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余談 『もろこし少年』

 西暦2447年8月某日。


 俺は史上ない大天才ジョージ・J・ジョンセン。

 14歳で既にこの世界の誰よりも天才だという自負がある。

 この世に何も怖いものなどない。


 何故ならこの俺に解明できないものなどないからだ!!


 この世の事象は全て俺の計算の外に出たことなどないのだ! そしてソレを証明する様に俺の気まぐれに作った発明品は金持ち連中に売れる。

 もう既に人生三周分くらいの金を持っている!!


 まぁだからと言って金を豪華な館にする様な趣味はなかったのだが、まぁ俺の才能が凄すぎてな! どうしても俺に会いたい人を待たせるための館が必要だったのだ!!


 そして使用人も居る! メイドも居るぞ! 全員この俺に尊敬の眼差しをかけるのだ!ふははははは!!



「はぁ…………」


 俺はかなり大きめな書斎で1人ため息をつく。


 前言撤回する様だが実は俺には怖いものが例外的に何個かある。


 その一つはさっき言ったメイドの1人だ。


 メイド長、キャロル。多分本名ではない。

 何かあればすぐに『筋肉は全てを解決する』が口癖の偉丈夫なメイド。

 性別は女だが身長は多分2メートルはある、しかしゴリラという印象はあまりなく白磁の様な肌とプラチナブロンズの髪にクールな表情が印象的な美人なのだ。

 まぁよく見ると腕が太ましかったり広背筋が凄かったりするが黒いメイド服であまり目立たない様にしている。


 メイド服、あのメイド長俺が支給したメイド服を意地でも着たがらず自分で用意したメイド服を着用してくる。

 どこで買ってるか分からないが支給のやつより質は良いんだよなぁ、黒を基調とした飾り気の少ないエプロンだしなんか奥ゆかしいというか、うん、まぁ美人だしな。


 ソレともう一つは…………。


 コンコン、


 自動ドアからノックの音がする。

 さっき言ったメイド長が慣らしているのだろう、彼女は体内にナノマシンを持ってないこの時代超珍しい人間だ。


 だからナノマシンを持っていることが前提のこの世界の一般的な建物は少し不便に見える。

 いや、でも昔の人はソレが当然だから不便には思ってないのかな?


「お客様がお見えです、開けてください」


「…………誰が来たの?」


 このメイドは時々アホな事をする。

 いつもなら客の素性と目的を簡潔に言って俺の判断をあおぐ、だがソレをしなかったという事は間違いなく面会謝絶さるとわかってこのメイドが誤魔化したのだ。


 思い当たる人物は1人しかいない、俺の怖いものの例外の1人。


「面会人は俺の親父か?」


「………………」


 返事をしないと言うことは肯定したのと一緒だ、このメイドはクールな様で意外と抜けてる事がある、咄嗟のウソが下手だ。


「またトチ狂った事を言いに来たのかあの耄碌、ああもちろん面会はしない、今私は仕事で忙しい」


 仕事があるのは本当だ、ちょっとした発明品だが物はできている、あとはクライアントにわかりやすい様に内容説明書を作るだけだ、五分十分で終わる簡単な仕事だが親父に邪魔されたくない。


「ジョージ…………せっかく父親が会いに来たと言うのに引き篭もるとはどう言う了見なのです?」


 アレ? 声がちょっとキレ気味マジトーン?


「ひぇ…………エフン! 引きこもりとか言うな、君の月の給金の何百倍もの依頼料の仕事なんだぞ? 私が引きこもりなら君たちはそんな私に養ってもらってる無能じゃないか!!?」


 あー、しまった。

 感情的になってしまったー。

 このメイド長相手だとどうしてもダメだな、14歳という年相応のガキみたいになる、俺は天才なのに。


「ジョージ、()()()()()()は怒りましたよ?」


 このメイドの一人称が『私』から『おねえちゃん』になった時、ソレは赤信号の合図である。

 以前私が変な宗教団体に攫われた時軽く100人くらいぶっ殺している。

 目の前で半裸のデブ親父の頭が、拳打一撃でスイカみたいに弾けたのは未だにトラウマだ。


 だが。


「お、怒ったからなんだって言うんだ! 俺が面会しないと言ったらしない!! その扉は特殊チタン合金製だ! 電動式の自動開閉でしか開けないクッソ重い扉だがそのおかげで君にも壊す事も出来ない頑強さを……!」


 そこまで言って気がついた、この俺の雑魚臭漂うセリフ、ニホンマンガで言う「フラグ」って奴だ。と。


 ズドン!


 バキコン!! ガララ!


