第2話 ⑦[世界の真実]。
「それより聞きたいことがたくさんある! 先ずはあのベランダだ! さっきの魔法で治してくれたのか?」
魔法少女の時より細い指で指し示すとそこには何もなかったかのようにいつも通りベランダが存在していた。
「アレは、そうですね先ず認識を改める事から始めた方がいいわね、ケンちゃんはこの世界をどう思う?」
「どう思う? ってなんだか意味の範囲が広すぎて訳わかんねぇよ。」
「……そうですね、やっぱこう言う説明って得意じゃないのよね私、では質問を変えましょう、この世界に魔法はあると思う? 科学を超越し奇跡と呼ばれる現象を操る術、魔術、そう言ったものはあるかと思う?」
そんな非常識な質問に賢治は当然の様に答える。
「あると思う」
「そうよね? あるわけ無いわよね? その気持ちはわかるわ……今なんて言った?」
「あんなの見せられてるってのも抜きにしても俺は魔法が無いとは思ってないよ、常識を試される場面とか相手次第じゃ陰謀論と同じ扱いして大体否定するけど、アンネさんはなんて言うか、その、他人じゃ無い気がする。生まれ変わりだとか言われたからかもしれないけど、本当はその事だって否定する気がないんだ。」
意外な回答であった、だが真実しか言ってこなかったアンネにとって、そして説明下手と豪語するアンネにとってもこの回答は嬉しくて都合が良かった。
「というかね、俺が会社を大連休したのだって何かがつっかえてた気がするからだよ、本当はアンネさんの言うことが嘘だと思えない、ただ俺の知ってる常識とは乖離してるから今まで信じてないフリをしてきたんだ、ゴメン」
少し顔を逸らして賢治は心のうちに隠していた気持ちを吐露した。
(ああ、やっぱりね)
「ケンちゃんは嘘つきですね? でもやっぱり私の生まれ変わりなんだなって思います、だって私も嘘つきですから」
前言で聖女だの嘘つかないだの言っていた女の言葉では無い、しかしそのアンネの微笑みを見た賢治は思う。
(今までの嘘つき顔より聖女っぽい表情になるなこの人、基本美人だし)
「察しの通りですがこの世界に魔法はあります、魔法のない世界はありません。観測者が存在する限り魔法が成立し魔術を行使する者が存在しますつまりですね、そのうーんと」
言葉を選んでいる感じだ、何も知らない筈の人になんと言えばいいのか分からないのだろう、そうこの世界の人間は魔法を知らなすぎるのだ。
「ん? 魔術を使える人間が居るって事はその人はなんでそれをひけらかさないんだ? 隠す理由ないよな? 例えば足の速いものは陸上部に入るし頭の良い者はテストでいい成績を得る、実力を秘匿するスパイみたいなのは居るがそれでもこの世界にスパイが居るという事くらいは世界中の皆が知っている。力には何かの形として必ず現れる筈だ、今回の事件の様に強大な力を持っている人間は例外なく持ってる力を表に出す、それがなんでない?どうして魔術を行使する人間がいない事になっているんだ? あり得ないだろ?」
しかし賢治という可愛いこの子だけは違う、魔法少女に選ばれたこの子だけは世界の常識に囚われないという異能に近い思考形態を持つ。
「やっぱりあの子の娘ね」
「?」
時折見せる何かを懐かしむ様な表情に賢治はドキッと心を踊らす。
(この人変な性癖さえ出さなきゃ惚れちまうくらい魅力的なのになぁ)
変な性癖を表に出させている自覚のないその可愛い子は罪深い。罪深い賢治。
「ケンちゃんの言う通りよ、でもこの世界にはね魔術を隠す魔法が支配してるのよ、さっきのベランダみたいに魔法少女が壊した魔術の痕跡なんてのは自動的になかったことになっちゃうのよ」
「魔術を隠す魔法? ってか『魔法』と『魔術』って違いがあるのか?あるから分けたんだよな?」
アンネは首を捻る。
「んー法律が魔法でソレを行使するのが魔術ぅみたいな? あーでも使う魔法もあるしなー、んー説明むずいけどぉ……まーとにかく魔法少女になってここからどんなに無理な魔術で部屋をぶっ壊しても魔法で元に戻るって事! 敷金礼金の心配は必要ないわ!」
大分説明を端折った感じだ、だが賢治にとってはアパートのことの方が重要なので詳しく聞いたりするのは断念した、そもそももう魔法少女になる気などないから、この世界に魔法が有るかどうかなど、今の時点ではどうでも良いことだったからだ。
「あ! って事はもしかしてロボットとの外の被害とかも元どおりなのか?」
そうだ、と思いついた様な表情でアンネに聞くが彼女の表情は少し固まる。
「あーうん、それはなんというか、その、予想外というかなんというか、えーと。ぜ、全部ケンちゃんが悪いんですからね!」
「あ?」
一瞬でガラの悪い表情になりアンネを睨む、しかしご褒美を貰ったメスの表情で迎える最早コンビ芸人だ。
「あのですね? ケンちゃんの魅力と魔力が凄くって♡ 世界の魔法が手出し出来ないんです! つまりですね、本当だったら全部なかった事になってもおかしくなかったんですけど、ケンちゃんのあの魅力的な魔法少女の姿が凄すぎたから世界中の皆が今戦々恐々としているし喫驚仰天、取り敢えずひっちゃかめっちゃか大騒ぎです」
アンネのからかいを無視、それより賢治が気になったのは『無かったことに』という言葉だった、しかしそれよりも。
「なかった事に? いやそれよりあの女体化姿が何だって?」
そんな事より聞き捨てならないことがあった。
(ま、まるで見られてたみたいな言い振り!!)
