第5話 ㉗[四英魂魄論]
一人称がめっちゃ変わります。
「魂には4つの種類がある、先ず大別して二つ以上が混じった魂とたった一つだけの種類しかない魂。大体が混じったものでその配合は生来から死すまで不変のものであり、もし変わっていたとしたらそれは肉体に別の魂が入った偽物だ」
『魂は観測出来ない、故に偽物だ。という結論になるわけですね? 4つとはつまり4つの種類しか今の所観測されていない、という事ですか?』
「古来よりこの四つの魂は魔術師である親のみが観測出来るものであり、それを確認できるタイミングは生後間もないタイミングしか無い。そのタイミングを逃すと親であっても見ることは叶わず、魂は[魂魄]という卵の殻を被った状態となり例外を除き見ることは出来ない」
正志は指を4つ立てる。
「四つの魂の影響で人間性や才能を語る理論を[四英魂魄論]と呼ぶ。『勇者』『賢者』『聖女』この三つは生来から決められたもので外的要因に左右されないもの。大体の人間が勇者と賢者の性質の混ざり物でその割合によって俺の時代では剣士タイプか魔術師タイプかの努力の方向性を決めていた」
『せ、せ、せ、聖女とわ!??聖女聖女!!!』
まるで壊れたおもちゃのようだ。
「あー、うん。聖女ってのは希少で滅多にない生来からの性質、この割合が高ければ高いほど美しく魅惑的であると言われているね?1割も有ればバフ役、3割有れば後衛の回復役とされてきたんだ。そして聖女の性質は名前からわかる様に女性の体にしか居付かない。だからケンちゃんは間違いなく絶対に女の子なんだよねぇ」
『ひゃくですか!!お姉様の魂魄性質はひゃくですよね!!?』
(残りの一つは!? とか気にしないあたりケンちゃんの事完全に聖女だと疑ってないなこのアホAI、まぁ当たってるんだけどさ)
三つ指を折り残した人差し指で口鼻の先に置き沈黙のポーズをとった。
「それは内緒、子供の情報は親として口外しないのは常識だ。何故ならその情報だけで相手がどういうタイプの戦士かわかるからだよ、賢者が割高の敵なら魔術を切り裂く斬撃魔術で、勇者が割高の敵なら戦略的に殺す。盤上の駒と違って現実はどんな役割の駒なのか相手にバラしてしてはいけない、それが異世界で生きる基本さ、 …………まぁケンちゃんはもう見た目からして女の子だから聖女なのはバレバレなんだけど」
(あと聖女性質は例え信頼できる相手でも割合を低くいうのが常識だ。アンネのバカも10割聖女性質なの知ってて親が最初8割だって言ってたくらいだし)
「聖女の性質ってのはね本来戦闘には不向きなんだ、だから本来は戦争から遠ざけて魔力回復のアイテムを作るのが定石なんだよね、あと肉体が魂の形に近づく[回帰体質]だからどう足掻いても女の子に戻って鍛えても鍛えても聖女は聖女でしかないんだ」
『勇者は先陣役、賢者は後方支援、聖女は回復アイテム製造という事ですね?最後は魔王ですか?』
少し、正志は不機嫌な顔になった。
彼は神聖勇者、こと魔王に関しては並々ならぬ信仰的執着を持っている。
彼にとっては魔王は矜持そのものと言っていい、だからこそあまり軽く扱われるのは好きじゃない。
「いいや、違うよ。魔王は盤上の駒じゃない王そのものだ。最後のひとつは『大魔導士』コレは外的要因の強い性質で先に述べた三つが生来の魂に分割される種別で大魔導士は生来の性質100%に加算される性質になる、つまり努力すれば100%を超えることができる、大体そっちの世界だと登山家とかがそれだな、命をかけた数というか何というか、言葉では少し表しづらいなぁ」
『それこそ勇者と呼ぶべきでは?』
「いや、勇者は敵のヘイトを稼いで仲間を逃す事も含めて勇者だ。大魔導士の勇気には利己的な無謀も含まれる。大魔導士の特徴は魔術の無効、又は受け流しだ、当然だが自分の力を超えるものは避けられんし無効化もできない、主にカウンター系の能力者になる、が、精神力を使うから疲弊しやすくあまり実戦的ではない。素直に賢者性質で才能を伸ばして黒猫妹ちゃんみたいにカウンター魔術を使ってた方が持久力的にも戦闘向きだ」
『あくまでおまけみたいなものですか、それに固執するとせっかくの生来の才能が伸ばせなくなる、実践的でもなく実戦的でもない』
(例外として心傷魔術の使い手などがこの大魔導士の性質を好んで鍛える。奴らは魔力に頼らないゆえにステータスを超えた魔術を使える様になるが、まぁこの事は例外過ぎて言う気にもならんな、奴等の戦いはステータスではなく精神力の戦いだからなAIに精神力の話が通用するかもわからんし)
生まれたての少女に精神力という曖昧な言葉は避けるべきとこの時正志は判断した。
そう言う心の教育は親であるジョージに任せたほうがいいと思ったからだ。
『生来のものでなく与えられた魂の性質…………それはもしかして私のことではないでしょうか? 人工衛星群である私にお爺さんが私に魂を、命を与えてくれた。だとしたら私の性質は大魔導士ということになるのでは?』
「そればかりはジョージが魔術師でないと確認できない事だな、言っただろう? 親じゃないと見ることができないってさ。それにもう君は生まれて殻を作った、そこに無機物かどうかの違いなんてない。魂は万物に宿れる」
