知らない着信番号
「夏のホラー2020」参加作品 その3
「看板短編企画」参加作品(家紋 武範 さんによるユーザー企画)
ある日の事だ。
ホームで電車を待っているとスマホに着信が入った。
発信番号を見ると未登録番号であったが出てみた。
「もしもし?」
『あーら、庵野さん。 お久しぶりです』
スピーカーから聞こえたのは上品そうなお嬢さんの声だった。
が、残念なことに……
「すいません、掛け間違いのようですよ?」
私は富野である。
『またまたご冗談を。庵野さんでいらっしゃるでしょ?』
「いえ、私は富野です。番号を確認して再度掛け直して下さい」
昔はよくあった間違い電話だが、携帯が普及しだしてからは番号登録が容易になり絶滅したようなものである。
なのでやさしくやんわりと訂正をしていたのだが。
『うそおっしゃい! 本当は庵野さんでしょ』
「違いますって! ちゃんと番号確認してみてください。電車が来たので失礼します」
といって通話を切り電車に乗った。
朝から微妙に気分が悪くなる会話となったが、会社に到着する頃には忘れていた。
一週間後。
ホームで電車を待っているとスマホに着信があった。
発信番号をみると未登録の番号……と、ここらへんでそう言えば先週かかってきたのもたしかこんな番号だったようなと思い至った。
そう思いながら着信に出てみると。
『もしもし、庵野さん。ご機嫌はいかがですか?』
あの、妙齢なお嬢さんだった。
「いえ、これは庵野さんの番号ではありませんよ」
『またまた、そんなこといっちゃって。嘘はだめですよ庵野さん』
どうにも話が噛み合わないというか……。
「ちゃんと番号確認してかけろよ。私は庵野じゃなくて富野。 と、み、の! しっかりしてくれよ、全く」
通話を切ったその流れで着信拒否設定をする。
流石に話の出来ないおばはん相手なんかしてられんからな。
一週間後。
ホームで電車を待っているとスマホに着信があった。
発信番号を見ると未登録番号であった。
まさかなあといやな予感を抱きながら出てみた。
『庵野さーん。 おげんきですかあ?』
案の定、あのババアだった。
天丼かよッ!!
番号変えてまで掛けてくるってどんなに執念深いんだ。
「・・・・・・」
無言のまま通話を切った。
すると即、着信があった。
番号を確認すると先程と同じでイラついて怒鳴りあげようと通話にでる。
「おいババア! いい加減にしろよ。 おれは庵野じゃねえっていってんだろがッ!!」
ババアが喋るより先に捲し立てる。
『あなたが庵野さんじゃない? じゃあ庵野さんは何処に居るっていうのよ』
弱々しく呟くババアの声にイタズラ心が芽生えた。
「ああ、俺は庵野じゃないが、庵野の居場所は知ってるよ」
『あら、本当? どこなのかしら』
私はからかい口調で告げた。
「庵野はなあ……、あんたの後ろにいるよ!」
そのまま通話を切ろうとするスマホのスピーカーから
『あら、そうなの』
そして、私の前で待っていた女性が振り返りながら発する肉声から
「『じゃあ、やっぱりあなたが庵野さんじゃないの』」
同じ言葉が紡がれた。
この世のモノとは思えないほど醜悪な笑みを浮かべながら。
「夏のホラー2020」参加作品
その1「隙間の人」 Nコード /n7044gi/
その2「笑顔 あふれる 環状線」 Nコード /n7385gk/
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