余談 『メイド少年』1/2
西暦2447年9月某日。
「はぁ………」
メイドはため息をついていた。
いつもの業務、鬼才奇才超天才の発明家ジョージ・J・ジョンセン (14歳)に群がろうとする有象無象、あらかじめアポをとって来るなら良いのだが割と何も考えずにアポ無しで面会を強行しようとする者も少なくないのだ。
中には誘拐して言うことを聞かせようとする犯罪者もいる。
そういった人間を肉体言語という淑女的説得でお帰りいただく (たまに涅槃行き)のがメイドの仕事だ。
ジョージ少年にそのような雑事に関わる暇などない。
(だというのに)
メイドの前には女子がいた。
年はジョージ少年と同じ14歳、ストレートの赤毛の女の子で白人、藍色の瞳の一見すると真面目そうな女子中学生だ。
彼女の身分は確認している。
レーサ・アヴェンス、ジョージと同じ中学校に通う中2の生徒会長だ。
そう、ジョージは中学校に在籍している。
既に有名工科大学卒業相当の学力は大学側から勝手に授与されていてもはや中学校など行く意味はない。
だがこの時代、中学校までは強制義務となっている。
健全な精神は健全な体、そして健全な人付き合いからというのが今のアメリカ全州の基本理念でいくら大学が動向しようが義務は果たさなければならないのだ。
大卒の学力があっても中卒できないのである。
同年代との平均的で常識的な付き合いがこの世界では突出した才能よりも大事なのだ。
だがそれは世界の価値観であってジョージ・J・ジョンセンの価値観ではない、別に小卒と言われようとも彼の人生になんの影響もない、学力とはそういうものだ。
だからこそキャロルは目の前の少女に価値を感じない。
学校の行事にジョージを参加させようというレーサの言葉に意味を見出せない。
「もう一度言ってくださいますか? レーサさん、中2で生徒会長になられ生徒の模範となるべき貴女の口からちゃんと聞いておきたいのです」
生徒会長はメイドの前で腕を組み得意げに、胸を張って堂々とドヤ顔で言った。
「学園祭に出て欲しいのです!! そして私たち2のBでジョージくんに活躍して欲しいのですよ!!! 『男の娘メイド喫茶』の看板男の娘としてねっ!!」
メイドは冷たい視線を生徒会長に向けたまま沈黙する。
このメイド、口で脅すより沈黙で返す方が恐ろしいと理解してやっている、身長2メートルを超える巨躯、とんでもない威圧だ。
レーサは飼い主に見下ろされたハムスターの心持ちである。
「じょ、ジョージきゅんはめちゃ可愛いです❤︎ もはや女の子じゃないのが勿体無いくらい❤︎!! だからこそ即戦力として欲しいのですよ❤︎❤︎!! 学力とか清純さとか貞淑さとかなんとか古臭い伝統はどうでも良い❤︎!! ジョージきゅんに女の子に❤︎! いえ、男の娘❤︎❤︎❤︎になって乱れてもらいたいのですよ❤︎!!!」
瞳がキラキラ輝いて目つきが歪んでいる、そしてメイドの殺気でビビって足がガクガクしている。
「…………まぁいいでしょう、判断するのはジョージですのでもう一度そのふざけた妄言を本人の前で宣ってみなさい、生かして帰すかどうかはそのあと考えます」
メイドのため息と同時にレーサは息を呑む。
(よし! 取り敢えず生き残ったわ!!)
ジョージの同級生じゃなかったらおしっこ漏らすまで睨まれていた事は知るべきではない。
そして数分後、アポ無しの少女はふざけた妄言をジョージの前で一言一句間違いなく宣ったのである。
そしてジョージは椅子に座ったまま静かに少女を見つめる。
「よしわかった! クラスのために『男の娘メイド喫茶』やったろうじゃないか!! もちろんお望み通りに男の娘メイド役でな!!」
レーサ以上に被害者になるはずのジョージは眼を輝かせていた、しかしかなり純粋である。
メイドだけが思わぬ少年の反応に驚愕している。
レーサは『してやったり』と言った顔だ。
「な! ジョージ!! 自分が何を言ってるのかわかってるのですか???! 女装させられるのですよ??! 男としてどうなんですか??」
「応! ニホンHENTAI文化のひとつだろう!! 女の子にお○ん○んついてるような奴、それを愛でるホモ性癖!! 俺はなんでも知っているんだ! そして俺は可愛い! 女の子じゃないのが不思議じゃないくらいにな!! 一度やってみたかったんだ女装ってやつを、きっと似合うぞ〜!! 年齢的に14歳が限界だろうしな!! これはチャンスだ!! 一般民衆に俺が頭脳だけでない事を解らせるチャンスだ!!!!!!」
曇りひとつない眼で言った、言い切った。
(わ、忘れていた。この子は何にでも興味を示す命知らず、そして有言実行! そして事実しか言わない! 実際に可愛い、化粧なしでも女の子に化けられるくらいに!! ま、まずい! このままではジョージがHENTAI共に眼をつけられる!!)
黄金の髪の美少年は海の色の瞳を輝かせ新しい性癖を作ろうとしていた。
少年はなんでも知っている、だがしかし少年はあまりにも若く、興味のある事には子犬のように考えなく飛びついてしまう。
少年の興味の対象は科学や魔法だけではなく、自分の知らない全て『未知』にある。
「よし行くぞ! 同級生女子! 今から男の娘メイドの特訓だ! 共に青春を謳歌しようぜ!!」
この美少年やる気満々である。
「私の名前はレーサ・アヴェンス!!生徒会長よ! 今回の男の娘喫茶は反対意見が多いわ!! 先ずはそれらを黙らせましょう!! 大丈夫!ジョージきゅんの可愛いメイド姿を見れば男共はみんなホモになるわ (歓喜)」
「応! 全員ホモにしてやんよ!」
少年は立ち上がり委員長の思うがままに館を出ていく。
いざ! 登校!!
(ば、ばかな!!)
メイドは唐突に現れた少女に寝取られ (た気分になり)脳が破壊されるような衝撃を受ける!!
「ばかなぁああっ!!!」
◆
その後、学校に乗り込んだジョージは引きこもっていた挨拶などなしにメイド服でクラスメイトを男女の区別なく悩殺、反対意見を可愛さという暴力でなかったことにしたのである。(そのメイド服は館のメイドへの支給品で実用性重視の本物、怪しい店で買ったやつでは無い)
ジョージの可愛さは史上ない天才の貴重な脳細胞をフル回転して編み出したもので、あざとく自分が可愛いと分かってる動きであった、めっちゃノリノリである。
(ふふふ、まさかここまでやってしまうとは、ジョージきゅん恐ろしい子!!)
………………ちなみに委員長は意図してメイドには言っていなかったが、この『男の娘メイド喫茶』は“おさわり、セクハラ有り(有料)”モラル皆無の最悪のメイド喫茶である。
その事を知ったメイド、否、キャロルは学園祭に乗り込むことになる。
つまり学園祭を血祭りに変えようとしたのである。
「やはり筋肉…………!! 筋肉は全てを解決する…………!!」
筋肉というより単なる暴力である。
チャラメスガキとおねえちゃんとの仁義なき戦いが始まる…………? 次回余談『メイド少年』2/2に続く!!
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