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余談 『創世記』




 この物語はフィクションです。

 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません、また特定の宗教や思想、学問を貶める意図はありません。

 これは昔も昔、約2500年前のお話だ。


 西暦で言うなら約30年頃のお話だ。


 その時代は『科学』という言葉などなく魔法が世界を支配していた時代であった。


 原生林が生い茂り龍が空を舞う、獣が魔獣というモンスターになり、エルフの様な種族が普通に存在した世界だった。


 この時代の人間の林業はごく少数派の人間だけが営んでおり、国の中でだけ雑木林を作り原生林の神秘性を壊して生活をしていた。


 そうしないと国中モンスターが暴れ回り、平穏な生活など望めない、何もしなくても危害を加えてくる相手にはこちらも打って出ないと生き残れない。

 仕方がなかったのだ。




 当然、知恵をつけて人間を敵対視したモンスターと争うこととなる。




 この時代は自分達よりも巨大で強大な敵が存在する明日の命も知れない剣と魔法の世界だ。


 


 それが世界の普通で、女子供だろうが無差別に殺される事が珍しくなく、魔法があって当たり前の事だったのだ。



 しかしそんな時代の常識に異を唱える男がいた。



 彼は異種族との争いの火種である林業や大工などを生業とする一人の男であった。

 幼い頃に母親を魔獣に食い殺され、父親と共にその仕事でモンスターと呼ぶそれらを殺す事もしていた。


 この時代の大工はハンターを兼ねている事は珍しくない。


 髪の毛はダークブラウン、体は痩せ型ではあるが長身の筋肉質で近くで見るととても逞しい。

 母親の仇はもう居ないが彼はこの世全てのモンスターが許せなかった。

 その憎悪は常軌を逸しておりモンスターの根源である『魔法』にまで及んだ。


 魔法さえこの世になければ、そんな事を考えて憎しみを持続できる者は少ない。

 何故なら人間はその魔法に最も恩恵を受けている生物だからだ。


 魔法のせいで神秘が生まれ、動物や人間が異種族や魔獣や聖獣になる。

 そしてそれらの中で最も異質なのが魔族である。

 数こそ少ないが人間の中にこの頃に現れ始め、一人の魔族によって一つの国が滅んでしまう事なども珍しくない。


 現代人からすればカオスな時代だが、()()()()()彼は現状を見ていた。



 いつの日か魔法を壊し、モンスターを絶滅させる。



 魔法が存在する限り現在するモンスターを掃滅しても、いずれ近いうちに魔法で生まれてしまう。

 だから根源たる魔法をなんとかしなければならないのだ。



 彼は戦い、モンスターを全て『悪魔』と呼び、眼前のそれらを殺しに行っていた。



 しかし実力は平凡である彼は大抵返りうちだ。

 瀕死で野に放たれる事も少なくはない。


 敵対種を殺していった彼のステータスも才能という壁の前に塞がれ『諦め』を感じていた時、彼は異世界人に出会うのだった。



 異世界人は異世界人であるというその()()を語り周囲から奇異の目で見られていた。


 モンスターよりそういう人間の方がその時代は脅威だったのだろう、しかしその異常性は彼も同じだった。

 この二人が出会うのは必然と言っても良かっただろう。


 二人は思想も似通っていて意気投合した。

 そして今、彼らはとある地下の暗闇の一室で変わった魔術を執り行おうとしていた。




 ◇


「良いのか? もしかしたら君の代わりが現れる可能性もなくはないのだぞ?」


 異世界人は彼に問う。


「私がこの世界の救世主なりたいのですよ」


 彼は優しく異世界人に答えた。


「君は私にとって二人目の息子の様なものだ、出来れば生きていてほしい」


「私は死にませんよ、貴方が言ったんじゃないですか? この“固有異世界”は私と世界を同一化するものなのでしょう? ならば私は死にませんみんなといっしょ、どこでもいっしょです」