 吹っ飛んでいった。

 蹴りの一撃で壁ごとチタン合金の扉が真上の天井に突き刺さってしまった。

 ちなみにこのドアはメイドの年収に相当する。


「ぎゃあああ!!! 化け物!!」


「ぬ、女性に対して失礼な。おねえちゃんと呼びなさい」


 俺の中で“おねえちゃん”という単語が“化け物”の代名詞になりつつある。


「そうだぞ()()()()、トタン板が壊れたくれぇで女になんて言い草だ、そんなんだから男らしくねぇんだオメェわ」


「………っち、クソジジィ」


 白髪混じりの金髪、腰を悪くして本来の身長より小さく見える五十後半の年相応の見た目で少し表情と雰囲気が厳格であるが、グラサンと農業用の作業服で台無しだ。

 何も知らない人が一眼見た感想だときっとただのジジィだ。


 だがこれでも俺の父親でもある。


 この天才を産んだ凡俗以下のクソ親父である。


 ニホンのコトワザにある『トンビが鷹を産んだ』という奴だ、全く信じられん。


「なんの用だよ、俺は忙しい。なにせ小1の入学式の日のうちに工科大卒まで上り詰めた天才だからな!! 本当は2歳の頃に出来たが仕方なく待ってたという奴だ!! そんな超天才発明家の私に? 一介の農家である親父殿は何ようかな〜? んー?」


 そうイヤミを込めて俺は親父に聞いてやった、だが親父は一切皮肉を受け止めずいつもの様に言った。


「農家継げ、ソレと学校行け」


「かぁー!! またソレか!」


 この親父は非常識な感覚で俺に常識を矯正してくる。

 小学校2日目から行く意味のなくなったのを伝えたら『不登校とは何事か!!』だ、そんで何かにつけて俺を農家にしようとしてきやがる!手伝いだと? ふざけるな給金を出せ! そう言ってやったらぶん殴ってきた、理不尽だ。


 意地になって俺の発明品で稼いでやったら『子供に金稼ぎは早い!』とか言いながらまたぶん殴る!!

 俺が反抗的だと思ったら口より先にぶん殴る!!


「親とは理不尽なモノなのですよジョージ」


「メイドは黙っててもらえませんかねえ?! あとドア弁償しろ!!」


「黙りません、そしてドアも弁償しません!」


 くっ! 殴られたことはないけどこのメイドはもっと理不尽だ! でも怖いからこれ以上は言わんとこ。


「ジョージ! 第一次産業を馬鹿にしてはいけません、お父様のとうもろこし畑を引き継いで美味しいもろこしを作って人を笑顔にするのです!!」


 ん? このメイド今笑ってないか?


「うちの畑デントコーン畑だよ??! 牛の餌用のもろこし!! 人様が食うもんじゃないの!!! あとなんで君そんなに乗り気なの? 俺君の雇い主だよねぇ??!」


「面白くて、じゃなくて親の言うことは聞くものです」


 今完全に面白そうって言おうとしたな?顔だけクールにしても意味ねぇぞ裏切り者め!!


「限度があるわ! 大体その農業だって俺の開発した全自動農作物全般機で完全管理できてるだろ??! 俺の、ってか人の入り込む余地なんてないんだよ?!」


 反論の余地もない大正論を親父に向ける。


「わし自分で直せて自分で運転できない機械って信用できん。いざという時裏切りそう」


 愚かな返答である。


「何百年前の考え方だよ??!! 今どきフルオート機能のない農具なんて流行んないよ?!」


「流行りなんか知らん、テメェで面倒できねぇもんに頼る気はないだけだ」


 このジジィは変なこだわりがある、そして変なのに完全に否定する気になれない。

 確かに今の農業は持ってる機械が壊れてメンテも修理もできなくなって廃業する、なんて話は珍しくない。

 ハイテクが必ずしも全能とは限らない、だけどこのジジィのこだわりは病的と言ってもいい、俺の実の父親とは思えない。


「取り敢えず今日は帰ってくれ! おいメイド長! 親父殿を丁重に送って差し上げろ!! 給料減らされたくなかったら言うこと聞け!」


「ジョージ、親と言うものはいつまでもいるとは限りません、せっかく来ていただいたのですから少しくらい話をしてもよろしいのではないですか? あと給料減らしたらこの館は解体します」


「余計なお世話だ、え? 解体? こわっ」


 このメイドはいちいち怖い事を言いやがる。


 この後数時間粘られたが何とか帰ってもらった。

 本当に今日は何だってんだ。




 ◇




 同日夜分、館前にて。



 憤慨した館の主により強制退去させられたその男は息子に反してあまり怒ってはなかった。

 何故なら息子の元気な姿を見れたからだ。


 これ以上に望むことなどない。


「ソレじゃあメイドさんありがとうよ」


 そう言うと男はナビもない骨董品の様な真っ黒い単車に跨る。


「大分立派なバイクですね? 確かハーレーダビットソンでしたっけ? 今度から入ってくださればこちらからお出迎えしますよ?」


「アンタみたいな若い嬢さんがこいつの名前を知ってるとはな、まぁお出迎えはいいや、俺の足はコイツだって決めてるからよ」


 メイドは微笑んだ。

 若い、メイドの年齢は目の前の男よりはるかに上だ。

 だがそんな事は気にしていない、若く見られた事を嬉しくも思わない、ただ目の前の男が大好きな少年の父親でその心が少年に負けずにまっすぐだと言う事に笑みが溢れてしまったのだ。


