幼物語 「ケンちゃんの夏休み!」
茨城の実家。
都会から離れて母親の実家に帰省している。
田園風景の続く田舎は賢治にとって新鮮であった。
夜はカエルの鳴き声がうるさい、慣れるまで時間が要る。
だが慣れてしまえばなんて事はない。
母親の実家はとても大きく、城とまではいかないが宮大工を雇って建てた釘を使わない和式の木造の屋敷、大きな居間が12もある。
子供1人が走り回って遊ぶスペースは十分にある。
み〜んみんみんみんみ〜
「どうだいケンちゃん母さんの育った家は?」
軒先でスイカ片手に娘と父親が2人日陰でラブラブトーク中である。
「最高だぜ!! ばぁちゃんの作ったイナゴの佃煮パーティー! 美味しかった! あと罠にかかったネズミを生きたまま水樽の中に入れてぶっ殺すショーも面白かった!! 蛍を手で掴むと臭すぎるのも面白い!! おばあちゃんの知恵サイコー!!」
田舎の老人特有の誰も得をしない歓迎である、ここに「お前は橋の下で拾ってきた」が入ると満点である。
「うん、それ絶対嫌がらせだよね? 初孫に対する教育のつもりかな? やっぱり田舎の習わしはケンちゃんに悪影響だ」
満面の笑みで間抜けな顔を見せる娘に子供特有の残虐さを見る。
しかし明るい。
田舎に来てからのケンちゃんは異様に明るい。
太陽が陰るほどの明るさである。
(森や自然、つまりは神秘が近いここら辺の土地はケンちゃんの魔術体質によく合うんだろうな、猫とかイタチとかの視線を感じる、ケンちゃんに使役されたがってるか警戒してるんだろうな)
人間は森に籠ると魔女になりやすい。
猟師やアイヌなどが良い例だ、そして才能ある者が魔法に愛され〈神秘〉を手に入れる。
神秘を手に入れた魔女に愛された動物は知恵の実を食ったアダムとイブの様に知恵を手に入れ〈魔獣〉となる。
(だからケンちゃんをみた動物は使役されたがる、と言う仕組みだがケンちゃんはそんなこと知りはしない。知らせる気もないし魔獣にも近寄らせない)
そう、知り合いの魔獣の視線も感じる。
賢治の母親谷戸奏美の部下の1人だが、賢治の周りの警護と動物たちの牽制も兼ねて近くにいるのだ。
悪意のある者ではない、むしろ協力的であると言っても良い、だが正志は勇者。
魔王の部下に敵意を持つのは必然、娘に近づくのなら敵意を持つのも当然だ。
(いつか殺してやる、あのおっさん)
「…………パパ?」
僅かな表情の変化、強張った表情を幼い賢治は見逃さない。
首をくりんとくねらせて猫のように疑問を体で表現している。
「ああ、ごめんね考え事してた。それよりケンちゃん楽しいのは良いけど夏休みが終わって登校したときどうするんだい? ちゃんと和葉くんに謝らないと」
「む、パパ! 今他の女の話しないで!!」
この子はなにを言っているのだろうか?
(他の女って、やっぱり自分が女だって心の中では思ってるんだな)
そして完全にパパの彼女気分である、まぁ小さい頃の女の子がパパを恋愛対象としてみてしまうのは仕方のないことではあるが、限度というものもある。
「いや、そうじゃなくってさ。最後に「死ね」とか言ってたじゃないか? きっと怒ってるぞ〜? 1ヶ月間以上濃縮されたの恨みをぶつけられると思うんだよね、ちゃんと謝らないと学校で酷いこと (セクハラ)されちゃうよ〜?」
「………………………!?」
目が点になって間抜け面を晒していたが自分の失態に気がついた瞬間顔が青ざめる。
「ひゃあぁああ!! 謝る! 帰ったらななちゃんにあやまりゅ!!」
「うん、ケンちゃんはいい子だね!」
我が子の素直な言葉に感心しながら夏の空を見上げて正志は思った。
(すっごいセクハラ…………されるんだろうなぁ、でも自業自得だよケンちゃん)
パパは因果応報をうける、と言う教育も欠かさない。
◆
一方、鍛錬4日目の七緒ちゃんは母親の妨害を無視してマラソンをしていた。
小学校のグラウンドで1人、勝手に走っていたのだ。
いや、もう1人いる。
学校関係者ではない、つまり不法侵入になるのだが知り合いではある。
おかまのたかしである。
ジャージを着て片手にストップウォッチを持っている。
「もっと走る時のフォームに気を配るのよ!! 自分をマシーンの様にイメージするの! 左と右! 手と足を交互! 前に後ろにバランスよく! ガムシャラで行ける領域には限度があるの! まずは“型”を作りなさい!!」
完全に雰囲気は中学の陸上部である。
なぜこうなったのか?
