかった。
「いや、どちらにしろ私は娘を殺せなかった、未だ何も行動していないのがその証明だ」
独り言では無い、もう一人キャロルがいる。
「まぁ、私もそう思います。しかしだからと言ってこの事態を何もせず傍観できるほど貴方は一般人では無い、ヒーローと呼ばれた科学者ジョージ、貴方の動きは私の監視下でのみ許されています」
「嗚呼そういえば君は元はスパイだったな、思考を読める私に送り込まれた無意味なスパイ」
公然と二人きりではあるにしろ衝撃の事実を軽く言う。
「その特技は未だに報告してません、していたらアルバちゃんに捕捉されますから、しかし私も高給職は失いたくは無いのでスパイごっこを興じていますが、それでもこの事態は流石に報告しなければなりません」
一切動揺しない、スパイはスパイとバレないのが大原則だがジョージにはそんなものは通用しない、というか興味がない。
自分の研究に邪魔さえ入らなければ暗殺者だろうがスパイだろうがマフィアだろうがなんでも良い、そういうアバウト過ぎるスタンスなのだ。
だから彼女が何処からのスパイなのかもどうでもいい、心をそこまで読まないし興味が無い、予想はある程度ついてはいるが質問もしない、危うきには近寄らず、触らぬ神に祟りなし、である。
(大方CIAあたりだろうな)
「んーそれは一向に構わないが事態の収集はおそらく国家の力を使っても無理だ。断言する、アルバが本気になれば世界を牛耳ることも可能だ、感情を持つAIとはそれくらいに厄介だ、どうしても抵抗するには5世紀程文明を後退させ体内のナノマシンを排除して端末機を情報ツールの手段にしなければならない、ヨコハマにある知識の泉を除けば現在地上にあるネットワーク上のサーバーはゼロだ、宙空の全ての人工衛星サーバーは全てアルバの支配下にある、ぶっちゃけどうにもならん、白旗をあげねばならない」
しかしそれでも、ジョージの瞳には炎が宿っている。
どうにも出来ない状況、世界の危機、そんな状況であっても彼は諦めない。
「何か策はあると言った顔ですね?」
「ああ、私はニッポンに行く。そして知識の泉の概要を解き明かす」
知識の泉、旧名横浜市に建設された謎大きオーバーテクノロジー。
世界の大概の人間がジョージの発明品だと思っているが実は違う、彼は一切知らない、突然現れた技術だったのだ。
「知識の泉ですか? しかしあそこは浪川財閥の管理する独裁地域、国家権力ですら太刀打ちできない、侵入すら不可能な所です。公表はされてませんが正規兵であるアメリカ陸軍が潜入しようとしたら全滅したらしいです。」
「!? そんな事言って良いのか君!」
「大丈夫ですよ、それにこれから世界を救う為に殴り込みに行くんでしょう?私もお供しますよ、あの可愛い魔法少女とやらにうつつを抜かしている様だったら無視してましたが娘の為に征くというのなら話は別です、何のかけひきなしに貴方に尽くしましょう」
普通なら主人として嬉しいはずのメイド長のセリフだがジョージは少し疑り深い。
「……何を企んでる? まぁ別についてきても良いけど。」
母親に来て欲しく無いのに授業参観に来られた子供のような表情である。一応ジョージの方がかなり年上のはずだが。
「そうですね、ちょっとあの魔法少女が気になるんですよ」
「うつつを抜かしてるのは君じゃ無いか、なんだ? また少女をとっ捕まえて『私がお姉ちゃんです』とかいう気かね?」
「そうかもしれません何故ならこの世界の17歳以下の少女はみんな私がお姉ちゃんですから」
「ごめんもっかい言って、意味も文脈もわからなかった」
「さぁフォースウェーブを止める為にジャパンに行きますよ!」
誤魔化すように急かすキャロルにジョージは目を丸くする、彼女はとてつもないミスをした。
「ジャパン? ああニッポンの旧名か、だがかなり古い言い回しだな? その名を使う国はもう無いはずだが……君は一体何歳なんだね?」
300年以上前に使われなくなった呼び名を普通に使ってしまったのだ。
「女性に年齢を聞くだなんて失礼すぎますよジョージ!」
まるで弟にお姉ちゃんが怒るようにキャロルは可愛く言った。




