間劇 「ケンちゃんの仕事場」
西暦2500年4月2日12:00
株式会社『役細』
東京の大田区にある駅前にビルを建てるそこに賢治の職場がある。
基本的に土地管理系の仲介業者である。
世界有数の巨大財閥の浪川財閥の傘下である。
まぁ参加になったのは数ヶ月前だが。
「あー、暇ダァ」
「そーですねっ、去年だったら繁忙期っすけど上の財閥が変わっただけでサビ残も無理なノルマも無くなるし、給料は変わんねーっすけど給料相当の仕事量になりましたよねー」
「おいおい、それ絶対安西さんにいうなよ? 『だったら残業するか?』とか言ってパワハラしてくっぞ?
」
昼下がり、どこにでもある様なオフィス。仕事場。
紙媒体の資料は貴重な契約書のみでそこにあるのは人ひとりに対して机一つだけの簡素な部屋だ。
社員の机は40ありその配置は人の通る道を優先して離れている。
その全員が今この場にいる。
本来なら足で依頼者に元に行くのが通例だったが浪川財閥の傘下に入ってからはその遠方営業は縮小、代わりに財閥の優良案件を処理する会社になった。
まぁ仕事が楽になったという事だ。
元は当主である楼座がこの会社に仕事を依頼したのが発端だがそもそもそれがおかしな話だ。
何故、こんな会社に依頼したのか? もっとふさわしい会社もあった。
だというのに何故ここだったのか?
ここに何が居たというのか?
「そーいえば、あの子猫ちゃん。大丈夫っすかねー」
「ああ、谷戸の事か?」
噂をすればというやつか、2人の男が賢治の話をし始める。
ここは賢治の職場、現在有休消化中である。
「そーっすよ、なんてかあの子猫ちゃん絶対仕事するのに適してないっすよね? 依頼者に礼することできないし、間違ったことには秒で反論するし、仕事が業務的に出来るのが惜しいんすよねー、そこじゃねーだろって思うんですけど」
頭悪そうな感じの後輩だが、彼らはもちろんその会社に入るだけの能力を持っている、法を学び試験に合格しそれなりの資格を持つ、彼らは全員知っている、法は知ってる者の味方だという事を。
「でも仕事を持ってくるのは上手かったな、特にあのレモンドリル姫。あれ完全に谷戸の事好きだぜ?」
「え!!? 逆玉っすか?」
若い方の社員が小走りで年上の社員に寄ってきた。
「あんま大きい声出すなー…………ここだけの話、あのお嬢さんがウチを傘下にしたのも谷戸がこの会社に居るからって話だ、他にもいろいろあるがアイツ妙に女に人気あるんだよな、ぶっちゃけそれで営業すれば間違いなく成績ナンバーワン、いや浪川財閥を引っ張ってきた時点で創業以来大功績と言える」
「あー、んー、こう言っちゃなんですけどアイツってそんなにイケメンでしたっけ? とても女を転がす様な甲斐性もなさそうでしたけど………どっちかってーと美人?」
「それが安心して良いらしい、男の魅力は頼り甲斐だと思ってたけどどうやら俺はまだ女という奴を何も知らないらしい、ってか谷戸は女相手に営業してた方がいい」
ため息混じりに腕を組み目を瞑って過去を思い出す。
全くいう事を聞かない後輩、だが文句が言えないほど高成績を一年目で叩き出してしまう。
しかも綺麗事を淀みなく言い切る清廉さ。
ハッキリ言って凡人の彼には賢治の先輩としては荷が重すぎたのだ。
「もしかしてそれ本人に言いました?? 地雷ですよそれー?」
「嗚呼地雷だったよ、完全否定態勢だったよ。なんで自分の特技を否定すんのかな、いきなりヒステリック起こしたみたいになるのかね、はー、女みたいな男だよ」
「実際そうだったりして? ぶっちゃけ可愛くないすか子猫ちゃん」
お前ホモか?
そう言おうとした口が止まる。
冗談の筈だが男だと確信できる様な何かを見たわけではない。
何度か男なのか疑問に思った事はある。
「…………もしだけど、谷戸がこの会社辞めたらどうなるんだろうな? ぶっちゃけアイツの追っかけに株の七、八割占有されてるんだよなウチ。もしこれが反社に売られたりしたら、ウチの会社終わりだぞ? ってか債券も買い叩かれてるみたいだしもう完全にウチを丸ごと買っちゃう勢いだな、そこまでする利益無いのに」
「ちょ、怖いこと言わないでくださいよー、転職なんて大昔と違ってそんな簡単に出来ないんですから」
「まぁ俺はもう三十だから骨を埋めるしかないがお前はまだ二十代後半だ、今のうちに転職なりなんなり考えておいた方がいいぞ」
「マジっすか?」
「女は直ぐに不必要な物や男を捨てられる。それまで大事にしてたものをすぐにゴミとして忘れる、男をすぐに乗り換える、よく言うだろ女の脳は上書き保存だって」
「うげぇ」
最初は楼座の話のつもりで言った言葉が次第に賢治の話になってしまう。
「アイツがうちに帰ってくるにしろ来ないにしろ、何があってもいい様にした方がいいな」
「まぁ、女に見捨てられた男ほど見窄らしいものもないっすからね〜、あー女こえー。話が濃すぎてぜってぇ子猫ちゃんのこと一生忘れられませんわ」
「お前、前の彼女の名前覚えてないだろ。俺も含めて男の事なんざぜってぇ忘れてるわ」
「なははは」
この後に彼らは賢治の容姿の記憶が回帰された容姿に改変されてしまう。
そしてこれからの賢治の選択次第ではこの会社にいたことも無かったことにされてしまうだろう。
魔法による改ざんは一般人に容赦はない。
魔法は魔術を知らない者の味方にはならないのだ。