それは写真家としての直感が七緒和葉の才能を認めたからだ。
30分前。
いつもの様に家を出て学校まで行く途中、オカマが現れたのだ。
「私をモデルにしたい? 本気ですか?」
「ええ、貴女のお母さんには許可を得てるわ、聞いてるでしょ?」
「ええ、まぁ。でも私暇じゃないので…………」
そう、滅多に仕事をしないで有名な芸術家的写真家の彼からのモデルのオファーは将来モデルをさせたい母親にとっては願ってもない事である。
断る理由などない、しかし和葉にとってはただの時間の浪費、了承したふりをして逃げるつもりだったのだがたかしにはバレていた。
「別に鍛錬してて良いわ、むしろそっちの方が助かるの。昨日の貴女をみてインスピレーションが湧いたって言うか、自然体の貴女をフレームに収めたいのよ、だから貴女をコーチしてあげる」
「コーチ? 別に良いですよ、私にはアプリがあるので」
ナノマシンによる体調管理アプリや体操の教育アプリがあれば大体なんとかなったりする時代である。
「アプリには限界があるわ、思考して適当な指示を出せる人間がいないと凡俗の領域からは出ないわよ? 私こう見えても陸上で全国に行った事あるの、そこまで行くにはね人に教えることもあるから指導は素人じゃあないわ」
どう見ても肉体的に只者ではないので見た目通りではあるのだがここは突っ込んではいけない。
少し和葉は少し悩んだ。
アプリでの限界を感じ始めたのだ。
一般人を元に作られたアプリでは体の動きの軌跡を示してくれるが、どうイメージすればその通りに動けるか、個人によって違うイメージの修正など微妙な差異はどうしてもアドバイスする人間が必要になってしまう。
もっと言うなら強化魔術を使っている動きに合わないと思い始めてきたところだ。
(初めて見た時からただものではないと思っていた、多分陸上経験の事は嘘じゃない)
これは強くなる良い機会である。
「アンタの目的は?」
ただでそんな事をしてくれる人間などいない、うまい話ほど危険なものは無いと小学一年生の和葉は知っているのである。
「さっきも言ったでしょ? 貴女の昨日の直向きな想い、情熱、最近の子には欠けている熱い情熱があったわ、それにね? 適度な筋肉はモデルに必要なものよ」
つまり将来のモデルに対する投資、分かりやすい。
「わかった、お願いします! 師匠!」
「あら? 切り替えが早いわね? そう言うの好きよ」
時間を惜しむ小学生は悩まない。
こうして和葉とたかしの1ヶ月に及ぶ専門的な指導による訓練が始まり、終わりの8月30日には2人の間には友情が育まれたのである。
「ありがとうございました! あなたのおかげで私は強くなれた!!」
「私も良い写真がいっぱい撮れたわ!!」
こうしてこの年の夏休みは取り敢えず終わった。
七緒ちゃん は つよくなった!
あと学校の宿題は後日全部終わらせた。
◆
西暦2483年9月1日(水曜日)
待望の登校日!
みんな大好きケンちゃんとの再会の日!
教室で再会した2人。
「ななちゃん…………」
「あら賢治、あなたから話しかけてくれるなんて嬉しいわね」
ケンちゃんで童貞を捨てたななちゃんには余裕がある。※女児少(ry
がっつかないで正しい姿勢で机に座って待っていたのだ。
そう徹底的に肉体を鍛えたななちゃんはその椅子に座る姿でさえ美しい、それをエッチなケンちゃんが見逃すはずなどないとななちゃんは知っているのだ。
(こ、告白かしら? 私カッコいいかしら? ケンちゃん好き❤︎ 嗚呼でも我慢!! 私は今カッコいい女! ガッついたら幻滅される! 夏休みの日々を思い出せ! 足がぶっ壊れる寸前まで鍛えたあの日々を思い出せ! 今の私なら冷静でいられる! 我慢我慢我慢!!!!)
1ヶ月以上見ていない間に成長したのはケンちゃんも一緒である。
更に女の子として可愛く、美しくなっているのだ。
まつ毛が長くなってくりんとなっていてどう見ても女の子である。
それを頬を赤らめながら申し訳なさそうに見てくれやがるから可愛さ余って可愛さ数百倍である。
本当なら押し倒してしまって2回目をしてしまいたい欲望をも必死で抑えているのだ。
そして、久しぶりに聴いた好きな娘の言葉。
薄桃の潤んだ唇、中から覗かせる少し薄い舌の綺麗な桃色。
その世界一美しい滑らかな楽器が奏でる言葉が七緒を癒してくれる。
どんな罵倒でも尊び微笑んでしまうだろう。
「ごめんなさいッ!!」
「へ?」
唐突な謝罪、何のことかさっぱりわからない。
一瞬、振られたのかと誤解した、だが七緒は告白していない。
だからこの謝罪は違う、普通の謝罪だ。
「その、この前、俺調子に乗って『死ね』とか言っちゃって」
「ああ、そう言う事? 別にいいわよ忘れてたし、うんやっぱりいい子ね貴女は」
そこで話は終わり、それ以上2人の夏休みの試練は終了だ。
これから普通の学校生活が始まるのである。
だが。
「本当に? 絶対に虐めない?」
可愛く首をくりんと曲げつぶらな瞳でななちゃんに問いかけて、魅了してしまう。
(全くもう、私が貴女をいじめるわけないじゃ無い)
「いじめで終わらせるわけないじゃ無い、犯して孕ませて一生消えない傷をつけてやるわ、このメスぅっっ❤︎」
!?!?!?!?!?!?
意思を超越した誘惑。
我慢の壁など、筋肉による精神的防壁などケンちゃんの才能の前には無意味だったのだ。
そう、鍛えていたのはケンちゃんに振り向いて欲しいと言うのもあったが、真の目的は精神と記憶に絡みつくトラウマ的誘惑の呪いを振り解くためでもあったのだ。
諸悪の根源が居ない夏休みがそのチャンスだったのだが、更に美しくなったケンちゃんの魅力の前に即堕ちしてしまったのである。
そして、そのあと有言実行しようとキスマークをつけようとするが他のクラスメートの女子に数人に取り押さえられ断罪されてしまうのであった。
「やっぱりななちゃんきらいっっ死ね!!!!」
「私は好き!!!」
久しぶりに罵倒され、ななちゃんはまた❤︎起した。
好きな子には敵わない!!