「貴方たち親子はよく似てますね」


 そうメイドがいうと男は少し驚き、照れながら語る。


「そうか? 周りのやつからは種違いなんじゃねぇかとか言われてよく喧嘩になるんだけどよ…………ま、流石に俺だってあのガキが優秀なことくらいは分かってるよ、農家なんかやらせるべきじゃねぇって事くらい、な」


「心配してるのですね? 父親として…………」


 メイドに核心をつかれ、心の中を吐露する。


「あの馬鹿は天才だが馬鹿だ、病的に自分の好奇心に真っ直ぐなんだ、未知への探究とやらに自分の命を天秤にかけやがらねぇ、普通なら躊躇する道を迷いなく進む」


「ええ…………」


 キャロルには思い当たる節がいくつかあった。

 知識の探究をやめさせ、とうもろこしで畑作りをさせた方がいいと思う展開が何度かあった。

 つい数日前魔術書に頭をやられた信者に捕らえられて変態ブタ男に大事なモノを奪われそうになってた、まぁ見つけて即スイカ割りしたのだが。


「その悪癖はどんなにぶん殴っても治らなかった、アイツは根っからの命知らずなんだ、だからよ、その、あいつが道を踏み外そうとしてたらアンタがあいつを殴ってでも止めてほしい…………なんかアンタになら頼める、そんな気がするんだ」


 その時の男は間違いなくひとりの親の表情(かお)だった。

 まぁ年云々以前に目の前のメイドが屈強だということくらいはわかる。


「そのような事頼まれずとも、無償でお受けいたしますよ。あの子が死んだら私、無一文ですから」


 メイドは笑う。

 優しく、父親の願いを聞き入れた。


「へ? あーそうか、言われてみりゃその通りだな、ガハハハ」


 その後2人は軽く会釈してわかれた。



 ◇



 館内書斎。


 扉をメイドにぶっ壊され風通しが良くなってしまったそこで少年は仕事を終わらせていた。


「ジョージ、お父様は帰りましたよ?」


「はー、やっと帰ったか」


 深いため息の後に少年はメイドをじっと見つめる。


「全く意味がわからん、俺の様な超天才にはあの様な愚か者の考えは読めん」


「照れ隠しですか? 両親に仕送りしてるのを私は知ってますよ?」


「にゅが!! 君は本当に生意気なメイドだな、っていうか何故俺の金の流れを知っている??!」


「おねえちゃんにはなんでもお見通しです」


「え? おね、え?何キレてんの?なんで?」


「はい?」


 突如恐怖のパワーワード(おねえちゃん)が少年の脳を襲う。


「だって“おねえちゃん”って“お前を殺す”って意味だろ!? 俺はなんでも知ってるんだ! ひぃ!! どうか命だけはお助けを!!」


「何を言ってるのかわかりませんが全然怒ってないですよ、だって私は世界中の17歳以下の少年少女のおねえちゃんですから」


「言ってる意味がさっぱり分からん」


「そうですか?もろこし少年」


「んな!!」


 突然のあだ名に少年は頬を赤くし眉間に皺を寄せる、可愛い。


(うーん、可愛い)


「なんですか?それとも“ジョッジ”と呼んだ方がいいですか?」


 メイドはドヤ顔である。


「やめてくれ、親父以外に言われると、その………恥ずかしい」


 少年の頬はさらに赤く涙目になって困った表情になる、メイドの嗜虐心をくすぐった。


(虐めたい、でもダメ、私はミステリアスなおねえちゃんなのです)


「ではいつも通りにジョージと呼びます、私の事はおねえちゃんと呼んでください」


「それは嫌だ」


 この日、少年の中で“おねえちゃん”という言葉が恐怖の対象から僅かに外れていった。


 そして心なしかおねえちゃんは少し残念そうな顔をしてる様に見えた。



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よろしくお願いします!


プライベートがひと段落してやっと描き始めています、新編スタートはまだ未定ですが只今執筆中です。

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ざまぁ転生 〜ざまぁサレ役のイケメンに転生した作者の俺、追放されず復讐も諦めたのでヒロイン達のゆりゆり展開を物言わぬ壁になったつもりで見守りたい、のに最強ヒロイン達の勘違いが止まりません!〜

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