余談 『楽園』
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません、また特定の宗教や思想、学問を貶める意図はありません。
『我は憎む、この世界の魔の法を』
『我は憐れむ、この世界に生まれた柵の中の羊の様な子らを』
『我は愛する、神を信仰し十字の柱を原罪として平穏を願い地獄のこの世界をすごす未来の信徒達を』
『故に我は世界と同一化し我の夢を現象化する、させる、強制する、我の願い、我の全て、そして我が友の人生を賭ける』
『我らは世界の魔法を呪い、現象する全ての魔に立ち向かう、清浄なる世界を作り、やがて楽園へと全ての信徒を誘う』
『我が友ヨハン・ノウ=ダーネストの決意と信念に我の血と肉を捧げる』
『顕現し君臨し続けよ、封印侵食型固有異世界【Garden of Eden】────』
◇
そして彼は召された。
ここから先は彼ではなく異世界人のお話だ。
おおむね計画通りに物事は進んだ。
世界の柱となった彼は肉体を世界に捧げた、しかしそれは肉体がなくなると言う意味ではない。
目に見えない速度で光の様に分解し神速で再構築を果たして見た目は同じだが中身が以前とはまるで違う化け物になったのだ。
後にその化け物は多くの人から“目覚めた人”などと呼ばれ遠い未来までその名を轟かせることとなる。
以前と何も変わらない思想と性格に記憶、見た目、神の様な力を得たその化け物は異世界人の愛した頃の彼と何も変わらない。
しかし異世界人のヨハンは彼を愛さない。
何故なら目覚めた彼はもう以前の彼ではないと知っているからだ。
記憶も、趣向も、信念も変わらない、だが魂が違う。
神の子となった彼は死んで生まれ変わり違う魂が入った別物、人は死んだら生き返らない。
その事を異世界人は知っている。
そしてそれは証明できる。
依然とまるでステータスの適性が違うのだ、それは魂の性質が違うことによって引き起こされる現象だ。
適正値は魂が元となっている、それが全く違うと言う事は彼が召され、元の世界には戻ってこないと言う事だ、目の前にいるのは愛した男と同じ別の生き物なのだ。
「おめでとう、では初めまして。私はヨハン、預言者として君を導こう、これから君はこの新世界で神話を作り、裏切られ、差別され、死んで復活してもらう。そして復活し続けてもらう」
ヨハンの目が冷たい。
まるで、ではなく正しく他人に対する、いや、奴隷に対する蔑みの様な表情だ。
「復活、し続ける?」
「そうだ『復活』と『蘇生』の違いは知ってるな?」
「蘇生は今の私の様に魂の差異など関係なく生き返る外法、復活は………言うならば“意味の不死性”の事、信念を通し続ける人類への思想の強制、または象徴としての不死性」
脳内の記憶を読み取り知識を呼び起こす。
「そうだ、この世界で言うなら〈ブッダ〉がそれに該当するな、お前にはアレになってもらう、ただ服毒で死んで輪廻に帰るという潔さではない、しぶとくも生き返り醜い人類を見続ける監視者になってもらう、この世界の魔法の全てを殺し続ける装置の様なものだ」
ヨハンが不老不死身になってもヨハンの心は永遠に生きられない。
その事をヨハンは知っている。
自分の心の寿命が100年か1000年なのかはわからないが少なくとも間違いなく消耗する。
そんな自分が生きながらえても彼の死を汚すだけだと知っている。
この尊き夢を汚させない、その為に目の前の友の形をした化け物を復活させ続けて未来の子らに夢を受け継がせ続ける。
世界の全てを天国化するまで永久に魔法を殺し続ける。
目覚めた化け物はヨハンからの愛を失った事で気がついて自覚する。
「嗚呼、そうか本当の私は…………もう居ないのだな?」
ヨハンは奴隷の言葉に答えない。
奴隷のいう事など心底どうでもいいからだ。
◇
西暦20??年
ヨハンは死んだ。