「ああ、言ってませんでしたっけ? 魔法少女デビューですよ、アルバちゃんが全国ネットワークを支配してあられもない魔法少女の姿を強制鑑賞させたのです! 安心して! まだたったの数千万人だから! 拡散してるけど」
(〜〜〜〜〜っ!!)
顔が真っ赤である、その場で倒れそうなほど恥ずかしい様だ。
「ま、まぁまぁまぁ、姿は違うし? 別に俺が身体を動かしてたわけじゃないし? バレてないし? それにもう二度と変身しないし?」
その答えにアンネは憤怒する。
「な〜に言ってるんですか? これからも怪人どもが現れるし命を狙って来ますよ? 今回は体験学習みたいなものなんですから次から本番❤︎ですよ! 大好きなパパはもう使えません! 次からはケンちゃんが世界中の人たちを魅惑しないと!」
「……これは言いたくなかったけど、その宣言を聞いたからには黙っているわけにはいかなくなった、次また俺をあの変な格好にしたらまた雑巾絞りするぞ? それが嫌なら」
「よっしゃぁあっ♡!! 来い♡!! ご褒美じゃけぇのぉお♡! ドゥンドゥン魔法少女にしてやるぜぇええ♡♡!!! ………あ♡」
感情を表に出しすぎた、賢治の嫌悪の表情が恐怖の表情へと変わっていく。
「も、もう絶対粗末に扱わないっ! 籠の中の鳥みたいに丁重に扱う!! もう絶対にひねらない!!」
その言葉を聞くなりさらにいやらしい表情に変貌し嬉しがる。
「放置プ❤︎イだなんてまた高等テクニックをするなんて♡ケンちゃんはいったい私をどこに導こうというの?♡♡♡」
「帰れ!! 出て行け!! アホー!! もうお前はウチの子じゃありません! くきぃいい!!」
いつの間にか家族扱いしていたアンネの背中を押してアンネを部屋の外に追い出そうとする。
「ふふふ♡ 想定が甘いわね私にとって捨てられるという事はむしろご褒美♡! 今わたしを追い出したところで数日〜一週間は玄関前で正座待機するなんて容易に出来るわ♡! そんなわたしを見て知らない人が侮蔑した目で見る事を想像したらそれも私にとってご褒美♡だという事を知りなさい♡♡!!」
「お前何がしたいんだよぉおお!!」
ついにキレた、見た目の年齢は十代そこらだがなんとなく年上だと勘付いた賢治。
しかし度重なるカウンター的セクハラの数々にストレスマッハ。
「シたいんじゃなくてぇ♡サれたいんですよ♡! ケ♡ン♡ちゃん♡」
「変態!」
ジト、と睨むがその顔もまた可愛い。
「違いますよ賢治! わたしは変態じゃありません! 変態は自己完結出来ますが私はそうじゃない! 私は貴女の変質者なのですよ♡ ぐひぇひぇひぇひぇ♡」
自論を掲げて自虐する、しかしその瞳と言葉に嘘はなし。
賢治の選択肢に逃げるもなし。
なぜならここは自宅のアパートだ、絶対に逃げられない。
魔王の話も有耶無耶にされた。
だがそんな事は後から考えてもどうでも良い事だった。
何故ならば。
〈アンネの次回予告〉
さぁさぁ!なんとなくで始まりなんとなくで終わった魔法少女デビュー回!
どうせそこら辺の補填は間劇でやるでしょ!?
なんて間劇観劇雨あられ!!
さてさてそんなこんなで予告の話題をケンちゃんに変えられたけど結局無駄な抵抗!誰もお前みたいな大好物ほっとかねぇかんな!!
さて今日というエイプリルフールはおしまいです!話は一気に明日へ!隣の自称寝取られ女、七緒ちゃんがやってくる、帰れ!
ケンちゃんどいてそいつ◯せないっ!
なんてのは冗談で共犯にしてやりますけどねぇ〜、ああでもそんな幼馴染みとの時間もなろう怪人()の横槍ならぬデスマーチで台無しに!?
次回! 第3話!!
ああ3話!! 魔法少女! でも安心して吹っ飛ぶ首は二話で一気に決めさせてもらったから安心よ! まだまだフィナーレには早すぎる! だからもう何も怖くないわ!! ではタイトル!!
『名無しの黒猫』
次回も見てくれないとお前も魔法少女にしちゃうぞ☆