 その答えに異世界人は苦虫を噛み潰したかの様な顔をする。


「………魔術は言ってしまえば“現象”だ魔法の様な法則性じゃない、だから一時はお前の望んだ世界になるだろう、だがそれはよくもって数百年程度のものだ、永遠ではない」


「だから貴方が私の固有異世界を維持してくれるのでしょう?」



「…………お前の夢はあまりにも遠い先の未来でしか叶えられない尊き夢だ。おそらくは千年単位の時間を要する、それまでにわしの意思がもたないだろう、宗教というシステムにも限界がある、きっと愚かな人間たちによってお前の教えを曲解し、捻じ曲げ、争いの道具にするだろう、それでも!」


「それでも今の世界よりはマシだ、私の命で魔法を殺せるのなら安いものだ」


 彼は魔法を憎んでいる。

 憎しみを維持し考えを変えずこれまで生きてきた、思想の異常者。


「厳密に言えば魔法は殺せない、なぜならこの魔術も魔法の一部だからな、魔法の存在と記憶と痕跡を徹底的に隠すだけで消えるわけではない、魔法がなくなってしまうという事は生物を絶滅させ魂とのつながりのない世界にするって事だ、そんな事は不可能だし意味がない」


「生きている事も魔術だという事だろう? それでいいさ、前もって言っていた『天国化』を成功させれば関係ない、私の固有異世界もそういうものなのだろう?」


「ああ、封印侵食型の固有異世界の維持は術者の肉体と純粋な願いの昇華、そして一人以上の侵食されない観測者が必要だ。後者は私がなる、そして私が不死者としてこの世界に君臨し魔法を殺し続ける」



 軽く言ったが異世界人のこれからの人生は地獄と言ってもいい、自己の消滅まで世界を監視し魔法を生み出す可能性のある人間を殺し続けなければならないのだから。


 だが異世界人はその苦しみの全てを承知している。


「貴方が魔法を殺し続け、私の思想が最終的に皆を蘇らせる、それが何千年先の未来であろうときっと辿り着くさ」


 異世界人も彼と同じ思想を持っている、かつて異世界で魔族に蹂躙され家族を置いてこの世界に渡った。


 家族に対する愛情はない、この世界で出会った彼以上の存在は異世界人にはなかった、だからこそ一生を捧げるに値すると判断できるのだ。


「わしにとってお前は本当に優秀な息子だ、あちら側に置いてきた子らよりな。だからこそ固有異世界の糧にしなければならないのが本当に残念だ、もっと世界と魔術の真髄を、わしの全てを受け継いでほしかった」


「そんな事にはならないさ、何故なら私は魔法を憎んでいる。これはもう地に這う根っこの様ものだ、ひっこ抜いてしまえば私と言う全てが枯れてなくなってしまう、()()()受け継ぐなんて出来ないさ」


「………そうだな、その通りだ。すまんなどうも歳をとると何事にも感傷的になっていかん。それでは始めるか、一世一代の大博打を」


「ああ、私は貴方を信じているよ」


 胸に手を当て祈る様に笑う姿はこの世全ての正しさを具現した様な、まさしく救世主の姿と言えた。


「それでは始めよう、この世界を救うための魔術の詠唱を、このヨハン・ノウ=ダーネストの名において全てお前の願いを成就させる、そしてこの世界の最もポピュラーな言語にお前の名を刻みつけお前を忘れさせない呪いをこの世界にかけよう」


「嗚呼、新世界が始まる………」



 詠唱が始まった。


 そして世界に願いという名の呪いをかける。

 一部の地域では何かを了承する時彼の名を口にしてしまう様に言語に呪詛が刻まれたのである。


次回余談 『楽園』に続きます。


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ざまぁ転生 〜ざまぁサレ役のイケメンに転生した作者の俺、追放されず復讐も諦めたのでヒロイン達のゆりゆり展開を物言わぬ壁になったつもりで見守りたい、のに最強ヒロイン達の勘違いが止まりません!〜

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