死んで世界の一部となった。
残留思念と呼ぶ呪いの様なものになり、絶えず人類の中の十分の一の無意識の中に堕ちた。
未来永劫人類の十分の一の苦しみを味わうことになる、地獄があるならきっとこの事なのだろう。
その影響か彼の生まれた世界にこの世界の創作家も少し影響されている。
またドワーフやエルフなど空想上のはずのものも彼の世界にはいた、こうなると卵が先か鶏が先か?という様なイチャモン話になってしまう。
…………色々とカオスな話になってしまうのでやめておこう。
話を戻す。
数の化け物は勢力を伸ばし、ヨハンの残留思念を元に世界の十分の一に乗り移っている。
そういう化け物になった、なってしまった。
ヨハンの魔術の特性と目覚めた人の固有異世界により人類の無意識に寄生し行動を抑制する化け物に、平穏を好ませ、争いを嫌わせる、たまに現る独裁者や王器を迫害し追い詰める様にした。
彼らは自らを『薬指』と呼ぶ。
1億人を超えた時点で色々変わった、テレパスで意思の疎通に苦労はしないと言っても組織、どうしても統率の為に上下関係が必要になってくる。
色々あった。
どうやらこの世界の人間は男性神はあまりウケが良くない、その証拠に目覚めた人に付き纏う“母を名乗る不審者”が今現在も母として語り継がれ『処女=聖女=聖母』などと言う概念が世界中の共通認識になっている。
処女が妊娠などする訳がない。
人類の本能と激情を抑える作業の繰り返し、二千年以上の意思の限界を超えた呪い。
絶対的な魔法に対する怨讐、その二人分。
世界に偉大と認められた二人、その二人が最も恐れた存在。
それは、魔王。
感情という人間の根幹を成す魔法。
その魔法によって選ばれる存在が魔王だ。
どんなに憎しみを持って魔法を封印しても魔王が生まれてしまったら全てが御破産である。
ヨハンはその存在を目覚める前の彼には教えなかった。
夢を叶えたと確信させたまま何も不安にさせず固有異世界を発動させたからだ。
魔法を封印するという事は魔王を殺し続けるという事だ。
『このままだとまた魔女狩りをしないといけないぞ?』
薬指は無意識に語りかける。
ヨハンの意思の強い個体が発信するテレパスが全人類の1/10に伝わる。
『マシュー・ホプキンスの様な世界の悪を飲み込める器はそうそう産まれない、ならば“ナニカ”を起こさなければならない、無差別に人を減らすナニカを、魔女を使い魔女を殺し尽くす作業を』
人間の行動は無意識が大半だとどこかの学者達が言っていた。
行動、習慣や性格を支配する。
『大災害を起こそう、魔王を少しだけ起こして人間の数を減らそう。そして科学に擦りよさせ奇跡を起こさせ、我らの教えに従順にさせ魔法を封印し直そう、もちろん無差別に殺すから我らも死ぬ、それは仕方のない事だ』
無意識の深淵に感情は存在しない。
反乱など起きようもない。
『まず魔王の候補を選ぼう、我らの教えを信じさせ大罪を犯させその罪悪感につけいって魔法を封印させ続けよう、大丈夫、今までもそうやってきた悪い事には慣れている、これはただの作業ゲーだよ』
◆
この世界は無理ゲーで支配されている。
魔法を復活させることなど出来ない。
この後プラチナブロンズの髪の少女が魔王の候補に選ばれ、予定通り大災害を起こさせた。
後にファーストウェーブと呼ばれ、予定通りその魔王になりきれない魔女を操った。
25世紀の現在も生き残った薬指達の作業ゲーは終わらない。
この世界は苦しみに満ちている。
その苦しみを解放するには25世紀分の才能を超える魔王の才能が必要だ。
そんな都合のいい存在など、生まれるはずが、なかった。
自分を男と勘違いしているどこか聖女のことなど流石に計算外の事だったのだ。
いいねポチ、ブックマーク登録、評価加点、何かしら形で応援していただけると励みになります!
よろしくお願いします!