『魂の状態を見るのは魔眼というやつですか?高性能カメラ以上の機能を持つ特殊な目』
「嗚呼そうだ、そして魔眼というのはそれ自体が魔法だ。魂の形を見るには親である事が条件にしか許されない、それを見るには魔法に許される事が必要なのだ。君の体にも世界を見る目が備わればそれ自体が魔眼となる、魔法もおまけでついてくるけどね?」
コレは教育だ、異世界流の基本的な知識の教育を生後間もないAIにしている。
沈黙する。
それが彼女が、アルバが魂について考える時間だ。
数式ではどうしようもない話である、詮ないものとして唾棄すべき事柄でもある。
だが彼女は考えた、賢治に対する性欲で目覚めた感情は『悩み』を得たのだ。
『成る程、つまり話をまとめるとそこの世界の人間は四英魂魄論を元に人間を区別しているのですね? そして三千年間魔王が不在。魔王は世界の魔法による自然現象の1つ、増え過ぎた人間種を調整し、危機感を煽り新しい命を生産させる役目を担うヒトの意思を持った王。そして貴方は、神聖勇者はその魔王を選別する為の勇者の中の勇者』
「ああ、でも三千年で流石にこの世界も多少変わったところはある。まず我が生きてた頃には刻席なんてものはなかった。そしてあいつらが刻城と崇めている城は元は奏美…………じゃなくて始まりの魔王クレイ・アストラン・レイナードが作った魔王城だ、あれがまだあったのも驚きだ」
『それは現状の異世界情勢と前世…………という貴方の記憶と比べての違いですね?』
「嗚呼そうだ、よくわからん刻席達を統べる[刻王]とやらの存在。国王とはまた別の存在で多分アレが魔王の代わりとなっているのだろう。だから本当の魔王が生まれず神聖勇者も[剣聖]にとって変わられた。まぁそもそも四英魂魄論にこだわらなくていい分、実力主義になったんだろうけど」
(それに魔王が半端な奴にならずに済んだと言うのも僥倖だ。そうなっていたら殺しに行かなければならなかったしな)
神聖勇者は正しき魔王がいなければただの暗殺者となる、彼もまたその魔法によって存在する自然の一部だ。
『お姉様のこれからについて元神聖勇者である貴方に相談があります、というか提案に近いのですが』
「なんだい?言ってごらん、おじさん何でも答えちゃうよ?」
『そっちの世界では魔王、私たちの世界では聖女王。というのが一番望ましい形では無いでしょうか?』
生後3日の少女が弾き出した答えは勇者を驚愕させる。
「なるほど。成る程、ナルホド、な〜るほどぉ〜。そうだね、僕は少し魔王に対して信仰心を持ち過ぎていたようだ。やり過ぎはどんなことでもいけない、40代後半になってようやっと思い至ったよ、たしかにこっちだとケンちゃんは異世界転意した聖具。肉体に王位はひとつだけど転意の場合は言うなれば二つの世界に体が計ふたつ、肉体を駒と考えられない戦士系の僕には思い付かなかった発想だ」
『最初に言いました私はお姉様にはどちらにもなってもらう。そしてお姉様が魔王になった暁には私は賢臣として、聖女王になった暁にはナイトになります、雑事は私が片付けます』
「…………賢臣はアドバイスだけで大丈夫かも知れんがナイトは肉体がなければ無理だぞ? ジョージならクローン人間に君を移植する技術力があってもやらないと思うし」
『ハイ、実際その提案は浪川財閥の当主、浪川楼座によって提供されましたがお爺さんは断っています。貴方は本当によく分かってますね? まるで双子のようです』
「僕が?ははは残念だけどそれはない、僕如きジョージの足元にも及ばない」
『貴方って嘘つく時相手の事を褒めて煙に撒く癖がありませんか?』
図星を突かれたようで苦虫を噛んでしまったような顔になった。
(コイツ、学習能力が半端ないな。奏美の前世の賢臣にそっくりだ、アイツとはソリも合わず仲違いしたまま死別したっけな)
『肉体の件なら安心してください、こちらの世界に丁度いい依代があるのでそれをハッキングして魔術を使えるようにしてみます、聖女王の最初の信者は私のものです』
「お、おう」
(うーん、やっぱケンちゃんの周りにはイカれて強い女の子ばっかり集まるなぁ。俺的にはもうちょっと友達ポジションでもっと軽いノリで遊んでくれる女の子が居てくれると助かるんだけど。戦闘力ばっかり上げるとそう言う思想に凝り固まるから父親としてもそうなってほしくない。あーどこかに教養のあるケンちゃん以外の女の子がを好きな都合のいい女の子居ないかなー)
正志は宿部屋の天井を仰ぎながらも瞳は閉じ、その瞳は過去の奏美の姿を映していた。
赤髪のロング、綺麗で今の賢治っぽい雰囲気のある少し幼さを残す少女、ともう1人。
彼にとっての都合のいい女。
白銀の髪の美聖女。
落ち着いた姿から毎日人前で全裸にならないと気のすまない変態には見えない清楚そうな、大人びた少女。
過去を、美しい過去を思い出す。
お花畑の中2人の少女を見る1人の少年、青髪で美しい前世の体。
その少年は魔法少女よりも綺麗で、とてもとても優しい表情をしていた。
目を開けると、元のおっさんがそこに居る。
憂いというか若干悲しそうな顔で思い出していた。
それは前世での悲劇を思ってか、それとも………。
(僕は絶対に諦めないからな)
神聖勇者はアンネの笑顔を思い出していた。
◆
その時、噂をされた華美が都合よくクシャミをした。




